俊哉君は無自覚美人。

文月

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63.変えられない過去と、過去から未来に繋ぐ想い

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 しかも、初めから持ってなかったんじゃない。
 持ってたのに、失ってしまったんだ。
 ‥その悲しみはいかほどの物だろう。
 大人でも辛いのに、彼らはまだ子供だ。
 きっと、もっと辛くて、‥不安だろう。

 家族がいるってことと、家族の愛情を感じられる‥とは、全然別の話だ。
 日本にいた頃、小学生だった僕は常日頃そう思っていた。
 あの頃、僕は両親に愛されてるって確信が持てなかったんだ。父さんはアレだったし、母さんも‥アレだったから。虐待されてた、とかじゃない。だけど、父さんに遊んでもらった覚えなんてない。母さんもいつも忙しそうだった。だけど、子供の頃は両親も家にいたから、時間が合えば一緒にご飯も食べた。朝は僕らが登校してから出勤してたから、朝ごはんは一緒だった。だけど、朝って時間がないからそう話さないよね。
「忘れ物ない? 」
 とか
「ちゃんとご飯食べないとお腹すくわよ」
「しっかり勉強してらっしゃいね」
 って母さんが言う位。父さんはいつも通り静かだった。
 友達が
「朝から母ちゃんが兄ちゃんのカッターアイロンかけ忘れてた! って言って慌ててアイロンかけててさ~。兄ちゃん遅刻しそうになってたww 」
 とかいう話を笑いながらしてるのを見てたら、なんでか羨ましい気持ちになった。
 うちの母さん? アイロンなんてかけたことないと思うよ? カッターはクリーニングに出すのが当たり前だったから。
 母さんの印象は「いつも身ぎれい」で「きちんとしてる」だったな。
 小学生だから親と買い物に行くこともあるじゃない? 買い物に行ったとき、ソイツと会ったことがあったんだ。って言っても、親と来てるのはソイツだけで、僕はいつも通り兄さんと二人だった。(上の兄さんね)
 その「アイロンかけ忘れちゃった」母ちゃんと父ちゃんとソイツ。父ちゃんとソイツがカゴにお菓子なんかいれてさ、「要らないものばかりカゴに入れる!  」って母ちゃんが苦情言ってるの。それまでさ、そんなに「ベタに」楽しそうにしてたのに、兄さんと買い物してる僕に気付いて‥恥ずかしそうに僕に「よう」とか言ったの。白々しく両親と距離を取ったりなんかしてさ。‥何が「よう」だよって思った。
 何で恥ずかしそうなわけ? 僕からしたら‥羨ましいしかない。(勿論言わないけど)こっちは、兄さんと二人でお使いに来てるのにさ。そっちは楽しそうに「お買い物」してるんじゃない? お使いと「お買い物」って違う。全然違う。お使いは、無駄なもんとか買わない。「これ買って」が存在しない。‥だって、要求する相手がいないから。こっちはそうなのに‥って思っちゃう。羨ましいよ。普通に。
 ‥普通さ、小学5年生とかだったらもう親と買い物とかカッコ悪いって思うんだろうけどさ(その証拠にさっきアイツはちょっと恥ずかしそうな顔してた)、こっちは今までそんなことが全然なかったからさ、羨ましいって思っちゃうんだ。そんなこと位を! 
 何でもない振りで苦笑いして「やあ」って言って別れた僕を見て兄さんが「今日は‥煎餅買うかぁ。これ、俊哉好きだろ? 」とか言いだしたんだ。なんでだろって思いながら「要らない」って言うのもおかしいからうなずいたら、「修斗にも買ってやるか。黒豆煎餅。あいつ、これが一番好きだから」って啓史兄さんが続けるんだ。で、ホントに黒豆煎餅をカゴに入れる。「俺も、お使い頑張ったからチョコレート買おう。‥このちょっと高いの。お使いのお駄賃だ」ってチョコレートもカゴに入れた。そこで「ああ、兄さんは「お使い」を「お買い物」に変えてくれようとしてるんだ」って気付いた。
 ‥ホントに嬉しかった。でも、ね。親とのお買い物に対する憧れはやっぱり消えなかった。
 母さんは‥それでも、話すこと位あった。だけど父さんは‥ホントに父さんに対する思い出とかない。一緒に出掛けた思い出どころか、一緒に何かした思い出すらない。‥下手したら、喋ったこともあんまりない! 
 今ならちょっとは分かるよ? 父さんが「そういう人だからしょうがない」‥とか。出不精だし、コミュ障だからね。「仕方ないな」って‥兄さんたちはそれで納得してた。「向き不向きがあるよ」って。でも、(少なくとも当時の)僕はそう思えなかった。
「僕の父さんは僕らのこと好きじゃないのかな」
 って思っちゃったんだ。 
 そう思ったらさ、次々考えが飛躍しちゃってさ、
 父さんは僕たちが好きじゃない → 母さんは? 母さんもどうやら父さんの味方らしい。‥ならいいや、もう二人のことなんて期待するのやめよ。いいさ、僕には兄さんたちがいるし。ってなっちゃったんだ。
 で、やせ我慢。「我慢しよう‥」って「僕たちって可哀そう‥」って。
 でもね、ホントにそうだったんだ。僕には兄さんたちがいてくれたんだ。今思えば、あんなに「イイ兄さん」がいる子、いなかった。皆も羨ましがってた。なのに‥それが幸せなことだってあの時は気付かなかった。

