俊哉君は無自覚美人。

文月

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60.最初に超えるべき壁を越えられなかったら、後々それを引きずることになる。

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「迷いがね、なくなった」
 そうカーライル君は言った。
「兄さんは自分で仕事を見つけて働いてるのに、俺はなんとなく父さんと同じ仕事をしてて‥これでいいのか? って思ってた。
 流されてるって俊兄さんにも言われたけど‥
 俺は今まで万事がそんな感じでさ。
 ‥それに気付いたら、全部が「何とかしなきゃ」って思えちゃったわけ」
 僕は苦笑いで頷いた。
 ‥この子、色々考えちゃうタイプなのね? (でも、結局「考えろ」って言われて考えてるわけだから、流されてるのには違いないが‥)素直な子なんだろう。(← 単純ともいう)

 あれから、クラシルさんの弟君、カーライル君が頻繁に来る。それこそ、クラシルさんの休み毎に来てないか? って位来てる。あんまりの頻度なのでクラシルさんが
「ベルクに俺の休みを教えるなって言っとかないとな‥」
 って呟いた位だった。
 ‥まあ、僕もちょっと頻繁過ぎないか? って思うけど‥悩める弟君が兄さんに相談があるっていうのに断れないだろう。
 実際、カーライル君はここに来てずっとクラシルさんと僕に愚痴ともつかない相談事をしていく。
 ずっと。
 ‥カーライル君は悩んでるんだ。
 きっとそれは同じ仕事をしている父親にはしにくい相談なんだろう。それは、わかる。
 そして、妻・リリアーナさんにはカッコ悪いから話しにくい。
 自分を子供扱いするばかりの母親は‥問題外なんだろう。
 で、適任者が兄・クラシルさんってわけだ。僕は、オマケ。
 これはね、自分で学んだんだ。(悟ったともいうかな)
 口数少なく、的確に丁寧に「先を見越したアドバイス」をしてるクラシルさんを見てたら「安易に口を出すものじゃないな」って‥。
 今まで相談されたら(そう相談されることはなかったけど)何か答えを出してあげなきゃって思ってたけど、それだけじゃないみたいだな‥って。
 クラシルさんは、カーライル君の話を面倒くさがることなく、静かに聞いている。だけど、安易にアドバイスするんじゃなくて、カーライル君が自分で考える様に助言してる。
 こういう大人な助言は僕にはまだとてもじゃないけど出来ない。
 こういうとき、クラシルさんって管理職だな~って思うんだ。
 僕には、人の意思を尊重したり、自らの力で成長するのを手助けする余裕とかない。
 偉そうにカーライル君を叱ってしまった過去の自分を殴りたい‥。
 だけど、クラシルさんは「あの時は、ああいってもらえてよかった」って言われたんだ。カーライル君にも「切っ掛けを作ってもらえてよかった」って。
 二人は優しいなあ‥。

