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67.新しい暮らし(本編 最終話)
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朝。
クラシルさんと二人暮らしだったときは、クラシルさんと起きて、クラシルさんが水汲みをしてくれてる間に僕が朝食の準備。二人で朝食を食べて、7時になったらベルクさんとリリアンが来て、クラシルさんとベルクさんは出勤。僕とリリアンは洗濯して買い物に行く。その後は僕は薪を割って食事の準備、リリアンは販売用の内職っていうのが日課だった。
だけど、ライン君とテラ君が来て、その生活は当たり前だけど変わった。
まず、モーニングルーティンが変わった。
クラシルさんが水汲み後ライン君とテラ君が畑に水やりしてくれるようになった。
今まではホントに小さなスペースだったから僕が朝ちょちょっとやってたんだけど、人数が増えたからせっかくだから‥って畑をちょっと大きくしたんだ。今では葉物野菜だけじゃなくって夏にはトマトやナスも作ってるんだ!
クラシルさんの家は日本で言うところの小庭付き建売住宅(平屋タイプ)って感じの家で、ここら辺の家は全部家の裏に小さな庭スペースがあって、皆そこに仕事道具を置いたり家庭菜園をしたりしてるんだ。
じゃあ僕も‥って近所のおじいちゃんたちに教えてもらいながら家庭菜園(ハーブ)を始めたってわけ。
ハーブティーにするハーブとパンにはさむ葉野菜程度を作って、余ったスペースで薪を割ったり薪を積んで置いたりしてたけど、それでも余ってた。‥割と大きな庭なんだ。
そこをもうすこし耕して、人参、玉ねぎ、ジャガイモ、ナス、トマトなんかを作り始めたんだ。
近所のおじいちゃんに鍬やなんかの道具を借りるんだけど、その際に「連作障害に気をつけろよ」とかアドバイスしてくれる。ご近所づきあいが楽しい。
今では子供も含めた家族ぐるみの付き合いだ。
そんな畑の草引きと水やりは子供たちの担当だ。
水やりが終わって子供たちがテーブルについたら、4人で朝食をとる。その後ベルクさんたちが来るのは同じ。
リリアンと子供たちは直ぐ仲良くなった。初めてリリアンを見たライン君がぽーとなってたのは可愛かったなあ~。もしかして初恋って奴かも?? ベルクさんはライン君に「絶対あげないよ! 」って言ってた。‥これ、なんか見覚えある風景なんですけど‥。(クラシルさんにも言ってたよね?? で、クラシルさんに「俺にも恋人がいる。恋人の前で失礼なこと言うな」って言われてたんだ。‥なんか嬉しかったから覚えてる)
ちょっと変わった‥といえば、クラシルさんが出勤前
「ライン。朝のうちに走り込みと素振りをするのを忘れないように。腹筋と背筋も昨日と同じ回数しておくように」
って、ライン君に「今日の鍛錬メニュー」を支持していく様になったことだ。
ライン君はキラキラした目でクラシルさんを見て、
「わかりました! 師匠! 」
って返事する。ライン君はクラシルさんのことを師匠って呼ぶことにしたらしい。
ライン君曰く
「‥団長はダメだ。まだ騎士団に入っていない俺は団長呼びはダメだ。そんな資格はない。騎士団に入団許可が出るそのときまで、俺はクラシルさんのことを師匠と呼ぶ」
らしい。
因みに僕のことは
「母さん」
って呼んでる。それはテラ君も同じだ。
その呼び方に微妙な表情を見せたクラシルさん(と僕)にライン君が
「普段から一緒に居る俺たちがそう呼んでる方が、他の男に対する牽制になる」
って言って、クラシルさんは「成程」ってその呼び名を採用した。
‥なんだそりゃ。
クラシルさんは心配してくれるけど、僕はそんなにモテないぞ。‥心配性すぎるよね。
「じゃあ、ライン、テラ。母さんのことを頼んだぞ」
