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62.ズルい
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断ると可哀そう‥とかって‥。
断らないで欲しいって素直に言えばいいのに。そういう言い方ズルい。
ってちょこっと思ったけど、そう思ったのはだけど、僕だけじゃなかったみたい。
「ああいう言い方されて断ったら、断りにくいだろ‥」
ぼそっとクラシルさんが呟いた。
悪口言ったっていうより、思わず愚痴っちゃったって感じ。
その言い方が拗ねてるみたいで‥なんか可愛いって思っちゃった。
僕がクスって笑うと「見た? 」みたいな感じて僕を見て、ちょっと恥ずかしそうに苦笑いした。
そういう顔も今まで見たことなかった。‥新鮮。今日は「レア」な顔がいっぱい見れて嬉しい。
カーライルさんのお母さんはクラシルさんに微妙な感情を持ってるかもしれないけど‥少なくとも、カーライルさんはクラシルさんのことお兄さんって思ってて、クラシルさんもカーライル君のこと弟だって思ってるってことだろう。‥なんか「いいな」って思った。
「全く。カーライルは昔から面倒事ばかり俺に持ってっ来る」
クラシルさんがコホンと咳払いすると、わざとらしいため息をついて言った。
照れ隠しかな?
僕はふふっと笑って
「それだけクラシルさんが頼りにされてるってことでしょ」
って言った。立ち上がり、三人分のコップを片付ける。
カーライル君が帰ったあと、食事を作るのも面倒だねって言って、今日は久しぶりに市場に食事を買いにきた。
辺りが暗くなり始めた中、オレンジ色のランプの光りが遠くに見え始めた。お客さんの笑い声、食べ物を焼く音、料理のいい匂い。誘われるように僕の足が、思わず早足になる。
初めて夕方にここに来たとき、僕は地球で幼い日に行った祭りの縁日を思い出して、ウキウキしたことを覚えている。祭りの日、いつもは寂しい近所の神社に大勢の人‥それこそ村中の人だけじゃなく知らない人たちもやって来て、楽しそうにしてるのを見ると、なんだか誇らしくなったっけ。‥自分の神社じゃないのにね。
だけど、今まで楽しそうに笑ってた客がクラシルさんを見て話を止めて、迷惑そうに目を逸らす様子を見て、楽しい気持ちは一気に飛散した。
それ以来、もうここに来たいとは思わなかった。
だから、今日は凄く久し振り。僕はクラシルさんの手を改めてぎゅっと握り直した。
‥負けないぞ。って前を睨む(ローブで隠れて見えないだろうけど)
夕方の市場は昼間とは違い、食事をする客が目立つ。だけど、酒を飲んで盛り上がっている客ってのはいない。ここの人たちは市場は食事を食べるところで酒を飲むのは酒場ってきっちり線引きをしているんだ。だから、酔っ払いに絡まれることもない。そういう点では治安がいい。
だけど、店には酒も置いている。晩御飯時にちょっと飲みたいって人も多いよね。
仕事終わりには、ビールで焼き鳥‥ってのは、どこの国も変わらない気がする。
多分、ここでは飲んだとしても一杯くらい。ガッツリ飲みたいときは酒場って感じかな?
