俊哉君は無自覚美人。

文月

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76.期間限定シンデレラ ⑨ 支えてくれるだろう人がいるって安心感。

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 僕の顔を皆がじっと見てる。
 何言い出したんだ? って思ってるんだろう。
 そりゃね、言う必要ないかなって思ってるよ。だけどね「この機会に」ちょっと考えて欲しかったんだ。
 顔はその人を構成する一つの要素ではあるけど、それが総てなわけじゃない。それが一番大事なわけがない。そのことでその人に対する対応が変わるなんてとんでもないことだ。
 さあ、何を話す?
 僕が前を真っすぐ睨んだまま(※ 睨んでると思ってるのは俊哉だけ。実際には俊哉にそんな迫力はない)でいると、不意に目の前の若い男が動いた。
 ふ‥と、穏やかに微笑む。
 まるで我が儘言う子供に「しょうがないなあ」っていう大人みたいな‥そんな笑顔。
 な?! 馬鹿にしてんの!? 
 男は、僕の前にオーバーな仕草で恭しく跪いて
「申し訳ありません姫様。
 勿論私は姫様の魅力をその美しいお顔だけだとは思っておりません。
 どうです? あちらで二人きりで私に姫様のことを教えていただけませんか? 」
 って言ったんだ。
 は!? 恥ずかしげもなくそんな台詞よく吐けるね! 僕と似たり寄ったりのあっさりこけしフェイスで! そんな台詞は僕ら地味メンには無縁な‥寧ろ「それネタだよね? 」「ウケ狙い? 」的な台詞じゃないかね!? ああ‥そういえば、彼は‥ここの世界ではイケメンに位置付けられてるようなタイプだっけ!? 
 頭では理解しても、なかなか咄嗟に‥納得できないなあ(苦笑)

 昨日の夜、リリアンとロゼッタは結局この部屋に泊まってくれて、僕らは「第二回女子会」をしたんだ。(ベルクさんは涙を浮かべながら一人で帰った)ロゼッタは、子供たちにも「女子会だから! 」って隣の部屋に移動してもらったんだ。
「今日は一晩中、遠慮なく女子トークしましょ? (ここならクラシルさんに遠慮することもないし)」
 ってにっこり微笑んだロゼッタは、第一回女子会の時よりずっと上品で洗練されたレディーに見えた。
 女子会では色んな話をした。リリアンの話は‥こりゃ子供には聞かせられないやって言うような「大人の」話だったけど(僕は主に聞く側。ロゼッタも‥以外にも話しに乗れてたのが意外だった)‥興味深かったし、「参考にさせてもらいます」って内容だった。
 でも「おねだり」とかは‥絶対無理だと思いました。
 そして、話は偶然この世界の「美の基準」って話に。
 リリアンとロゼッタは、
「俊哉は一体どこに住んでたの? って言うか‥修斗なんかにも感じたことなんだけど、ド田舎であんまり他人と接触しない生活してきた感じよね」 
 って言いながら、色々教えてくれた。(※ 違うよ! って言いたいが‥言えない‥。異世界人ですとか言った瞬間「頭大丈夫? 」ってなっちゃうよ)
 この世界の「美しい顔とは」曰く
「顔は色白でふんわりと柔らかいフェイスラインが好ましいとされてるわね。確かにね、女の子はこういうの可愛いわよね。確かに、フワフワもちもちって感じで。癒される。俊哉なんか、ホント理想的よね。もう‥一時間でも二時間でも‥一日中でもこね繰り返したい衝動に駆られるわよね。女の子はそれでいいと思う。でも! 私的には男性はきりっとした輪郭が好きなのよね。顎の線が見えてる方がセクシーって感じしない? 女の子の美と男の美は違うと思う。皆そういうのがないのが‥なんか私的にはどうかなあって思うんだよね」
 リリアンが言うと、ロゼッタも同意して頷きまくってる。
 僕は‥苦笑いだ。
