俊哉君は無自覚美人。

文月

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71.期間限定シンデレラ ④ シーヤンと護衛騎士さん。

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 騎士さんの名前はマイルスさんというらしい。歳は‥ここの人って皆しっかりしてるから分かりにくいけど‥多分同じ年位。そうじゃなくても、多分5歳は変わらない。さっきのカイルさんはもう少し年上かな? でも、クラシルさんより年下って感じ。
 さっきカイルさんと喧嘩してた(‥喧嘩では無かったな)時にはちゃんと見えなかったけど、目がぱっちりして顔立ちがハッキリした美人さんだ。「出来る勝気美女」って感じで、正直気後れしてしまう。地球で知り合ったならきっと僕なんか相手にもしないだろう‥そういうタイプだっただろうから(偏見だよね)でも、すらっと細身でスーツが似合うキャリアウーマンとは違うタイプ。彼女はそうだな‥格闘系で鍛えたがっしり系女子って感じで、凄くカッコイイ。
 並んで初めて分かったんだけど、身長は高くない。それこそ、‥たぶんリリアンの方が若干大きい。 
 がっしりした筋肉質の人って見かけの身長より大きく見えたりするものね。僕は‥あれだ。筋肉がないから見かけよりずいぶん小さくみられる。ちょっと情けないね。
 さっき彼女は自分のことを醜いって言ってた。よく自分を卑下してそういう風に言う人いるけど、彼女はきっとそういう人ではない。きっと根っこはずっと強い人なんだって思う。だけど容姿についてだけは‥「ここ」がそう言う様に彼女を作り上げたって感じ。つまり、「人がどう見るかとか私には関係ないわ」ってそう言えるだけの強さが彼女にあっても‥この世界はそれを許さないってこと。
 ‥ここは、容姿による差別が地球よりずっと‥あからさまだから。「気にしない」を許さない周囲の圧力っていうの? 空気がここにはある。まさに悪意だ。そのあからさまな悪意が彼女をずっと苦しめて‥蝕んできた。そして、それはクラシルさんたちに対しても言えることなんだ。(許さないよね)
 貴族である彼女は平民であるクラシルさんよりずっと多くの人間と付き合ってこなければいけなかった分、多くの人の悪意に晒されてきたのだろう。それに、貴族の方がそういうこと気にしそうだよね。足の引っ張り合いとかもありそうだし。見掛けなんていう「アカラサマニ分かりやすい弱点」なんて、突いて来ないわけがない。
 それこそ‥凄く陰湿な手段で突いて来そう。(← 俊哉の貴族に対するイメージ。きっと偏見も含まれてます)
 ‥きっと、貴族の‥中でも王族である王子様は今までずっともっと‥僕が想像するよりずっと‥苦しんできたんだろう。自国だけでなく他国とも付き合わなきゃいけないだろうし、自分の我が儘で「会いたくない」「この人嫌い」とか言えないだろうしね。あの真面目な王子様ならなおさら‥そんな我が儘言わないだろう。
 王子様のこともあるから‥
 彼女には、自分の容姿のことで悩まず‥絶対幸せになって欲しいって思った。

