この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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199.兄として

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 気絶したまま目を覚まさない妹をおんぶして、近くのベンチに運んだ。
 そして、彼女が起きるのを待ちながら、カールは今日のことを考えていた。


「もう大丈夫だ。‥シャルルが魔術を学びたいって言う事はもうない‥と思う」
 ってコリンは言った。
 そしてロナウは
「‥解呪成功‥だな」
 って言った。

 解呪? シャルルは‥呪われてたってこと? どんな呪いなんだ? 
 コリンとロナウの話を総合すると‥
「シャルルが魔術を学びたいって言った」ことが「呪い」だってことになる?
 そして、呪いは解いたから‥、シャルルは魔術を学びたいって言わないだろう。
 ってこと?

 シャルルは、本当は魔術を学びたかったわけではない。
 それこそが呪いの本質で、シャルルの様子がおかしかったのは‥誰かから「どうこう言われ」て、そのことを信じ込んでしまい‥そう出来ない自分の現状がもどかしかったから。
 シャルルは、ちょっと真面目過ぎるところがあった。だから彼女は、「守らないといけない = 義務」は絶対に守らないといけないって思ったんだろう。

 「誰か」にシャルルは「何を」義務だと言われたのか。

 コリンとシャルルは何の話をしていただろうか?
 ‥何か‥変な話をしていた。
 コリンは魔術を
「ただただ、自由で楽しいもの。‥難しく考える必要も、まして優劣を競うものでもない」
 物だって言った。そして、シャルルに
「(魔術の芽を)芽吹かせることは義務でもなんてもないし、芽吹かせようとして、失敗しても誰かにどうこう言われる筋合いもない」
 って言って‥シャルルはそれを聞いて、
「そっか‥他人には‥関係ないんだ。
 そっか」
 って言って、納得して、呪いが解けた‥らしい。

 つまり、シャルルの呪いは‥、「魔術の芽を芽吹かせること」は義務で、そして「失敗すると誰かにどうこう言われる」と「誰かに」思い込まされた‥ってことだったのか‥。
 そして、特別な魔術士であるコリンの解呪で、シャルルは呪いから解放された。

 誰に呪いをかけられたのか? について、コリンたちには何か「心当たり」があるようだ。
 シャルルの行動について聞いてきたのは、そのせいだろう。

「‥頭が割れそうだ。なんなんだ。僕らみたいな貧乏貴族に呪いを掛けて‥どうするつもりだ」
 ロナウはつい、苛立ったようにつぶやいた。

 犯人について覚えがない。
 恨みを持たれた覚えもないし、妬まれる様な要素も僕にはない。
 貧乏貴族だし、成績優秀でもないし、顔だって悲しくなるくらい‥平凡だ。
 コリンみたいに、成績優秀で、顔が良かって、‥あの性格なら、妬まれたり恨まれたりすることもあるだろうけど‥僕らはそのどれもない。
 悲しくなる程‥平凡なんだ。
 そんな平凡な僕の妹になんだって犯人はそんな呪いをかけたんだろう‥。

 魔術を学ばないといけないと犯人が言った。(仮定)

 何、シャルルに無責任なこと言っちゃってくれたんだ。
 ‥そう、無責任なことなんだけど‥シャルルが本当に「心から嫌だ」って思ったのであったら、そいつの話に耳さえ貸さなかっただろう。
 シャルルが耳を貸したのは‥「少しは」そう思っていたから‥。

