この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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293.オレの夢を君に叶えて欲しいんだ、ってアン先輩が言う。‥のを、止めたいコリン。

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「‥なんかわからんけど、流石綺麗な奴は‥恋愛経験豊富って感じするな」
 アン先輩がため息をつきながら言った。
「‥そもそも、オレは別に恋愛の話なんてしてなかった気がするが‥」
 と首をひねる。
 まあ‥そうだけど、話の流れでそうなったって言うか? 
 コリンも首を傾げて‥話の流れを想い出す。
「どういう話の流れでそうなったんでしたっけ‥ああそうか、ジャイルさんが危険人物って話だ。
 大事なことだからもう一度言っておきますよ。
 言ったわけでもないのに何でも知ってる人は、情熱的なファンじゃなくて、ただのヤバい人です。
 ‥言っちゃなんですけど、恋愛関係にはならない方がいいタイプの人間です」
 というか‥僕の感覚からすれば絶対に恋愛って方向にはいかない。
 だけど、あの時のアン先輩の表情見てたら心配って言うか‥ね? 
「‥つまり、ジャイルは危険人物だと」
「いや、そこまではいってないです」
 あくまで、恋愛対象にするとヤバいってだけで。‥変なイメージを植え付けて、仕事上の信頼関係を崩しちゃなんない。
 まあ‥僕よりアン先輩の方がジャイルさんのことずっと知ってるわけだから、そんなことはないと思うけどね。
 って思ってたら、アン先輩が首を傾げて
「‥思えば、オレはあの二人の事‥そんなに知らないかもしれない。‥なにせ、印象に残らない様に残らない様に‥って気をつけてたから」
 ‥それは逆効果だったって思いますよ? 
 そのせいで二人はアン先輩のこと(初めは)要注意人物だって思って警戒しただろうし、調べただろうし、‥その結果ジャイルさんにロックオンされる羽目になってるわけだし。
 印象操作って大事だけど、僕ら誓約士に必要なスキルじゃない気がする。
 でも、先輩にとってそれは、大事なこと‥っていうか「拘りたいところ」なんだろう。
 先輩にとっての「理想の誓約士」が「悪目立ちしないスマートな人」なんだろう。
 人‥先輩にとって今の少年の振りは‥不本意なのかな。それとも、男っぽいのに憧れてる‥何だろうか? 
 でも‥そんなの聞けないよなあ。‥しかも、聞かんでいい。
 ちらっと視線を上げたアン先輩と目が合った。
 うわ~何か言いたそう。だけど‥触れちゃなんない。
 また目があった。
 目が「どうしたんですか」って聞けって‥命令してる。
 コリンは観念して‥
「‥どうしたんですか? ‥何か言いたいことあるなら言ってくださいよ‥」
 いやいや、ホントいやいや聞いた。
 アン先輩の表情がパっと明るくなる。
「いや‥言いたいことはあるんだけど‥言いにくいっていうか‥」
「‥言いにくいこと‥いや、言いにくいなら‥言わなくいいです(絶対ややこしいことだろうから聞かずに済むなら聞きたくない‥)」
 アン先輩がもじもじと恥じらった様な様子を見せる。
 うわあ‥ますます聞きたくない‥
 コリンは苦笑いだ。
「‥いや、言いたいんだ。‥ちょっと待ってくれ‥」
 アン先輩が大きく息を吸う。
「‥(いや、いいですって‥っ! )」
 コリンが目をぎゅっと瞑って俯く。
 アン先輩がばっと立ち上がる。
 俯いてぎゅっと目を瞑ったコリンの前にアン先輩が向かい合うように立つ。
 
「コリン。頼みがあるんだ」
 
 絶対メンドクサイ!! 聞かない聞かない!! 

