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59.もう一人の兄さん。
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このままじゃ、ダメだ。
おせっかいだろうけど‥僕はダメだって思う!
「待って! クラシルさん! 弟さんと‥ちゃんと話した方がいいって思う」
僕はクラシルさんの腕を引っ張って言った。
クラシルさんが驚いた表情で僕を見る。
「どうした? 」
「まず、クラシルさん。クラシルさんにとって弟さんは頼りないかもしれないけど、‥あれはない。
あと、弟さん。
クラシルさんに対してまず‥謝ろうよ。
あと‥もうちょっと‥自分の意志を持った方がいいっておもいますよ? 」
僕が口出しするのはおかしいけど!
だけど‥だけどね? これは‥この状態はちょっと‥嫌だ。
「だって、事実だ。
リリアーナの親族の‥伯爵の言ってたことも分かる。
俺には‥彼女を不自由させない責任がある」
ちょっと首を傾げてクラシルさんが言った。
もう! またそれを言う。
そうじゃない。そうじゃないんだよ!
「その気持ちも、わかる。
だけど、それは、リリアーナさん自らが放棄したことだから、クラシルさんが責任を感じる必要はない」
僕は真っすぐクラシルさんを見て言った。
「リリアーナさんも結婚した大人なんだから、自分のしたことに責任は持たないといけない。
やっちゃいけないことをやったって、ちゃんと自覚して‥反省させないといけない。
そして、それは弟さんにも言える」
弟さんが涙を拭って、僕を見る。
僕は頷いて弟さんの元に行った。真っすぐ目を見て、
「お兄さんが何もいわないからいい、とかじゃないでしょ? 気になってたけど、今が幸せだからいいか! じゃないでしょ?! 幸せじゃなかったらどうしたの「可哀そう‥」とでもいう? 「幸せそうじゃないね‥ごめんね」ととでもいう!? そうじゃないでしょ!
クラシルさんは弟さんを子ども扱いしない。
弟さんはいつまでも子どものままじゃダメ!
クラシルさん。兄弟として弟さんのこと心配だって言うんだったら、ちゃんと話さなきゃ。
自分は、今この立場になるまでにどれ程頑張ったか。‥どんなことを考えたか。
弟さんがそれを聞いて「僕も頑張ろう」って「僕もやれば出来る」って思えるようになるようにちゃんと話してあげなきゃ!
‥僕の兄さんは二人いたんだけど、二人とも優秀で、僕はいつも劣等感を持ってた。でも、僕は兄さんたちに絶対頼らなかった。兎に角、兄さんたちの邪魔にならないように暮らしたいって思ってた。出来るだけ、視界にも入らないでおこうって思ってた。
心配かけないように、関わらないように‥
必死で努力した。
いつかは、「俊哉らしいな」って言われるように、努力した! 二人に対して劣等感をもってたけど、絶対泣き言なんて聞かせたくないって思った! 甘えたりしたくないって思った! 僕は、僕の方法で二人にいつか並びたいって思った」
丁寧に話す。
「‥並べたの? 」
僕をじっと見上げて弟君が首を傾げる。
僕は小さく肩をすくめ、「分からない」って言った。「でもね」
「僕が一人で住んでた時、兄さんから僕「心配だ」って電話してくることもなかったし、「足りないものがあれば言えよ」って言ってきたこともない。
僕のこと彼らならきっと心配しただろうけど、だ。そんなこといったら、僕を傷つけるって思ったからだろう。それと‥多分ちょっとは信頼してくれてたと思うよ」
家族を心配する気持ちも愛。
家族を信じて「任せる」のも愛。
二つの愛を感じ取って、子供や下の弟妹は一人前になっていく。
放っておかれたら寂しいし、構われ過ぎたら‥恥ずかしいし、情けない。
人はホントにややこしい。
弟君には
「まず、大人なら‥
きちんと謝ろう」
クラシルさんには
「‥ちゃんと、弟君を信じて」
「兄ちゃん‥ゴメン。あと、‥大丈夫。俺、もっと働く。確かに恋人さんの言ったように‥リリアーナのことは‥ちょっと流されたかなって‥思ってる。それを認めたくなかって‥なんかズルズルと‥
ゴメン‥。
今日ここに来たのは、‥兄ちゃんに謝りたかったからなんだ」
弟君がクラシル君を真っすぐ見て言った。
さっきまでのどこか‥迷ったような頼りない表情とは違う。意志の感じられる表情。
「流されて結婚したけど‥あ‥でも、今は‥ちゃんとリリアーナのこと愛してるし、守っていきたいって思ってる。
‥兄ちゃんに恋人が出来て嬉しいのもホント。
恋人さん‥、ありがと‥その‥ごめんね?