「私は隣には立たない方がいいですから、目立たない様に‥近くで控えています。でも、何かありましたらすぐに駆け付けますので、安心してください。腕には自信があります」
 彼女は、僕と目線を合わせないためか、顔を伏せて、でもしっかりした口調で言った。
 俯いてとは違う。常に会釈した様な状態で話しているのだ。顔を上げたら、自分の顔が僕や他人に見えてしまうから。
 なんで? そんなこと、気にすることないのに。
 僕が首を傾げてじっと彼女を見ると彼女が真っ赤になって、顔を伏せたまま「あなたは凄く綺麗ですね」ってボソッと呟いた。
 なんか‥全然嬉しくない。
 僕がきゅっと唇をかむと(咄嗟にね。別に「は? 嫌味? 」って思ったわけじゃない)
「私のようなものが‥余計なことを‥すみません! 」
 って彼女が慌てて謝った。
「私なんかにそんなこと言われても‥嫌ですよね。申し訳ございませんでした」
 そう付け加えて、肩を落とす。
 いや褒められたのが嫌って話じゃないんだ。なんていえば良いのか分からないな‥なんか嫌な気がした、とだけ。
 なんで嫌なのかな。
 わからないけど、考えなきゃいけないって思った。
 それがこの子と‥対等に話すためには必要なような気がしたから。
 まず状況を整理しよう。
 マイルスさんはこの国で言うところの不美人って奴らしい。(腹が立つけど、そういう風に見られているらしい‥と認識しておく)
 マイルスさんはそのことで自分に自信がない。
 騎士であることに対しては、仕事に自信もあるだろうし、仕事自体に誇りを持っている。真面目で、そしてカイルさんが言うように凄く優しい人なようだ。身体も鍛えられているし(真面目だと思うポイント)、今は僕を「驚かせない様に」顔を見せない様にしてくれている(優しいと思うポイント)。そして「隣に立つと嫌だろうから」隠れて護衛することを提案してくれている。(優しく職務に真面目だと思うポイント)
 そんな彼女が僕のことを「凄く綺麗」と‥多分つい呟いてしまった。多分、ホントについ呟いてしまったんだろう。彼女は慌てて謝った。僕が嫌そうな表情をしたからっていうより‥多分「仕事に関係のないこと」だから、彼女は凄く反省して、僕に謝ったんだろう。だけど、同時に彼女は驚いた。他人が自分の様に「容姿について触れられることの不快さ」を感じるとは思っていなかったのだろう。
 他人は自分の容姿にコンプレックスを感じたりしないんだろうな。‥きっと、彼女は無意識にそう決めつけている。(逆に言うと、それ程彼女が自分の容姿を酷く嫌悪しているってことなんだろう)
 そして、僕の「嫌そうな顔」に、「私なんかからそんなこと言われたから嫌だったんだろうか? 」って考えに及んだんだろう。だからそう付け加えた。
 ヤバい、そう思われてるとしたらかなり嫌だ。僕がそういうこと思う人間だって思われたのも、かなり嫌だ。
「いや、そういうのじゃなくて‥僕は、その‥自分の顔にコンプレックスがあって‥容姿について触れられると‥つい条件反射で嫌そうな顔になってしまうんです」
 って僕は(意外なほど必死に)弁解した。
 マイルスさんが「おや? 」って顔をする。
「シーヤン様は‥」
 ああ、バレた。
 そうです男です。声で分かりますよね。
 マイルスさんは多分つい顔を上げて僕の顔を見て‥また驚いた顔をした。
 醜いって驚いてないらしいってことは分かったけど‥なんかこの反応ちょっと傷つくんだよね~。
 いや‥男がこんな格好してるの? こんな格好してるから気付かなかったけど男? って驚きかも?? それだとしたら、更に落ち込むぞ?? 
 だけど、マイルスさんは言わなかった。
「そうですか。シーヤン様のような美しい方でもそのように思われることがあるんですね」
 って苦笑い‥程じゃないけど‥困ったように笑った。
 う~ん。気を遣っていただいてすみません。
 僕も苦笑いして、お互い向き合って照れ笑いした。それだけで、歳も近いのもあって‥僕は(勝手に)なんだか親近感がわいたって気がした。
 だから、
「あと、あの‥普通にしてください。護衛されるようなその‥高貴な‥はアレだな。そうだった‥王子殿下のお客さんだったら身分関係なく護衛対象になるのか‥ええと‥あの‥なんて言えばいいんだろ‥
 その‥
 普通に横にいてください。友だちみたいに接してくれると嬉しいです」
 って言ってみた。マイルスさんはちょっと面食らったのかな。一瞬(ちょっと)目を見開いてそして、ふふって微笑んで「そうですか」って言った。
 あ、なんか可愛い。
 僕も緊張がちょっと解けて、自然にふふって笑った。
 目の前でマイルスさんが真っ赤になる。