「任せて! 」
って朝から謎の小芝居をうっていくことにも‥もう慣れた。初めは苦笑いしてたリリアンも‥慣れてくれたみたいだ。ほんと、毎朝毎朝ゴメンねリリアン。
因みに、テラ君はもうクラシルさんの顔に慣れたみたい。
今ではクラシルさんにべったりだ。おはよーって言って僕の頬にちゅーしたあと(なんか外国のホームドラマみたいでカッコイイよね。因みにもうライン君は恥ずかしがってしない。だけど、寝る前にテラ君が「母さん! 」って僕に頬を差し出すと、ライン君も同じ様に「ん! 」って頬を差し出す。‥なんか可愛い)クラシルさんの背中によじ登って、一緒に水汲みに行く。水汲み場に行ったら背中から降りて水汲みの手伝いをするらしい。まだ、汲むだけ。運ぶのはクラシルさん。水は重いよね。
それ以前に、井戸タイプの水場だから身長の低いテラ君は届かないんだ。
「危ないから近寄らないでね」
って言い聞かせてます。
ライン君たちの前に住んでた場所の水場は湧き水タイプだったんだって。湧き水は飲み水で、洗濯その他は近くの川の水でするんだって。
湧き水って‥ちょっと興味あるよね?
ライン君はテラ君の面倒をよく見ている。テラ君もライン君のいうことを聞いていつも一緒に居るし、一緒のことをしたがる。だけど、ライン君と一緒に剣を練習したりする気はないみたい。ライン君に「危ないから」っていわれてるんじゃなくて、単純に興味がないって感じ。
それについてライン君は
「テラはそう大きくはならないだろうし、剣の特性もなさそうだ。‥テラはテラで自分の仕事を見つけられたらいい」
って言っている。
で、今は薪割をするライン君(※ もと僕の仕事だったんだけど、この頃はもっぱらライン君がしている)の横で彫刻をしている。
刃物が危なくないか? っておろおろと見ているけど、テラ君は器用にノミを彫刻刀代わりにライン君が割った薪を使って彫刻している。
ウサギ、カメ、トラ。
よくできている。それらは全部家に飾っていたんだけど、テラ君の希望でそれを市場にもっていったら雑貨屋のオジサンが買い取ってくれた。
その時のテラ君の嬉しそうな顔っていったら!
家族以外の誰かに認められ、それが商品となったことを喜んでるって感じだった。
おじさんとすっかり仲良くなったテラ君が
「今度女神様を彫ってくれよ」
ってリクエストされていたが、僕は「女神様ねエ‥」ってこころのなかで苦笑いした。
僕にとっては頼りない? ‥なんか微妙な女神様だけど、あの子はこの国唯一の神様なんだ。‥微妙とか言っちゃいけない。
そういえばあの子にも会うことなくなったなあ。
今頃どこかで
「もう俊哉は心配ないな」
って思ってくれてるかな? それとも、次の心配ごとを抱えてそれどころじゃなくなってるのかな? そのうちまた泣き着いてくるのかな? ‥もう、僕にすることはないかもね。
‥そんなことを思った。
もうすっかり、
僕はこの世界に馴染んでいる。
初めはどうなることやらって心配だったライン君たちも今ではすっかり家族だ。両親とその子供って感じじゃないかもしれないけど、家族だ。
‥勇気をだしてやってみてよかった。
元の世界だったら絶対やらなかっただろう。‥やれなかっただろう。
きっと色んな制度があったり、周りの目やら‥色々。今回の養子縁組の流れみたいに簡単に決まるようなことではない。
子育てを甘く見るなって言われるかもしれない。
‥確かに、僕が生まれた世界は、もっと大変だったしね。
教育だとか、就職だとか、‥ホントに大変だったって思う。
いい学校に入って、いい会社に入って‥何をして生きるかじゃなくて、よりよいステータスを‥。高学歴、高収入‥。それが「皆が理想とする生き方」。勿論そんな人間ばっかりじゃない。‥だけど、そういう人間が勝ち組って言われてたのは確かだった。
