俊哉君は無自覚美人。

文月

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61.義務と権利と‥めぐり合わせ。

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 僕は瞬間にポカーンだ。だって、‥すごいパワーWordだ「子供を育てて欲しい」。当たり前だけど、今まで生きてきて一度も言われたことも言ったこともない。
 一方
「‥どういう意味だ」
 クラシルさんは険しい表情をしている。誰が見ても間抜け面をしていただろう僕と違って、いつも通りカッコイイクラシルさんだ。
 だけど、「ん? 」って思った。
 怒ってる? 怒る要素あった? 
 急に子供の話されたから「なに人んちの家族計画に口はさんでるのさ(# ゚Д゚)」ってことかな?? これってあれだよね。新婚家庭に遊びに来た配慮の足りない系の親戚が「そりゃそうと、アンタたち子どもはどうなの? 」って聞いた時の反応だよね? 
「御心配は無用です叔母さん。僕らは僕らで考えてますんで‥(圧)」
 笑ってるけど笑ってないって対応する奴。一応「大人対応」でキレるわけにはいかないけど‥って奴ね。だけど、クラシルさんの場合相手が遠慮する必要ない弟だからストレートに怒りの表情出ちゃったよってやつ?? 
 だけど‥まあ、
「まあまあクラシルさん。まずは話を聞いてみよう? カーライル君を威圧してないでさ」
 その工程は必要じゃない? 
 頭ごなしに「そんな話聞きたくない! 」は‥よくない。
 きっと養子をとれって話なんだろう。お義父さんかお義母さんからそういう話するように頼まれたのかな? ‥だとしたら嫌な役回りだよね。

 だけど‥いい機会でもある。

 この前写真だけとはいえクラシルさんと結婚してからそういう(養子)ことを考えることが増えた。
 特別に子供が好きとか、「クラシルさんとの子供が欲しかった‥」とかじゃない。
 きっかけは知り合いの若い夫婦(同性カップル)が言った
「子供を育てるのは大人の義務だよ」
 って言葉だった。
「俺たちは子供は産めないけど、育てることは出来るわけじゃない? ならさ、縁あって引き取った子供を自分の子供として育てる。一人でも「親のない子」を減らす。‥そういうことが大事じゃない? 」
 って彼らは付け加えた。
「子供は愛されて育つ権利がある。俺たちもそうやって育ってきた。‥なら、大人になった俺たちはその恩を返さなきゃいけないんじゃないかなって。
 親からもらって来た愛情や教わってきた知識を次の世代に受け継ぐ‥。それはいうならば社会的な義務ともいえるし、‥権利ともいえる。
 子供を育てる権利だ。
 子供を、愛する人と育てられるって幸せじゃない? 愛し合ってる両親が子供を愛し、子供も親を愛する‥最高のロマンじゃない? 」
 とも。
 この国は地球とは違う。
 僕たちみたいに同性結婚をしているカップルも普通にいる(寧ろ、一般的だ)。だけど、「当たり前に」同性カップルには子供が出来ない(それは地球と一緒)。だけど、将来的には化学によってそれが可能になる時代も来るだろう。化学(医学)が「当たり前を」変えることが出来る国・地球と違って、この国にはその「当たり前を変える化学(医学)」っていう未来は存在しない。
 不妊治療って概念もない。
 それが、彼らのいう自然だから。
 だから、養子を貰って来て育てるのはすごく一般的なんだ。それこそ、僕たちみたいな同性カップルは役所に届けを出した際に「養子はどうしますか? 」ってセットで聞かれるくらい‥らしい。
 実子じゃないからって特別な目で見られることもない。隣の家庭にある日突然家族が増えても「そうなのね、よかったわね」って程度の反応しかない。
 (でも)実際に養子を貰う前にはちゃんと「子供を育てる資格があるのか」とか「子供を育てる環境が整っているのか」とかの調査を含めた「事前調査」とかがあるらしいけどね。

 子供を育てる意思はあるか。‥どう考えているか。もし考えているんであったらその時期は? 

 クラシルさんと話し合ういい機会だって思う。
 ‥あの(夫婦の話を聞いた)日以来考えてはいたんだけど、何となくずるずると伸ばし伸ばしになってた。
 僕は地球の感覚でまだ子供だし、結婚はしてないから‥って理由だったけど‥それは言い訳で「なんか言い出しにくい」がホントの理由だ。(もう結婚したしね)
 ‥子供を育てる自信がない。まだ二人での生活も楽しみたい‥って気持ちは本音だけど、それじゃダメだ。

 幸せ家族計画ってのは、先延ばしにばかりしてはいられない。

 調べているうちに分かったんだけど、養子縁組はこの国の重要な国家的課題らしい。それこそ、「(社会貢献はしているものの容姿により)結婚が難しい若者の結婚斡旋」以前からの‥。