「‥ホントにシーヤン様は美しいですね。‥まるで女神様のようです」
 肩を竦めて真っ赤な顔で言う。
 僕苦笑い。
 ‥僕なら‥こんな女神嫌ですけど。
 そもそも、僕の女神イメージ像はこんな平坦な顔じゃない。キラキラした‥彫の深いもっとはっきりとした顔立ちだ。そう、それこそ王子様みたいな。僕みたいなのじゃない。日本の‥掛け軸とかに書いてある天女って「こんな感じ」だから‥そういう感覚なのかな? ‥共感できにくいわ~。カルチャーショックって奴かな。
「僕は僕の顔、そんなに好きじゃないですよ」
 ってボソッと呟く。そして、反論の隙を与えない程直ぐ
「好みってそういうもんじゃないですか? 」
 って聞いた。そして、また反論の隙を与えない程直ぐ
「皆がそう言うから、とか関係ないですよ。自分がどう思うかですよ。‥ホントはね。
 自分の顔は自分位好きでいてあげないと思うんですよ。ホントはね。だけど、周りは僕の顔が好きじゃなくって‥好きじゃないって周りから言われ過ぎて‥なんか「僕の顔はアンタには関係ないじゃん。アンタに関係ある? 別にアンタに迷惑かけてるわけじゃない。嫌なら見なきゃいいでしょ」って‥言えない雰囲気つくられちゃってね。
 言ったら「開き直るなよ、そんな顔で」って言われそうでね。
 ‥自分のことだって言うのに、周りに気を遣って‥
 分相応を周りに無意識に強いられて‥
 そんな風だから‥何となく自分も自分の顔が嫌いになっちゃったんです。いつの間にか」
 って付け加えた。
 ほぼノンブレスで。その間何度かマイルスさんが口を挟もうとしたように見えるけど、僕は「そうさせまい」と一気に話した。
 だって、聞いて欲しかったから。
 マイルスさんはびっくりした顔で僕を見てる。
 うん、目の前でノンブレスで長台詞言われるとびっくりするよね。
 そしてちょっと眉を寄せて
「‥あなたのような人でもそんな風に思うんですね」
 って言った。
「だけど‥そうですね。好みとか‥その人の考え方って本来その人自身のものであるはずですよね」
 って苦笑いして
「なのに‥気が付いたら私も周りに感化されて‥周りの言いなりになっていました。
 幼馴染の‥許嫁の言葉も信じられなかった。
 彼がどんなに顔なんて関係ないって言っても‥言ってくれても信じられなかった。だって、彼はホントに素的な人だから。
 結婚するのが怖かったのも本当なんです。
 なんだか、全部が変わってしまいそうで‥それが怖かったんです」
 寧ろそっちの方が本当なのかもなって思った。
 騎士隊の仕事に誇りを持っているマイルスさん。結婚して、家庭を持って、護衛対象より大事な存在が出来て、今まで見たいに自分の命顧みず仕事が出来なくなるかもしれない。貴族だから家事はしないだろうけど、やっぱり独身者と既婚者は違うだろう。子供が出来たら? 生活が変わってしまうだろう。
 変わっていく環境を楽しみにするっていうより、不安で怖い方が勝る。
「何もかもが‥不安なんです。
 それに、私は多分婚約者に対して恋愛感情を持っていない。
 多分、この先、義務として結婚する。
 恋愛とは何かも知らないうちに‥皆そうなんだろうけど‥義務として婚約して、やがて結婚する。後継者を産むために。
 たった一度の「自分の」人生なのに何一つ自分の意見が通らない。何一つ自由にならない。自由に恋愛すら出来ない。私は‥私にはそれが酷く勿体ないことの様に思えるんです。
 教えてください。恋とはどういうものなのですか? 」
 マイルスさんが真剣な顔で僕を見る。
 僕は
「恋をすると、その人のことばかり考えてしまいます。
 一緒にいたい、触れたい、触れられたいって思います。
 笑顔を見たら嬉しい、何気ない会話が楽しい。
 一緒に過ごす日々が、まるで宝物の様に愛しく思えます」
 マイルスさんを見つめながら、僕もまた真剣な表情で言った。
 照れたり胡麻化したりせず、真摯にマイルスさんに向き合わなければいけないって思ったから。
 一言一言丁寧に、クラシルさんを思い出しながら言葉を紡いだ。
 クラシルさんを思い浮かべる
 それだけで、もう会いたくて仕方なくなってしまった。

 ああ、僕はホントに‥
 クラシルさんが好きなんだ。他の人なんてどうでも良くなる位に‥、今気が付いたんだけど、昔はあんなに嫌いだった自分のことが今はそう気にならない。他の人の(僕に対する)評価なんてどうでもよくなってたんだ。クラシルさんが僕に笑いかけてくれるだけで、他のことなんてどうでもよくなってたんだ。
 クラシルさんが好きだ。
 僕はホントに‥クラシルさんが好きなんだ。
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