「‥‥(いや‥僕は一応男なんだけどな‥)」
「まあ‥今は私たちの趣味の話はいいわ。俊哉が混乱しちゃったらいけない。
 ここ基準の理想のフェイスラインの話は分かった? 」
 僕は頷いた。
 つまり、面長より丸顔好きの人が多いと。理解しました。
「髪の毛はふわっふわの方が可愛くって人気だけど、割とサラサラストレートも人気。
 髪質は硬めより柔らかめ」
 うん。成程。‥ってか細かいな。
「ふわふわの場合は髪色はブロンドやライトブラウンなんかの色素が薄い色の方が人気だけど、サラサラストレートなら黒髪やシルバーなんかも人気」
 追加情報にも、ただ頷く。そういうのって「そういうもんなのか」としか思わないわけじゃない。
 追加情報は次は、顔のパーツに移る。
「目は断然切れ長が人気。細くて、上品な一重が色っぽい。まあ‥それはでも理解出来るわ。切れ長の目って男女共に色っぽいよね。儚げなのがいいわよね」
 リリアンが言うとロゼッタが頷く。
 ‥二人はこの世界の美意識に共感するとこなんて何にもないんだと思ってたのに‥あったんだ。共感するとこ。
 そういえば‥アルシア王子も切れ長だ。キラキラつぶらな瞳じゃない。いや‥切れ長は違うか。クラシルさん同様細長いアーモンド形の瞳だ。切れ長寄りだけど‥切れ長ってもちっと細いイメージがある。‥ベルクさんは‥切れ長というか‥線だ。僕同様線目。線目と切れ長は‥僕的に違う気がする。(細かいのは僕も一緒か)
「鼻筋は通ってる方がいいけど、‥そもそも鼻が顔のパーツとして主張してないのが人気。だから、クラシルさんみたいに彫が深くて鼻筋が通ってて、鼻が高いのは人気がない。口や目も同様。
 眉毛は優し気なほっそりした柳眉が好ましい」
 ああ、つまりゲジゲジ眉毛とか認めないぜ! って感じなのね。意志の強さがにじみ出てるような濃い眉毛もあんまりねって感じだと。‥でもそれはまあ、好きに揃えればいいわな。生まれつきでどうにもならないとかじゃない。
 成程つまり
 彫が浅くって、顔のパーツが地味でどれも主張しない様なあっさり顔が美しいと。
 僕はさっきと同じく‥「そういうもんか」と自分を納得させて、ふと‥
「体形は? やせ型が人気とか、ふっくら系が人気とかあるの? 」
 最後に何となく聞いてみた。
 リリアンとロゼッタが首を傾げる。
「え? それは、好みの話でしょ? 」
 ‥今までのも全部そのツッコミ入れたかったですけど!??
 顔はこだわりが強くって体形はこだわりが強くないって‥そんなのある??
 ‥あるんだね。分かりました。
 僕は僕の中で「そういうもんだ」と無理やり納得するから、リリアン
「ベルクは細身でおっぱいが大きいのが好きみたいで、いつも私の‥」
 とかいう話をロゼッタと続けない! ‥恥ずかしくって聞いてられないから!! 僕は女子会のメンバーに入れてもらってるけど、女子じゃないから! 普通に初心な童貞男子大生(元)だから! 
 ロゼッタも! 真っ赤になりながら、
「アルシア様は、大きいのは苦手らしい‥」
 って王子の秘密をさらっと話すんじゃない!!
 恥ずかしくって、なんか‥明日から二人(ベルクさんと王子様)の顔見れなくなりそう‥って思ったっけ。
 今日二人と朝顔を合わせたけど、自分が案外平常心だったことに驚いた。ま、関係ないしね。

 とまあ‥昨日得た知識によると
 目の前のあっさりこけし顔は、美形。それを本人が自覚しまくってる感じの奴(ここがポイント)。あれだ。僕を死に追いやった「笠谷さん(だっけ? )」みたいな感じの人ってわけだ。 
 その笠谷ダッシュは、僕がさっきまでの「美形の基準」を頭フル回転で思い出してる間、小首をかしげる様なポーズで僕を見詰めながら、僕の次の言葉を待っていた。
「ええ、喜んで」
 とか‥言うと思うか? 言わねえよ?