‥名前、教えてもらえる? 」
俊哉だよって言おうとしたらクラシルさんが僕と弟君の前にずいっと割って入って‥
「教えない。知る必要はない。知ってどうする。兄ちゃんとこの人は結婚するから、俊兄さんと呼べ。名前を呼んでいいのは、恋人であり将来の夫である俺だけだ」
って言ったんだ。
‥なんで。
呆れたけど、ちょっと面白くって笑った。
子供みたい。
僕が笑っていると弟君もつられて笑った。そして
「俺は、カーライル。よろしくね! 俊兄さん! 」
それで、改めてカーライル君がクラシルさんにお金を返して、玄関先じゃなくダイニングでお茶を飲んだ。
さっきから気になってた「なんで今急にここに? 」って話なんだけど、カーライル君は
「ベルクさんに兄ちゃんのお休みの日を聞いたんだ」
って説明してくれた。
ああ、街の事務所にベルクさんは常駐してるからね。成程。
「‥ホントはもっと早く謝りに来たかったんだ。‥だけど、なかなか行けなくて‥。今日もちゃんと謝ろうって思ってたのに、なんか兄ちゃんを見た瞬間「わ~」ってなっちゃって、更に恋人がいるって聞いたら‥もうわけわかんなくなっちゃって‥」
‥なんかわかる。
人に謝るのって難しいよね。
頭に叩き込んできたのに‥僕というイレギュラーがいたから「あれ?? 」ってなっちゃったんだよね。
分かる~。
「だから‥俊兄さんが怒ってくれて‥よかった。
謝る‥話をする機会を作ってくれてよかった。
なにより、ちゃんと謝れてよかった。‥このままじゃ、俺、もう一生兄ちゃんに会えなくなってた」
あ~確かに。
あの感じで別れたら‥次は無いな。
僕は、
「‥僕もカーライル君と話せてよかった。‥このままじゃ君の印象、ヤバかった」
そう今度はちゃんとフードを脱いでカーライル君に謝った。
「‥醜い顔だけど、ごめんね。謝るのに、やっぱりフード被ったままってのも何かな、って思って。すぐ被るね」
って僕が言うと、真っ赤になったカーライル君が
「‥美しい‥」
って何かぼそっと呟いたんだ。
ん? なんか言った? 聞こえなかった。‥でも、「何? 」って聞きなおして「不細工‥」って言い直すとかだったら、カーライル君も嫌だよね‥。
咄嗟に出ちゃったんだよね。‥怒らないでおいてあげよう‥。
クラシルさんが僕にフードを被せる。
カーライルさんがすくっと立ち上がるとクラシルさんの耳の横で
「‥兄ちゃん、俊兄さんの顔隠しとく方がいいかもしれない。リリアーナを知ってる人(とか、リリアーナ本人)が俊兄さん見たら、絶対「こいつ顔で乗り換えたな」って言われる。時期が合わないって言ったところで聞いてもらえないかもしれない」
なにか小声で呟く(あんまり小声だったから、クラシルさんの反対隣りにいる僕には聞こえなかった)、クラシルさんが小さく頷いた。
‥なんかわかんないけど、兄弟仲が良くなってよかった。
その後はなんか
「まあ‥お互い頑張ろう」
って話をして、別れた。
僕が手を振ると、カーライル君が満点の笑顔で微笑んだ。
うん。ここの美醜の基準はよくわかんないけど、笑顔ってのはいいね!
「カーライル君。元気でね。今日はありがとね!
また来てね! 」
僕がそう言うと、カーライル君はちらっとクラシルさんを見て、
「ええ! 俊兄さん! 今日はありがとうございました! また絶対こっちに来ます! (家に来て、リリアーナが俊兄さんを見たら‥やっぱり落ち込むだろうし‥。リリアーナも兄さんに対して負い目は感じてるけど、流石に自分よりはるかに美人とクラシルさんが結婚したってなったら、やっぱり嫌だろう‥)
あ、ちゃんとベルクさんに聞いて‥兄さんのいる時にきますよ!? (兄さんってけっこう嫉妬深いんだね。今日初めて知ったよ‥)」
微妙な笑顔。
クラシルさんも頷く。
‥何?