別にそれが良くないとかいってるわけじゃない。だけど、この世界はそうじゃないってことを言ってるだけだ。
価値観は一つじゃないから。
この世界にはそんなにたくさんの種類の学校はない。学校のランクとかも存在しない。貴族と平民が行く学校が違うってこともあるけど、それは貴族と平民の学ぶ内容が違うからだ。
貴族には「領地経営学」「外交の知識」「礼儀作法」に対する知識が必要だが、領地経営に関わらない者にはその知識は必要ない。‥それだけのことだ。
逆に貴族、平民関係なく、読み書き、計算の知識は必要だ。地球で小学校に当たる初等教育は全国民必修で、それ以降の専門教育は選択制で、高等教育って呼ばれてる。
この世界での学校っていうのは、必要な知識を学ばせることが目的で、受験を目的とした知識を教える場所じゃない。初等学校が「生きていくための知識」高等学校が「職業に就くための知識」を教えるって感じかな。
ライン君は初等学校を既に卒業していて、もう少し落ち着いたら騎士学校に入学する予定だ。学校に行かなくても試験を受ければ騎士になることは出来るらしいけど「きちんと基礎から教わった方がいい」ってクラシルさんが言って進学が決まった。
テラ君は、もうすぐ初等学校に行く予定だ。
うちは有難いことに学費に困ることはないが、学費に困る子は近くの農家の手伝いをしたり程度のアルバイトを学校側が斡旋してくれるらしい。
将来の学費の為に親が子供が幼い頃から貯蓄して‥って考えはこの国にはない。その時いる分のお金はその時何とかする。子供も自分で出来ることはする。自転車操業って言ったら流石に言い過ぎだけど‥まあ、それに近い。
よく言えばおおらか。悪く言えばおおざっぱ。
でも僕はそれが悪いとは言い切れないんじゃないかなって。少なくともこの世界では「それでいい」んだ。
制度はおおざっぱだけど、子育てをおおざっぱにする気はない。
皆一生懸命子供を育てている。
子供が幸せに生きていけるように頑張っている。
僕も精一杯頑張ろうって思う。「子育て」も自分のことも。
取り敢えず生きてる。じゃなくて、この世界で幸せに生きたい。‥生きることを楽しいって思いながら生きたい。
‥生まれて初めてそう思えるから‥。
ライン君たちにもそう思ってもらいたいんだ。「育ててもらってありがとう」なんて殊勝な子供にならなくてもいい。親孝行とか‥どうでもいい。優しいいい子じゃなくていい。人を思いやる良心と社会の規則を守る常識があればそれでいい。
それでいつか、大事な人が出来たらその人を幸せにしたいって思えればいいな。人を愛するこころってのは、‥勝手に生まれるわけじゃない。
人に愛され、楽しいって気持ちをいっぱい知って初めて、人が愛しいって気持ちは養われる。
‥僕もそうやって大きくなった。そして、クラシルさんのことを愛しいって思えた。クラシルさんと幸せになりたいって思えた。
リリアン、ベルクさんたち騎士団の人。女神様、ロゼッタ‥王子様。‥それに、この世で一番大好きなクラシルさんと、僕はここで幸せに暮らしています。
だから、兄さんたち‥父さん、母さん‥心配しないでね!
それと‥今までありがとう‥。今まで「愛されてない」って思ってゴメンね。って‥子供じゃなくなったから‥僕は気付けたんだ。今まで愛されて育ってきたから、それに気付けたんだ。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
この後閑話で、クラシルたちの家のはなし(で、一話)皆のその後(で、一話)を書いて行こうと思いますが、これで本編(というか‥番外編なんですが)終了です。
思ったより‥本編より‥長くなってしまいましたが、本編でほったらかしにしていた話が総て書けて良かったです。
本当にありがとうございました! これからも、別作品も含めてよろしくお願いいたします!
