この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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265.show must go on ②

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「魔術ショー? 」
 周りがざわつく。
 ロナウが共同体のリーダーってことに驚いて、更に魔術ショーってことに更に驚いてる。
 ‥そもそも、このメンバーの魔術ったら、「マークして浮かせて凍らしてバン」だ。
 そのスタイルがリーダーが変わったからってそう変わるだろうか? 
 周りを見回す。
 魔物は‥勿論だけどいない。
 じゃあ‥誰をそんな目にあわせる気だ? そもそも‥それを魔術ショーって言う?
 会場の明かりがロナウの合図でちょっと暗くなり‥マークされた人がぼんやりと光る。
 さっき、アンバーが「魔薬使用者」って言った人たちだ。
 ロナウが影を引き寄せて‥
 マークされた人たちを会場の中央に集められる。
 薄暗くしたのは、ショーっぽくマークした人を光らせる為。だけど、完全に真っ暗にしたら影が消えちゃうし、そもそも「何をしているか見えない」。
 だから、薄暗くしたんだ。
 マークされた人達は、教会の学生じゃない。
 学生の姉妹だったり、知り合いだったりする「隠れ」魔力持ちだ。
 彼らはコリンたちの共同体のことを知らない。
 彼らは、急に自分たちが中央に強制的に集められたことに驚いてはいるが、まだその表情に恐怖の色は見られない。
 ポカンとしている。
 まさにそんな表情だ。

 魔力を持ってるから自分が魔力で拘束されてるって分かる。
 ある者は呑気に「へーどんなショーだろ」って自分が選ばれたことにウキウキして‥ある者は単純にキョトンとした表情をしている。
 しかし、周りの人間‥コリンたちを知っている同級生たちは違った。
 対象者以上に驚き、恐怖で顔を蒼白にしている。
 しばらく声も出せず目を見開いていたが、すぐに我に返って、ロナウたちに駆け寄った。 
 しかし、共同体を組んでいる三人にはつかみかかることが出来ない。
 共同体で魔術を行使している際は、三人だけまるで見えない膜につつまれたような状態になるのだ。
 魔術をしている間、三人は一蓮托生‥というその状態は、強い魔力を持つコリンだからこそ強固な結界に包まれた状態になっているが、未熟な者たちなら、まさに三人揃って一掃される「隙だらけな状態」になる。(だから、ある程度の魔術熟練者以外は共同体を組むことが許されない)協会からの指示で共同体を斡旋していたとはいえ、教会の教師たちは、そうやって‥いろいろなことを考慮して共同体を組んできた。
 協会の「力による支配下」にありながらの教会のせめてもの抵抗だったのだ。

 偽の共同体にそんな配慮は勿論ながらない。
 彼らは、協会にとってただの「使い捨ての魔力源」にしかすぎなかった。
 だから、今、魔力により「攻撃を受けている」状態において、彼らは驚くばかりで何の抵抗も出来ないでいる。
 
 中央に集められた家族知人に駆け寄る同級生、コリンたちに駆け寄る同級生。
 彼らは皆恐怖や、怒りに震える声で声の限り叫んだ。
 それは、魔術を見物しようなんて表情とは程遠い‥悲壮な表情だった。

「おい! テイナー君何の冗談だ! 妹を解放しろ! 」
「冗談が過ぎるぞ! 」
「‥もうおしまいだ‥コーナーはやっぱり悪魔なんだ‥。学生時代のことを根に持っているのか? 確かに成績でコーナーに負けて悔しくて陰口を言ったけど‥だけどそんなことで妹を‥! 」
 中には泣き出し懺悔する者たちまで現れ始め、会場内はさながら戦場か、敵に捕らわれた哀れな捕虜たちの処刑を待つ刑場の様だった。
 共同体ハイの状態のコリンたちはその状況にちょっと眉をひそめるだけ。
 なんでみんながこんなに騒いでいるのか全く理解できないって顔だ。
「‥ショーですわ。大人しく楽しんでくださいませ? 」
 フタバが呆れたような‥冷たい声で言い、ロナウ(初リーダーでウキウキ。リーダーローブ、テンション上がる~! )が作ったような苦笑いでそれに同意する
 コリンは‥相変わらず無表情だ。