よくわかんないけど、今日は最終的にはいい日だった!
僕に初めての弟が出来ました! 嬉しい!
おせっかいだろうけど‥僕はダメだって思う!
「待って! クラシルさん! 弟さんと‥ちゃんと話した方がいいって思う」
僕はクラシルさんの腕を引っ張って言った。
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「どうした? 」
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あと、弟さん。
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「だって、事実だ。
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俺には‥彼女を不自由させない責任がある」
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「その気持ちも、わかる。
だけど、それは、リリアーナさん自らが放棄したことだから、クラシルさんが責任を感じる必要はない」
僕は真っすぐクラシルさんを見て言った。
「リリアーナさんも結婚した大人なんだから、自分のしたことに責任は持たないといけない。
やっちゃいけないことをやったって、ちゃんと自覚して‥反省させないといけない。
そして、それは弟さんにも言える」
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僕は頷いて弟さんの元に行った。真っすぐ目を見て、
「お兄さんが何もいわないからいい、とかじゃないでしょ? 気になってたけど、今が幸せだからいいか! じゃないでしょ?! 幸せじゃなかったらどうしたの「可哀そう‥」とでもいう? 「幸せそうじゃないね‥ごめんね」ととでもいう!? そうじゃないでしょ!
クラシルさんは弟さんを子ども扱いしない。
弟さんはいつまでも子どものままじゃダメ!
クラシルさん。兄弟として弟さんのこと心配だって言うんだったら、ちゃんと話さなきゃ。
自分は、今この立場になるまでにどれ程頑張ったか。‥どんなことを考えたか。
弟さんがそれを聞いて「僕も頑張ろう」って「僕もやれば出来る」って思えるようになるようにちゃんと話してあげなきゃ!
‥僕の兄さんは二人いたんだけど、二人とも優秀で、僕はいつも劣等感を持ってた。でも、僕は兄さんたちに絶対頼らなかった。兎に角、兄さんたちの邪魔にならないように暮らしたいって思ってた。出来るだけ、視界にも入らないでおこうって思ってた。
心配かけないように、関わらないように‥
必死で努力した。
いつかは、「俊哉らしいな」って言われるように、努力した! 二人に対して劣等感をもってたけど、絶対泣き言なんて聞かせたくないって思った! 甘えたりしたくないって思った! 僕は、僕の方法で二人にいつか並びたいって思った」
丁寧に話す。
「‥並べたの? 」
僕をじっと見上げて弟君が首を傾げる。
僕は小さく肩をすくめ、「分からない」って言った。「でもね」
「僕が一人で住んでた時、兄さんから僕「心配だ」って電話してくることもなかったし、「足りないものがあれば言えよ」って言ってきたこともない。
僕のこと彼らならきっと心配しただろうけど、だ。そんなこといったら、僕を傷つけるって思ったからだろう。それと‥多分ちょっとは信頼してくれてたと思うよ」
家族を心配する気持ちも愛。
家族を信じて「任せる」のも愛。
二つの愛を感じ取って、子供や下の弟妹は一人前になっていく。
放っておかれたら寂しいし、構われ過ぎたら‥恥ずかしいし、情けない。
人はホントにややこしい。
弟君には
「まず、大人なら‥
きちんと謝ろう」
クラシルさんには
「‥ちゃんと、弟君を信じて」
「兄ちゃん‥ゴメン。あと、‥大丈夫。俺、もっと働く。確かに恋人さんの言ったように‥リリアーナのことは‥ちょっと流されたかなって‥思ってる。それを認めたくなかって‥なんかズルズルと‥
ゴメン‥。
今日ここに来たのは、‥兄ちゃんに謝りたかったからなんだ」
弟君がクラシル君を真っすぐ見て言った。
さっきまでのどこか‥迷ったような頼りない表情とは違う。意志の感じられる表情。
「流されて結婚したけど‥あ‥でも、今は‥ちゃんとリリアーナのこと愛してるし、守っていきたいって思ってる。
‥兄ちゃんに恋人が出来て嬉しいのもホント。
恋人さん‥、ありがと‥その‥ごめんね?
