この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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206.フタバ、不満の結果報告

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「ごめんなさい。私‥失敗しましたわ」
 メイドがお茶を配り終わり、会釈して部屋を出、扉が確実に閉じたのを確認した後、コリンが防音結界を張る。
 その一連の作業を静かに待ち‥
 いつも以上にしん‥と静まり返った室内で、一番最初に口を開いたのはフタバだった。
 座ったまま‥深々と頭を下げるフタバ。
 ‥つられたようにロナウとコリンも頭を下げる。
「その‥僕たちも‥失敗した。‥ごめんなさい! 」

 夕食後のフタバの部屋。
 ここに居るのは、何時もの三人だ。
 シャルルとカールは夕飯を前に帰っていった。
 今日フタバがすることは、シャルルの話を聞くだけ。
 初めからそれは皆分かっている。
 シャルルに魔薬を売りつけた犯人を捕まえてくれる手助けをしてくれる‥とか、それ以前に犯人の手がかりをフタバたちが知っているかも‥とか、そんなことシャルルは期待していない。‥それ以前に、シャルルは魔薬のことをカールに知られるのだけは嫌だった。
 決して安くないお金をだまし取られたわけだが、その事で騒げば、(例えば警察や他の人に)「そんなものを買った」ってことを知られる。‥それだけは嫌だった。
 ‥それが犯人の思う壺だって分かってても‥泣き寝入りだって分かってても‥、「もう関わり合いにならないで済むなら」それでいい‥って思う。
 だけど、魔薬について知っているかもしれない人にだったら‥話くらいなら‥聞いて欲しい。
 フタバは、優しく自分の話を聞いてくれたし、‥馬鹿なことしてって軽蔑したり‥責めたりしなかったし、カールに言う事もないだろう。
 シャルルにしては、それだけで大満足だったんだ。
 だけど‥ちょっと「コリンさんなら、どう言っただろう? コリンさんが聞いてくれたなら‥何か変わったかな? 」‥とは思った。だけど、憧れのコリンさんに自分のカッコ悪い部分を見せなきゃならない‥のは、ちょっと嫌かな‥とも思ったり。
 だから、これでよかった‥って思った。
 最後に、もう会うこともないだろう、麗しの大魔法使いをもう一度じっと見て‥目に焼き付けようって思った。
 やっぱり凄く可愛い‥こんな人‥現実にいるのが信じられない程可愛いし、綺麗。花みたいな可憐さ‥っていうより、透き通った宝石みたいに‥綺麗。例えて言うならば、ピンク色とかの‥可愛い色の宝石の原石‥って感じ。全然フワフワしてなくって‥こんなに可愛いのに、堂々としてて頼りになる。
 やっぱり、コリンさんに憧れないわけがない。‥兄さんはいいな‥。この人と同級生で、教会の同じ教室で学んでいたんだもの。‥やっぱり、私も教会に行きたかったなあ‥。
 それに
 フタバさん。
 フタバさんもすんごいキレイ。‥ロナウさんは平凡だけど。前にコリンさんの横にいる時も「地味だな~」って思ってたけど、フタバさんとコリンさんの間に居たら‥ホントに地味。‥だけど、なんか一番親近感持てる‥。私もお兄ちゃんもロナウさん以上に‥地味だから。

「今日は、ホントにありがとうございました」
 にっこりと微笑み、シャルルは去っていった。カールも「またな」って言って、さわやかに手を挙げた。
 カールとの「また」があるとは思えないが‥ロナウとフタバも‥微笑を浮かべて「またね」と言って手を振った。‥勿論、心の中ではコリン同様‥不完全燃焼感満載だ。コリンは‥その不満感を隠そうともせず顔に全面に出していたっけ。
 収穫、ゼロ。
 ‥どころか、過去の‥やりっぱなしだった事(ってか、黒歴史? )に足引っ張られたって感じ。
 やりっぱなしはよくないけど、誰も本気にするとは思ってないじゃない。そういう‥適当に流しておいて欲しいこと‥本気にされちゃうとか‥勘弁してって感じじゃない? こっちは‥「やりっぱなしにしといていい」位にしか思ってないのにさ‥。
 そういうのは‥(相手が完全に忘れ去るまで)やり逃げするに限るってもんじゃない? (無責任MAX、クズ発言)


