この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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255.ザッカさんに先に謝る。

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「ザッカさん。ごめんなさい。
 僕たち、ホントは三人で奴らを倒す計画立ててた。
 出来る自信はあるんだ。
 ああ‥まって! 
 過去形‥です。今は‥フタバちゃんたちにも話して三人でするのは止めようって‥言うつもりです」
 話してる傍から怒って立ち上がろうとするザッカを止めて、話の続きを促してくれたのはナナフルだった。
 シークは‥
 心配そうな顔で三人のことを見ている。
 三人って、
 ザッカとナナフルとコリンだ。
 フタバとロナウは今ここにはいない。
 さっきコリンがフタバたちに
「少しザッカさんたちと話があるから‥」
 って席を外してもらったんだ。
 ロナウは不満そうな顔をしたが、フタバに促され、席を外した。
 フタバは何も言わなかった。
 もしかしたら、コリンが何を話すのかある程度見当がついていたのかもしれない。

 コリンはまずザッカに謝った後、
「誓約士協会に協力を要請してきたんです。だから、捕り物とか‥大きなことは警察と誓約士協会がすることになると思います」
 そう切り出した。
 座りなおしたザッカは、コリンをじっと見つめている。‥まるで「一つの誤魔化しも見逃さないぞ」って感じだ。
 だけど、別にコリンに対して怒っているわけでは無い。心配しているだけだ。だから、勿論その表情に怒りの色は見えなかった。
 ナナフルも穏やかに微笑んでいるが、話を正確に把握するために‥あれこれ整理しながら聞いている。
 全然隙がない。
 アンバーは台所でコーヒーを飲んでいて席にも付いてないが、話は聞いている様だ。
「‥まずはなぜここで急に誓約士協会が出て来たのか‥って話を聞かせてもらってもいいか? 
 コリンの様子からは‥誓約士協会で厳しい取り調べを受けて‥その話をしざるを得なくなってやむなくした結果こうなった‥っていう風には見えないが」
 自分を落ち着かせるため、ザッカがコーヒーを口に一口含んで言った。
 そして、深呼吸をひとつすると、またコリンを真っすぐ見た。
「‥別に誓約士協会では厳しい取り調べとかは受けてないです。
 誓約士協会は‥そういうところじゃないんです。
 でも、だからといって紳士的だ‥とかじゃないです。
 こうこうこういう規則違反をしている。だからペナルティーを受けろ。
 っていう‥シンプルで効率的なところなんです。
 こっちの事情とかは全然きいてもらえません。
 ‥だから、誓約士は規則違反を事後報告するんです。
 則拘束 → 則ペナルティー とかになって身動きが取れなくなるから先にすることしといてから‥って感じですね。
 ‥どうせね、バレるんです。先に言うか後で申告するかだけの問題なんです」
 コリンは眉を寄せて、苦笑いした。
「‥その話だと、コリンが行動を制約されるリスク覚悟で、わざわざ中間報告をしに誓約士協会に行った‥って風に聞こえるけど? 」
 って言ったのはナナフルだった。コリンが頷く。
「ええ。誓約士協会を通した方がいいんだろうなって‥思ったんです。
 だけど、それってフタバたちを裏切ることになるなって思って‥ちょっと躊躇はしたんですよ。
 だからこんなに中途半端な時期になった。
 そのときは、正直友情‥というか約束と安全性を天秤にかけたって感覚しかなかったんです」
 じっ‥とコリンがナナフルを見る。 
 視線が「ただ、聞いて欲しい」って言っている。
 ただ、不安を打ち明けているのか、自分の行動を懺悔しているのか‥それはその視線からは分からなかったが、ただ「聞いて欲しい」って気持ちだけは伝わり‥ナナフルはひとつ大きく頷いた。
「そのときは‥そうだったんです。それだけだった。
 ‥でもね、誓約士協会で話してて、お偉いさんの強張った表情とか見てたら‥改めて‥僕らがしようとしてたことがいかに無謀なことだったかってこと自覚して‥怖くなった‥」
 一滴、コリンの瞳から涙がこぼれたけど、その涙をナナフルは見ない振りをしてあげた。
 ‥今話を中断してはいけない。そう思った。
「‥ホントはね。誓約士協会に協力を依頼するけど、僕らは僕らですることをしようって思ってた。‥だけど、協会で一人でいる時‥我に返った‥って言うか‥冷静に考えたんです。
 そしたら、‥ホントに怖くなったんです。
 失敗することが‥。
 失敗即ち則死ぬって事実が‥。
 今までそんなこと思ったことなかったのに‥。
 ホントに怖くなった‥」
 また涙がこぼれる。
 ナナフルは頷いてただコリンの話を聞いた。
「今までは、失敗は恥ずかしいだけだったし、どうせ僕なんて死んだって誰も悲しまない。親は悲しむだろうけど‥だけど、兄ちゃんたちもいるから別にいいや‥位しか思ってなかった。
 だけど‥今回のことは自分一人で済むことじゃない。
 皆にはそれぞれ‥大事に思う人がいて、大事に思ってくれる人がいて‥
 何よりも僕が皆のことを大事で‥
 そんな人たちを絶対危険な目に合わせたくないって思ったんです
 もし‥とか万が一でも‥危険な目に合わせたくないって‥」
 そう話したら‥本格的に涙が出て来た。
 もう‥滝のように流れ落ちる。
 コリンの背中をさすってくれたのはナナフルだった。
 ナナフルは、
「そりゃね」
 って同意した。
「大丈夫? 」でも「泣いていいんだよ」でもない。‥同情でも慰めでもない。
 話を聞いて、上から目線で同情やら慰めで話を終結させず、真剣に話を聞いてくれる。
 アドバイスとかは、しない。だけど、間違ってたら怒るし「それは、違う」って言ってくれる。
 話したいだけ話せばいいよって聞いてくれる。‥そして、いつしか「ナナフルにとって聞きたい情報」を抜き取られている(恐ろしい! )
 全て受け止めて‥ただ、慰めてくれてるのは‥前で心配そうな目でコリンを見つめているシークだ。
 オトンなザッカは‥、コリンが泣いた地点でただおろおろしている。(アンバーは「その話はどうでもいいから本題に入れ」って顔をしている)
 
