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277.今まで自分のモノだと思ってたもの総て。
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コリンとロナウは気配を消して二人の後ろに立ちながら二人の話を聞いていた。
長女のナナベルを見る表情。
怒り、戸惑い、‥悔しさ。あと‥何だろ‥? 分かるような‥分からないような表情‥。
長女の頭の中は今、混乱と困惑そして、諦めと悔しさが入り混じった‥ぐちゃぐちゃな状態だった。
でも、もう八つ当たりで大暴れしたり大声でわめいたりする気力すら残ってなかった。
ただ、流れる涙をそのまんま流れるに任せるほかなかった。
今まで自分のモノだと思ってた。
金と権力と美貌。
それさえあれば、なんでも思い通りに動かせる‥って思ってたし、実際、その通りになっていた。
だけど、自由に使えるお金は‥父親のお金だった。
この美貌と外交スキルで、男たちは皆私の言いなり。
‥そう思ってた。
だけど、言いなりになってた男どもの殆どは私の家柄目当てだった。
ちょっと家族構成を調べたら分かる。
実家を継げない次男以下だったら、姉妹しかいないエンヴァッハ家‥いずれ伯爵家を継ぐであろう長女の私は格好の結婚相手だろうから。
入り婿に入り、次期伯爵になる。
私との結婚はその為の手段に過ぎなかったのだ。
‥別に私じゃなくたっていい。その証拠に、彼らはナナベルに言い寄られたらころっとナナベルに鞍替えした。
ナナベルと結婚したらいずれ私を追い出すつもりなのだろう。
ナナベルでも私でもいい。
父親似で冷たい印象を持たれやすい私と違って、ナナベルは「分かりやすく」魅力的だった。
母親と似た華奢な体つきをしていたのは私だったが、ナナベルは長身とグラマラスな体つきで、どんなドレスだって上手く着こなせた。
燃える様な赤い髪も目を引いた。
顔立ちがキツく、目つきが鋭いせいで初対面の人間や同性(特に先入観でもって彼女を見ている女性)には敬遠されたが、付き合ってみると皆彼女に惹かれた。
彼女の雰囲気や、人柄、さっぱりとした性格‥そういうものに‥気が付けば皆とりこになっていた。
巷では「色仕掛けで姉の恋人を奪った‥」って言われているが、なんてことはない、寧ろ妹は何もしていない。妹からすれば勝手に惚れられただけ、なのだ。‥迷惑以外のナニモノでもない。
‥悔しいから、私からその話を他の誰かにする気なんか勿論ない。
そんな彼女は、私に何故かやたら‥懐いていた。
両親に構われなかった私たちにとって、姉妹だけが肉親‥みたいなところがあったからだろう。
私はそれを利用した。
でも、私はそれを悪いことだと思ってなかった。
特別なこととすら。
ただ、妹はそういうものだって思ってた。
妹が好きでしてることで、私が強要してるわけでは無い。「たまたま」それが私にとって都合がいいことなだけ。
それならいいでしょ?
‥思えば調子に乗ってたのだと思う。
今思えばね。
ホントならいくら妹が自分にとって有益だろうと‥「まあいっか」「都合がいいわ」なんて思ってはいけない。
調子に乗って‥私はそういう当たり前のことが分からなくなってた。
ただ‥自分の為に必死だった。
利用できるものは何でも利用して‥「最高の結婚をして(← ここ重要)」、この家から出たいって思ってた。
父親しか見えていないヒステリックで陰気な母親も、初恋を引きずりそれを仕事することで胡麻化してる無責任で自分勝手な父親も‥もうこりごりだ。
家を継ぐ? 冗談じゃない。あんな家の事、別にどうなろうと知ったことでもない。
私は私で幸せになるんだ。
お試しで付き合ってみて、気に入らなければ妹に後始末してもらえばいい。
後始末っていうか‥「君より妹の方が好きになってしまったんだ」って相手に言わせれば‥それで妹がキレて「アンタみたいな奴に姉様は任せられないわ! 」って言うの。いつも、絶対にね。
