俊哉君は無自覚美人。

文月

文字の大きさ
上 下
72 / 89

68.期間限定シンデレラ ① 俊哉自覚(?)する。

しおりを挟む
 今僕は、王子様の「お客様」としてお城にいる。女の子の格好をしてだ。
 ことの発端は
「普段の俊哉とは全く違う人間になったほうがいい」
 っていうロゼッタの提案だった。
 いや‥違うな。
 そもそもの発端は、修斗兄さんとロゼッタという「会っちゃいけない人たち」の出会いからだった。
 一般人(異世界人)と王妃様が何故出会った? って思わない? そこは‥アレだ。例の「あの子」あの神が一枚かんでるんだ。(いつものことだよね)

 遡ること一日前、「夢の間」でのあの子と僕と兄さんとのティータイム。
 そういうこと(※ 死んだ僕と兄さんが会うこと)は良くないって僕は止めたんだけど「神様命令」ってこんなときだけ神様特権振りかざすんだから‥そういうとこはあの子のよくない所で「まあ‥(夢の中なら)いいか」って結局許しちゃうのが僕たちの悪いとこだ。女の子の頼みって断れないよね。
 初めは、なんてことないティータイムだった。僕と兄さんの(ここでのね。地球での話はしないっていうのは暗黙の了解だ)近況だとか、王子様がロゼッタと幸せで嬉しい!‥って話とか。因みに、王子様たちの話の殆どはあの子情報。僕らにするみたいに王子様の夢に入り込んだりして話を聞いてるんだって! (迷惑だな)
 あの子の王子様贔屓は、今も健在だ。だから、王子様の結婚式をカメラマンという形で成功させた兄さんに恩義を感じてるんだろう。あと「振り回してごめんね」もね。兄さんは過去にあの子に、王子様の為にここに連れてこられたって過去があるからね。兄さんと王子様の恋が成就してたら、兄さんは地球上では死亡することになってたから、ホント危険だ。(僕みたいにね)。だから、ごめんじゃ済まないんだけど‥、まあ、兄さん的には「済んだこと」で済んでるんだから僕もそれ以上は言わない。あと、あの子にとって僕は「初めて呼んだ異世界人」ってことで凄く思い入れがある‥らしい。その後のことが心配だって言って、(多分)親にも似た感情を持って僕に接してくれてる。有難いけど、責任感じさせちゃってなんか申し訳ないね。僕としてはあの子がここに呼んでくれたからクラシルさんと会えたから、感謝しかないんだけどね。
 呼んでくれてなかったら、ただ死んで終わりだったんだもん。‥それを考えたら、ただ怖いね。
「それでね、王子にロゼッタが毎日お茶を淹れてくれるのが嬉しいんだって! 」
 あの子が自分のお茶を淹れるついでに僕らのお茶を継ぎ足しながら言った。
「へえ。ロゼッタの淹れるお茶は美味しいからね」
 って僕。ロゼッタは昔秘宝館で働いてた時、リリアンにお茶の淹れ方をレクチャーされてた。「お茶位淹れられなきゃでしょ」って言ったリリアン自身は、平民出身だからか家事も裁縫も一通りこなせた。「料理は出来るけど、あんまり美味しくないんだけどね」って肩を竦めて笑う彼女の顔を見てたら、どんな料理だってきっとずっと美味しく感じるんだろうなって思ったもんだ。
 笑顔と愛情って最高のスパイスだ。
 王子様とロゼッタの話について、僕は「そうらしい」って街の噂で聞いたり、たまにお忍びで遊びに来るロゼッタ(と、たまに王子様! )から聞く位。兄さんに至っては「ビクターは下っ端だから王族の周辺の警護なんて出来ないよ」らしく、全然情報はないらしい。だけど、「あれから一度、王様と王妃様の写真を頼まれて城に行った時に二人に会った」らしい。「王子様は以前よりずっと顔色が良くなってた」って言ってその時の写真を見せてくれた。
「だけど、もう雲の上の人たちみたいだった」
 って苦笑い。