 悪魔どもめ! 
 同級生たちは絶望して、膝から崩れ落ちた。
 ‥もう‥ダメだ‥!
 かくなる上は‥玉砕覚悟で一矢報いるぞ‥っ!
 同級生たちが団結して‥一斉にロナウたち共同体に向けると‥

「会場は盛り上がっているようで何よりです」
 注目を浴びてる? っていい様に解釈した(共同体ハイで)テンションが上がったロナウが満足げに、にこっと微笑み、「遮断! 」と通る声で叫び、更に芝居じみた大袈裟な動作で両手をすっと上げる。
 まるで見えない大きな手で持ち上げられるように‥対象者の集められた空間が少し持ち上がる。
 対象者がいる空間と、周りのいる空間が遮断されたのだ。
「!! 」
「!! 」
 同級生たちの表情から闘志が抜け落ち、絶望感だけが残る。

 もう‥ダメだ‥。

 同級生は、虚ろな表情でちょっと空中に浮いている‥家族・知人を眺めている。
 そこに‥もう、声はなかった。

 対象を含む空間を周りの空間から遮断し、切り取った空間を浮かせる「空間の切り取り」。
 これはフタバが得意な魔術だけど、ここは「僕がやってみたい! (なぜって、折角リーダーだし、カッコイイから! )」というロナウのたってのお願いでフタバから特訓してもらった。その時のフタバの面倒くさそうな顔ったらなかったけど‥(淑女だから(フタバ談)口には出してなかったけど‥淑女としてあの表情は‥ない(笑))
 だけど‥ちょっとだけしか浮遊させられない。魔獣より人の方が重いって言うのもあるけど‥それにしても、ほんのちょっとしか浮かせられない。
 がっかりしたロナウだったけど、フタバは「雷属性だけだったらこの程度もできなかったはずだわ。ロナウはほんの少し‥ホントにほんの少しだけど他の属性も使えたから出来ただけ。こういうのは、センスとか努力とかの問題じゃないからね」って言って慰めた。フタバ的にちょっとはロナウのことを認めたんだ。
 まあ‥事実凄いことなんだ。
 ロナウは実力はあるのに、あのキャラで大分損をしている。

 丸く切り取られた対象者の入った空間はほんのり光った状態でちょっとだけ空中に浮いている。
 ちょっとだけ。
 ‥でも、ちょっとだけでよかった。
 生身の人間だから、ちょっとだけでももう大パニックになっている。
「浮いてる!? 怖い! 」
「やめて~! 」
「助けて~! 」
「すげ~浮いてる! 」
 空間内は大パニックだ。
 もう‥外に声が聞こえてたら‥(さっきの罵声に加え)警察を呼ばれるレベルで大騒ぎだ。
 ‥消音魔法(コリンとフタバで二重掛け)かけて、アンバーに大型結界掛けてもらっておいてよかった‥ってザッカは苦笑いした。

 でもまあ‥騒がしいのには違いない。
 別に安全性は疑っていないけど‥。

 ザッカとシークは三人からあらかじめ聞かされてはいたが、予想以上の大騒ぎに驚いてる‥というかドン引きって顔してる。アンバーはただ‥「うるせ~な」って顔してる。寧ろ、「こんな大掛かりなことしないで、静かにやっちゃえばいいのに」って顔。
 いずれにせよ、周りの人間との温度差が違い過ぎる。
 リアルガチの大量殺人事件に遭遇してるって思ってる人間と、「これは演技」って分かってる人間の違い‥って感じかな?