妹が自分から私の物を奪うなんてことは絶対にないの。だけど、結果的には必ずそうなって、そうなったら妹は相手の不誠実さを罵って、「姉様とは別れて。もう、ここには来ないで! 」っていう。
姉の恋人が妹に懸想して、だけどその妹に振られて‥それを姉にも知られ‥結局どちらも自分のモノにならない。
そうなった時、殆どの男は「妹にそそのかされた‥」って妹にその責任を押し付けた。私は「そんな‥妹はそんな子じゃないわ‥」って涙の一つ流せばそれでいい。
私が「妹に恋人を取られた」って言わなくたって、男たちが勝手に言いふらしてくれる。
‥そんな感じで‥私は当時別れ話で困ったことなんてなかった。
悪いイメージは全て妹、私は無傷。
それどころか、噂話に尾びれがついて「私は可哀そうな姉」って風になっていった。
そしたら母親もそんな噂を真に受けて‥妹を「世間体の悪い娘」って言うようになった。私はそれにも「‥妹のこと、家族だけは見捨てないでいてあげなければ‥」って困った様な顔で言うだけ。決して真実を言うことはなかった。
そして、気付いたら妹の居場所はなくなっていた。
妹が家出する前に出会った結婚相手は、唯一「妹に会わなかった男」だった。
私しか知らない彼は、妹と私を比べることなく、私を好きだと言ってくれた。
「その顔が好きだ。何もしなくてもいい。ただ傍に居て欲しい」
って言われた。
「絶対に苦労はさせない」
とも。
実際、彼の家は歴史のある伯爵家でお金もあった。
長男だから実家を継ぐと彼が私の父親に告げた時、父親は「妹がいるから大丈夫だ」って言った。
私はそれを聞いて‥
家出して帰って来るかどうかわからない妹なのに?
って思った。
その時‥妹だけこの父親に必要とされているような気がして‥無性に心が痛くなったことを‥今でも忘れられない。
悔しくって、悲しくって‥いつしかそれは「憎い」になっていった。
‥私にはそう‥物事をネガティヴに考えるだけの時間と孤独があった。
やることもなく、時間があれば人間ろくなことを考えないからね。
それで‥
妹にも裏切られた私は何て可哀そう‥そんな妹の事、憎いって思っても仕方がない。私は悪くない。って勝手に悲劇のヒロインになり切っていた。
考えるだけじゃダメだって、お金を貯めて情報屋を雇ったこと、今でも全然後悔していない。
初めて自分で考えた事だったから。
‥失敗したけどね。
だけど、思えば始めっから成功するなんて思ってもいなかったわ。
今まで持ってたと「思っていた」ものは皆幻で、身一つになった自分には誰も‥何も残ってなくって‥
「これじゃダメだわ」って反省するような殊勝な気持ちもなく、ましてや、「これからは」って努力する気力もなく、世の中を逆恨みし‥唯一の味方である妹さえも陥れようとしていた。
結果‥妹にも見捨てられた。
そうして、この先きっと結婚相手にも見捨てられる。
子供がいない私はきっとすぐ離縁されるだろう。
私は今、正真正銘一人になってしまった。
「これから‥どうすればいいの? 」
今度は‥答えを求めず‥ただ呟いた。
自分の心に問いかける。
‥私はどうしたい?
妹は、ただ、さっきと同じ困った様な顔で‥でも、少し微笑み
「‥何とかなるって程度で構わなければ、何とかなりますよ」
って言った。
何とかしてあげるとは、言ってあげられませんけどね。
って言葉はナナベルのお腹の中で留めた。
「マリアベルお姉様。今までは、誰かが何とかしてくれていましたが、今からはご自分で何とかしようと足掻いてください。‥そうすれば、望むように‥とは絶対にいきませんが、なんとかなります」
それを不満に思うかもしれない。でも、それこそが人生ってものだと思う。
人から与えられたものは、どこかしら与えた人の意志が働いている。
子を思う愛情だったら素晴らしいが、殆どが政治的な意図だとか、世間体だとか‥
それでも問題ない‥我慢できるって思うならそのまま暮らしていけばいい。
今まではそうして来たし、きっとこれからもそうする方が楽だ。
だけど、今全部の梯子は外された。
‥じゃあ、不満だろうが不安だろうが自分でどうにかするしかあるまい?