 ひとしきり泣いたコリンはナナフルとザッカに「インタビュー」されていた。
「どういう話をした? 」
 ナナフルの質問は簡潔だ。
「どうやら魔術士協会が魔薬を販売している様だって話をしました。そして、それは非人道的な行為だから法によって裁かれるべきだって訴えました」
 ザッカが頷き、
「なんでそう思ったって聞かれなかった? 」
 って質問する。
 コリンはちょっと考えて
「話の結論としてさっきの話をしたから‥そういうことは聞かれなかったです」
 って答える。
「‥ふうん。だけど誓約士協会は魔術士協会の違法性を認め、捜査の協力を約束してくれたってことか‥。
 初めから何かしら魔術士協会について疑ってた点があったのかもね」
 ナナフルが小さく首をひねりながら言ったけど、その点については‥
「いえ、ただ、誓約士協会が魔術士協会の事嫌いだからって理由だと思います。
 魔術士協会は、誓約士協会からだけでなく騎士協会からも嫌われています」
 苦笑いしながらコリンが言う。
 ちらりとナナフルがザッカを見ると、ザッカは
「そういえばそんな感じだった‥かな? あんまり協会に顔を出すことがないから分からない」
 って肩をすくめる。
「‥にしても、根拠だとかそういうのは聞かれたよね? どんな話を‥どこまでした? そもそも、この話は殆ど予想の域を出ていない話だ」
 そうだろうと思われる。きっと間違ってはいないだろうが、なんせ証拠がない。
 そういう話なんだ。
 そういう話を信じて協力を約束してくれたのは嬉しいが、さて、本当に「きちんと全部」調査してくれるのか。それが問題だ。
「そもそも僕が保護している重要参考人は‥仮に悪の組織とする‥の被害者だ。
 悪の組織は戸籍がきちんとしてない冒険者夫婦の子供をを狙って誘拐し、その子供を幼いうちから洗脳し犯罪者に仕立て上げている様だ。冒険者の夫婦なら誰でもいい‥というわけでは無く、魔術士同士の夫婦を狙っている様だ。
 その理由として魔術同士の夫婦の間からは、高確率で魔術士の子どもが生まれるから。
 代々冒険者という夫婦は実は少なく、成人後冒険者になるものの方が多い。教会等で魔術士になる為の勉強をしている者も多いだろう。そして、就職先として冒険者を選んだ‥。
 そういう情報を持っているのは、魔術士協会だ。だから自分は魔術士協会を疑って調べていました。
 って言いました」
「‥コリンはそんな時から魔術士協会を? 」
 ナナフルが目を見開く。
 コリンはキョトンとした表情をし、首を振る。
「‥勿論嘘です。犯人を特定してからの‥逆推理です」
 ザッカがぶっと吹き出す。
「成程、逆推理。でもそれは‥あるかもな」
「‥その他の根拠は何を? 」
 ナナフルは冷静に話を続ける。
「そもそもの切っ掛けになった「立ち入り禁止の森」で魔薬を製造するための薬草を育てていたって話をしました。魔薬の魔法陣も手に入れ、解呪‥契約破棄方法も分かりました」
 コリンも冷静に答える。
 ナナフルが頷く。
「それで? 」
「きっとその一か所じゃないから、全部調べて一斉に取り押さえないといけないって頼みました」
「今のところ分かっている場所もあるんだろ? その話はしたのか? 」
 は、ザッカ。
 ザッカはもうコリンにインタビュアー口調で話すのは止めた様だ。
「僕が知っている場所だけ。あと‥そこを地味に魔法で攻撃してるって話をしたら‥絶句してた」
 そういえば‥あれ、止めろって言われてないな。‥続けろってことかな?
 首を傾げてたら‥

「‥え? 何それ。聞いてないけど」
 突然ザッカの冷たい声。びくっとなってコリンがザッカを見る。

 こっわ~!!
 ザッカさんが鬼みたいな顔で僕を見てるんです‥。
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