この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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285.団体の力。

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 今回の作戦の実行メンバー‥。
 こころがちくんと痛んだ。

 今まで自分たちが「自分たちでやる」って思ってた仕事を‥他の誰かに任せる。(完全に任せる‥とは違うかもしれないけど)
 思ってた以上に‥来る。
 どういう感情かって‥一言では言い表せない感じの複雑な感情だ。
 まずは、フタバちゃんやロナウに悪いって感情。これが一番大きい。
 次に大きいのは、悔しい。自分たちで最後までやりたかった。
 その次は‥腹立たしい‥かな? 手柄を横取りされたような‥そんな「つまらない」感情。
 だけど‥ちょっとだけ
 もうあんなに怖い想いしなくていいんだって‥安心してる自分が居て‥そんな自分に腹が立つ。
 やっぱり、個人の力より団体の力は‥そりゃね、当たり前に強いし安全だよ。
 でも、気を抜くわけにはいかない。
 団体を構成しているのは、やっぱり一人一人の個人だから。
 そのうちの一人でも気を抜いたら全員に迷惑を掛けてしまうからね。
 
 一人より二人、二人より三人。
 ロナウとフタバちゃんが力を貸してくれるって言ってくれた時‥可能性が‥出来ることがぐっと増えたのを感じた。
 僕じゃ思いつかないことが提案されたり、
 僕じゃ出来ないことを変わってもらったり。
 何より、僕一人じゃ同窓生とか絶対集められなかったし、‥集まってくれなかった。
 そしたら、カールの妹‥シャルルに会うこともなかった。
 シャルルに会わなかったから‥そういう話し出したらキリがない。
 つまり、フタバちゃんやロナウのおかげでいろいろいい方に変わっていったってわけだ。
 パズルのピースみたいにどの一つが欠けても‥完成しなかった。(いや、勿論今でも完成してないんだけど。きっと‥今以上に完成から遠くって‥それどころか完成のめどすら立たなかったんじゃないかなって思うんだ)

 マンパワーっていうのかな‥そういうの、やっぱり大事だなって今ではホントに思うんだ。

「まず、魔薬工場の場所の特定。これは? 」
 おやっさんがちらっと視線を送ると、目が合った先輩が頷き
「済みました」
 報告書をおやっさんに渡した。
「薬草畑の場所の特定」
 また別の方に視線を送る。
 目が合った先輩が頷き
「大丈夫です」
 報告書をおやっさんに渡す。
「魔術士協会の監視は」
「続けています」
 今度は何人かの先輩が頷き
「後輩に行かせています」
「罰則の者を行かせています」
 って報告する。

 ぞ‥っ出た罰則者。‥そりゃ、こういう仕事も任されますよね‥。
 何人かでやるといっても、超長時間労働だよね。監視&張り込み。

 おやっさんがそれを聞いて満足そうに頷く。(やっぱり、おやっさんも容赦ない‥)こっちをこっそり‥チラッと見て「明日は我が身だな」って小声で揶揄うのやめてくれ‥。
 すぐに先輩方の方に視線を戻すとまた真剣な顔で打ち合わせに戻った。
 打ち合わせって言うか‥中間報告会だな。
「魔薬の売り子の特定は? 」
「今しているところです」
「早くするように」
「は! 」
「冒険者の孤児の村に人は? 」
「向かわせています。犯罪者の逮捕が済んでから救助するために今は罰則者を待機させています」
「危険はないのか? 洗脳の魔薬‥煙をすったらそいつも無事では済まないのだろ? 」
「言っても誓約士です。魔力量も魔術のランクもそこら辺の者とは違います。‥まあ、連日の張り込みで寝不足が続いてるから‥絶対大丈夫とは言えないかも‥」
「‥何人かで交代するようにしてやれ。何人かいるんだろ? 罰則者」
 ってさらっと‥言う。

 ‥いるのか、何人も‥。罰則者。 
 聞くところによると、結構「そんなの言いがかりだろ‥」っていう感じで罰則を受ける者もいるらしい。
 先輩曰く
「研修だ」 
 ‥らしい。
 更に
「若いうちは苦労をしないといけない」「先生だなんて言われていい気になってたら、つけあがる。結果、最悪な誓約士になる」
 らしい。
 ‥それって‥お為ごかしじゃね? 
 いや、お為ごかしいうだけましか? どうせ「うるせ~! 後輩なんぞ俺たちの犬だ! 」と位しか‥思ってないんだろうな~。‥僕はそんな先輩になるまい。(って、そもそもばりばりと花形の仕事してないから、後輩とか使う必要、なし! )