 面白そうな話だとか‥美味しそうなお誘いにだったら‥シャルルは乗らなかっただろう。

 シャルルはいつも真面目で努力家で、我が儘さえ言ったことがなかったから。
 シャルルは‥自分に厳しい子なんだ。

 そんなシャルルが、初めて自分の希望を言ったのは‥教会で学びたいって言ったあの時だけだった。
 だけど、両親はそれに反対した。「学びたいなら女学園に行かせてあげるから」って。
 ‥学ぶことに対して反対しているのではない。教会で学ぶのに反対しているだけだったんだ。その判断は‥僕にも十分納得できた。
 だって、教会に行ったって、シャルルは聖女にはなれないだろう。だって、シャルルの属性は‥光属性じゃないから。
 聖女になるには、光属性の魔術が使えないといけない。
 僕ら兄妹は、土属性の魔術しか使えない。それは‥両親も同じだ。
 ‥それに、‥言いたくはないが‥僕もだけど‥シャルルには華がない。
 聖女になれる人ってのは‥「光属性を持っていて、性格が穏やかで、‥人を癒す雰囲気を持った美しい女性」だ。その美しさってのは‥顔立ちの美醜ではない。笑顔が美しくって‥見ているとほ~となって‥「癒されるわ~」って聖女もいるし、所作が優雅で「は~美しい‥」って聖女もいる。勿論、妖精やら女神のような顔立ちの女性もいる。
 聖女にもいろいろいるんだけど‥共通して言えるのは「俗人とは違う雰囲気」だろう。
 シャルルは‥そういうのとは‥違う。
 ブスだって言ってるんじゃないけど‥兄が妹を可愛いって思うのと‥それは別の話でしょう? 
 両親もそう思ったんだろうけど‥流石にそんなこと‥本人にはいえないよね?
 聖女になれないなら、じゃあ聖女見習いを目指すか? だけど‥聖女見習いは「浄化(弱)」か「ヒーリング」が出来ないといけない。浄化(弱)は水属性、ヒーリングは風属性で土属性の妹にはいずれも取得は不可能の魔術だ。
 そればかりは、努力でどうにかできることではない。
 男子だったら、神官になることもできるだろうが(神官に属性は関係ない。‥流石に闇属性を持っている神官はいないが‥そもそも、闇属性を持っている人なんて見たことない(ホントにいるんだろうか? ))
 ※ カールは、コリンやロナウが闇属性の魔術が使えることを知らない。
 魔術士になっても苦労するだけだろう。魔術士は‥なんだかんだ言って好かれてはいない。女性なら、結婚相手も現れないかもしれない。‥可愛い娘(妹)が将来苦労するって分かっててそれを許すわけがないじゃないか?
 
 フタバ嬢みたいな‥子爵家でも裕福な家で‥あんな美貌を持っているならまだしも‥だ。
 彼女なら‥聖女になんてならなくたって、魔術士になったって‥妻に‥と望む者はいるだろう‥。
 なんか‥世の中って不公平だよなあ‥。
 そう言えば‥フタバ嬢は、成績も優秀だった。
 美人だけど‥彼女が聖女‥って想像できないかも。
 属性云々の問題とは別に‥彼女はふんわり白くって癒される~って感じではなかった。
 そういや‥フタバ嬢はロナウと婚約したんだっけ? ‥なんか合わないよな~。どこに接点が‥って‥共同体が同じなんだっけ? 
 なんにせよ‥僕には縁のない話だよな‥。
 ‥フタバ嬢のことは‥どうでもいいか‥。
 今は‥シャルルのことだ。

 今日は‥驚いたことばかりだった。
 シャルルが「変わった」のは呪いを掛けられてたのが原因だったってことに驚いたし‥、シャルルがあんなに楽しそうに笑う事にも驚いた。‥男‥コリンに対して赤くなったのにも‥驚いた。
 シャルルは男に興味なんてないって思ってたから‥。

 シャルルは、初め、「いつも通り」初めて会ったコリンを見ても赤くなることはなかった。びっくりしたり‥動揺することすら‥しなかった。
 だけど、コリンがシャルルを見つめて話し始めると‥真っ赤になっていた。
 ‥コリンみたいな美形に見つめられたら、そりゃ緊張して‥真っ赤になるだろう。
 なのに‥寧ろ‥なんで初めて会った時に赤くならなかったんだ? 
 普通だったら疑問に思うのだろう。だけど僕は‥シャルルは「いつもそう」だから、「いつも通り」だって気にもしなかった。