「‥とにかく、結果報告をしようか‥」
 ロナウが仕切って、三人で頷きあう。
「まずは、私の報告からさせて」
 と言ったフタバにロナウもコリンも異論はなかった。
 ええ、自分たちの報告なんて「なんか同窓会の時の新ビジネスの話されて。ああ、別にもう忘れてもらっていいから」って思った‥ぐらいだ。

「結論から話すと‥大して実のある話は聞けてないの」
 肩をすくめ‥フタバは苦笑いする。
 ロナウとコリンは、軽く頷き‥その後、小さく首を振った。
「聞きにくかったと思う。‥ホントにフタバちゃんには悪いことした」
 ロナウがじっとフタバを見つめて、軽く頭を下げる。
「コリンなら‥もっと実のある話を聞けたんだろうな‥って思ったら‥なんか、私がしゃしゃり出て‥かえって悪かったな‥って思った」
 フタバはチラリとコリンを見て、肩をすくめる。
 コリンは、首をちょっと傾げ、フタバを見る。
「僕? 」
「コリン? 」
 ロナウも首を傾げる。

 コリンは、急にフタバから名前を呼ばれたことに、
 ロナウは、フタバの話の内容に対して‥首を傾げている。
 完全に‥予想外って顔だ。

「ええ、だって、コリンは尋問のスペシャリスト‥誓約士じゃない。
 尋問には慣れてるんでしょ? 」
 フタバからしたら、全く予想外な‥二人の‥特にコリンの‥キョトンとした顔に、フタバは首を傾げる。

 尋問のスペシャリストって!

 ぷ、とロナウが小さく吹き出す。
「何言ってるの。フタバちゃん。コリンは誓約士の資格は持ってるけど、誓約士の仕事なんてしてないじゃない! しかも、コリンが尋問って! 絶対向いてないって! コリンはいつも力技じゃないか! 」
 ははって笑いながら言うロナウに、コリンも同意‥
「ん~。‥まだまだだよ。僕なんて‥」
 ‥しなかった。肩をすくめて、ちょっとバツが悪そうな表情で、フタバを見る。
「へ!? だって、してないじゃない!? 誓約士。コリンは雑誌社で働いてるでしょ?! 」
 驚いたロナウがコリンを振り向く。
 コリンは、「何言ってんの? 」って顔でロナウを見る。
「‥誓約士が「僕は誓約士ですよ」って傍から分かってどうするんだよ。誓約士はたとえ警察と手を組む‥みたいな目立つ仕事をしてたって‥表向きには出てこない。
 なんの仕事をしていようとも、肩書はただ「誓約士」だ。
 誓約士が「その仕事を優先的にしている」に過ぎない。‥警察は仕事が多いし、警察との連携も大切だから、相棒ってか‥タッグを組んで専属になってるってだけのことだ。
 誓約士が誓約士として毎日出勤する職に就く‥なんてことはない。
 普段別の仕事についていて、仕事があればそれ(※ 誓約士の仕事)を受ける。誓約士になったからには、資格を持ってるだけ‥っていう者はいない。
 常に誓約士のネットワークで仕事が依頼され、一定数以上の仕事を受けることが義務付けられてるんだ。
 誓約士として、給料をもらっている以上それは当然の事だ」
 うんうん、とフタバも頷く。
「‥コリンも誓約士の仕事を受けてる‥ってこと? 最近も? フタバちゃんはそれを知っていたの? 」
 ロナウが目を見開いてコリンとフタバを見た。
「‥というか、魔術士もそうだから。ロナウは魔術士協会に籍を置いてないから‥(知らないんだよね? )コリンんは魔術士の仕事も受けてるの? 」
 フタバが肩をすくめる。
「いや。誓約士の仕事を受けることで免除されてる。‥協会費は払ってるけど。(今思えば、悪の組織の資金集めに協力してたんだよな‥)
 ‥フタバちゃん家に来てからは受けてないけど、それは別に隠してるから‥とかじゃなくって、ただ良さそうな仕事がなかったから。
 あと‥尋問の仕事は‥僕はあまりしてないけど、研修で一年程練習させられたことは‥ある。
 そもそもね、誓約士の尋問は‥僕じゃなっても、力技だよ。誓約士が、「言わなきゃ‥どうなっても知らないよ? 」ってにっこり笑えば‥命が惜しい奴は喋るね」
 ‥命が惜しくない奴は‥??
 にっこり笑うコリンに、ロナウは‥((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルだ。
 それ‥ってあれだよね。「く‥喋るもんか! 殺せ! 」ってなるやつだよね? 喋らされるくらいなら自分で死を選びます‥って奴だよね‥?
 ガクブルしてるロナウに、コリンは‥更に笑みを深める。
「あのね。人間理性を失っちゃったら、目の前の敵‥僕ら誓約士‥以外の恐怖なんて、どうでも良くなくなるんだ。‥忘れちゃうっていうか‥わけわかんなくなっちゃうんだろうね。
 だから、雇い主がどんなに脅しをかけていようとも‥、本能が恐れる僕らの方がずっと怖いから‥ただただ僕らから「今」逃れることしか考えられなくなる。
 雇い主に対する忠誠とか‥更に脆いね。
 だけど‥僕はそれを愚かだとも、弱いとも思わないよ。
 だって、仕方が無いことだもの。
 人間の‥生きとし生ける者の‥本能は所詮「怖いモノから逃れたい」「生きたい、死にたくない」だけだよ。‥シンプルにね」
 ‥どれ程怖いんだ‥誓約士‥。
「「‥‥‥((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」」
 ロナウとフタバは半笑いで‥もう一言も言葉を発することはない。
 コリンはそんな二人に気にする様子もなく‥うっすらと笑みを浮かべて続ける。
「人間、ホントの恐怖に直面したら‥恐怖って感覚だけしか覚えてられないみたいで‥あの人たち、僕らの顔すら覚えてないと思うよ。誓約士の秘密はそうやって守られていくんだろうね~」
 ‥まあ、一生シャバに出てくることもないんだろうけどね、は流石に言わないで置いた。
 ほの暗い笑みを消すと、顔をパっと上げて、二人に一際明るく笑いかける。

