俊哉君は無自覚美人。

文月

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16.感激の涙にもらい泣き(side 修斗)

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 さて‥俺の写真は王子様にお気に召してもらえるか。

 自信作って今の今までは信じて疑わなかったけど‥依頼主が黙って見てるのを見ると‥一気に緊張してくるよね。「え? ダメだった?? 」とか‥気になるよね。
 王子の隣で写真を覗き込んでいるあの子もさっきから一言も口をきいていない。
 写真をぺらり‥ぺらりとゆっくりとめくっていく音だけが聞こえる。
 めくるって言うか‥1枚づつ見ていくって感じ。‥なにぶんあの大きさだから。
 最後の1枚を見終わって、大事に写真をローテーブルに置いた後、王子は大きく息を吐いて‥
 ほろりと一筋涙を流した。
 あ。アレだ。
 集中して瞬きを忘れたから目が乾いた奴だ。目が乾いたら涙出るよね。
 そう思ったけど‥どうやら違う様だ。
「有難う‥有難う、修斗」
 って、俺の両手を握ってハラハラと涙を流し続けている。
 隣のあの子を見ると、こっちも「泣きたいときは泣いたらいい」って顔をして、王子の背中をさすっている。
 成功したんだ。喜んでもらえたんだ‥!
 そう気付いたら、もう‥今まで張りつめていた糸が切れたみたいに‥一気に涙があふれ出て来た。
「‥良かったあ‥」
 涙が止まらない。
 拭っても拭っても‥全然止まらない。
 王子も泣いてる。
 二人で手を握り合って泣いた。
 俺は‥
 自分で思っていた以上に、気を張ってたんだなって‥気付いた。
 そりゃそうだよね。‥あんな大仕事だ。
 初めての大仕事が、他人の結婚式、しかも王族の結婚式とか‥ない。緊張しない方が可笑しい。「友達の為、俊哉の為だ」って自分を騙してた‥つもりだったけど、どう考えても無理みたいだった。
 そりゃ、無理だよ。緊張しないわけがない。
 それが終わった。‥ホントだったらそこで緊張の糸が切れちゃうんだろうけど、俺はプロのカメラマンだ。
 依頼主に写真を見せて、依頼主が満足してくれたのを確認するまでが仕事だ。素人じゃないんだから、「こんな出来にしかならなかった~! あんな美しいものを写真如きに残せるって思う方がおこがましいよね~」とか言ってられない。
 感動を、喜びを、楽しさを‥美しい形で写真に残す。
 それを目標に今まで頑張ってきたんだ。
 いわば、「いい記憶」のカプセルだ。栄養剤的なね。
 それを見る度、「あの時は‥素晴らしかった」って「あの時」を想い出し、「‥また頑張ろう」って明日への一歩を踏み出す力を後押しする。
 そんな写真にしようって思って映すわけじゃない。だけど、そんな風に映ってる写真を選んだつもりだ。
 今はまだ未熟な俺は普通のプロじゃ考えられない程沢山の写真を撮っちゃったけどね。
 だけど、そのおかげで「これだ! 」って写真が選べてよかった。
 王子に喜んでもらえてよかった。
「全部綺麗だけど、これ‥この絵が一番好き」
 王子が両手に大事に‥それこそ、繊細なガラス細工を持つように‥掲げ持った写真は‥
 二人が向かい合って、微笑みあっている写真。
 目が線に見えるほど微笑んでる‥そんな写真。
 この写真を見てると、目元も微笑むってこんな顔だろうなって思う。
 現在人ってさ、口元は笑ってるけど目が笑ってない‥って笑顔になっちゃうこと多いじゃない。
 作り笑顔ってそうだよね。だけど‥「あ、ホントに嬉しいんだな」ってこの写真見てたら思うもん。
 俺も好きな写真。
 ‥線目loveな国民性だから余計にこの写真が気に入ったんだろうけど。
 俺は、神妙な顔して伏目がちに俯いてる王子の顔の方が好きだけどね! 神聖な白百合を思わせる美しさで‥思わず拝んだね。‥きっと、この世界的に需要は無いだろうからここにはないけどね! 
「有難う。‥喜んでもらえて俺もやっと肩の荷が下りた。‥ホント嬉しい」
 涙を拳で拭う。‥写真が濡れたら、泣くに泣けないからね。
「‥新婦さんにも見せてあげて」
 って言ったら、ふわっと‥ホントに花が咲くみたいに王子は微笑んだ。
「うん。‥それから、全部額に入れて部屋に飾るね。ホントに有難う。修斗。‥どうお礼をすればいいか分からない」
 って言った王子に俺はカッコつけて
「結婚祝いだよ」
 って言った。
 ‥お礼は神にもらうからね、とかは、今は言わない。今言ったら台無し。
 あと、写真だから
「唯一の宝物‥大事にする」
 って言って貰ったけど、別に現像すれば何枚も出来る。何ならポスターにして売ってもいいくらい。
 ‥それも、台無しだから言わないでおく。
 この時代もでも、絵姿とか売られることあったよね。ああいうのは、版画なのかな? でも、版画にゃ、ここまでのクオリティ再現するの無理でしょう‥。ポスターにしたかったら言ってね。現像するから。解像度落としたらオリジナルと差別化図れていいでしょ? 
 そんなことを思ってる間に、時間が来たらしい。執事さんかな? が、王子を呼びに来た。
 王子が嬉しそうに写真を彼に見せる。
 小さい頃から王子を大事に育てて来たらしい彼は、その写真を見て驚いて‥そして、涙を流して感激した。それを見てたら俺ももらい泣きしちゃった。
 そして、最後に強く両手で握手して、王子は部屋から出て行った。
 胸に大事に写真の束を抱えて。
 俺はほ~と大きくため息をついて、ソファーに倒れ込む。
 あの子はそんな俺を労うような優しい顔で見て、

「ご褒美は何がいい? 」

 って聞いたんだ。
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