「個人的に誰かと話したりはしません。皆で話しましょう? 」
 ってリリアンに代わりに伝えてもらって、僕は困ったように微笑んだ。
 気を遣うよ。ここで「二人きりで話とかするか! ボケ」とか言えないもんね。あからさまに「はあ?? 」って嫌そうな顔できないもんね。(外交問題に発展しちゃうよ。どこの国と? って話だけど)
 笠谷ダッシュも困ったように「そうですか」って微笑んで、僕の手を取ってその甲に口付け‥ようとしたのを僕の護衛騎士として傍に控えていたマイルスさんが止めてくれた。
 軽く無言で睨みつけられ「ひっ」と情けない声を上げて逃げ出す笠谷ダッシュ。‥何なんだほんと。
 しかし、マイルスさんありがとうございます。
 ‥助かった。もう少しで「何すんねん! 」ってひっぱたくとこだったよ! 僕ね。反射神経だけは人並み以上なんだ。別に特別修行してたとかじゃないよ。これはね、生まれつきなの。そういうのってあるよね? 
 いや~ホントによかった。
 キモイってのもあるけど、手を取られたら流石に女の子じゃないってバレちゃうからね~。骨格までは変えられませんからね。
 やっぱ、骨ばってたりするわけだし。女の子の手とは違います。
 いちお、女の子として来てるわけですからね? 
 おさわり厳禁って感じで、手を膝の上でキチンと重ねて座り直していると、
「では、シーヤン様のお育ちになった国のことを聞かせてくださいませんか? 」
 ほっほ、と穏やかな微笑を浮かべた優しそうな老人が助け舟的なものを出してくれた。
 ‥よかった、普通の話がやっとできる。
 僕は「地球の話」から、「この世界の人が聞いてもそんなに荒唐無稽な話でないであろう」話ひいては「この世界にも普及出来そうな」な、「井戸の手押しポンプ」の話と「街灯」の話をした。
 「こういう便利なものがあるよ」って感じで紹介したんだ。手押しポンプは地球で暮らしてた時にはもう僕の周りでほぼ見ないものになってたけど、急に色んなステップをふっとばして水道をこの世界に普及させるのは無理だろうって思ったから。
 まずは暮らしの便利グッズから。あと、街灯が無いと夜道が怖いからね。
 穏やかな老人‥なんと外務大臣さんだったらしい‥が感心して頷き
「シーヤン様のお生まれになった国は随分進歩した国なんですね。なんという国なのですか? 」
 って興味津々って顔された。
 うん、下手こいたな! 