‥名前、教えてもらえる? 」
俊哉だよって言おうとしたらクラシルさんが僕と弟君の前にずいっと割って入って‥
「教えない。知る必要はない。知ってどうする。兄ちゃんとこの人は結婚するから、俊兄さんと呼べ。名前を呼んでいいのは、恋人であり将来の夫である俺だけだ」
って言ったんだ。
‥なんで。
呆れたけど、ちょっと面白くって笑った。
子供みたい。
僕が笑っていると弟君もつられて笑った。そして
「俺は、カーライル。よろしくね! 俊兄さん! 」
それで、改めてカーライル君がクラシルさんにお金を返して、玄関先じゃなくダイニングでお茶を飲んだ。
さっきから気になってた「なんで今急にここに? 」って話なんだけど、カーライル君は
「ベルクさんに兄ちゃんのお休みの日を聞いたんだ」
って説明してくれた。
ああ、街の事務所にベルクさんは常駐してるからね。成程。
「‥ホントはもっと早く謝りに来たかったんだ。‥だけど、なかなか行けなくて‥。今日もちゃんと謝ろうって思ってたのに、なんか兄ちゃんを見た瞬間「わ~」ってなっちゃって、更に恋人がいるって聞いたら‥もうわけわかんなくなっちゃって‥」
‥なんかわかる。
人に謝るのって難しいよね。
頭に叩き込んできたのに‥僕というイレギュラーがいたから「あれ?? 」ってなっちゃったんだよね。
分かる~。
「だから‥俊兄さんが怒ってくれて‥よかった。
謝る‥話をする機会を作ってくれてよかった。
なにより、ちゃんと謝れてよかった。‥このままじゃ、俺、もう一生兄ちゃんに会えなくなってた」
あ~確かに。
あの感じで別れたら‥次は無いな。
僕は、
「‥僕もカーライル君と話せてよかった。‥このままじゃ君の印象、ヤバかった」
そう今度はちゃんとフードを脱いでカーライル君に謝った。
「‥醜い顔だけど、ごめんね。謝るのに、やっぱりフード被ったままってのも何かな、って思って。すぐ被るね」
って僕が言うと、真っ赤になったカーライル君が
「‥美しい‥」
って何かぼそっと呟いたんだ。
ん? なんか言った? 聞こえなかった。‥でも、「何? 」って聞きなおして「不細工‥」って言い直すとかだったら、カーライル君も嫌だよね‥。
咄嗟に出ちゃったんだよね。‥怒らないでおいてあげよう‥。
クラシルさんが僕にフードを被せる。
カーライルさんがすくっと立ち上がるとクラシルさんの耳の横で
「‥兄ちゃん、俊兄さんの顔隠しとく方がいいかもしれない。リリアーナを知ってる人(とか、リリアーナ本人)が俊兄さん見たら、絶対「こいつ顔で乗り換えたな」って言われる。時期が合わないって言ったところで聞いてもらえないかもしれない」
なにか小声で呟く(あんまり小声だったから、クラシルさんの反対隣りにいる僕には聞こえなかった)、クラシルさんが小さく頷いた。
‥なんかわかんないけど、兄弟仲が良くなってよかった。
その後はなんか
「まあ‥お互い頑張ろう」
って話をして、別れた。
僕が手を振ると、カーライル君が満点の笑顔で微笑んだ。
うん。ここの美醜の基準はよくわかんないけど、笑顔ってのはいいね!
「カーライル君。元気でね。今日はありがとね!
また来てね! 」
僕がそう言うと、カーライル君はちらっとクラシルさんを見て、
「ええ! 俊兄さん! 今日はありがとうございました! また絶対こっちに来ます! (家に来て、リリアーナが俊兄さんを見たら‥やっぱり落ち込むだろうし‥。リリアーナも兄さんに対して負い目は感じてるけど、流石に自分よりはるかに美人とクラシルさんが結婚したってなったら、やっぱり嫌だろう‥)
あ、ちゃんとベルクさんに聞いて‥兄さんのいる時にきますよ!? (兄さんってけっこう嫉妬深いんだね。今日初めて知ったよ‥)」
微妙な笑顔。
クラシルさんも頷く。
‥何?
よくわかんないけど、今日は最終的にはいい日だった!
僕に初めての弟が出来ました! 嬉しい!
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