 真剣にコリンを見つめるアン先輩。
 俯いてぎゅっと目を瞑るコリン。

 こうやって向かい合って立つと、コリンとアン先輩の身長差は結構ある。
 コリンはあれからまた身長が伸びて、170センチ近くになっていた。同世代の男性の身長から比べれば低いが、女性の平均168センチと比べると若干高い。(ホント若干)
 アン先輩は向かい合う(何かにやたら怯えている)後輩の身体をまじまじと見た。(こんな機会だし)
 コリンの身体は一言で言うと‥綺麗だった。
 男性らしい逞しさは無いものの、女性とは明らかに違う、柔らかなラインの存在しない‥肉付きの悪い、すらっとした身体。
 勿論胸はないし、尻もまっ平らなんだけど、それすら「中性的な魅力」に見える。
 そもそも、ダブっとした貫頭着を着てるからそんなに体の線は目立たない。
 袖から見える腕や足は、魔術士らしく筋肉がついていない、不健康な色白の肌。
 だけどコリンの容姿はそれすらカバーして「深窓の令嬢で、華奢な美少女」の様に見せている。
 アン先輩は黙って自分の腕をまくって‥案外筋肉質な自分の腕を見た。
 アン先輩はそう筋肉があるわけでは無い(※ 魔術士、特に魔術任せの誓約士は肉体労働をほぼしないから筋肉がない)んだけど‥「見かけだけは筋肉に見える」筋張った身体つきをしている。(※ ほんと見かけだけ。力こぶつくってもふにゃふにゃ)骨も丈夫で太い(※ これも見かけだけかもしれない)。これは絶対騎士の父親の影響だ。
 ‥てか、先祖代々農家の母親も骨太だしな‥。
 丈夫なだけが取り柄ですって感じの、ずんぐりむっくりな身体つきの夫婦。
 父親は騎士様なんだけど、アタッカーっていうか、ダンクって感じの‥丈夫で堅固な守りに定評って感じ。
 全然カッコよくない‥。
 もう一度コリンを見る。コリンはさっきから黙ってるアン先輩に疑問を抱いて‥顔を上げる。
 アン先輩は‥たしかにコリンを見てるんだけど‥コリンの方向を見てるってだけで‥「目が合わない」。ちょうど、コリンの後ろを見てるだけですよ~って感じの視線だ。
「??? 」
 コリンが首を傾げる。
 気のせいだったか? って思ってるんだろう。
 でも、アン先輩はコリンを見ている。見つめてるわけでは無いけど‥視線を合わせない様にして‥ガッツリ見てる。これぞ「誓約士流、人間観察の流儀」だ。
「‥(アン先輩、考え事? ってか‥こっち見ないで‥緊張するから‥)」
 って、居心地が悪いコリン。
 アン先輩によるコリン観察は続く。
 喉仏は‥よく見ればある。だけど、それ位なら何なら自分にもある。‥いやないか? でも、自分の方が首が太くて‥どう見ても男性的。
 いや‥よく見ればコリンも別に首は細くない。同年代の華奢な女の子と並べたら全然違う‥それはそうなんだろうけど、バランス的に見たら‥これは華奢な首筋って分類に入る。
 髪の毛が細い。艶がある。‥なんならキューティクルもある。手櫛でしゃしゃって直してるだけ(朝の支度を10分でしてるのを目撃したことがある。顔洗って、顔拭いて、歯磨きして手櫛で髪を直して、10分だ! 特別なことは何もしてなかった!! )なのに! 
 自分の針金みたいな剛毛と比べて、この女性らしさはどうだ。
 肌がきれい。全然毛深くなさそう。‥そういえば腕とか足とか全然毛深くない。髪質がアレだからかな。
 アン先輩は自分の剛毛を見てから、腕の毛を見た。
 ‥毛深いって程じゃないんだけど、毛に存在感があるんだよな。「生きてます! 元気です! 」って感じ‥。
 コリンは肌もキレイ。
 そもそも色白っていいよね。
 それだけで美人度が増す。
 アン先輩は両親譲りの地黒だ。(と、また腕をまくる)
 ‥でも、別に肌は荒れてないんだよね。手入れもしっかりしてるし。‥アレだ。色白じゃないから華奢にはやっぱり見えないだけで‥。
 何!? 腕がどうしたの?? 僕の腕に何かついてる!?
「??? 」
 コリンも自分の腕を見て‥
「‥あ、また痣できてる‥(あ~アン先輩はこれを教えたかったの‥かな? )気になりますよね。すみません、隠しときます。‥キモチワルイですよね。結構目立つし」
 ボソリ‥と呟いて腕を撫ぜた。
 見ると確かに紫の痣が出来ている。しかも、結構大きい。
「目立つんでわりに、全然痛くはないんですけどね」
 苦笑いするコリン。
 そっか‥。白いからちょっと怪我しただけでも目立つんだ。
 アン先輩、納得。
 自分は痣になってもそんなに目立たないな。
「赤くなって、紫になって‥その後はどす黒い沼色になります。緑みたいな茶色みたいなあの色です」
 ‥成程。
 色が白いのも善し悪し‥かな? でも、怪我しなかったら良いわけだし‥やっぱり、いいなあ。
 コリンは、痣をさすると
「あと、僕の自己治癒能力とか超絶最低レベルです。体力とかまず魔力に回されて‥余った奴がお情け程度に治癒能力に回されてるよ‥って感じなんだと思います。絶対、普通の人間より傷の治り遅いです。敵とか魔物とかが襲ってきてもオートセーフシステムで対処できますけど、紙で切るとか、転ぶとか、机の角で打つとかはどうしようもないですからね~。そういう、小さい傷がこんな風になるんです」
 平民にはそういうパターン多いっていう。
 魔力って普通にはないもので、特別なものだから。完璧に身体の中で異質なんだよね。だけど、作り出そうって身体が無理しちゃう‥らしい。「どれ位いるか分からないから‥いる分だけ先に取っちゃうね」って身体を循環してる血液って言うか‥体力って言うかから先に魔力分を取っちゃうらしい。慣れてないから。
 慣れてる‥代々魔力持ちの家系の人間だったら「この人間の体力ならこれくらいの魔力」ってちゃんと分けてくれる。そういうのが、代々魔力持ちの家系と突然変異で魔力持っちゃった人との違い。
 それでいうと、コリンは「身に余る魔力量」を持って生まれた超・突然変異体ってわけだな。

