この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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240.やり残したことや心残り、全部。

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 罪はちゃんと償わないとね。

 は、さっきも確認したこと。
 確かにアンバーは今まで悪の組織の一員だった。
 騙されてたからとか巻き込まれてたから‥とかは関係ないだろう。それで言ったら、さっきの人たちも同じだからね。
「どうしようもない時もある。
 だけど、変われるチャンスが来たなら、その幸運をちゃんとものにしないとね」
 アンバーは笑った。
「だけど、一番の幸運は、そのチャンスに気付けたこと‥かな。
 ‥皆と会う前だったら、絶対変わろうと思うことはなかったと思う」
 柄にもないこと言っちゃって恥ずかしいってアンバーが胡麻化すように‥軽い口調で言った。
 誰も何も言わなかった。
 何かを言うのは‥どうかなって思った。

 
「アンバー」
 一人になったアンバーに話しかけて来たのは、ザッカだった。
「ザッカ」
 アンバーが振り返り、何時もの作り笑顔でザッカを見る。
「‥止めても無駄だから何も言わないけど、無理とかするなよ。それに‥なんでも自分でしようって思うな」
 ザッカが真っすぐとアンバーを見る。
「‥なんのこと? 」
 作り笑顔のままアンバーが首を傾げる。
「‥そういうのいい。
 自分が捕まった後俺たちに害が及ぶ恐れがあるものを全部片づけておこうって思ってるんだろ」
 アンバーは表情も変えず首を傾げたままだ。
「どうせ、一人でやるつもりだったんだろ? 」
 ザッカがため息をつくと、アンバーもあきらめたように‥ふ、と小さくため息をついた。
「なんで、皆そんなにお人好しなんだろうねえ」
 って眉を寄せる。
「‥ザッカなんて、初めて会った時は「こいつのことは絶対信頼しないぞ」って目で俺を見てたのに‥」
 アンバーが眉を寄せたまま言うと、ザッカが苦笑いした。
 お互い何も言わない。
  
 仕方ないだろ。

 って‥言っても「仕方が無い」。


「それより、‥頼みたいことがある。‥頼みたいことというか、‥知りたいことがあるんだ」
 ザッカがアンバーに近づき、さっきより小声で言った。
「知りたいこと? 」
 アンバーの声も自然と小声になる。
 すぐ近くにあるザッカの双眼は‥真剣で険しく、アンバーもつられて険しい表情になる。
「それは? なに? 」
「‥エンヴァッハ令嬢とその母親のことだ」
「ザッカは‥何を心配してるの? ‥どうしたいの?」
 どうしたいの? 
 って‥なんか答えを聞くのが‥怖い。
 殺したいって‥言われても困るな~。貴族を殺すとか‥リスクが高すぎる。
「‥分からない。
 ただ、知っておきたい。
 どんな奴か‥知ってることだけでもいいから教えて欲しいんだ。
 絶対に、ナナフルを危ない目に合わせたくないんだ。
 何も出来ることなんてないし‥きっと何かすればかえって悪いことになるって分かるけど‥何か出来ないかって考えて‥いてもたってもいられないんだ」
 いらだっているような‥困っているような‥ザッカの表情。
 いつもとは違う素の‥ただの男・ザッカの顔。
 ‥俺も「信用される人間」になったってこと‥かな? 
 アンバーは苦笑いして、小さくため息をつく。
「エンヴァッハ夫人については、フタバちゃんの方が詳しい。令嬢の現状については、俺が調べておく」
 アンバーの言葉に、ほっとした表情を見せるザッカ。

 ホントにナナフルのこと愛してるんだなって思った。
 俺がいなくなっちゃう前に、それは何とかしとかなきゃってことだよね。
 それは、俺が居なくなることを考えると悲しい‥とは別問題。‥感情論ではない現実問題だ。
 情にもろいザッカらしくない、ちょっと非情な行動。

 そうせずにいられないほど、ザッカはナナフルが大事だってことだろう。


 ‥俺には一生分からないであろう感覚。
 コリンの事、今は好きだ。‥好きだって思ってるけど、「唯一無二で、コイツの為なら何でもやる」様な存在かって言われると‥その時(何かやらなければならないような状況)にならないと分からないけど‥どうだろうって‥。
 (コリンじゃなくても)なんか可愛い子がいたら取り合えず声かけるし、気持ちいいこと大好きだし、それが愛だっていえばそうだろうし。全く興味もないような相手と、そういう関係になることなんて‥ない。遊びで‥ってことならあるけど、それは別問題デショ? 

 唯一無二かあ‥。

 きっとコリンやシークも「そんな愛」なんて知らないだろう。
 ロナウもフタバちゃんも知らないだろうけど、ロナウは「それでも何となくやっていく」奴だし、それはフタバも同じ。コリンやシークみたいに愛に幻想なんて抱いていない。

 コリンは‥
 一言で言えば、若い。
 子供だ。流されやすいし、好奇心が旺盛。
 きっと、彼の「ホントの一番」は魔法だ。
 シークの事好きだってのも本当だろうけど、‥憧れの延長って感は否めない。
 そういうのは、シークも同じ。
 幼い頃に両親を亡くし、「ホントの家族」ってものを知らない。‥もしかしたら、その時の記憶はかすかに残ってて‥その時に戻りたいって思ってるのかも。‥「家族の愛情」ってのに餓えてるのかもしれない。
 だけど、他人に対してずっと壁を作ってて‥その壁を崩したのがコリンだった。
 シークもコリンと同じ。
 てんで恋愛初心者で、それが愛なんだか、好奇心なんだか、単なる性欲なんだかわかってない。
「お互い分かってないながらも、一緒に居ればいずれ何とかなるものなのか、それとも、「それは気のせいなんだよ」って教えてやるのが親切なのか‥」
 
 そもそも、
 唯一無二ってどうやったら出会えるんだろ。
 ホントに全員出会えるもんなんだろうか? 
 今、シークやコリンに「アンタらは恋愛初心者だからただ単に何となく付き合ってるに過ぎないの。周りを見てみな。もっとアンタらに「ホントに合う」人はいるよ、きっとね」って言っても「そんなのどうでもいい! 」ってキレるだろうな。
 それこそ、自棄になって‥「それは違う! 」「そんなのない! 」って言い張るだろうし、思い込むだろう。
 だから、言い方は‥考えないといけないな‥とか。


 俺が「皆に何も出来なくなるまで」に「しておかないといけないこと」は、あまりにも多いんだ。
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