この国は子供に優しい国で、子供連れが来たら「こっち座れよ! 俺はもう帰るからさ! 」って席を譲ったりする。酔っぱらいはいないから、子連れでも安心って感じかな? 両親はビール、子供は焼き鳥を頬張る様子は、居酒屋でみる様な風景だ。
昼間は、ジュースや子供が好きそうなお菓子のお店も出てるんだけど、夜になったら、おつまみにもなるような軽食を出す店に変わる。フライドポテトやら唐揚げはないんだけど、ソーセージを串に通して焼いたようなやつや、甘くないクレープっぽいものが売られている。‥お好み焼きに近いのかな? 焼いたピザって感じ。
野菜物を売る店は朝から出店している為、昼過ぎにはあらかた売り切れて、この時間には保存がきく根菜類や玉ねぎ、イモ類位しか残っていない。
スーパーと違って「今日はこれがお買い得」とかはない。いつも同じものがあるわけでもない。だけど、「これは、今日で今年は終わりね! 」「あ~もうそんな時期か~」とか季節を感じることが出来る。
野菜屋のおやっさんは、だけど、農家じゃない。「野菜を売るおやっさん」なんだ。彼は、契約している農家さんを回って商品を仕入れてそれを売る商売をしているらしい。おやっさんが農家に野菜を受け取る時にお金を支払うらしく、おやっさんは
「売れなかったら、まるまる俺が損するんだよ~」
っていつも客に言ってる。
だけど、人懐っこく商売上手なおやっさんは市場の客皆に好かれており、野菜は閉店する夕方には殆ど売り切れていた。
僕とリリアンが普段市場に行くのは午前中だ。クラシルさんとベルクさんが出勤したらすぐ二人で市場に向かう。
時間が早い方が商品の品揃いがいいからね。
ローブで顔を隠しているから僕らの顔は知らないだろうけど、「いつもセットで来てる二人連れ」っていう風に覚えられているみたい。
「よ! お二人さん、今日も来てくれたね」
って笑顔で対応してくれる。
他の人みたいに、ローブを被ってる = (きっと)醜い子とか‥そういう目で見てこない。
おやっさんは小さい人だけど、市場で毎日慣らされている為か、どんな人に対しても態度を変えない。そういう姿勢に好感が持てる。
今日はもう遅いからおやっさんはもう帰った後みたいだ。
金物布物等生活雑貨のゾーンを過ぎると食事系を売る店が並ぶゾーンだ。ここらは、火を使うということで水場の近くに集まっている。料理に使用する水もここで調達する様だ。奥の洗い場では15,6くらいの子供が洗い物のバイトをしている。この仕事は一食分賄いがつくらしく、給金は少ないがなかなかの人気らしい。(クラシルさんも昔バイトしたらしい)
食事系の店は、一日を通して営業している。ただし、同じ店が一日中ってわけでは無い。昼と夜で店が入れ替わるのだ。(その順番は月単位で決まるらしいが、店主の都合など、急な予定変更もよくある様だ)どうやら6軒ほどでローテーションを組んでるみたいだけど、そんなに利用することがない僕はよくわからない。だけど、食べ歩きや持ち帰りに便利な串焼きのようなものと、その場で食べる汁物、焼肉‥っていうラインナップは変わらないらしい。
フードコートって感じかな? その近くに6人掛けくらいの机がいくつか置いてあって、その場で食べることが出来るようになっているんだ。
その場で食べる場合は、木の器を使用し、持ち帰りする場合は木の皮で包んで渡す。木の器を使用した場合、洗ってまた使えるから持ち帰りよりちょっと安い。因みに汁物の持ち帰りは出来ない。
因みに器は全部木の器。コップは竹だ。(ここにも竹はあるんだ。タケノコも食べるのかな? )いづれも塗装はされてない。削ってそのままって感じ。