クラシルさんと二人暮らしだったときは、クラシルさんと起きて、クラシルさんが水汲みをしてくれてる間に僕が朝食の準備。二人で朝食を食べて、7時になったらベルクさんとリリアンが来て、クラシルさんとベルクさんは出勤。僕とリリアンは洗濯して買い物に行く。その後は僕は薪を割って食事の準備、リリアンは販売用の内職っていうのが日課だった。
だけど、ライン君とテラ君が来て、その生活は当たり前だけど変わった。
まず、モーニングルーティンが変わった。
クラシルさんが水汲み後ライン君とテラ君が畑に水やりしてくれるようになった。
今まではホントに小さなスペースだったから僕が朝ちょちょっとやってたんだけど、人数が増えたからせっかくだから‥って畑をちょっと大きくしたんだ。今では葉物野菜だけじゃなくって夏にはトマトやナスも作ってるんだ!
クラシルさんの家は日本で言うところの小庭付き建売住宅(平屋タイプ)って感じの家で、ここら辺の家は全部家の裏に小さな庭スペースがあって、皆そこに仕事道具を置いたり家庭菜園をしたりしてるんだ。
じゃあ僕も‥って近所のおじいちゃんたちに教えてもらいながら家庭菜園(ハーブ)を始めたってわけ。
ハーブティーにするハーブとパンにはさむ葉野菜程度を作って、余ったスペースで薪を割ったり薪を積んで置いたりしてたけど、それでも余ってた。‥割と大きな庭なんだ。
そこをもうすこし耕して、人参、玉ねぎ、ジャガイモ、ナス、トマトなんかを作り始めたんだ。
近所のおじいちゃんに鍬やなんかの道具を借りるんだけど、その際に「連作障害に気をつけろよ」とかアドバイスしてくれる。ご近所づきあいが楽しい。
今では子供も含めた家族ぐるみの付き合いだ。
そんな畑の草引きと水やりは子供たちの担当だ。
水やりが終わって子供たちがテーブルについたら、4人で朝食をとる。その後ベルクさんたちが来るのは同じ。
リリアンと子供たちは直ぐ仲良くなった。初めてリリアンを見たライン君がぽーとなってたのは可愛かったなあ~。もしかして初恋って奴かも?? ベルクさんはライン君に「絶対あげないよ! 」って言ってた。‥これ、なんか見覚えある風景なんですけど‥。(クラシルさんにも言ってたよね?? で、クラシルさんに「俺にも恋人がいる。恋人の前で失礼なこと言うな」って言われてたんだ。‥なんか嬉しかったから覚えてる)
ちょっと変わった‥といえば、クラシルさんが出勤前
「ライン。朝のうちに走り込みと素振りをするのを忘れないように。腹筋と背筋も昨日と同じ回数しておくように」
って、ライン君に「今日の鍛錬メニュー」を支持していく様になったことだ。
ライン君はキラキラした目でクラシルさんを見て、
「わかりました! 師匠! 」
って返事する。ライン君はクラシルさんのことを師匠って呼ぶことにしたらしい。
ライン君曰く
「‥団長はダメだ。まだ騎士団に入っていない俺は団長呼びはダメだ。そんな資格はない。騎士団に入団許可が出るそのときまで、俺はクラシルさんのことを師匠と呼ぶ」
らしい。
因みに僕のことは
「母さん」
って呼んでる。それはテラ君も同じだ。
その呼び方に微妙な表情を見せたクラシルさん(と僕)にライン君が
「普段から一緒に居る俺たちがそう呼んでる方が、他の男に対する牽制になる」
って言って、クラシルさんは「成程」ってその呼び名を採用した。
‥なんだそりゃ。
クラシルさんは心配してくれるけど、僕はそんなにモテないぞ。‥心配性すぎるよね。
「じゃあ、ライン、テラ。母さんのことを頼んだぞ」
「任せて! 」
って朝から謎の小芝居をうっていくことにも‥もう慣れた。初めは苦笑いしてたリリアンも‥慣れてくれたみたいだ。ほんと、毎朝毎朝ゴメンねリリアン。
因みに、テラ君はもうクラシルさんの顔に慣れたみたい。