「‥と‥まあね、誓約士の尋問ってのは、別に技術のいるものではないって言いたかっただけ。
 僕は、シャルルに‥ただ合理的に‥シンプルに聞こうって思ってただけ。だって、無駄話しても仕方が無いでしょ? お互いに。
 でも、‥僕はこの通り女の子を気遣う‥とか苦手だから、フタバちゃんに聞いてもらえてよかったな‥って思ってる」
 って、ちょっと照れたような表情をする。
 美少年の照れたような笑顔。うん、可愛い。普通に可愛い。もう‥あざとい位可愛い。だけど‥あざといんじゃなくって、コリンは‥素で可愛い。天然で可愛い。
 怖いんだけど‥自分たちには関係ないからどうでもいいし‥どうでもいいなら‥全然問題なく「ただ可愛い」だけ。

 自分たちに無害で、最強に頼りになって、無敵に可愛い友達最高☆
 全然☆問題☆なし!

「‥合理的かあ」
 力技が基本の脳筋なコリンが‥合理的。
 うん、アンケート用紙渡して「これ書いて」って言いそう。
 ‥フタバちゃんでよかったよホント。女の子を気遣うとか苦手‥どころか、コリンは‥。うん‥魔法以外苦手なんじゃ‥? って気もする。
 そんな脳筋なコリンは、魔力量推定無限で‥その上、人には関心ないふりしてるけど、実は「やられたらやり返さずにおれるか」ってタイプで‥、その為に努力は惜しまんで~で、無駄に頑張っちゃうタイプ。‥ホントに、魔法オタクって方向に、コリンの関心が向いて‥よかった。「嫌いな奴ら、全員殺す‥ってか、全人類の王になる」って言いださないでよかった‥。
 なれそうだもんな~。魔☆王☆様。
 ロナウは心の中でそんなことを思った。(← だいぶダメになってきてる)

「で、これが今日の結果です」
 ぴらっとフタバがロナウとコリンの前に紙を置く。

Q「魔薬を飲んだの? 」
A yes
Q「服用した後の身体の不調は? 」
A No
Q「どこで買ったの? 」
A 街で
Q「誰から買ったの? 」
A 不明、教会関係者風の真面目そうな男。
Q「どんな状況? 」
A 当時の状況を覚えていないので、不明
Q「いくらだった? 」
A (絶妙なプライス)
Q「購入の切っ掛けは? 」
A 不明。でも、教会に通わせてもらえなかったことが心の底では不満だったのが一番の原因(だと本人は分析している)

 まさかのアンケート風! 
「‥まさか、この紙をシャルルに書かせた‥とかじゃないよね?? 」
 ロナウがドン引きしながらフタバに聞く。
 それって‥さっきコリンについて想像した「まさかの質問方法」なんですけど!??
「まさか! 」
 ははって笑うフタバに、「この中では僕が唯一‥人に優しい普通の人間なんじゃ‥? 」って思うロナウだった。
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