木の器は家庭でも一般的に使われている。焼き物の器もあるけど、その方がだいぶお高めなんだ。素焼きタイプの総て手作り品で、なかなか味がある。ガラスっぽいものもある。分厚くって気泡が入った‥これまた味のある手作り品。これがなかなかいいお値段がする。ブランド品のグラスか? って聞きたくなる位、お高い(希少品なんだろう)。だけどクラシルさんとお揃いで結婚の記念になるようなものが欲しくって買ってしまった。王子様の例のバイトのお給料で。(クラシルさんに食費入れます! って言ったら、「お小遣いにしていいよ」って言われたんだ)リリアンがそれを見て「私も買う! なんか俊哉の見てたら欲しくなっちゃった! 」ってお買い上げ。雑貨屋の店主さんが
「いつもここに置いてるけど、売れたのは初めてだ。しかも四つも! 今日はもう、これで店じまいだ! 」
って凄く興奮してたのを覚えてる。
それは、勿論普段用ではなくって、普段使っているのは、木のコップと器だ。(カトラリーはフォークっぽいものとスプーンだ)
ガラスのコップは僕的にワイングラスの代わり。時々クラシルさんが晩酌する時に出して、僕はジュースで乾杯している。この国では僕はもう成人してるんだけど、一応二十歳になるまでお酒は飲まないって決めてます。あと一年、クラシルさんとお酒を飲むのが楽しみです。
因みにリリアンはもう成人してるから時々ベルクさんと宅飲みするらしい。
「ガラスのグラス最高! なんか味が違う気がする! 」
って大満足ならしい。
わかる。そういうことあるよね。紙コップで飲むよりガラスのコップに入れる方がジュースでも美味しい気がしたもんだ。(ここには紙コップってそういえばない。紙はそこそこ値段が高いし、何より紙に水をいれるって発想はここにはないよね)
「俊哉。今日はここで食べて帰る? 」
クラシルさんが僕に確認してくれる。僕は首を振る。
家が一番。
皆の目を気にしながら食べるより、クラシルさんと二人で食べる方がいい。冷めちゃうけど、ずっといい。
「焼いたお肉買って帰ろう。庭で葉っぱが育ってるからそれと食べよう」
僕は俯いたまま小さな声でそう言ってクラシルさんの腕にもたれる。
はやくお家に帰りたい。
夕方の市場は人が多くて‥人の視線が多くて‥疲れる。
悪意のある視線に‥酔いそうだ。
クラシルさんを見るあからさまに嘲笑を含んだ視線、僕を見る「一体ローブの下の顔はどれ程醜いんだろう」って‥好奇心に満ちた様な‥ゲスな視線。
実際に言われなくても、視線で彼らが言いたいことが伝わってくる。‥キモチワルイ。
はぐれないように繋いだ手があったかい。安心する。‥幸せだ。
クラシルさんが頷いて、僕をさりげなく支えてくれた。
太くって硬いクラシルさんの腕。世界で一番頼りになる。安心する。‥大好き。
もう、クラシルさんなしに生きていける気がしない。
誰かと出会い、誰かを愛し、誰かに愛される。
ありきたりで、世界で一番大事なこと‥。
一緒に暮らして、一緒にご飯を食べる人がいる幸せ。
‥ずっと一人じゃない。苦しい時、一緒に居てくれる誰かがいる幸せ。
ふと、カーライル君が言ってた子たちのことを思い出した。
彼らは‥
彼らは、そんな人たちを失ってしまったんだ‥って。
断らないで欲しいって素直に言えばいいのに。そういう言い方ズルい。
ってちょこっと思ったけど、そう思ったのはだけど、僕だけじゃなかったみたい。
「ああいう言い方されて断ったら、断りにくいだろ‥」
ぼそっとクラシルさんが呟いた。
悪口言ったっていうより、思わず愚痴っちゃったって感じ。
その言い方が拗ねてるみたいで‥なんか可愛いって思っちゃった。
僕がクスって笑うと「見た? 」みたいな感じて僕を見て、ちょっと恥ずかしそうに苦笑いした。
そういう顔も今まで見たことなかった。‥新鮮。今日は「レア」な顔がいっぱい見れて嬉しい。
カーライルさんのお母さんはクラシルさんに微妙な感情を持ってるかもしれないけど‥少なくとも、カーライルさんはクラシルさんのことお兄さんって思ってて、クラシルさんもカーライル君のこと弟だって思ってるってことだろう。‥なんか「いいな」って思った。
「全く。カーライルは昔から面倒事ばかり俺に持ってっ来る」
クラシルさんがコホンと咳払いすると、わざとらしいため息をついて言った。
照れ隠しかな?
