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閑話 ともだちと恋人①
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(フタバside)
「コリンにとってともだちと恋人の違いって何ですの? 」
夕食後、庭で一人、例の魔道具‥夜目が効きやすくなる眼鏡? を試しているコリンを見つけたので、フタバは何となく話しかけた。
ロナウは素振りをして、その後剣の手入れをするって言ってた。今は素振りを終えて剣の手入れをしているのか、ロナウの部屋に明かりがついている。
コリンと二人きりで話すのって‥そういえば久し振りだな‥と思う。
「違いって‥。いや、全然違うじゃない」
コリンがフタバに気付いて振り向く。
眼鏡をかけたコリンは、見慣れない。
ちょっと賢そうに見える‥とは思うけど、世に言う「眼鏡男子似合う~」って感じじゃ、ない。
コリンの綺麗な目が隠れちゃって勿体ないな‥って思う感じ。
「どう違うと思う? 」
私が聞くと、コリンはん~って顔を上向けて‥ちょっと考える仕草をして、
「例えば‥友達とはキスをしないけど、恋人とはキスする‥とかは、よく言われるね」
全く照れる様子もなくそんなことを言う。
キス‥コリンの口からそんな単語が出て来るなんて‥。コリンは‥そういう経験あるのかしら‥。‥あってもおかしくないですわよね‥コリンにはシークさんっていう恋人がいるんだから‥。
そんなことを考えて‥赤面している私を置いてけぼりにして‥
「それ以前に、キスをする雰囲気になるかならないか‥だよね」
更にコリンが言った。
「雰囲気‥」
アダルティ~な雰囲気ってこと‥ですわよね‥。
なんか‥エロいわ、コリン!
「友達にそんな感情持ったら、なんか‥気まずくなるじゃん? そう言う感じ」
‥分かるような分からないような‥。
「僕にとって、友達ってそういう‥色っぽい感情を持たない関係なの。友達と何となく一線超えちゃった! とか‥在り得ないの。友達は友達、恋人は恋人なの。
だからね。僕にとって恋人は「何でも話せる」「素の表情を見せられる」って関係じゃない。
例えばロナウには変顔見られたってどうでもいい‥って思うけど、シークさんには絶対見せたくない」
コリンがきっぱりと言い切った。
なんか‥それは分かる。
恋人には可愛いって思われたい。変顔するにしても「それが変顔? 可愛いだけじゃん! 」な顔を見せたい。‥ガチで笑われる顔とか、絶対しない。
「私もロナウには変顔見られてもダメージ受けないけど、アンバー様に偶然変顔してるの見られたとしたら‥「もういっそのこと殺して! 」って思っちゃうわ」
私が同意すると、コリンは「でしょ」って言って「ってか、フタバちゃん‥。いちおロナウは婚約者デショ」って笑った。
二人でふふって笑ってると、ふと‥
「コリンは‥」
聞いてみたくなった。今しか聞けないと思ったから‥
「え? 」
私の口調に、コリンがわずかに身構えたのが分かった。
きっと、私の声とか様子がさっきまでとちょっと変わったのが‥分かったんだろう。
「コリンは‥アンバー様に変顔見られても‥何とも思わない? 」
コリンは‥
アンバー様の事、どう思っているんだろう。
「分からない。‥アンバーはでも、友達‥とは違う‥気がする。‥だけど、将来恋に変わっていくかも‥ってのとは違う。‥そういうのじゃない。‥フタバちゃんには、僕とアンバーはどういう風に見えてる? 」
月明りに照らされて、コリンがふわり‥と微かに微笑む。
昼間のコリンと違って‥夜、月明りの下で見るコリンは‥落ち着かない。
人間じゃないみたいに綺麗で‥落ち着かない。
「‥お互い友惹かれ合ってる合ってる‥そんな気がする」
ボソリ‥と呟くとコリンがちょっと俯いて‥ふふっと笑った。