 リアルガチの大量殺人現場‥にしては、ちょっと迫力が足りない。
 だって、人間がちょこっと浮いてるだけの話だ。
 それにしたって、これは共同体だから出来てるだけのことで、別にロナウ一人の力ではない。
 フタバから特訓を受けて「空中浮遊」の魔術を取得したとはいえ、ロナウの魔力だけだったらきっと人一人持ち上げるのが精一杯だ。だけど、共同体として魔術を使役しているのでコリンとフタバの魔力もロナウに集まる。「共同体として」魔術を使うために、三人の魔力を使う。だけど、足りない。(マークを維持しながらだからね)足りない分は、そこら辺の足りない魔力は周りからロナウが調達する。マークを維持しながら、外に干渉する‥それって全然簡単じゃない。そこら辺は、流石ロナウだなって思う。
 それは、きっとロナウにしか出来ないような凄技なんだけど、ロナウはそんな凄技を使っているって意識はない。(‥そして、実はそのことに気付いているフタバとコリンはそのことを言わない。褒めない。だって‥悔しいじゃない)
 
 空間の中にいる者たちの叫び声が更に大きくなる。もう、コリンたちの声も聞こえないくらいだ。
「‥‥‥‥! 」
 混乱に乗じて、コリンが久し振りに「魔法陣の契約解除の呪文」を詠唱する。対象は、遮断された空間にいる薬物使用者全員。大掛かりな魔術だ。
 いつもは無詠唱でちゃっちゃとやっちゃうけど、今日は人数が人数だから詠唱。
 そして‥コリンによって契約を解除されて、ただの魔力の塊になった魔法陣の魔力をロナウが吸収する。
 そしてその魔力を使い、フタバとコリンが遮断された空間を光り輝く巨大イルミネーションに変える。
 これは、フタバの氷魔術とコリンの雷魔術の合体技だ。
 コリンの雷魔術で照らしだされた(フタバの氷魔術により生み出された)無数の氷のかけらが、キラキラと光りながら元薬物使用者の閉じ込められた丸い空間を包み込みこんだものなのだ。
「キレイ‥」
 今まで悲鳴をあげていた観客‥周りの人たちは(さっきまでの恐怖も忘れて)その巨大イルミネーションに見惚れている。

 これは‥なんてことない。
 ただの「カムフラージュ」だ。

 ‥遮断された空間の中は「強制的な契約解除」によりダメージを受けた者たちが呻き苦しむ‥もう地獄絵図の様な状態になっていた。
 だって、いくら被害者の救済をしてるって言っても‥周りからは分からないわけじゃない? そしたら傍から見たらこの状況は‥ただの大量殺害未遂現場だ。「空間内に毒のガスでもながしたのか!? 」って思われちゃかなわんでしょ?
 それをロナウたちは考慮したって訳。
 だけど、アンバーはそんなこと考慮しない。
 別に会場内の所々で急に人が苦しみだしてバタバタと倒れようが別に気にしやしない。その結果、救護班が来て薬物の使用が周りにバレても、「事業自得じゃん? 仕方ないじゃない」って別に気にしない。
 自分で蒔いた種とはいえ‥みんなそれぞれ事情があるし、彼らも被害者だから‥出来ればバレない様にしてあげたいじゃない? ‥何より、ここで警察に見つかるのは色々困る。

 だから‥同級生の皆には巨大イルミネーションを見てもらって、それが消えるまでにひっそりと、この哀れな患者たちを「密かに、コッソリと」救済しなければならない。
 説教や事情聴取は個別でまた後でするとして‥だ。
 警察には突き出さないけど‥
 この状況がどれ程危なかったか本人に自覚してもらわなくちゃならないし、こうなるに至った経緯を同級生たちにも知ってもらわないといけないからね。

 協会の罪を全員に知ってもらい、全員に今の状況がいかに危険かってことを理解してもらわなければいけないんだ。
 ‥そして、出来れば「他人事」じゃなくって、協力して欲しい。
 無理はする必要は無いけど、ほんのちょっとでいいから、協力して欲しい。一緒に声を上げて戦ってほしい。
 警察や誓約士に任せて、自分たちは関係ない‥って態度ではいて欲しくない。
 三人は、それを強く望んでいるんだ。
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