僕はふふっと笑って
「それだけクラシルさんが頼りにされてるってことでしょ」
って言った。立ち上がり、三人分のコップを片付ける。
カーライル君が帰ったあと、食事を作るのも面倒だねって言って、今日は久しぶりに市場に食事を買いにきた。
辺りが暗くなり始めた中、オレンジ色のランプの光りが遠くに見え始めた。お客さんの笑い声、食べ物を焼く音、料理のいい匂い。誘われるように僕の足が、思わず早足になる。
初めて夕方にここに来たとき、僕は地球で幼い日に行った祭りの縁日を思い出して、ウキウキしたことを覚えている。祭りの日、いつもは寂しい近所の神社に大勢の人‥それこそ村中の人だけじゃなく知らない人たちもやって来て、楽しそうにしてるのを見ると、なんだか誇らしくなったっけ。‥自分の神社じゃないのにね。
だけど、今まで楽しそうに笑ってた客がクラシルさんを見て話を止めて、迷惑そうに目を逸らす様子を見て、楽しい気持ちは一気に飛散した。
それ以来、もうここに来たいとは思わなかった。
だから、今日は凄く久し振り。僕はクラシルさんの手を改めてぎゅっと握り直した。
‥負けないぞ。って前を睨む(ローブで隠れて見えないだろうけど)
夕方の市場は昼間とは違い、食事をする客が目立つ。だけど、酒を飲んで盛り上がっている客ってのはいない。ここの人たちは市場は食事を食べるところで酒を飲むのは酒場ってきっちり線引きをしているんだ。だから、酔っ払いに絡まれることもない。そういう点では治安がいい。
だけど、店には酒も置いている。晩御飯時にちょっと飲みたいって人も多いよね。
仕事終わりには、ビールで焼き鳥‥ってのは、どこの国も変わらない気がする。
多分、ここでは飲んだとしても一杯くらい。ガッツリ飲みたいときは酒場って感じかな?
この国は子供に優しい国で、子供連れが来たら「こっち座れよ! 俺はもう帰るからさ! 」って席を譲ったりする。酔っぱらいはいないから、子連れでも安心って感じかな? 両親はビール、子供は焼き鳥を頬張る様子は、居酒屋でみる様な風景だ。
昼間は、ジュースや子供が好きそうなお菓子のお店も出てるんだけど、夜になったら、おつまみにもなるような軽食を出す店に変わる。フライドポテトやら唐揚げはないんだけど、ソーセージを串に通して焼いたようなやつや、甘くないクレープっぽいものが売られている。‥お好み焼きに近いのかな? 焼いたピザって感じ。
野菜物を売る店は朝から出店している為、昼過ぎにはあらかた売り切れて、この時間には保存がきく根菜類や玉ねぎ、イモ類位しか残っていない。
スーパーと違って「今日はこれがお買い得」とかはない。いつも同じものがあるわけでもない。だけど、「これは、今日で今年は終わりね! 」「あ~もうそんな時期か~」とか季節を感じることが出来る。
野菜屋のおやっさんは、だけど、農家じゃない。「野菜を売るおやっさん」なんだ。彼は、契約している農家さんを回って商品を仕入れてそれを売る商売をしているらしい。おやっさんが農家に野菜を受け取る時にお金を支払うらしく、おやっさんは
「売れなかったら、まるまる俺が損するんだよ~」
っていつも客に言ってる。
だけど、人懐っこく商売上手なおやっさんは市場の客皆に好かれており、野菜は閉店する夕方には殆ど売り切れていた。
僕とリリアンが普段市場に行くのは午前中だ。クラシルさんとベルクさんが出勤したらすぐ二人で市場に向かう。
時間が早い方が商品の品揃いがいいからね。
ローブで顔を隠しているから僕らの顔は知らないだろうけど、「いつもセットで来てる二人連れ」っていう風に覚えられているみたい。
「よ! お二人さん、今日も来てくれたね」
って笑顔で対応してくれる。
他の人みたいに、ローブを被ってる = (きっと)醜い子とか‥そういう目で見てこない。
おやっさんは小さい人だけど、市場で毎日慣らされている為か、どんな人に対しても態度を変えない。そういう姿勢に好感が持てる。
今日はもう遅いからおやっさんはもう帰った後みたいだ。
金物布物等生活雑貨のゾーンを過ぎると食事系を売る店が並ぶゾーンだ。ここらは、火を使うということで水場の近くに集まっている。料理に使用する水もここで調達する様だ。奥の洗い場では15,6くらいの子供が洗い物のバイトをしている。この仕事は一食分賄いがつくらしく、給金は少ないがなかなかの人気らしい。(クラシルさんも昔バイトしたらしい)