 持ってないものを羨ましがって、持ってるものはありがたがらずに「持ってて当たり前」。

 当たり前じゃなかったのにねえ‥。
 一緒に買い物に連れ出してくれた兄さん。一緒にご飯を食べてくれた兄さん。
 兄さんたちも忙しかっただろう。友達と遊びたい日もあったかも。しかも、二人は人気者だった。友達からの誘いだってあっただろう。だけど、二人はいつも僕と一緒にご飯を食べてくれた。

 自分が持ってたものに気付くときはそれを失った時‥とか、残酷だよね。

 でもさ‥僕はね。
 そんな子供時代がおくれてよかったって思ったんだ。兄さんの優しさにただ甘えて、そのことを感謝しない鈍感な子供時代を今思い出して、「恥ずかしい」って思うのと同時にホントによかったなって思った。
 素直に楽しかった。
 だって、兄さんたちの犠牲のもとで自分は今幸せに暮らさせてもらってるって気付いたら、さすがに純粋に楽しめなかったよ。罪悪感を感じたよ。「兄さん、僕のことはいいから、友達と遊びに行って」って言ったよ。さすがにね。
 ‥そうならなかったのは、やっぱり兄さんのおかげなんだって思う。
 僕がそう思わない位、兄さんはいつも僕の前で楽しそうにしてくれてたんだ。(※ 兄さんズは八割純粋に「弟大好きで、弟が一番」だった)
 そのことに気付く‥それが大人になるってことなんだろう。
 だけど、それに至るまでだって(成長の)段階がある。(今思えば)
 家族、兄弟以外に関心事が出来て、今までこれしかないって思ってた「大事な物」以外にも大事に思う‥面白いって思えるものが出来る。世界が広がる。「これだけじゃないんだ」って気付く。そしたら、急に「親にべったりとか‥カッコ悪くない? 」って羞恥心を感じて‥「自立するぞ! 」って思い立つ。「親とか今まで何もしてくれなかったし」「これからの人生に関係ないし」って‥「一人で大きくなった気」になる。そして「一人で出来るし! 」って気が大きくなる。変に自信満々になる。そんな時親や兄弟が注意してくれても反抗心しか起こらない。(反抗期って奴だね)
 だけど、一人暮らしとかしてうまく行かなくって、「‥いや、一人で大きくなったわけじゃない。親に支えてもらってきたんじゃないか」って気付いて‥ちょっと自分が恥ずかしくなって、「‥今までありがとう」ってなる。
 今までありがとうの気持ちを親に伝えて、次世代に伝える。
 守ってもらった子供時代は終わって、次は大人として子供を守っていかないといけないんだ。
 押しつけがましくならないように、きちんとダメなことはダメって教えながら、安心で安全な生活を送らせてあげる。
 いっぱい笑わせてあげる。自分のありのままで愛する。
 子供なりに色々感じて、悔しかったり、羨ましがったり、欲しがったり。どんなに親が必死になっても、子供目線で他人と比べて「うちは‥」って思うこともあるだろう。だけど、それでいい。そういう感情をいっぱい子供時代に体感しないといけない。‥それが、今後の人生の為になる。
 だけど、大人はそれを「貴方の今後の人生の糧になる」とか言っちゃダメ。言いたいけど、我慢。子供自身で気付かせなきゃ、ダメ。(きっと難しいだろうけどね)
 父さんたちも父さんたちなりに、僕らに対して一生懸命だったんだ。ただ、僕の理想と違っただけ‥。

 もっと「ベタに」もっと「分かりやすく」幸せ家族生活がしたかった。って僕の理想と違ってただけ。

 兄さんが教えてくれた僕が一生知り得なかったはずの「僕のお葬式」の時の両親の話。
 僕の為に泣いてくれた両親。僕の為に怒ってくれた父さん。‥二人は間違いなく僕のことを愛してくれてたんだ。
 聞けて良かった。‥知ったからってなにも出来ないけど‥ホントに嬉しかった。
 だけど、僕の父さんと母さんのことについて、僕が出来ることはもう何もない。「あの時は寂しかった」って苦情を言うことも出来ない。兄さんに伝えてもらう? ‥そんなこと考えたこともないよ。したいとも思わないしね。過去に戻って関係修復に努めたい? って聞かれたとしても「NO」って言うね。あれも、‥僕の大事な記憶だ。そんな過去から学べたこと、僕に出来ることは、「僕の時はもう少し頑張ろう」って思うことぐらいだ。
 「僕の時は」子供にいっぱい愛を実感させてあげたい。「ベタな」家族愛で「恥ずかしい! 」って言わせたい。子供時代を満喫させてあげたい。笑いあったり、喧嘩したり‥そういうこといっぱいしたい。

 「僕の時は」
 今まで、そんな機会が自分にあるかも‥なんて思ったことなかった。あっちの世界の僕は子供を持つことはおろか、結婚すら無理って思ってたから。

 なのに‥
 今、結婚して、「もしかして子供が(養子だけど)できるかも? 」って可能性が目の前にある。必死に探し出さなくても、手を伸ばせば届くかもしれない距離に‥ある。

「クラシルさん。僕、その子たちに会いたい」
 クラシルさんを真っすぐ見て、僕は言った。
「会って‥話して‥あとは、その子たちの気持ち次第だ。‥もし、その子たちが僕たちでいいって言ってくれたら、一緒に暮らそう」
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