 地球程じゃないけど、城と平民の距離は大きい。地球みたいに報道が充実してないから余計にそういうのを感じるね。‥だけど、その方がいいなって思ったり。やっぱさ、何でも間でも筒抜けって嫌だよ。
 それはそうとして‥。
 王子様贔屓のあの子が原因で自然と会話の殆どがロゼッタと王子様になったって話。だって、男二人と女の子だったらやっぱり話の主導権を握るのは女の子だよね。両方を知る僕らとしてもそんな幸せな話を聞くのは嬉しい。それに、まるで自分の恋バナをするみたいに嬉しそうに話すあの子の笑顔を見てるとこっちまでほっこりしてくるしね。そんな話を兄さんは「へーそうなんだ。王家って日本じゃ身近じゃないから御伽噺の中の世界みたいだな」って感心して相槌を打ち、僕はロゼッタの友だちとして「その話聞いたことない。今度ロゼッタに聞いてみよ」って思ったり、ロゼッタから聞いた最近の王子の話をあの子にしたりする。
 それから、僕たちも幸せだよっていう報告。だけど、恥ずかしいから惚気たりしない。具体的なエピソードとか絶対! 話さない。あの子に「君のおかげで‥」って、お礼を言う位だ。
 きょうだいの前で惚気話とか‥無理だ。
 普通は大丈夫なのかもしれないけど、少なくとも僕は無理。それは、兄さんも同じみたいだった。
 で、話は(なんでか)昔の僕が容姿のせいで冷遇されてた(# ゚Д゚) って話になって(兄・修斗が怒り気味にあの子に告発) → (ここの世界では)美人なのに、俊哉のあの態度‥それが今まで不当な扱いを受けてきたから自己評価が低くなったせいだというのね! (# ゚Д゚)(あの子談)って話になったんだ。
 あの子が
「そもそも、俊哉は美人なのに、なんで顔を隠してるの? 皆俊哉が美人だってこと知らないのよ。フードなんか被ってるから皆、俊哉は不美人だって勘違いしてる。そういう扱いを俊哉が受けてるのがたまらなく悔しい」
 って憤慨する。
 顔を真っ赤にして泣きそうになりながら怒ってる。そのあんまりの剣幕に僕は苦笑いしてしまう。だけど、僕のことなのに我が事のように怒ってくれるのが嬉しいなって‥。そう思って素直にお礼を言ったら、「分かってない」って二人に言われちゃった。
 分かってない? 何を?
「この世界は、元の世界と美醜の基準が違うんだ。それは‥分かってるだろ? 」
 いつもより、真剣な表情で修斗兄さんが僕を見た。
 何の話??
 ああ、ここの美人の基準か。
「小さい子が美人判定なんだよね」
 って僕が言ったら
「それだけじゃない。ここの世界では、俊哉はもう女神級に美人なんだ」
 って兄さん。
 んなアホな。
「そんなことはないでしょう」
 って笑ったら、
「ベルクさん。‥リリアンちゃんの旦那さんの。あの人は背が高いのが大きなマイナスポイントだけど、顔はここ的にかなりイケメンなはず」
 って修斗兄さんが言った。
 ベルクさん?
 僕が首を傾げると、うんうんとあの子が頷いた。
 ベルクさんは僕の「仲間」だ。
 丸顔。細い小さめの目。目立たない鼻。どっちかというとおちょぼ口。ざ、こけし顔。
 そんなベルクさんがイケメン? (← 失礼)
 いや、さっきの言い方が良くなかった。
 ‥し、親しみの持てる柔らかな曲線を描いた輪郭。線のような切れ長で‥一重のスッキリした目。色素の薄い瞳(何色だったかはよく覚えてない。だってじろじろ見るとかおかしいじゃない? )それに並行するように存在するあっさりした‥キリっとした?? 細い‥柳眉。鼻筋の通った低い鼻は顔のパーツの中でなんの邪魔にもならず、薄い唇の小さな口はこれまた存在を主張しすぎない上品さ。ざ、シンプル。侍の如く無駄のない‥ええと、雄々しい様。いや、力強く凛々しい様子はあたかも、日本の浮世絵の役者さんの様‥。
