この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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241.見たことない兄弟

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 例えば、俺に兄弟とか姉妹がいたとしたら‥どんな感じだろう。
 急に
「お兄ちゃん」
 とか
「弟よ」
 とか言われたら‥どうするだろうか。
 答えは‥
 どうもしない、だ。
 きっと嬉しいとか嫌だとか‥何の感情も持たないだろう。

 だけど、それは俺だからの問題だ。
 貴族とか、跡取りだとか‥そういう話が絡めばきっと事情は変わってくるんだろう。
 異母兄弟とかだったら、母親同士の確執とか凄そうだよな。
 エンヴァッハ夫人は、伯爵の浮気をゆるせなかった。愛してたから? ‥そういうのは分からないけど。
 そして、それだけでも、許せなかったのに、伯爵と浮気相手の間には子供もできたらしい。
 しかも、男! 
 そしてそれを伯爵は認知したという。
 夫人の怒りは簡単に想像できる。
 だからって‥全部放棄して逃げた女を探し出して始末まで‥するかね。
 ‥するんだろうな。
 のちのち自分の娘たちに「何か」あったら困るし、その子に跡取りになられても困る。
 それ以上に、浮気相手が自分たちの住む屋敷に呼ばれたら‥!
 ‥そう思ったらいてもたってもいられなかったんだろう。

 気持ちはわかる。
 だけど、殺人はいかんぞ‥。
 娘たちはそんなこと知ってたのかな。
 自分たちに兄弟がいることを、‥その兄弟の母親を自分の母親が殺したことを。
 そして、兄弟の命をも殺した(ということになっている)ことを‥。

 知ってたら、どう思ったんだろ。
 どうでもいいことだけど、‥ふと、そんなことを思った。


 エンヴァッハ令嬢(伯爵家二女の話)
 
 エンヴァッハ家には二人の娘がいた。
 一人は伯爵にそっくりの色を持った白銀で碧眼の娘。もう一人は赤い髪の‥母親そっくりの娘。
 二人は、社交界の白薔薇赤薔薇と言われるほどの美人姉妹だった。

 特に、白薔薇は社交界の華と言われたエンヴァッハ伯爵にそっくりだった。
 輝く長い白銀の髪と、サファイアの様な輝く碧眼。長女は、まるで歩く宝石の様だった。
 赤薔薇と称された二女も美しかった。ただ、彼女の気の強さをそのまんま現したような吊り目は、彼女を実際の性格以上にきつく見せた。
 自然に長女の周りには人が集まり、二女は遠巻きに恐れられる‥という風になった。
 人々は影で、長女を社交界の宝石、二女を赤い狂犬と呼んだ。(表向きは白薔薇赤薔薇と呼んでおきながら、だ)

 社交界の宝石と赤い狂犬。エンヴァッハ伯爵がどちらをより可愛がるかは、明らかだろう(と、二女は思った)
 二女の眼には、そのようにしか見えなかった。
 長女は、自分よりずっと美しく、賢く、話術に長けていた。
 長女の身体つきは華奢で、女らしく、愛らしかった(そこだけは母親に似ていた)ので、何をしても、人の目を引いた。男たちは皆
「守ってあげたい」
 って思ったし、
「彼女と結婚したい」
 って思った。
 一方の二女は‥父親に似て骨格のしっかりした身体つきをしていた。
 そんな自分を可愛い、守ってあげたいと思うような貴族はいない‥だって、社交界で会う貴公子たちは皆ほっそりとしてたおやかだったから。
 だから、二女は貴公子然とした貴族より、騎士を好ましいと思うようになった。
 だけど、たくましい騎士が「守りたい」と思うのは‥可憐で華奢な姉の方‥。
 次第に二女は貴族に恋愛感情を持てなくなっていった。

 社交界にも出たくない。
 そう思った。そして、仮病を使ってお茶会を欠席したりした。勿論、社交は全部姉任せだ。
 ‥もっとも、社交は頭が良く人当たりのいい姉の方がずっと向いていた。
 ますます二女は家に籠るようになる。
 姉はそんな二女にも優しく、親切だった。
 そんな姉のことを二女は誇りに思っていた。
 誰より。美しく賢くて、だけどそれを鼻にかけることなく、控えめで親切な、自慢の姉。

 二女にとって姉は理想だった。

 だから、
 「つまらない男(※ 二女評)」が姉に言い寄るのを見たら腹が立った。
 二女は、姉に声を掛けて来た男のことを、誰であれ徹底的に調べ上げた。(‥その時知り合った情報ギルドの中に「悪い男」が混じっていたわけだが、それはまた別の話だ。今は、二女の話に戻ろう)
 そして、二女から見て「こいつは不合格」って判断した男は、それ以上長女に近づかないように忠告した。
 時には、「怖い男」を使って脅迫もした。
 そのおかげで長女は若く賢く、性格も家柄も申し分のない家に嫁いだ。
 長女は家を出る時、泣いて二女の手を取って
「結婚しても、頻繁に会いに来るからね」
 って約束した。
 長女の手はいつもと変わらず、優しく、温かで、顔も声も優しかった。
 二女はこんな素晴らしい姉が、素晴らしい相手と結婚出来てよかったなと思った。

 結婚しても、姉妹の仲は変わらない。
 そう思ってた。

 だけど、
 姉の嫁ぎ先は、「悪い噂のある」二女に長女を会わせようとしなかった。
 二女が「長女の為に」動いたことは、(姉を心配する妹の愛ではなく)全部二女の悪い噂となっていたのだ。

 姉の恋人(いつの間にかそういうことになっている)に手をだす悪女。
 気に入らない男を、街のゴロツキを使い潰す悪女。

 気が付けば、二女の周りには誰も居なかった。
 そんな彼女に声を掛けたのが‥以前ギルドで知り合った「別れさせ屋」の男だった。
 
 ‥善良で一人ぼっちで、寂しい女が転落するのは余りにも簡単なことだった。
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