 苦笑いして固まってたら、アルシア様が上手く胡麻化してくれた。‥ホントすみません。
 そんな感じで「顔の話NG」でその後は穏やかに談笑が続き、お開きの時間が来たときには、そこそこ皆と仲良くなれた‥様な気になった。
「手押しポンプなるものの話を後で聞かせてくださいね」
 っていう、研究者の人と約束もした。仕組みとかはよくわからないけど「こういう風に使ってた」って話で何か分かってくれたらいいなって思う。
 異文化交流って大事だと思う。顔とかの話以上に。顔とか、ホント「アンタには関係ないがな」って思うよね。
 そんなことを思った瞬間、兄さんたちの言葉を思い出した。
 兄さんたちも今まで「顔だけ」みたいな扱い受けて来たのだろうか? 「普通に接してくれよ面倒くさい」って思いをして来たんだろうか? ‥そんな風に(おこがましくも)思った。
 僕ごときがそういう風なこと考える日が来るなんてなあ。
 僕ここにいたら‥なんか、ホント「ヤな奴」になっちゃいそうだ。ちやほやされて、気を遣われて‥そのうち「僕って特別だから」って思っちゃったらどうしよう。
 そんな風に思ったら怖くなってきた。
 さっきの台詞だって‥以前の立場の僕(一段下に見られてた様な僕)が「僕の顔なんて関係ないじゃないですか。顔とかじゃなくて、僕の本質見てください」って言ってたら‥内容全く同じだけど、誰も聞いてくれなかっただろう。それどころか、「何言ってんのコイツ」って冷たい目で見られただろう‥。
 そう思ったら‥
 僕はもう、この場所から一刻も早く逃げ出したい気分になってたんだ。

 「トイレ行って来る」ってリリアンとロゼッタにだけこそっと言って、一人会場を出た。マイルスさんが落ち込んで肩を落として歩く僕に追いついて、
「さっきは‥かっこよかったです」
 って言ってくれた。
 僕は「僕こそ、さっきはありがとうございました」ってマイルスさんにお礼を言う。マイルスさんが
「余計なお世話じゃなかったですか? 」
 って僕に尋ねて来たのに対して「そんなわけないじゃないですか」って大袈裟に首を振ると、マイルスさんが「首がもげちゃいますよ」って笑った。
 首ね。うん、首無しコケシは‥怖いよね。
 ころんって頭だけ落ちたコケシを想像してちょっと苦笑いした。 
 マイルスさんが
「私は‥騎士なのに臆病なんです。自分に自信がなくって‥だから、さっきのシーヤン様の言葉‥ホントにカッコイイって思った」
 って呟いた。
「ホントはね。‥怖かったんです。僕もそう勝気な性格でもないんだけど‥でも、時々ああやって強気なことを言ってしまう。‥守ってくれる人がいたからだって‥ホント最近になって気づいたんです」
 僕が言うとマイルスさんが「守ってくれる人ですか」って繰り返した。
 僕が頷く。
「僕の兄さんたちです。僕は、三人兄弟の末っ子で‥出来のいい兄さんたちにずっとコンプレックスを持ってた。一人で頑張らなきゃって気を張ってるつもりだったんです。馬鹿にされても、兄に泣きついたことはなかった。‥でもね、ここにきて、今まで僕が強気なことを言ってこれたのも、全部‥こころの奥底で「いざとなったら兄さんたちが助けてくれる」って思ってたからなんだなあ‥って気付いたんです」
 虎の威を借る‥じゃないけど、僕はでも、後ろに虎がついていてくれるだろうってことで、強く振る舞うことが出来ていた。‥ここだったら、クラシルさんかな。
 一人じゃ何も出来ない。
 だけど‥「一人で何でもしなくていい」って言ってくれる人がいた。今までも、今も。
 だから僕はやってこれた。
「それでも、兄さんたちに丸投げしないで、自分でやろうって思えるのは凄いですよ。
 ‥そして、シーヤン様にそう信頼してもらえるお兄さんたちが羨ましいですね。理想の関係だって思いますね」
 マイルスさんが微笑む。
「私にもそんな人がいたら‥私にも信頼して背中を預けられる人がいたら、少しは変わったんですかね」
 信頼できないのは‥でも、自分が臆病だからだ。ってマイルスさんが独り言のように付け加える。
「マイルスさんにも見守ってくれる人はいると思いますよ。いつかその人のことを‥信頼することが出来たらいいですね」
 僕はあの時であったカイルさんのことを思い出しながら言った。
「ああ、あなたはホントに‥」
 マイルスさんが僕を見る。僕もマイルスさんを見る。
 見つめ合ったのは数秒、その後、マイルスさんがすっと目を逸らして
「何でもないです。忘れてください」 
 って言った。
 僕の後ろにリリアンが立っているのに気付いたからだろうって思った。
 リリアンには聞かれたくなかったこと?
 ‥マイルスさんはさっき、僕に何を言いかけたんだろう? 僕はちょっと首を傾げた。
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