「惹かれ合ってる‥かあ。多分ね。アンバーと僕は‥似てるんだ」
そう呟くと、上を向いて、私と真っすぐ視線を合わせて来る。
「僕はね。‥アンバーとの関係を言葉にしかねてるんだ。だけど‥今まで「まあ‥問題ないか」って思ってた。でも‥そうだね。アンバーのことを好きな子から見たら「どう思ってるのさ」って‥なるよね。
ねえ‥
今。そこら辺を一緒に検証してくれない? 」
にっこりとコリンが微笑む。
‥なんか変な話になっちゃったぞ? だけど‥なんか‥気になってるのは確かだし、私が一人あれこれ考えても一生答えが出ないことだし‥コリンと一緒に考えるなら、それ以上に正しい検証方法はないかも? とか。
「僕の友達の基準ではかれないだけなのかも。ね、フタバちゃんにとって友達と恋人の違いは? 」
コリンが私に質問してきた。
‥そうね~。
私が首をひねって考えてると、
「フタバちゃんは‥恋人とどういう風に同じ時間を過ごしたい? ともだちと違う「もっと深い付き合い」に何を望む? 」
コリンが質問の仕方を変えて来た。
「‥夜通し愚痴を言い合って‥最後はお酒を飲んで、泣いたりわめいたり‥で、気が付いたら皆で雑魚寝‥は友達。
愚痴を聞いてもらって‥最後は「‥僕が貴女を苦しめる奴を消してあげたい‥」「そんな‥そんなことしちゃダメですわ。でも‥ありがとうございます」って甘い雰囲気になって‥ね(その後‥は、そういう経験のないフタバには具体的には浮かばないから、そこは適当に誤魔化しといた)‥ってのが恋人‥じゃない? 」
あ、なんか変な例え言っちゃった。しかもコリンは「何を望む」って聞いたのに、この答え方は‥変かも。
まあ‥でも、こういう答え方しかできない‥浮かばないからしょうがない。
あ~なんか、頬っぺた熱くなってきた‥。こういう話‥恥ずかしいわ~。
コリンが吹き出して、
「ぶは‥ゴメン。笑わないでおこうッて思ったのに‥笑っちゃった。お酒飲んで気が付いたら雑魚寝って。‥いいね、楽しそう。恋人同士はそんなドタバタじゃなくってもっとロマンチックだ‥ってことだね。
でも‥いいね。シークさんに「俺がついてるから大丈夫だよ」って言われたら‥アドレナリン分泌過多で鼻血出るかもしれない‥」
って言った。
確かに‥シークさんの「俺が付いてるから大丈夫だよ」は‥(言わないだろうけど)破壊力抜群‥!
お願いします! 私を守って! ってなるわね! 頼りがいある!
「アンバー様だったら? 」
「アンバーは‥アンバーねえ‥。
‥アンバーから「俺がついてるから大丈夫だよ」なんて言われたら‥洒落なんないよね、「こいつ絶対殺しに行きかねない‥って、(さっきまで愚痴ってた)相手を擁護しに行くね‥あいつ、ホント洒落なんないから」
コリンが「ホントに洒落なんない」って顔で言う。
なんか微笑ましいって感じがした。‥ホント、コリンはアンバー様の事分かってる。
それに
「コリンったら。アンバー様に愛されてる自覚あるのね」
ってホントに思う。
これは「やっかみ」とかじゃない。嫌味を言ったわけでもない。
コリンは嫌そうな顔をして
「は? そういう類の感情じゃないぞ。アンバーの場合はな。
アイツは‥「え、気に入らないなら消しちゃえばいいじゃん」ってタイプなんだ。安易で、適当で‥ホント洒落なんないんだ。アイツ僕のこと脳筋とか言ってるけど、アイツは‥能天筋だと思うぞ。
アイツの行動の基盤は「快楽と自己防衛」だな、きっと。‥脳味噌が筋肉に支配されてるよりなお悪いぞ。
僕も同じこと考えたりするけど、僕は「考えるだけ」。だけど、アイツはそれを実行に移す奴だぞ」
って言った。
ホント。コリンはアンバー様の事理解してる。
私がそう言うと
「理解ってか。アイツのことなんて理解しようとしなくても勝手に分かるだろ? 単純だもん」
コリンがさも当たり前って風に言って、首を傾げた。
「少なくとも私たちはアンバー様の事単純だって思ったことはありませんわ」
