この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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249.最後の我儘

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「僕は、皆さんと(死神隊では)行きません。‥友達と約束してるんです」
 これを言うの‥凄く勇気が言った。
 だって、‥言えないだろ。自分で誘った‥っていうか、協力をお願いしたのに。
 だけど、僕は誓約士のコリンであるだけじゃなく、フタバちゃんたちの共同体のメンバーでもある。
 あの共同体、僕が居なきゃダメなんだ。
 しかし‥友達と約束って言い方‥なんか遊びに行くみたいだな。
 そんなこと思ってたら、案の定
「友達と約束? 」
 おやっさんが眉をひそめた。
 そりゃそうだ。
 僕が共同体の説明をしようとした時
「‥お前に友達なんていないだろう‥」
 ってため息をつかれた。
 おい。そこか。
 可哀そうなものを見る目で僕を見ないでくれ。
「怖いのか? 」
 怖気づいたんじゃないよ! 
 腹が立つし、嫌でも「そんな顔上司にしたらダメだろ」って思うし、誤解は解きたいし‥
 僕は今きっと酷い顔をしているだろう。

「なるほどね~。お前も色々やってたんだな」
 俺は、魔薬の原料畑を根絶した虫を作ったこと、そしてその虫を共同開発した令嬢の事、それから、ロナウの知り合いの魔法陣を壊した話などをした。
「共同体を組んで、一緒に戦えば自分の力を補える‥。彼らは‥元々は、ただの‥便利な存在でしかなかったんです。でも、今ではいなくてはならない‥大切な友人になりました。‥人を利用するだけじゃなくって、協力するってことを‥彼らから教わりました」
 僕がそう締めくくると、おやっさんは「お父さん」がするみたいな、穏やかな微笑を浮かべた。
 ‥恥ずかしいから、「あのコリンがねえ」って小声で呟かないで欲しい。
「しかし‥彼らとは共同体で知り合った仲間なんだろう? 結成にあたって協会の意志が働いてるとか、今でも会話を盗み聞きされたりしてるとか‥そういうことは心配はないのか? 」
 しかし、共同体の言葉に引っかかったらしく確認してきた。
 僕は頷いて、
「僕の共同体は、魔術士協会の指示で組んだものとは違うんです。魔術士協会の共同体を真似た‥僕のオリジナルの共同体なんです。よく似ているけど、実は違うものだから、協会のネットワークにアクセスすることもできるし、勝手に遮断することもできる。あの時は何も考えてなかったけど、けっこう便利ですよ」
 心配ないってことをアピールした。‥さっきは、子供扱いされちゃったけど、僕はそこそこ「やる奴」ですよ? ってアピールだ。
 おやっさんは眉をちょっと寄せ
「真似た? そんなこと出来るのか? 」
 って‥怪訝な顔をしたけどすぐ小さく頭を振った。
「‥まあ出来たんだわな。‥それは‥協会にバレていないのか? 」 
 僕らが何を作ろうが何をしでかそうが、もうそうそう驚きはしない。
 誓約士なんてガチで魔法オタクだから普通では出来ないことをやってのける‥とか、別に日常茶飯事だ。
 あと‥「普通はやらないだろう」ってことも、普通にやる。
 常識とか倫理観とかぶっ飛んだ奴らの集まりなんだ。
 そして‥自分たちが「そう」だって自覚がないのも、僕らの怖いところなんだ。
 それをされると人が怖がる‥とか、悲しむ人がいるってこと‥僕らはホント分かってないことが多い。
 だから、おやっさんのような「監視役」的な上司がいるんだ。
 「真面目な」上司は僕らのすることを凄く細かく見てて一から十まで「ダメ」っていう。それこそ、人格否定かって位、「ダメ」っていう。だけど‥おやっさんは違う。
 まるで‥腕白な子供の親みたいに、大半は「仕方ねぇ奴だな」って見守ってくれて、これは「絶対に」ダメってことだけ「ダメ」って言う。
 ‥言ってくれる。
「協会にはバレないです」
 僕はしっかりと頷いた。
「魔薬による「共同体の様なもの」が協会の「共同体」と似てるけど違うのと同じで、似てるものってのは作れる。きっと、他人には魔薬による「共同体の様なもの」と共同体は区別がつかない。だけど、教会が両方の作成に関与しているからわかる。
 僕の共同体もどきは協会が関与していないから、偽物だって分からない。
 結成にあたって協会の意志が働く様な「肝いりの」共同体は少なく、殆どは「相性がいい」さらに「もしかしたら、(協会にとって)何かに使えるか? 」って位。そして、そういうどうでもいいような「その他大勢」の共同体の結成に際して最も重要なのは「害がない」ってことです」
 例えばリーダーにやばい奴を使ってそいつが共同体を利用してヤバいことしたら、責任は任命した協会に来るだろうからね。
 そんなことを僕が説明するとおやっさんも「なるほどな」って納得してくれた。
「ふうん‥よく観察したんだな」
 僕はへへって笑って
「勝手なことをする際は、ちゃんと下調べしとかないと‥ですからね」
 照れ隠しに‥言った。
 褒められるのって、嬉しいけど、‥照れくさい。
 