 ある法律の成立により孤児が急速に増えたのが事の発端だった。
 虐待を未然に防ぐ「予防策」として、その法律は出来た。
 それは、「出産した子供を親が自分で育てられないと判断した場合、親はその親権その他権利を一切放棄し、子供の養育を国に委託する」というような内容だ。
 それは、主に貧困層の養育費がないという理由や、望まぬ妊娠出産をしたというケースの救済策を目的としてるんだけど、それは建前で特に「生まれた子供の顔が原因で親が認知しなかった」ことによって育児放棄され、虐待され、または奴隷として売られる子供を未然に防ぐことが目的であった。
 国は、子供の売買の禁止を徹底するとともに、この法律を出した。それでそういう子供が総て救われるかというとそうではないだろうが、この法律成立後、国に養育を委託された子供(捨てられたり両親と死別した子供同様孤児という扱いになるらしい)は急増した。
 この国は地球に比べて一人の人間の権利‥人権意識? がもともと低い。そこに来て、孤児の増加によってその対応は更に雑になった。
 集団で生活して、教育を受けて就職する。多くは第一次産業へ集団就職することになるらしい。そこに、彼らの意思はあまりない。
 国としての限界かもしれないけど、‥犬猫の扱いみたいで‥どうもね。
 事実そこまで手が回らないんだろう。
 養子制度は、それを「なんとかよくする」為に国が力を入れ始めた事業ってわけだ。
 せめて、以前のような「少人数制の孤児院」に戻したい‥ということらしい。
 その為に、孤児の里親探しに力を入れる‥(それが更に「ペット譲渡会」っぽくて‥嫌だ。‥僕の考えすぎかもしれないが)
 だけど、集団で生活するより、家庭で生活する方がいい。(きっと)
 現実問題として、早急に考えなければいけないな、養子縁組。うん。
 だけど‥まあ確かに人に言われることでは、ない。
 (クラシルさんはむすっとしてさっきから一言も話さないから)僕がカーライル君に
「今回急にそんな話をしたのは‥クラシルさんのご両親からそういう話をするように言われたってこと? 」
 って聞いた。(きっとそうだろうって思うけど、聞いておかないとね)
 だけど、意外なことにカーライル君が首を振った。「え? なんで両親? 」って顔をして。
 おや? 違うの??
「違う。‥俺の意思だ」
 ‥俺の意思?
「いや‥独断? ‥言い方は分からないけど、両親は関係ない」
 ‥ん? 何のことだ? 
 首を傾げる僕に構わず
「あの子たちを‥あの子たちの意思を尊重してあげたいんだ」
 カーライル君は話し始めた。クラシルさんの視線が(両親じゃないって聞いたからか)若干カーライル君に向けられた。
 その話は、簡単に言うと
 火事場の撤去作業及び復興作業中(カーライル君は大工)、火事で母親を亡くした兄弟がいて、孤児院に行けるように手続きをしようとしたら激しく抵抗して逃げ出した。仕事中に抜けて探しに行くことも出来ずそのままにしていたら、騎士団(街の事務所)の前で立ち尽くす兄弟を見つけた。話を聞くと火事以前に既に死亡していた二人の父親は騎士団に所属していたらしく、兄は将来騎士団に入ることを目標にしていたらしい。だけど、孤児院に入れば騎士団に入る夢を叶えるのは難しくなるといって泣いた‥という内容だった。
「兄さんたちにその子たちの親になって欲しいんだ! 兄さんは騎士団長だし、その子に稽古をつけてやることもできるじゃない? 」
 僕は、ポカーンとなった。(本日二度目)
 いや、ホント犬猫じゃないんだから「可哀そうだから拾って来た。飼ってやって」じゃないんだよ??
 ‥そういうことこの国ではよくあるの? 大丈夫なの??
 クラシルさんに聞くと
「役所で本当にその子たちの親の死亡が確認でき、尚且つその子たちの親戚がその子たちの養育を放棄し、その子たちも希望すれば可能」
 とのことだった。
 ‥ええ‥。何それなんか適当‥絶対後々トラブルになる気がするよ?? 。
「その子たちの父親の名前は? 騎士団員だったという」
 クラシルさんがカーライル君に聞く。クラシルさんはカーライル君が言った「アルス」という名前を何度か反芻して「知らないな。ここの隊じゃないのかもしれないな」と呟き、
「とにかくこの話は一度持ち帰らしてくれ。俺だけじゃ決断できない。それに、その子供たちの意思も聞かなきゃいけないだろ。寧ろそっちの方が重要だな。‥親になるのが俺じゃ嫌だろ普通に」
 ため息をつきながらクラシルさんがカーライル君に言った。だけどその際、
「その子たちは今どこに? 寝食に困っているとかはないか? 」
 と確認を取ることも忘れなかった。カーライル君が「大丈夫、二日の猶予期間を設けてもらった。今は駐在所に一時預かりしてもらってる」って言った。(猶予は二日ってことか‥。子供の一生を決めることなのに二日で決めろとか‥ないわ‥ってか、きっと今頃不安だよね‥)僕は正直いてもたってもいられない気持ちになったが、僕に出来ることは‥僕だけに判断できることは‥ない。
 カーライル君は困った様な顔で
「明日また来るね」
 といい、帰り際、小声で「だけど、あの子たちは‥兄さんが断ると可哀そう‥かもしれない」って呟いたんだ。
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