そんなコリンが面白くって、私はついふふっと笑ってしまった。
アンバー様は私たちに心をそう開いてませんもの。
きっと‥それはコリンだけが分かる感情だわ。
コリンはそんな私に、苦笑いすると
「そりゃ、アイツの顔に引っ張られ過ぎてるだけだって。アイツ、あんな繊細な顔してるけど、ホントそんなんじゃないぞ」
って、また、「ホントに何でもない」って表情で言った。
ああ、それは‥。
「コリン。それは、愛ですわ。
二人の間に、他人が入り込めない愛があるから、コリンはアンバー様のことがなんでも理解できるんですわ。
素敵ですわね」
そう。‥愛ですわ。
貴方は、意地張って認めないと思うけど、‥それは、紛れもない愛ですわ。
「は? ‥僕の好きな人はシークさんだ。僕はシークさん以外好きじゃない」
コリンが私を睨んで‥言う。いつも通り、仔犬が睨んでるみたいに‥全然怖くない奴だ。
私はふふっと笑って
「それこそ、思い込みかもしれないですよ。自分はこうって思い込んで、本当の想いに蓋をしているだけなのかも。コリンはシークさんに憧れてて、そして、そんな彼と一緒にいる自分が好き。
だけど、コリンが一番理解しているのはアンバー様。きっと、シークさんとコリンの共通点より、アンバー様とコリンの共通点の方が多い」
コリンに言い聞かせるように‥自分に言い聞かせるように言った。
コリンが愛してるのはアンバー様。そして‥アンバー様が愛してるのもコリンって‥自分に言い聞かせる。だから、アンバー様のことは好きになっても無駄。諦めろっ‥って自分に言い聞かせる。
コリンがふ、っと真顔になる。
「それが? 」
「え? 」
ドキッとした。
あんまりコリンが真剣な顔をするから。
‥今まで見たことない位‥真剣な顔をしたから。
息をのんで黙り込んだ私に構わずコリンが話を続ける。
「確かに、僕とシークさんは違う。まったく違うから‥僕はシークさんに憧れた。
シークさんは僕が望んでる理想を‥まるで体現しているかのような人なんだ。
優しくって、強くって、落ち着いてる。大人で、誰とでもいい付き合いができる。
人には優しいけど、自分に厳しい。
穏やかで、些細なことで激高しない。
恋人である僕に優しいけど、僕だけ特別扱いとかしない。
‥僕には出来ないこと、僕は持ってないものをいっぱい持ってる。きっとシークさんならこうするだろうな~って思うこと‥期待することは、やっぱりきっちりしてくれるんだけど‥でも、僕が思う以上のことをしたりする。
シークさんを見てたら安心するだけじゃなくって‥ドキドキしたり‥期待したりする。
シークさんみたいになりたいって思う。一生見ていたいって思う。一生一緒に居たい‥って思う。
だけど‥アンバーとだったら‥
アンバーといたら‥確かに楽だし、楽しい。いっしょになって騒いだり、魔術の腕を高めあったり‥有意義な時間を過ごせる。だけど、‥それだけだ
アンバーは、僕の予想を超えてきたり、しない。まるで、僕らは鏡みたいに‥そっくりだから
鏡に恋なんて‥絶対したくない。
それは‥不毛だし、苦しい」
しばらく声が出せなかった。
コリンの言ってることが理解できなかったから‥じゃないし、反論があったわけでは無い。
ただ、
そういうの‥あるよね。分かるわ~って思った。
分かるから、一緒に居たら安心する‥好き。‥だけど、お互い分かりすぎるから、‥一緒に居たくない。
人間ズルいし、弱いから‥でも、自分を好きでいたいから、カッコつけたり、平気な振りしたりして相手に自分を偽って見せたい時だってある。
だけど、それすらできなかったら‥きっと、辛い。総てを理解して「見て見ぬふり」をしてくれても‥「すべて分かられてるんだろうな」って思ったら、嫌じゃない。
‥ずっと自分の弱さと向き合う人生とか‥耐えられないよ。
コリンは自分に厳しいし、びっくりするほど自分に自信がない。‥だけど、コリンだって人並みに自分の事を好きになりたいって思ってる。