 学生の頃の僕は今よりもっと常識知らずで怖いもの知らずで、もっと人の事信じてなくって‥「自分を守れるのは自分だけ」って‥変な自信を持ってて、その為には、何でもやった。教会に対しても協会に対しても、勝手なことをすることに全然抵抗なんてなかった。
 出来ることをやって何が悪い‥とすら思ってた。
 だけどそれは僕に限ったことじゃなくって、学生なら全員そう思ってたはずだ。
 なんとか教師の目を盗んで無断外出するぞってセキュリティー突破する工夫したり、そしてそれに成功した生徒が生徒たちに尊敬の目で見られたり。
 出来るってことは、実力があるってこと。勇気があるってこと。
 若いってのは‥そういう時代だった。
 おやっさんにとっては「魔術士協会なんてパっと出の協会」で、「俺が生れたときにはまだなかった」なんだけど、僕が学生だった頃は当たり前にあって、当たり前に加入するもんだって思ってた。
 共同体についても‥「へ~そういうのあるんだ」って思ったけど‥普通に「もとからあるもの」だった。

 もとからあったものが、いいものか悪いものか‥なんて考えもしなかった。

「そこら辺はまた説明してもらってもいいか? 」
 おやっさんの言葉にうなずく。
「‥コリンが共同体を自分でつくって、その仲間たちとコリンなりに今まで問題解決にむけて努力していたことは分かった。そして、その仲間たちとまだすることがあるってことも。
 だけど、ここに志半ばで来たってことは、共同体の力だけでは無理って‥誓約士たちの協力が欠かせないって判断したからだろう。
 その判断は正しいって思う。
 ‥出来ないことを自分たちで抱え込んで無駄死にすることは‥一番最悪なことだからな」
 最後の言葉に力がこもっていたのは、「今まで散々そんなことがあった」からだろう。
「チャレンジ精神と「向こう見ず」は違うからな」
 おやっさんの口癖だ。
「自由に何でもやってみろ」
 そして
「もし、お前たちが無茶したら、俺が止めてやる」
 だから
「俺が止めたなら、素直に止めろ」


「分かった。お前はそっちに戻っていい」
 おやっさんがちいさくため息をついて言った。
 僕は顔を上げて、おやっさんを見る。
 おやっさんは‥苦笑いをしていた。

 おやっさん、今回は止めないんだね。
 いつも通り、僕の背中を押してくれるんだね。
 それが、なによりも嬉しいし、心強い。

 うるっと来そうで慌てて俯こうとした僕を、おやっさんの
「だけど、そっちでの仕事が終わったらこっちに戻って来い。
 ‥コリン。
 お前は罰を受けなければいけないから。
 コリンだけ見逃してやることは出来ない」
 って言葉が引き留める。
 僕は顔を上げて、おやっさんを真っすぐ見て、無言で頷いた。

 心臓がぎゅっと締め付けられた。
 報告の遅延と容疑者監禁? いや、容疑者隠匿。
 時間制限付きの‥釈放。
 ‥僕を認めて、そして信じてくれたおやっさんの気持ちに答えないといけない。
 きちんと自分たちの仕事をして、そしてここにまた戻ってきて‥罰を受ける。
 もう、ここから出れないかもしれない。(ここの罰則の一番重い罪は「一生ただ働き」だから‥)
 誓約士協会にとって、刑罰と罰則は全然別のものなんだ。刑罰は「誓約士として許されないことをした」「今後もう誓約士として名乗ること許さじ」(権利剥奪)が一番重い罪ってことになるんだけど、罰則ってのは「おまえ、誓約士の約束忘れたの? 」「覚えてないの? 」「じゃあ、覚えなおしね。研修期間ってことで給料なしね」ってことになるんだ。
 僕の、容疑者隠匿の罪がどれくらいの研修期間になるのか‥。
 それはわからないんだけど、

 ‥あの人たちにお別れを言う機会を与えてもらえてよかった。
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