この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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245.そのタイプは寧ろ‥

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 ナナフルに害を成しそうな‥例えば、自分が上手くいかない腹いせに腹違いの兄弟に八つ当たりする様なタイプは寧ろ、白い方。

 そもそも‥白い方にとって「上手く行かない状況」って何だろう。
 ふと、二人はそんなことを考えてみた。
 そんな状況にならない限り、白いのにとって、ナナフルは無関係で別に「八つ当たりの対象」になりはしないんだ。

「エンヴァッハ家の跡取りって‥どういう感じになるんだろ」
 ボソリ、と呟いてみた。
 ここらへん、さっきから何か「ぞわぞわ」してたんだよな‥ってアンバーが独り言ちる。
「赤い方が婿を貰って継ぐんじゃない? 普通だったら」
 ‥普通だったらそうだろう。
 だけど、白いのは、‥ちょっと普通じゃない。アイツは‥見かけによらない悪女だ。
 
 赤いのは現在家出中だし、評判も悪い。
 白いのにとってそんな素行不良な妹が連れて来た「都合の悪い入り婿」が実家を継ぐのは絶対許せないだろう。
 白いのは、
 いや‥妹は評判はどうであれ、あれで別に悪い奴じゃないし、姉の言う事なら何でも聞く。
 じゃあ‥自分に都合のいい男と妹を結婚させれば実家も自分の思い通り‥
 そう考えるだろう。
 いや、それどころか‥
 妹にはそのまま永遠に行方不明になってもらって、エンヴァッハ伯爵家には(自分に都合のいい)養子を貰って継いでもらった方がいいんじゃない? いいえ‥私がこれから産む子供のうち一人に継いでもらうっていうのはどうかしら? 
 と位思ってもおかしくない‥。
 あの女はきっと、実家である伯爵家も自分のモノにしたいと思っているだろう。

 でも、父親が妹の捜索を騎士に依頼しようとしてるのよね‥父親は自分の妻が愛人とその息子を殺したことを知らない。知ってたら、騎士に捜索なんて依頼しない。
 捜索の過程で、ひょんなことから過去の殺人がばれたら‥それこそ問題だわ。
 母親が捕まることなんてどうでもいいけど、伯爵家の醜聞だわ。
 私にも被害が及ぶ‥。
 何とかして、母親だけに罪をかぶせたい‥
 じゃあ、邪魔な妹と「殺し合い」してもらおう。
 
 白いのなら‥そう「絶対に」考えるだろう。
 
 筋書きはこう。
 ① ひょんなことから母親の過去の罪を知ってしまった妹が、母親を脅そうする。
 ② 妹は金品を要求して、それを家出資金にする。
 ③ 母親はこれ以上金を払うのは無理だと妹の更なる金品要求を拒否し、妹を殺害しようとする。
 ④ 殺されそうになった妹は咄嗟に反撃し、妹と母親は互いに差し違え‥両方死ぬ。
 ⑤ その後、事実を知った悲劇のヒロイン・姉は二人の死を悼み、だけど「二人のしたことは許されることではない」と、世間にお詫びし、ネーメル家(ナナフルの母親の実家)に賠償金を支払う。

「勿論、これは白いのの筋書きで、真実とは違う。でも‥そういう展開が容易に想像できない? 
 白いのはそれくらいするぞ。
 それで‥ナナフルが生きてるって分かったら‥絶対、消しに来るな‥」
 アンバーは言って眉を寄せ厳しい表情で俯く。ザッカも厳しい顔で俯き、無言で前をただ睨みつけた。

「‥白いのめ‥生かしちゃ置けない‥」
 絞り出すような声で呟く。

 勝手な想像で、って思うだろうけど、この想像は「かなりの確率でありそうな未来」だ。
 だけど、今「そういうことが起こりそうだから」って先に仕掛けていいわけがない。
 やられる前にやれ‥だけど、殺される前に殺す‥は話が違う。
 普通に犯罪だ。

「くそ‥何も出来ないのがもどかしいな‥」
 悔しがるザッカにアンバーは
「まあ‥今までも何もなかったわけだから‥」
 と慰めの言葉を掛けかけて
「ああそうか‥今までは捜索の手が入ってなかったから、過去の殺人について誰も調べなかったのか‥」
 と気付いた。
 
 今、状況が悪くなりつつあるんだ。

「‥いっそのこと、赤いのに帰って来てもらった方がいいんじゃないか? 騎士が捜索しなければ過去の罪についても調べられることもなく、今まで通りナナフルとナナフルの母親は「行方不明」のまま」
 アンバーが「それも、不本意ではあるけど、‥騒いだところでナナフルもナナフルの母親も喜ばないだろ」と付け加えた。
 ザッカが首を振る。
「それを白いのが許すと思うか? 今までずっと気がかりだった白い服の黒点をこの機会に消し去ってしまいましょう‥って思うんじゃないか? 」
 まず、妹を見つけ出して殺し、
 次に、母親を殺す。
 そして、二人が争って死んだ‥とでっちあげる。
 そうやれば、これから先平和‥。
 簡単じゃないか。
 アンバーはぞくっとした。
 自分も悪さして来たけど‥そういう系‥陰謀系の悪さはしてこなかった。
 罠にはめるとか、物理的に痛めつけるとかより、そういうののほうがずっと酷い気がする。

 でも、悪いことには違いないんだ。
 これよりまし、とかは‥ない。

「‥先に打てる手を考えよう」
 ザッカは真剣な顔でアンバーを見、アンバーも真剣な顔で頷いた。


「‥私の戸籍を最近調べた人がいる? 」
 役所にいる知り合い(情報員)から連絡を受けたナナフルが目を見開いた。
 そして、今、事務所で二人で会っている。
 その知り合いは、ナナフルが「フュージ・コールネンド・ネーメル」であることを知っている数少ない人物だ。ナナフルより10以上年上の女性で、実はザッカの村出身だ。
 ザッカの村出身だからと言って、ナナフル = 曰く付きの貴族の令息だって皆が知っているわけでは無い。ザッカの村の者でナナフルの事情を知っているのは、ナナフルとザッカの子供時代の遊び友達の半分(半分はナナフルは(子供の頃に)死んだと聞かされている)と、ザッカの母親他数人の大人だけだ。
 勿論この知り合いは、ザッカとも知り合いなんだけど、今日はザッカは朝からアンバーと出掛けている。
 だけど、ナナフルは「ちょうどよかった」と思った。
 ザッカに隠したいようなことではないが、巻き込みたくない‥とも思う。

「‥どんな人? ネーメル家の人? 」
 ナナフルが聞くと、知り合いが首を振る。
「ネーメル家の人じゃなかったわ。あそこは使用人も少ないから全員の顔を知ってるけど、あの人は見たことなかったわ。‥新しく入った人だったのかもしれないけど、そんな新入りさんが行方不明の甥っ子(ナナフルのこと)を調べるとか‥するかしら? それこそ怪しいわ」
「じゃあ‥誰が‥」
 ナナフルは眉を寄せて、険しい表情をした。
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