俊哉君は無自覚美人。

文月

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29.理性はしっかりと持ってる方だって思ってたのに‥(side ビクター)

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 怒って我を忘れるなんてこと、自分には無縁だった。
 どっちかというと、俺は人より冷めてる性格だって思ってた。
 夢中になることなんて、俺の人生には縁のない話だって思ってた。
 頭は自分で言っちゃなんだけど‥良かった。だから、勉強を死ぬほど頑張った、とかしたことない。
 運動だってそう。
 初めから、そこそこ出来たら満足できたんだ。
 別に一番とらなきゃって思わなかったんだ。
 そもそもね、俺みたいなのが一番とったら、機嫌を損ねた奴に何言われるか分からない。
 綺麗な子が俺なんかに負けて泣いたら? きっと、その取り巻きやなんかが俺に突っかかって来る。そんなのどうせたいしたことないんだけど‥面倒くさいじゃない? 
 別にね、3番の子は俺のせいで2番になれなかったっていってキレたりしないんだ。
「次こそは1番になってやる! 」
 って1番の子をライバル視する。
 そういうもんなんだ。
 2番目が丁度いい。
 1番と競り合って2番になるんじゃなくて、3番に勝って2番になった‥って感覚。
 ライバル関係って‥お互いにライバルって認めないとそういう関係にはなれないんだよ。
 というか‥別に俺にそんな気はない。寧ろどうでもいいと思ってる。問題なのは相手が俺を「ライバルと認めてもいい(← あくまで上から)」って思うかってことなんだ。「あんな奴どうでもいいや」って思ってもらえればいいい。だけど、そうじゃなかった時が問題なんだ。
「お前なんかに負けた俺‥もう、終わりだ! 」
 って泣かれてみろ。
 ‥知らんがなとしか言えない。
 そんな奴らを皆が慰めて、俺のこと一方的に非難するんだ。
 そんなのさ。理不尽でしかないよね。
 だから、本気になって1番になんかなっていいことなんてないんだ。‥冷めた性格にもなるよね。

 俺は、なるべく人と関わりたくなくって、でも、だからといってそんな奴らにびくびくしながら生きるのも、わざわざ負けてやるのも嫌で、‥ギリギリの妥協案で2番手をキープしてきた。
 騎士団は、手加減なんて無用な世界だった。
 周りもみんな醜い奴らばっかり。
 体力もバケモノみたいだったし、皆努力家だった。
 強くなるため、皆がライバルで、仲間だった。
 でも‥
 夢中とは違った。
 俺にとっての夢中はそういう‥汗くさいもんじゃない。
 もっと、綺麗で、キラキラして‥特別なものだ。
 俺にとって一番の憧れは、恋愛だった。
 ‥恋愛したい。恋愛って全力で頑張ってもどうにもならないもんだよね。どうにもならないから‥どうしょうもなく憧れる。美化してるだけかもしれないよ? だけどね、俺は夢見てやまないんだ。
 きっと‥恋愛をしたら‥夢中になれるだろうって思った。
 縁がないから‥綺麗な憧ればっかりが募った。
 努力して得られるなら、いくらでも努力する。全力で、誰の反感を買おうが努力する。

 全力と、夢中は違う。

 俺はきっと、この先もずっと夢中とは無縁な人生を送るんだろう。
 無難に、真面目に‥敵を作らない様に‥生きていく。
 夢中も無いけど、悔しくて地団太を踏むこともない‥平和な人生。そんな人生が送れたらそれでいい。
 そう思い込むことで、なんとか日々を過ごしていた。
 騎士団に入って、俺の人生はちょっと色がついた。今まで見たいに色のない世界じゃない。仲間と切磋琢磨する、とか上達する為に努力する、とかそういうの。
 特定の「誰か」ではなく、皆の平和を守る為に働く‥そういう世界もある。
 それは‥薔薇色ではないが、無彩色ではない世界で‥俺は学生時代よりずっと幸せだって感じてたんだ。
 
