俊哉君は無自覚美人。

文月

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38.そうだ。家族写真を撮ろう。

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 スタジオ写真は一種の撮影会だと思う。
 被写体が「こう撮って欲しい」って主張するというよりは、被写体の「魅力」をカメラマンが捉えて、写真として切り取って作品にする。(少なくとも俺は)‥そんなイメージがある。
 記念写真はそうじゃない。
 記念写真を撮る時、被写体は「撮られる」ってことを意識している。
「写しますよ~」
 って言われて、被写体は「ここぞ」って顔をする。記念写真はカメラマンの作品というよりは、被写体本人の「記録写真」って感じかな。
 バイト先のフォトスタジオは子供が多い。
 商業施設の中に入ってるから、必然的にそういう感じにはなっていくんだろう。いつも同じカメラマンがいるってわけじゃないから、やっぱり「この写真館と一緒に育ってきましたよ」感は持ちにくいよね。

 写真館と一緒に育つ。

 俺にとって「地元の写真館」ってのは、まさにそういうイメージなんだ。
 お宮参りで家族写真撮って、七五三で記念写真撮って、小学校入学の記念撮影したらもう子供がそろそろ写真館に来たがらなくなるかな? それで、中学、高校入試の証明写真を撮りに来てくれて‥成人式、結婚式の記念写真。
 そういうのを見せに来てくれるような写真館になりたいなって思う。

 作品じゃなく、記録写真を撮っていきたい。

 王子の結婚式の写真は、俺にとっては「大撮影会」だった。
 結婚式っていう行事のれっきとした記念写真なんだけど、俺が撮った写真が王子のイメージを変えるきっかけにちょっとでもなってくれたらな‥って思いがあったから、単なる記念写真じゃなくって、作品を撮るつもりで臨んだ。
 子供のスタジオでの撮影会で培った「瞬間を見逃さない」素早さを発揮しつつ‥でも、「こういうの撮りたい」もこなしていく。
 
 この国の感覚に寄せていった写真を撮る。

 俺にとってのいい写真っていうより、「この国に媚びた」「この国的にいい感じ」であろう写真。
 撮りたい写真より、撮って欲しいであろう写真を選ぶのは‥だけど、鉄則だよ。
 お客さんは、俺の技術にお金を払ってるわけじゃない。「俺、この写真、いいと思うわけ」とか、どうでもいい。「私(私の子)こんなの~? もっと何とかならんかった? プロでしょアンタ‥」って思われるとか、もうカメラマン失格だと思う。
「出来ました! 見ろ、俺の写真! そして、賞賛しろ! 」
 が通用するのは、プロのカメラマンだけだって思う。(それも、超大物の)
 それこそ、写真集とか出版されるレベルのね。
 グラビア写真集は‥でも、俺にとってちょっと扱いが変わってくる。
 グラビア写真集とか、俺にとっては‥もう異世界の話なんだ。被写体が自分もしくは自分の家族知人ではない人間を撮った写真を沢山の人間が買うんだもの。なんか気持ちが分からないって言うか‥。
 そんなことをカメラ専門学校の仲間にぼそっと呟いたら
「(グラビア写真集は誰が買うかって? )そりゃ、被写体のファンが買うんだろ? カメラマンが有名で「この人の写真集だからぜひ買おう」ってことも、そりゃまあ‥あるだろうけど、グラビアの場合は被写体が誰かってことで売り上げが変わるんだと思うよ? 」
 って言われた。
 なんだか、俺の目指してるものとはやっぱり世界が違うな~って思ったけど‥
 王子の(俺的にセレクトした)写真なら‥写真集出したら売れそうだなってちょっと思った。

 話は戻して。
 クラシル君に頼まれた家族写真。
 恋人・俊哉との幸せな時間を切り取った記念写真って意味ではない‥ように感じられた。
 クラシル君なら
「俺は、いい。俊哉の写真撮って」
 って言いそう。だけど‥クラシル君は「家族写真を撮って欲しい」って言ったんだ。
 家族としての記録写真というより、「これから家族になる大切な人」と、これからを誓う決意の一枚にしたい‥って感じがした。‥なんとなくね。

 ‥たとえば、結婚記念写真みたいに‥。

 一番綺麗で幸せな瞬間を写真として残しておきたい。そして、初心を‥「この人と幸せになろうって誓ったあの時の姿を」忘れないでおこうって誓う‥決意の一枚。

 なら、結婚写真を撮ろう。

「父さんと母さんの結婚衣装‥確かここにしまったままだった」
 俺は、今ではすっかり詳しくなったこの家のタンスをひっくり返して、それこそ30年間眠り続けていた衣装を出して来た。
 ウエディングドレスとタキシード。‥白いの。正直、時代遅れだし、ダッサイ。
 特に、ウエディングドレス。よく言うと、レトロでシックで上品。ドレスっていうより、白いワンピースって感じ。オードリーヘップバーンとかが映画で着てたイメージ。
 母さんが兄さんの結婚式が決まった時に、上機嫌で「着ない? 」って出して来たんだけど‥兄さんに鼻で笑われてた。「そんなオールドスタイルの衣装‥今では誰も着ないぞ」って。「そう? 」って母さんも笑ってたけど‥がっかりしたんじゃないかな。
 なんとなく‥だけど、「多分」そんな気がする。
 そういうの、母さん好きそうだから。‥そして、多分きっと、俊哉もそういうの好きそう。なんとなくだけど、クラシル君も。
 そういう‥親から子に受け継がれる‥とか、そういうのね。
 クラシル君の方が父さんよりずいぶん身長も高いけど、ズボンの裾を伸ばしたら行けるかも。でも、このジャケットも合わないか‥? クラシル君は父さんよりずっと肩幅も広そうだった。‥太ってるんじゃない。肩幅が広くて筋肉隆々だから。
「カッターは新調すればいいか。ジャケットは‥これを使いたいんだけどなあ‥」
 肩を直して、‥っていうか、全体的にサイズを調整して‥
 そうなると、大手術じゃないか。
 そんなことを考えてたら、ふとカメラ専門学校の紅一点を想い出した。
 ‥そういえば、あの子、コスプレ衣装も自分で作れる‥みたいなこと言ってた。あの子なら何とか出来るんじゃない? 
 俊哉の分は‥母さんのそのままで何とかなる気がする。身長もそう変わらないし、この服は胸元が開いたタイプじゃないから。
「とにかくクリーニングに出してみよう。やっぱり長年タンスの奥で眠ってたから、黄ばんだりしてるし‥」
 そしたら、これに似た布を買ってこよう。
 あの子が引き受けてくれるかは分からないけど‥なんとなく、彼女ならやってくれそうな気がする。(何となくね)断られたらそれまでだ。

 問題は‥どうやってお願いするか‥だな。

 母さんへのサプライズがしたいんだ。兄さんたちはもう挙式も終えてるんだけど‥母さんホントは自分の衣装着てもらいたかったみたいでさ。‥とか? 
 嘘は苦手なんだよな~。
 いいや、「なんで? 」って言われたら、何も言わずに「‥いい、ごめん。忘れて」って言おう。
 そんなことを覚悟しながら聞いたんだけど‥。
 結果はあっさりオッケー。
「材料費、手間賃は取るよ」
 って言われたけど、そんなの勿論です!
陽竹ひたけ(※ 紅一点の名前)! 有難う! 」
「‥初めて名前呼ばれた。‥ちょっと、びっくりした」
 苦笑いする陽竹は、なんかちょっと嬉しそうで、周りのオッサンたちもそんな陽竹を、なんか孫を見る様な生暖かい笑顔で見ていた。
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