コリンはアンバーさんと、一生恋することはない‥。
「コリンにとってともだちと恋人の違いって何ですの? 」
夕食後、庭で一人、例の魔道具‥夜目が効きやすくなる眼鏡? を試しているコリンを見つけたので、フタバは何となく話しかけた。
ロナウは素振りをして、その後剣の手入れをするって言ってた。今は素振りを終えて剣の手入れをしているのか、ロナウの部屋に明かりがついている。
コリンと二人きりで話すのって‥そういえば久し振りだな‥と思う。
「違いって‥。いや、全然違うじゃない」
コリンがフタバに気付いて振り向く。
眼鏡をかけたコリンは、見慣れない。
ちょっと賢そうに見える‥とは思うけど、世に言う「眼鏡男子似合う~」って感じじゃ、ない。
コリンの綺麗な目が隠れちゃって勿体ないな‥って思う感じ。
「どう違うと思う? 」
私が聞くと、コリンはん~って顔を上向けて‥ちょっと考える仕草をして、
「例えば‥友達とはキスをしないけど、恋人とはキスする‥とかは、よく言われるね」
全く照れる様子もなくそんなことを言う。
キス‥コリンの口からそんな単語が出て来るなんて‥。コリンは‥そういう経験あるのかしら‥。‥あってもおかしくないですわよね‥コリンにはシークさんっていう恋人がいるんだから‥。
そんなことを考えて‥赤面している私を置いてけぼりにして‥
「それ以前に、キスをする雰囲気になるかならないか‥だよね」
更にコリンが言った。
「雰囲気‥」
アダルティ~な雰囲気ってこと‥ですわよね‥。
なんか‥エロいわ、コリン!
「友達にそんな感情持ったら、なんか‥気まずくなるじゃん? そう言う感じ」
‥分かるような分からないような‥。
「僕にとって、友達ってそういう‥色っぽい感情を持たない関係なの。友達と何となく一線超えちゃった! とか‥在り得ないの。友達は友達、恋人は恋人なの。
だからね。僕にとって恋人は「何でも話せる」「素の表情を見せられる」って関係じゃない。
例えばロナウには変顔見られたってどうでもいい‥って思うけど、シークさんには絶対見せたくない」
コリンがきっぱりと言い切った。
なんか‥それは分かる。
恋人には可愛いって思われたい。変顔するにしても「それが変顔? 可愛いだけじゃん! 」な顔を見せたい。‥ガチで笑われる顔とか、絶対しない。
「私もロナウには変顔見られてもダメージ受けないけど、アンバー様に偶然変顔してるの見られたとしたら‥「もういっそのこと殺して! 」って思っちゃうわ」
私が同意すると、コリンは「でしょ」って言って「ってか、フタバちゃん‥。いちおロナウは婚約者デショ」って笑った。
二人でふふって笑ってると、ふと‥
「コリンは‥」
聞いてみたくなった。今しか聞けないと思ったから‥
「え? 」
私の口調に、コリンがわずかに身構えたのが分かった。
きっと、私の声とか様子がさっきまでとちょっと変わったのが‥分かったんだろう。
「コリンは‥アンバー様に変顔見られても‥何とも思わない? 」
コリンは‥
アンバー様の事、どう思っているんだろう。
「分からない。‥アンバーはでも、友達‥とは違う‥気がする。‥だけど、将来恋に変わっていくかも‥ってのとは違う。‥そういうのじゃない。‥フタバちゃんには、僕とアンバーはどういう風に見えてる? 」
月明りに照らされて、コリンがふわり‥と微かに微笑む。
昼間のコリンと違って‥夜、月明りの下で見るコリンは‥落ち着かない。
人間じゃないみたいに綺麗で‥落ち着かない。
「‥お互い友惹かれ合ってる合ってる‥そんな気がする」
ボソリ‥と呟くとコリンがちょっと俯いて‥ふふっと笑った。
「惹かれ合ってる‥かあ。多分ね。アンバーと僕は‥似てるんだ」
そう呟くと、上を向いて、私と真っすぐ視線を合わせて来る。