 もうどうでもいいや。
 シンプルに言って、ザ・こけし(結局これ)。
 それ以上でもそれ以下でもないや‥な、ベルクさん? 
 僕が首を傾げると、あの子と兄さんが頷いた。
「ここの人たちからしたら、アレだ。クラシル君なんて‥凄い醜男だと思う。ちょっと‥どころじゃない「もう顔も見たくない! 」レベルに醜男だと思う。
 だって、ほら‥ベルクさんと反対だろ? 」
 しゅっとしたシャープな顎。アーモンド形の形のいい目。深い茶色の大きめの瞳。くっきりした二重瞼。影が落ちそうなくらい長い睫毛。濃い青色の瞳は‥見つめてたら吸い込まれそう。鼻筋の通った高い鼻。彫の深い、まるでギリシャの彫刻のような顔立ち。硬めのストレートの黒髪。それをクラシルさんは短く刈ってるけれど、きっと伸ばせばサラサラなんだろう。(言い出したらキリがないのでここらへんでやめておく)
 ベルクさんと反対に、凄くはっきりしたお顔をしてる。
 はっきりしてて、映画俳優も真っ青になってひれ伏すレベルのカッコよさだよ。まさに神だよ? (語彙力)
「そ‥そんなクラシルさんが醜男?? え、この国の人、全員目がおかしいの?? 」
「いやそればっかりは好みの問題だから‥。俺たちの住んでたトコ(地球)だってところ変われば太めの人の方がいい‥とかいろいろあったわけじゃない? 」
 う~んまあ。
 そういう『ある種の傾向が強い』ってのは‥あるのかも。
「それこそ、ここでのクラシルさんは‥子羊の村にいる大型オオカミ程の恐れられ様なんだ。怖いって言うか「めちゃ不細工! 顔見せんといて! 」ってレベル」
「酷い! 」
「ここはそういう国なんだよ」
 しみじみ言う兄さん。ちらっとあの子を見たら「お恥ずかしながらそういうとこはあるわよね」って言って苦笑いしてた。
 ‥そんな‥。
「だから、そんなクラシル君と居るローブの俊哉も「お仲間」判定されてるわけ。クラシル君と一緒にいる時と、リリアンちゃんと一緒にいる時、周りの人の感じが随分違うんじゃない? 」
 リリアンと一緒に行くところ(昼間の市場とか)には仕事の時間の関係上クラシルさんと一緒に行くことはないからはっきり比較は出来ないけど‥確かにそういうところあるかも。
 夕方の市場の人たちは‥僕とクラシルさんたちが行くと随分感じが悪い。
 黙り込む僕。
 兄さんは「そうだ、聞こうって思ってたんだ」ってあの子を振り向くと
「ここの人たち的に「身体の大きさ」と「顔」ってどっちによりウエイトを置いてるの? 」
 って聞いた。
「ずっと前から何となく‥気になってたんだけど、いやさ‥こんなことアイツには聞けないじゃない? 」
 アイツってビクターさん。兄さんの恋人だ。恋人かな? 凄く仲がいいってのは確かなんだけど‥そういうこと、きょうだいで話さないじゃない? 
 親友よりは親しい‥感じ? ‥考えられない。
 恋人って言っても、どうもあんな大きな人を兄さんが‥あの、ノーマルな兄さんが抱いてるの想像できないんだよなあ‥。そもそも、想像を頭が拒否してるっていうか‥。(俊哉には絶対に、兄が抱かれてるって発想はない)
「ああ‥。確かに聞けないわね‥。はっきり言うとね。
 絶対的に、顔よ」
 あの子が断言した。
 そうなのか‥顔なんだ。それも、絶対的に。
 ‥顔かあ。
 この国の美醜感覚では、こけし度が高い程美形で、顔立ちがはっきりしてるのは不美人。
 ‥いや、人の国の美醜感覚に文句言うつもりはないけど‥その状態で美人認定されても全然嬉しくない‥。
 苦笑いしかできない俊哉だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...