 だけど‥流石マンパワー。
 僕らが‥ザッカさんたちも含め7人でやってた時とは全然スピードが違う。

 ‥今までホントに何やってたんだろ僕‥。皆を危険な目に合わせただけだった‥。
 
 先輩方が報告を終えて再びそれぞれの持ち場に帰っていくと、事務所にはおやっさんと僕、あとは駆け出しの「事務仕事隊」だけになっていた。
 おやっさんが‥
「‥コリンがあそこまで手掛けて来た仕事‥とっちまって悪かったな。コリンの友達にも謝っておいてくれ。
 だけど、これはもう個人でどうこうできる規模を超えている。‥だから、コリンもここに来たんだろ? ‥その判断は間違ってない。
 それに、今までのコリンたちの仕事は皆評価している。
 ‥よく調べてきたな。
 冒険者の孤児の話とか、俺たちだったら絶対に調べられなかった。‥偶然の出会いって言ってしまったらそこまでだけど‥でも、コリンだからこそそういう偶然を引き当てられたんだろう。
 俺なら、あそこで敵の魔術士を助けたりなんてしない。
 コリンだからこそだと思う。
 これから先は、俺たちが引き継いでこの件は完全に解決していくことを約束する。
 ‥勿論コリンに助言を求めたりすることも今後もあると思う。
 コリンも今後は、誓約士として俺たちと一緒にこの件の解決を目指していって欲しい」
 ってボソッと言ってくれた時‥正直涙が出そうになった。
 ‥僕たちの苦労を分かってくれるんだ‥認めてくれるんだ‥って思った。
 だって‥「団体でやったら1時間で終わるようなもんを勝手に自分一人でやるって言って意地張って‥結局時間が掛かって皆に迷惑かけて」とか「一人で出来ることなんて所詮知れてる」とか‥学生時代に散々言われてきた。
 ‥誰も手伝ってもくれなかったのに‥だ。
 僕はおやっさんを真っすぐに見て、力強く頷いた。

 コリン‥個人としてではなく、誓約士‥団体の中の一人として‥。

 その心強さ。‥心地よさ。
 思えば‥僕は手を差し伸べてくれなかった同級生に「なにくそ」って思うばっかりで一度でも「手伝ってくれ」「一緒にやろう」って言ったことなかった。
 それが出来てたら、フタバちゃんやロナウと‥学生時代に友達になれてたかもしれない。
 ‥そんなこと今言っても仕方が無いけど‥だ。
 鼻がつん‥となるのを堪えて‥頷いた。
「はい。よろしくお願いします」
 っていったら、おやっさんはちょっとほっとした様な顔をして
「頑張るのは‥いいことだけど‥頑張るのと無理するのは違うからな‥」
 って‥ぼそりと付け加えた。
「コリンは、一人でやった方がいいんだろ? 優秀だから。俺たちなんかいても居なくても一緒だよな」
 の‥「俺たち」に僕は入ってなくて‥でも、おやっさんの言った「誓約士として一緒に」の中に僕は入っている。

 僕が団体のなかの一人になれた。‥認めてもらえた。

 団体と行動を共にする‥って考えたら確かに緊張する。
 (自分でいっちゃなんだけど)コミュ障な僕にその役割は荷が重いけど‥そんなこと言ってられない。
 だって、団体(特に職場のメンバー)は「同じ目標の達成を目的とした集まり」だ。仲良しこよしが一番大事なわけでは無い。コミュ力は‥大事だけど、それは業務を円滑にするうえで大事なだけで、それが一番大事なんじゃない。
 それが「社会」ってもんなんだ。
 学生の時は‥皆それが分かってなかった。
 仲良しこよしなのが「空気を読む」「社会に適応した人間」だって‥皆思ってた。
 それが出来なかった僕は、コミュ力が高い‥仲良しこよしが得意な人間が羨ましくて、妬ましかった。
 (それが出来ない)自分が悔しくって‥僕を受け入れてくれない周りの人間が憎らしかった。
 まあ‥あの頃は「仲良しこよし」が目的だったから仕方がないのか‥。

 コミュ力は手段であって、それ以上の意味はない。(‥とまで言い切るのはいいすぎかもしれないけど)
 社会における団体において一番大事なのは、結局、目標の達成という‥結果だ。

 結果を得るために、人と協力しあう。一人じゃないってことは、発想が一つじゃないってことだし、手が増えるってことだ。一人じゃさぼってしまうかもしれないけど、一人じゃないってことは‥監視する目があるってことだ。
 その中で団結力が生まれる。
 一緒にがんばろーぜって互いに高めあい、慰め合う。
 それは、依存とは違う。
 仲良しごっこじゃない。
 そして、
 大事なのは切磋琢磨であって、足の引っ張り合いじゃない‥。
 個人がそれぞれ「よりよい結果」の為に自分を磨き続ける。
 自分磨きっていったら、
 この中で一番にならなければ‥! 誰よりも目立ちたい‥それじゃあ努力しなければ。‥努力すれば‥。
 で、「くそ、悔しいなあいつに勝てない」「‥あいつ、怪我したらいいのに‥! 」って学生時代はなってたけど‥そうじゃないんだ。
 きっと理想的なのは
「へ~君、その方法はいいね。僕も真似したいな。‥でも、ここをこうした方がいいんじゃないかい? 」
「成程! それはそうだね。有難う! 」
 っていう関係なんだろう。
 ‥難しいな。(それこそコミュ力が必要だね)

 top of themよりpiece of themは意外と難しい。
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