「僕はね。‥アンバーとの関係を言葉にしかねてるんだ。だけど‥今まで「まあ‥問題ないか」って思ってた。でも‥そうだね。アンバーのことを好きな子から見たら「どう思ってるのさ」って‥なるよね。
ねえ‥
今。そこら辺を一緒に検証してくれない? 」
にっこりとコリンが微笑む。
‥なんか変な話になっちゃったぞ? だけど‥なんか‥気になってるのは確かだし、私が一人あれこれ考えても一生答えが出ないことだし‥コリンと一緒に考えるなら、それ以上に正しい検証方法はないかも? とか。
「僕の友達の基準ではかれないだけなのかも。ね、フタバちゃんにとって友達と恋人の違いは? 」
コリンが私に質問してきた。
‥そうね~。
私が首をひねって考えてると、
「フタバちゃんは‥恋人とどういう風に同じ時間を過ごしたい? ともだちと違う「もっと深い付き合い」に何を望む? 」
コリンが質問の仕方を変えて来た。
「‥夜通し愚痴を言い合って‥最後はお酒を飲んで、泣いたりわめいたり‥で、気が付いたら皆で雑魚寝‥は友達。
愚痴を聞いてもらって‥最後は「‥僕が貴女を苦しめる奴を消してあげたい‥」「そんな‥そんなことしちゃダメですわ。でも‥ありがとうございます」って甘い雰囲気になって‥ね(その後‥は、そういう経験のないフタバには具体的には浮かばないから、そこは適当に誤魔化しといた)‥ってのが恋人‥じゃない? 」
あ、なんか変な例え言っちゃった。しかもコリンは「何を望む」って聞いたのに、この答え方は‥変かも。
まあ‥でも、こういう答え方しかできない‥浮かばないからしょうがない。
あ~なんか、頬っぺた熱くなってきた‥。こういう話‥恥ずかしいわ~。
コリンが吹き出して、
「ぶは‥ゴメン。笑わないでおこうッて思ったのに‥笑っちゃった。お酒飲んで気が付いたら雑魚寝って。‥いいね、楽しそう。恋人同士はそんなドタバタじゃなくってもっとロマンチックだ‥ってことだね。
でも‥いいね。シークさんに「俺がついてるから大丈夫だよ」って言われたら‥アドレナリン分泌過多で鼻血出るかもしれない‥」
って言った。
確かに‥シークさんの「俺が付いてるから大丈夫だよ」は‥(言わないだろうけど)破壊力抜群‥!
お願いします! 私を守って! ってなるわね! 頼りがいある!
「アンバー様だったら? 」
「アンバーは‥アンバーねえ‥。
‥アンバーから「俺がついてるから大丈夫だよ」なんて言われたら‥洒落なんないよね、「こいつ絶対殺しに行きかねない‥って、(さっきまで愚痴ってた)相手を擁護しに行くね‥あいつ、ホント洒落なんないから」
コリンが「ホントに洒落なんない」って顔で言う。
なんか微笑ましいって感じがした。‥ホント、コリンはアンバー様の事分かってる。
それに
「コリンったら。アンバー様に愛されてる自覚あるのね」
ってホントに思う。
これは「やっかみ」とかじゃない。嫌味を言ったわけでもない。
コリンは嫌そうな顔をして
「は? そういう類の感情じゃないぞ。アンバーの場合はな。
アイツは‥「え、気に入らないなら消しちゃえばいいじゃん」ってタイプなんだ。安易で、適当で‥ホント洒落なんないんだ。アイツ僕のこと脳筋とか言ってるけど、アイツは‥能天筋だと思うぞ。
アイツの行動の基盤は「快楽と自己防衛」だな、きっと。‥脳味噌が筋肉に支配されてるよりなお悪いぞ。
僕も同じこと考えたりするけど、僕は「考えるだけ」。だけど、アイツはそれを実行に移す奴だぞ」
って言った。
ホント。コリンはアンバー様の事理解してる。
私がそう言うと
「理解ってか。アイツのことなんて理解しようとしなくても勝手に分かるだろ? 単純だもん」
コリンがさも当たり前って風に言って、首を傾げた。
「少なくとも私たちはアンバー様の事単純だって思ったことはありませんわ」
そんなコリンが面白くって、私はついふふっと笑ってしまった。
アンバー様は私たちに心をそう開いてませんもの。
きっと‥それはコリンだけが分かる感情だわ。