 あ~そういえばコリンって平民だった。三親等遡っても魔力持ちがいない家系だって‥。(あんな顔してるから、勝手に貴族だと思ってた‥)

 実は魔術士にはそういうパターンは少ない。誰かしら三親等内に魔力持ちがいるってのが殆どだ。
 アン先輩の場合は祖父だった。
 ‥祖父は貴族なんだ。
 貴族だった父は農民の母と結婚するために家を出たんだ。
 ‥そもそも、貴族って顔じゃない。(偏見)
 それはそうと‥
 アン先輩も魔力は多いけど、全然「体力の殆どを魔力に持ってかれる」とかはないって話。

 ‥コリンって華奢に見えるんじゃなくて、ホントに華奢なんだ。‥それはちょっとヤだな。

「色が白いって良くないですよね~。痣が目立つし、体調が全部顔色に出るし。すぐ真っ赤になるし、すぐ真っ青になるし。あと‥唇の色とかすぐ変わります」
 コリンが腕を隠すためにローブを羽織りながら苦笑いした。
 アン先輩が「なるほどな」なんて相槌うちながら頷く。
 あ~。そういえば、寒かった時、コリンは唇まで真っ白になって震えてた。
 あれは‥「守ってあげたい」通り過ぎて「大丈夫か? 死にそうだぞ」って感じだった‥。
「自分の肌で「鳥肌」って言葉実感するし。あれは‥もう、ホント「チキンスキン」ですよね。キモチワルイですもん」
 つまり、寒くて鳥肌がたったら、ホントに自分の肌が鶏の皮みたいだと。
 ‥それは気持ち悪いかも。
「‥だけど、だ。君は贅沢だ。そんなの、極限状態の気温下に居なければいいだけの話だし、怪我に気をつければいいだけの話だ。(オレなら絶対家で大人しくして怪我しない様にするぞ! )
 自分が美人なのは親に感謝した方がいい(← 力説)」
「へ? ‥あ、はい? 」
 あまりのアン先輩の迫力に目を丸くするコリン。
 何? 急に何? 
 って感じだ。
 アン先輩もアン先輩で‥

 言っちゃった~!!

 こころのなかで思いっきり頭を抱えた。
「‥何の話ですか? 」
 コリンの怪訝な顔!! 
 ‥ですよね!! 急に何って話ですよね!! 
 ああ、もういい! 言うしかない! 今勢いで言ってしまおう!! 
「オレにはね! オレには‥夢があるんだ」
 アン先輩がコリンを見つめ‥力説する。
「夢、ですか」
 コリン、ちょっと怯えて一歩後退。
 ‥言いにくい話か? 結局するのか?? 
 完全に、身構える。

 やめろ、めんどくさい話は‥やめろ!! 

「夢だ。‥それは君の協力が必要なんだ」
 ‥ああ!! やっぱり面倒な話確定だ!! やめてっていったじゃないか~!!
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