今ではクラシルさんにべったりだ。おはよーって言って僕の頬にちゅーしたあと(なんか外国のホームドラマみたいでカッコイイよね。因みにもうライン君は恥ずかしがってしない。だけど、寝る前にテラ君が「母さん! 」って僕に頬を差し出すと、ライン君も同じ様に「ん! 」って頬を差し出す。‥なんか可愛い)クラシルさんの背中によじ登って、一緒に水汲みに行く。水汲み場に行ったら背中から降りて水汲みの手伝いをするらしい。まだ、汲むだけ。運ぶのはクラシルさん。水は重いよね。
それ以前に、井戸タイプの水場だから身長の低いテラ君は届かないんだ。
「危ないから近寄らないでね」
って言い聞かせてます。
ライン君たちの前に住んでた場所の水場は湧き水タイプだったんだって。湧き水は飲み水で、洗濯その他は近くの川の水でするんだって。
湧き水って‥ちょっと興味あるよね?
ライン君はテラ君の面倒をよく見ている。テラ君もライン君のいうことを聞いていつも一緒に居るし、一緒のことをしたがる。だけど、ライン君と一緒に剣を練習したりする気はないみたい。ライン君に「危ないから」っていわれてるんじゃなくて、単純に興味がないって感じ。
それについてライン君は
「テラはそう大きくはならないだろうし、剣の特性もなさそうだ。‥テラはテラで自分の仕事を見つけられたらいい」
って言っている。
で、今は薪割をするライン君(※ もと僕の仕事だったんだけど、この頃はもっぱらライン君がしている)の横で彫刻をしている。
刃物が危なくないか? っておろおろと見ているけど、テラ君は器用にノミを彫刻刀代わりにライン君が割った薪を使って彫刻している。
ウサギ、カメ、トラ。
よくできている。それらは全部家に飾っていたんだけど、テラ君の希望でそれを市場にもっていったら雑貨屋のオジサンが買い取ってくれた。
その時のテラ君の嬉しそうな顔っていったら!
家族以外の誰かに認められ、それが商品となったことを喜んでるって感じだった。
おじさんとすっかり仲良くなったテラ君が
「今度女神様を彫ってくれよ」
ってリクエストされていたが、僕は「女神様ねエ‥」ってこころのなかで苦笑いした。
僕にとっては頼りない? ‥なんか微妙な女神様だけど、あの子はこの国唯一の神様なんだ。‥微妙とか言っちゃいけない。
そういえばあの子にも会うことなくなったなあ。
今頃どこかで
「もう俊哉は心配ないな」
って思ってくれてるかな? それとも、次の心配ごとを抱えてそれどころじゃなくなってるのかな? そのうちまた泣き着いてくるのかな? ‥もう、僕にすることはないかもね。
‥そんなことを思った。
もうすっかり、
僕はこの世界に馴染んでいる。
初めはどうなることやらって心配だったライン君たちも今ではすっかり家族だ。両親とその子供って感じじゃないかもしれないけど、家族だ。
‥勇気をだしてやってみてよかった。
元の世界だったら絶対やらなかっただろう。‥やれなかっただろう。
きっと色んな制度があったり、周りの目やら‥色々。今回の養子縁組の流れみたいに簡単に決まるようなことではない。
子育てを甘く見るなって言われるかもしれない。
‥確かに、僕が生まれた世界は、もっと大変だったしね。
教育だとか、就職だとか、‥ホントに大変だったって思う。
いい学校に入って、いい会社に入って‥何をして生きるかじゃなくて、よりよいステータスを‥。高学歴、高収入‥。それが「皆が理想とする生き方」。勿論そんな人間ばっかりじゃない。‥だけど、そういう人間が勝ち組って言われてたのは確かだった。
別にそれが良くないとかいってるわけじゃない。だけど、この世界はそうじゃないってことを言ってるだけだ。
価値観は一つじゃないから。