「‥偉そうに。‥言われなくても何とかしてやるわよ。
私はどんなことになっても、貴族であることを捨てたりしないし、‥そんなみすぼらしい格好してなりふり構わない様な生活はしない。それが私の最後の意地よ‥っ! 」
キッとナナベルを睨みつけたマリアベルの瞳は鋭く、今までで一番「生きている」って感じがした、と後にナナベルはニックに嬉しそうに語ったのだった。
長女のナナベルを見る表情。
怒り、戸惑い、‥悔しさ。あと‥何だろ‥? 分かるような‥分からないような表情‥。
長女の頭の中は今、混乱と困惑そして、諦めと悔しさが入り混じった‥ぐちゃぐちゃな状態だった。
でも、もう八つ当たりで大暴れしたり大声でわめいたりする気力すら残ってなかった。
ただ、流れる涙をそのまんま流れるに任せるほかなかった。
今まで自分のモノだと思ってた。
金と権力と美貌。
それさえあれば、なんでも思い通りに動かせる‥って思ってたし、実際、その通りになっていた。
だけど、自由に使えるお金は‥父親のお金だった。
この美貌と外交スキルで、男たちは皆私の言いなり。
‥そう思ってた。
だけど、言いなりになってた男どもの殆どは私の家柄目当てだった。
ちょっと家族構成を調べたら分かる。
実家を継げない次男以下だったら、姉妹しかいないエンヴァッハ家‥いずれ伯爵家を継ぐであろう長女の私は格好の結婚相手だろうから。
入り婿に入り、次期伯爵になる。
私との結婚はその為の手段に過ぎなかったのだ。
‥別に私じゃなくたっていい。その証拠に、彼らはナナベルに言い寄られたらころっとナナベルに鞍替えした。
ナナベルと結婚したらいずれ私を追い出すつもりなのだろう。
ナナベルでも私でもいい。
父親似で冷たい印象を持たれやすい私と違って、ナナベルは「分かりやすく」魅力的だった。
母親と似た華奢な体つきをしていたのは私だったが、ナナベルは長身とグラマラスな体つきで、どんなドレスだって上手く着こなせた。
燃える様な赤い髪も目を引いた。
顔立ちがキツく、目つきが鋭いせいで初対面の人間や同性(特に先入観でもって彼女を見ている女性)には敬遠されたが、付き合ってみると皆彼女に惹かれた。
彼女の雰囲気や、人柄、さっぱりとした性格‥そういうものに‥気が付けば皆とりこになっていた。
巷では「色仕掛けで姉の恋人を奪った‥」って言われているが、なんてことはない、寧ろ妹は何もしていない。妹からすれば勝手に惚れられただけ、なのだ。‥迷惑以外のナニモノでもない。
‥悔しいから、私からその話を他の誰かにする気なんか勿論ない。
そんな彼女は、私に何故かやたら‥懐いていた。
両親に構われなかった私たちにとって、姉妹だけが肉親‥みたいなところがあったからだろう。
私はそれを利用した。
でも、私はそれを悪いことだと思ってなかった。
特別なこととすら。
ただ、妹はそういうものだって思ってた。
妹が好きでしてることで、私が強要してるわけでは無い。「たまたま」それが私にとって都合がいいことなだけ。
それならいいでしょ?
‥思えば調子に乗ってたのだと思う。
今思えばね。
ホントならいくら妹が自分にとって有益だろうと‥「まあいっか」「都合がいいわ」なんて思ってはいけない。
調子に乗って‥私はそういう当たり前のことが分からなくなってた。
ただ‥自分の為に必死だった。
利用できるものは何でも利用して‥「最高の結婚をして(← ここ重要)」、この家から出たいって思ってた。
父親しか見えていないヒステリックで陰気な母親も、初恋を引きずりそれを仕事することで胡麻化してる無責任で自分勝手な父親も‥もうこりごりだ。
家を継ぐ? 冗談じゃない。あんな家の事、別にどうなろうと知ったことでもない。
私は私で幸せになるんだ。
お試しで付き合ってみて、気に入らなければ妹に後始末してもらえばいい。
後始末っていうか‥「君より妹の方が好きになってしまったんだ」って相手に言わせれば‥それで妹がキレて「アンタみたいな奴に姉様は任せられないわ! 」って言うの。いつも、絶対にね。
妹が自分から私の物を奪うなんてことは絶対にないの。だけど、結果的には必ずそうなって、そうなったら妹は相手の不誠実さを罵って、「姉様とは別れて。もう、ここには来ないで! 」っていう。
姉の恋人が妹に懸想して、だけどその妹に振られて‥それを姉にも知られ‥結局どちらも自分のモノにならない。