コリンはそんな私に、苦笑いすると
「そりゃ、アイツの顔に引っ張られ過ぎてるだけだって。アイツ、あんな繊細な顔してるけど、ホントそんなんじゃないぞ」
って、また、「ホントに何でもない」って表情で言った。
ああ、それは‥。
「コリン。それは、愛ですわ。
二人の間に、他人が入り込めない愛があるから、コリンはアンバー様のことがなんでも理解できるんですわ。
素敵ですわね」
そう。‥愛ですわ。
貴方は、意地張って認めないと思うけど、‥それは、紛れもない愛ですわ。
「は? ‥僕の好きな人はシークさんだ。僕はシークさん以外好きじゃない」
コリンが私を睨んで‥言う。いつも通り、仔犬が睨んでるみたいに‥全然怖くない奴だ。
私はふふっと笑って
「それこそ、思い込みかもしれないですよ。自分はこうって思い込んで、本当の想いに蓋をしているだけなのかも。コリンはシークさんに憧れてて、そして、そんな彼と一緒にいる自分が好き。
だけど、コリンが一番理解しているのはアンバー様。きっと、シークさんとコリンの共通点より、アンバー様とコリンの共通点の方が多い」
コリンに言い聞かせるように‥自分に言い聞かせるように言った。
コリンが愛してるのはアンバー様。そして‥アンバー様が愛してるのもコリンって‥自分に言い聞かせる。だから、アンバー様のことは好きになっても無駄。諦めろっ‥って自分に言い聞かせる。
コリンがふ、っと真顔になる。
「それが? 」
「え? 」
ドキッとした。
あんまりコリンが真剣な顔をするから。
‥今まで見たことない位‥真剣な顔をしたから。
息をのんで黙り込んだ私に構わずコリンが話を続ける。
「確かに、僕とシークさんは違う。まったく違うから‥僕はシークさんに憧れた。
シークさんは僕が望んでる理想を‥まるで体現しているかのような人なんだ。
優しくって、強くって、落ち着いてる。大人で、誰とでもいい付き合いができる。
人には優しいけど、自分に厳しい。
穏やかで、些細なことで激高しない。
恋人である僕に優しいけど、僕だけ特別扱いとかしない。
‥僕には出来ないこと、僕は持ってないものをいっぱい持ってる。きっとシークさんならこうするだろうな~って思うこと‥期待することは、やっぱりきっちりしてくれるんだけど‥でも、僕が思う以上のことをしたりする。
シークさんを見てたら安心するだけじゃなくって‥ドキドキしたり‥期待したりする。
シークさんみたいになりたいって思う。一生見ていたいって思う。一生一緒に居たい‥って思う。
だけど‥アンバーとだったら‥
アンバーといたら‥確かに楽だし、楽しい。いっしょになって騒いだり、魔術の腕を高めあったり‥有意義な時間を過ごせる。だけど、‥それだけだ
アンバーは、僕の予想を超えてきたり、しない。まるで、僕らは鏡みたいに‥そっくりだから
鏡に恋なんて‥絶対したくない。
それは‥不毛だし、苦しい」
しばらく声が出せなかった。
コリンの言ってることが理解できなかったから‥じゃないし、反論があったわけでは無い。
ただ、
そういうの‥あるよね。分かるわ~って思った。
分かるから、一緒に居たら安心する‥好き。‥だけど、お互い分かりすぎるから、‥一緒に居たくない。
人間ズルいし、弱いから‥でも、自分を好きでいたいから、カッコつけたり、平気な振りしたりして相手に自分を偽って見せたい時だってある。
だけど、それすらできなかったら‥きっと、辛い。総てを理解して「見て見ぬふり」をしてくれても‥「すべて分かられてるんだろうな」って思ったら、嫌じゃない。
‥ずっと自分の弱さと向き合う人生とか‥耐えられないよ。
コリンは自分に厳しいし、びっくりするほど自分に自信がない。‥だけど、コリンだって人並みに自分の事を好きになりたいって思ってる。
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