食事系の店は、一日を通して営業している。ただし、同じ店が一日中ってわけでは無い。昼と夜で店が入れ替わるのだ。(その順番は月単位で決まるらしいが、店主の都合など、急な予定変更もよくある様だ)どうやら6軒ほどでローテーションを組んでるみたいだけど、そんなに利用することがない僕はよくわからない。だけど、食べ歩きや持ち帰りに便利な串焼きのようなものと、その場で食べる汁物、焼肉‥っていうラインナップは変わらないらしい。
フードコートって感じかな? その近くに6人掛けくらいの机がいくつか置いてあって、その場で食べることが出来るようになっているんだ。
その場で食べる場合は、木の器を使用し、持ち帰りする場合は木の皮で包んで渡す。木の器を使用した場合、洗ってまた使えるから持ち帰りよりちょっと安い。因みに汁物の持ち帰りは出来ない。
因みに器は全部木の器。コップは竹だ。(ここにも竹はあるんだ。タケノコも食べるのかな? )いづれも塗装はされてない。削ってそのままって感じ。
木の器は家庭でも一般的に使われている。焼き物の器もあるけど、その方がだいぶお高めなんだ。素焼きタイプの総て手作り品で、なかなか味がある。ガラスっぽいものもある。分厚くって気泡が入った‥これまた味のある手作り品。これがなかなかいいお値段がする。ブランド品のグラスか? って聞きたくなる位、お高い(希少品なんだろう)。だけどクラシルさんとお揃いで結婚の記念になるようなものが欲しくって買ってしまった。王子様の例のバイトのお給料で。(クラシルさんに食費入れます! って言ったら、「お小遣いにしていいよ」って言われたんだ)リリアンがそれを見て「私も買う! なんか俊哉の見てたら欲しくなっちゃった! 」ってお買い上げ。雑貨屋の店主さんが
「いつもここに置いてるけど、売れたのは初めてだ。しかも四つも! 今日はもう、これで店じまいだ! 」
って凄く興奮してたのを覚えてる。
それは、勿論普段用ではなくって、普段使っているのは、木のコップと器だ。(カトラリーはフォークっぽいものとスプーンだ)
ガラスのコップは僕的にワイングラスの代わり。時々クラシルさんが晩酌する時に出して、僕はジュースで乾杯している。この国では僕はもう成人してるんだけど、一応二十歳になるまでお酒は飲まないって決めてます。あと一年、クラシルさんとお酒を飲むのが楽しみです。
因みにリリアンはもう成人してるから時々ベルクさんと宅飲みするらしい。
「ガラスのグラス最高! なんか味が違う気がする! 」
って大満足ならしい。
わかる。そういうことあるよね。紙コップで飲むよりガラスのコップに入れる方がジュースでも美味しい気がしたもんだ。(ここには紙コップってそういえばない。紙はそこそこ値段が高いし、何より紙に水をいれるって発想はここにはないよね)
「俊哉。今日はここで食べて帰る? 」
クラシルさんが僕に確認してくれる。僕は首を振る。
家が一番。
皆の目を気にしながら食べるより、クラシルさんと二人で食べる方がいい。冷めちゃうけど、ずっといい。
「焼いたお肉買って帰ろう。庭で葉っぱが育ってるからそれと食べよう」
僕は俯いたまま小さな声でそう言ってクラシルさんの腕にもたれる。
はやくお家に帰りたい。
夕方の市場は人が多くて‥人の視線が多くて‥疲れる。
悪意のある視線に‥酔いそうだ。
クラシルさんを見るあからさまに嘲笑を含んだ視線、僕を見る「一体ローブの下の顔はどれ程醜いんだろう」って‥好奇心に満ちた様な‥ゲスな視線。
実際に言われなくても、視線で彼らが言いたいことが伝わってくる。‥キモチワルイ。
はぐれないように繋いだ手があったかい。安心する。‥幸せだ。
クラシルさんが頷いて、僕をさりげなく支えてくれた。
太くって硬いクラシルさんの腕。世界で一番頼りになる。安心する。‥大好き。
もう、クラシルさんなしに生きていける気がしない。
誰かと出会い、誰かを愛し、誰かに愛される。
ありきたりで、世界で一番大事なこと‥。
一緒に暮らして、一緒にご飯を食べる人がいる幸せ。
‥ずっと一人じゃない。苦しい時、一緒に居てくれる誰かがいる幸せ。
ふと、カーライル君が言ってた子たちのことを思い出した。
彼らは‥
彼らは、そんな人たちを失ってしまったんだ‥って。
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