この世界にはそんなにたくさんの種類の学校はない。学校のランクとかも存在しない。貴族と平民が行く学校が違うってこともあるけど、それは貴族と平民の学ぶ内容が違うからだ。
貴族には「領地経営学」「外交の知識」「礼儀作法」に対する知識が必要だが、領地経営に関わらない者にはその知識は必要ない。‥それだけのことだ。
逆に貴族、平民関係なく、読み書き、計算の知識は必要だ。地球で小学校に当たる初等教育は全国民必修で、それ以降の専門教育は選択制で、高等教育って呼ばれてる。
この世界での学校っていうのは、必要な知識を学ばせることが目的で、受験を目的とした知識を教える場所じゃない。初等学校が「生きていくための知識」高等学校が「職業に就くための知識」を教えるって感じかな。
ライン君は初等学校を既に卒業していて、もう少し落ち着いたら騎士学校に入学する予定だ。学校に行かなくても試験を受ければ騎士になることは出来るらしいけど「きちんと基礎から教わった方がいい」ってクラシルさんが言って進学が決まった。
テラ君は、もうすぐ初等学校に行く予定だ。
うちは有難いことに学費に困ることはないが、学費に困る子は近くの農家の手伝いをしたり程度のアルバイトを学校側が斡旋してくれるらしい。
将来の学費の為に親が子供が幼い頃から貯蓄して‥って考えはこの国にはない。その時いる分のお金はその時何とかする。子供も自分で出来ることはする。自転車操業って言ったら流石に言い過ぎだけど‥まあ、それに近い。
よく言えばおおらか。悪く言えばおおざっぱ。
でも僕はそれが悪いとは言い切れないんじゃないかなって。少なくともこの世界では「それでいい」んだ。
制度はおおざっぱだけど、子育てをおおざっぱにする気はない。
皆一生懸命子供を育てている。
子供が幸せに生きていけるように頑張っている。
僕も精一杯頑張ろうって思う。「子育て」も自分のことも。
取り敢えず生きてる。じゃなくて、この世界で幸せに生きたい。‥生きることを楽しいって思いながら生きたい。
‥生まれて初めてそう思えるから‥。
ライン君たちにもそう思ってもらいたいんだ。「育ててもらってありがとう」なんて殊勝な子供にならなくてもいい。親孝行とか‥どうでもいい。優しいいい子じゃなくていい。人を思いやる良心と社会の規則を守る常識があればそれでいい。
それでいつか、大事な人が出来たらその人を幸せにしたいって思えればいいな。人を愛するこころってのは、‥勝手に生まれるわけじゃない。
人に愛され、楽しいって気持ちをいっぱい知って初めて、人が愛しいって気持ちは養われる。
‥僕もそうやって大きくなった。そして、クラシルさんのことを愛しいって思えた。クラシルさんと幸せになりたいって思えた。
リリアン、ベルクさんたち騎士団の人。女神様、ロゼッタ‥王子様。‥それに、この世で一番大好きなクラシルさんと、僕はここで幸せに暮らしています。
だから、兄さんたち‥父さん、母さん‥心配しないでね!
それと‥今までありがとう‥。今まで「愛されてない」って思ってゴメンね。って‥子供じゃなくなったから‥僕は気付けたんだ。今まで愛されて育ってきたから、それに気付けたんだ。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
この後閑話で、クラシルたちの家のはなし(で、一話)皆のその後(で、一話)を書いて行こうと思いますが、これで本編(というか‥番外編なんですが)終了です。
思ったより‥本編より‥長くなってしまいましたが、本編でほったらかしにしていた話が総て書けて良かったです。
本当にありがとうございました! これからも、別作品も含めてよろしくお願いいたします!
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