 それで満足だったんだ。‥満足だって思い込めてたんだ。
 なのに‥ベルク先輩が

 「恋」すると世界が変わって見える! 。

 そんなこと言った。柄にもなく頬を赤らめて‥幸せそう(その顔は余りにも醜悪で、騎士団の中でも体調不調者が多数出た)に、呟いた。ベルク先輩もデカくて街の皆に恐れられてたけど、顔は騎士団で一番「マシ」だった。
 そして、間もなくしてベルク先輩が結婚した。お嫁さんの顔はベールに隠されて見えなかったけど、小さい子だった。(← 例の俊哉がクラシルによって行かせてもらえなかった結婚式。ビクターは当たり前に行った)
 ベルク先輩曰く「すっごい可愛い子♡」人らしい。‥まあ、多分「俺(ベルク)から見たら」って話なんだろうけど。俺たちが「すっごい可愛い子♡」人と結婚できるわけがない。後から聞いたら、秘宝館で知り合ったらしい。
 秘宝館の花姫っていったらアレでしょ? 俺たちみたいな顔の奴らも差別しない‥「特別な乙女たち」って奴でしょ?
 でも‥ホントかなあ。どうせ、嘘なんでしょ? 
 ‥俺はそんなの信じない。
 そもそも、下っ端の俺の給料じゃ無理。
 それは、だけど、在任が2年しか変わらないベルク先輩にも言えたはずだ。「ベルク先輩レベルの給料で秘宝館に出入りできるの? 」って思ってたら、どうやら団長のバックアップがあったらしい。‥なんか、団長、ベルク先輩に弱みでも握られたのかな。(※ クラシルは、ベルクが俊哉に興味を持たない様に、別の子をあてがうために秘宝館を紹介した。この世界では、ベルクは「マシな部類」だから不安だったんだな)
 あの人、口が上手いから‥なんか上手いこと言って頼み込んだとか‥? 
 まあ‥俺には出来ない話だ。上司に取り入るとか無理。そもそも、秘宝館とか‥俺はヤだな。自然に知り合うのが理想。
 それにね。
 俺には無理。
 ベルク先輩だから「恋」出来たんだ。‥俺には無縁。
 団長よりはましだって思うけど‥。俺の顔も最低ランクなのには違いないからね。
 
 そう思ってた。
 
 修斗に会った時、俺は‥最初っから驚きっぱなしだった。
 あんなに小さな子が、誰にも手伝いを要求せず、あんな重そうな荷物を抱えて走り回ってるんだ! そりゃ、驚いた。普通だったら、騎士がサポートに付けられてるんだから当たり前に「これ持って」「あれやって」って命令するもんじゃないのか? なのに‥修斗はそんなこと全然しなかった。それどころか、文句ひとつ言わなかったんだ! 
 汗だくになって、だけど、目をキラキラさせて‥走り回ってるんだ。 
 最初は、単純に「なにやってるんだ? 」って思っただけだったのに‥
 気が付いたら、目が離せなかった。
 楽しそうな修斗から目が離せなかった。
 夢中になるってこんな風なんだって思った。
 楽しそうで羨ましい。‥俺には分からない感覚を知っている修斗が羨ましい。
 そう思ったら、急に修斗が貴重でキラキラしたものに見えたんだ。
 修斗も、修斗が一生懸命構えているカメラも‥特別なものに見えたんだ。
 そして、出来た写真が城に飾られた。それを見たら‥泣けて来た。
 こんなに美しいもの見たことないって思った。
 こんなすごいものを修斗は作っていたんだ‥
 あんな小さな手で‥あんな小さな体で‥こんな美しいものを作り出した修斗は‥単純に凄いって思った。
 正直、モデルの王子様は俺たちと同じくいつも通りの醜悪っぷりなはずなのに‥写真の王子様は‥「それなのに」楽しそうに微笑んでいて‥その姿は‥なんか神話の挿絵みたいに‥神々しくすら見えたんだ。

 俺の中で、修斗がただの興味から、憧憬の対象になったのはその瞬間だった。
 どうやら「普通の人ではないらしい」修斗にもう一度会うには、きっと神にお願いするしかない‥何故かそんな風に思った。(‥普段から信心深いわけでもないのに、なぜかその時はそう思ったんだ)
 そして、奇跡的に今日の再会が実現した。
 普通ではありえないことだろう。‥きっと、これは神の采配とかいうような‥非現実的なものなんだろう。だけど、それでもよかった。

 これが、お前に与えられた唯一の出会いのチャンスだよ。

 ‥例えそう言われたとしても、俺はそれで構わない。
 そう思った。
 
 再会した修斗は「仕事モード」の時とは全然違ってた。普通の子にしか見えなかった。だけど、ホントの普通の子は俺のことなんて相手にしない。
 修斗は‥特別な子だったんだ。
 くるくると表情が変わる。それに、よく笑う。
 一緒に居ると楽しかった。
「写真を撮ってあげる」
 って言われて嬉しかったけど‥それ以上に話す話題が欲しかった。出来るだけ一緒に居たかった。場所がいるって言われて、迷わず自分の家を勧めたのは、でも、一番落ち着けるかなって思っただけだ。‥別に下心なんてなかった。無かったはずなのに‥移動中ずっと‥モヤモヤして‥いつも以上に口数が減ってしまった。
 だけど、修斗はそのことを責めたりしなかった。それどころか「大丈夫」って言ってくれたんだ。
 初めは兄弟の話をしてただけだった。なのに‥気が付いたら‥ああなっていた。
 だけど、無理やりとか‥隙を狙ってとか‥そんな感じじゃない。
 今考えても‥自然に‥ああなってたんだ。
 
 気が付けば夢中になっていた。
 柔らかな肌に夢中になって、修斗が必死な様子に、また夢中になった。
 庇護欲にかきたてられて? 征服欲を満たしたかった? ‥そんなものはなかったって思う。
 ただ、
 愛おしい。可愛い‥そうとしか思えなかった。
 
 昔から欲しくてたまらなかったものは‥今俺の腕の中で眠っている。
 それは‥俺が思っていた以上に大事なものに思えた。
 「一度きりでいいから」なんてとても無理だって思った。
 絶対手放したりなんかできない。‥しない。そう誓った。
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