そうなった時、殆どの男は「妹にそそのかされた‥」って妹にその責任を押し付けた。私は「そんな‥妹はそんな子じゃないわ‥」って涙の一つ流せばそれでいい。
私が「妹に恋人を取られた」って言わなくたって、男たちが勝手に言いふらしてくれる。
‥そんな感じで‥私は当時別れ話で困ったことなんてなかった。
悪いイメージは全て妹、私は無傷。
それどころか、噂話に尾びれがついて「私は可哀そうな姉」って風になっていった。
そしたら母親もそんな噂を真に受けて‥妹を「世間体の悪い娘」って言うようになった。私はそれにも「‥妹のこと、家族だけは見捨てないでいてあげなければ‥」って困った様な顔で言うだけ。決して真実を言うことはなかった。
そして、気付いたら妹の居場所はなくなっていた。
妹が家出する前に出会った結婚相手は、唯一「妹に会わなかった男」だった。
私しか知らない彼は、妹と私を比べることなく、私を好きだと言ってくれた。
「その顔が好きだ。何もしなくてもいい。ただ傍に居て欲しい」
って言われた。
「絶対に苦労はさせない」
とも。
実際、彼の家は歴史のある伯爵家でお金もあった。
長男だから実家を継ぐと彼が私の父親に告げた時、父親は「妹がいるから大丈夫だ」って言った。
私はそれを聞いて‥
家出して帰って来るかどうかわからない妹なのに?
って思った。
その時‥妹だけこの父親に必要とされているような気がして‥無性に心が痛くなったことを‥今でも忘れられない。
悔しくって、悲しくって‥いつしかそれは「憎い」になっていった。
‥私にはそう‥物事をネガティヴに考えるだけの時間と孤独があった。
やることもなく、時間があれば人間ろくなことを考えないからね。
それで‥
妹にも裏切られた私は何て可哀そう‥そんな妹の事、憎いって思っても仕方がない。私は悪くない。って勝手に悲劇のヒロインになり切っていた。
考えるだけじゃダメだって、お金を貯めて情報屋を雇ったこと、今でも全然後悔していない。
初めて自分で考えた事だったから。
‥失敗したけどね。
だけど、思えば始めっから成功するなんて思ってもいなかったわ。
今まで持ってたと「思っていた」ものは皆幻で、身一つになった自分には誰も‥何も残ってなくって‥
「これじゃダメだわ」って反省するような殊勝な気持ちもなく、ましてや、「これからは」って努力する気力もなく、世の中を逆恨みし‥唯一の味方である妹さえも陥れようとしていた。
結果‥妹にも見捨てられた。
そうして、この先きっと結婚相手にも見捨てられる。
子供がいない私はきっとすぐ離縁されるだろう。
私は今、正真正銘一人になってしまった。
「これから‥どうすればいいの? 」
今度は‥答えを求めず‥ただ呟いた。
自分の心に問いかける。
‥私はどうしたい?
妹は、ただ、さっきと同じ困った様な顔で‥でも、少し微笑み
「‥何とかなるって程度で構わなければ、何とかなりますよ」
って言った。
何とかしてあげるとは、言ってあげられませんけどね。
って言葉はナナベルのお腹の中で留めた。
「マリアベルお姉様。今までは、誰かが何とかしてくれていましたが、今からはご自分で何とかしようと足掻いてください。‥そうすれば、望むように‥とは絶対にいきませんが、なんとかなります」
それを不満に思うかもしれない。でも、それこそが人生ってものだと思う。
人から与えられたものは、どこかしら与えた人の意志が働いている。
子を思う愛情だったら素晴らしいが、殆どが政治的な意図だとか、世間体だとか‥
それでも問題ない‥我慢できるって思うならそのまま暮らしていけばいい。
今まではそうして来たし、きっとこれからもそうする方が楽だ。
だけど、今全部の梯子は外された。
‥じゃあ、不満だろうが不安だろうが自分でどうにかするしかあるまい?
「‥偉そうに。‥言われなくても何とかしてやるわよ。
私はどんなことになっても、貴族であることを捨てたりしないし、‥そんなみすぼらしい格好してなりふり構わない様な生活はしない。それが私の最後の意地よ‥っ! 」
キッとナナベルを睨みつけたマリアベルの瞳は鋭く、今までで一番「生きている」って感じがした、と後にナナベルはニックに嬉しそうに語ったのだった。
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