 そんなこんなで、今日も来てるカーライル君にちょっとうんざりしながらもクラシルさんはカーライル君に向かい合う席に座った。僕は今日もクラシルさんの横だ。
 僕に出来ることは、カーライル君とクラシルさんの仲を仲裁するくらいだ。(ほっといたら時々気まずくなったりするからね。兄弟ってそういうとこある。啓史兄さんと修斗兄さんなんか子供の頃は喧嘩ばっかりだった)
 二人は、普通に話してても、全然関係ない所で喧嘩が始まったりするんだ‥「え?! 何があった?! 」って驚くよ。で、聞いてみたら、「真面目に話してるのに啓史兄さんが鼻で笑った」って修斗兄さんが言って「くしゃみが出そうで口を押えただけだろ?! それ位誰でもするだろう!? 」「いや、そんな感じじゃなかった! 」って言う‥ホントにどうでもいいことで‥。
 修斗兄さん直ぐ手が出てたからなあ‥。
 啓史兄さんが嫌味を言って、修斗兄さんがカッチーンってなって即啓史兄さんの胸倉掴んで「何だと!? 」でボコ! だ。‥少年漫画の不良かって位昔の修斗兄さんは気が短かった。
 随分経ってから「あの頃は、なんか常にイライラしてた。特に啓史兄さんに対して‥。言うこと成すこと気に食わなかったし、腹が立った。理由もなく‥だ」って修斗兄さんが言ってたんだ。「馬鹿やってるってことも、自分でわかってた」とも。「分かってたけど、せずにいられなかった」‥そんなことあるよね。
 ‥思春期かな。
 ライバル意識みたいなのもあったのかも。
 兄弟って一番のライバルだよね。周りを見たらもっとすごい人もいるのに、「まずは兄さんに勝ちたい‥」って思ったもんね。同時に「兄さんにいいとこ見せたい」とも思ったし、「兄さんに出来ないことは変わって僕がやってあげたい」とも思った。‥思えば、兄さんより自分が出来るってことが嬉しかったってだけのことなんだろうね。単純に優しい気持ちというよりね。
 カーライル君にとってクラシルさんは、周りが言うように「醜い兄」であり、だけど、それ以上に「尊敬している兄」であり、「超えられない壁」であり、「どうしても勝ちたいライバル」だったんだ。そんな「凄い兄さん」だったから‥「兄さんに勝てる俺凄い」って思いたかった。‥それは絶対あったって思う。
 カーライル君はリリアーナさんとのこと、流されて‥って言ってけど、でも、クラシルさんから取り上げたい。クラシルさんを困らせたい。クラシルさんに勝ちたい‥って思いがあったんだろう。
 口には出さないだろうけどね。(もしかしたら、本人は気付いてないかもしれない)
 クラシルさんに対するカーライル君の劣等感とかライバル心、そういうのは普通だったら幼少期に喧嘩をしたり仲直りしたり、一緒に努力したりしてなんとなく解決する(解決って言い方もおかしいか)もんだけど、幼少期母親によってクラシルさんとの関りを邪魔されて、なんかモヤモヤしたまま大人になってしまったんだ。(直接ぶち当たらずに、壁の向こうから見るだけって感じになっちゃったってわけだね)
 で、クラシルさんは勝ち逃げ(カーライル君的に)して家を出てしまった。モヤモヤは残ったまま‥そして、そこにリリアーナさんを連れたクラシルさんが帰ってきた。リリアーナさんはカーライル君に目で訴えた。「助けて」って‥。
 兄さんに一矢報えるかもって思った? リリアーナさんを「救える」のは自分だけだって思った? 
 僕はカーライル君じゃないからホントのことはよくわかんないけど‥きっとそんな感じのことを思ったんだろう。逆に言えば、そんな感じの感情しかなかった。‥別に悪意があったわけじゃない。
 まあ‥ね。分からんでもないかもしれないけど‥ね。普通はしないし、周りが反対するよね。
 でも、周りがあれ(カーライル君を溺愛する母親)だったわけだから救えない。周りの声も背中を押しただろう。
「醜いクラシルと結婚するなんてリリアーナさん可哀そう‥」
「助けを求められたら‥良識ある人間なら力になるわな」
 とかかな? (‥むきー!! 腹立つわ~!! )

 すれ違ってしまった兄弟の時間。
 その時間を今埋めてる‥のかもしれないね。


「今日は悩みがあってきたわけじゃないんだ」
 いつもよりそわそわした様子なカーライル君が言いにくそうに‥そう切り出した。
「なんだよ、キモチワルイからさっさと言え」
 不機嫌そうにクラシル君が眉を顰める。
 カーライル君はそれでもちょっと躊躇してから、クラシルさんと僕を順番に見て‥やっぱり言いにくそうに
「子供を‥育てて欲しいんだ」
 って言ったんだ。 

「‥子供?! 」
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