 ‥ホントに「いつも」「関心がない」から、「見ても無関心」だったんだろうか? 
 僕が‥そう思い込んでただけなんじゃないだろうか‥。

 もしかして‥
 シャルルは、初めて会った時、コリンの方を向いてはいたが、のかもしれない。
 それは何故か‥
 ‥緊張するから。
 そういうことは僕にも覚えがある‥。
 人の顔を見て話すのは緊張する。緊張しない様に、人の目じゃなくって‥ちょっと下‥のどぼとけのあたりを見る。そしたら、相手にとっても失礼ではないし、(人の顔を見て話すのは基本だからね)緊張もましになる‥。
 (とういうことは)シャルルはコリンと会った時‥「緊張して」目線をそらしてたのか? 
 緊張‥?
 そんなことを考えていると‥カールはシャルルが男性と話すときはいつも、「あんな感じだった」ってことに気付いた。
 ホントに目を見て話していなかったとしても‥礼儀を欠く行為ではない。俯いて話のは問題外だけど、分からない程度に視線を外すくらい‥問題はない。
 にこやかに礼儀正しく、貴族らしく‥感情を表情に出さずに、問題ない態度をとる。
 シャルルの態度は‥何も問題はないんだ。
 だけど、シャルルの場合‥それが社交の場ではなく、ただの‥自分の兄の友達に対しても‥そうだってことが‥問題だったんだ。
「よそよそしい」「自分に関心がないのかな? 」
 って印象を持たれかねない。

 そう言えば、シャルルに紹介したあいつも‥
「シャルル嬢は僕に関心がないようだね」
 って‥苦笑いしていた。
 シャルルの好みもあるし、そいつの捉え方もあるって‥そのときは何も気にしなかった。
 だけど‥好み以前の問題だったんだ。
 シャルルは‥あいつを見てなかったんだ。
 ただ、兄の友人という扱いをしただけ‥。そして、‥きっとそれはあの時に限ったことではなかった。
 シャルルは、「男性に興味がない」のではなく、「男性と話すのに緊張する」子だったんだ。
 恥ずかしがったりしないから、シャルルは緊張していないんだって思ってたけど‥思えば、あれは「緊張するから目を合わせてなかった」だけだったんだ。
 もし僕に、シャルルを「恋人にどう? 」って友人に紹介する目論見があったのだったら‥僕だって後押し位しただろうけど‥僕にそんな気は全然なかった。今の今まで‥一度たりともなかった。(※ なぜならカールがちょっとシスコンだから)だから、友人にとってシャルルは「ただの友人の妹」から進展することは一度もなかった。

 そして、今回、コリンと会った時も、シャルルは最初「いつも通り」目を合わせずコリンと接した。
 だけど、今日は「いつもとは違い」、コリンはぐいぐい‥わざわざ‥シャルルと目線を合わせて来た。
 シャルルは驚いて‥きっと動揺し‥ついうっかり目があった。
 そして、コリンの美貌を目にして‥真っ赤になった。

 僕は、今までシャルルのことを誤解していた。‥シャルルのことをろくに知ろうともせず‥かわいそうなことをして来た。

 それに気付くと、今まで自分が「これがシャルルだ」って思ってたもの総てが‥「ホントにそうなんだろうか? 」って‥疑わしく思えて来た。
 僕は本当にシャルルのことを分かっているのだろうか? 分かった気でいただけなんじゃないだろうか?
  
 ‥今回シャルルに呪いを掛けた犯人は、分からない。それは‥コリンたちに任せるしかないって思っている。
 だけど‥僕ら家族にも今回のことについては‥原因があった‥って気付いた。

 今回の事の背景に、シャルルの僕ら家族に対する不満があったことは‥残念ながら明らかだ。

 シャルルの家族に対する不満が‥彼女の心の隙間を作った原因の一つ(それもかなり大きな割合で)だった。
 ‥僕らは、シャルルのことを知らなさ過ぎた。
 そういえば、勝手に「素直で優しい」って決めつけて、シャルルの不満を一度でも聞いたことがなかった。
 シャルルのお願いだって‥理由もいわずに反対した。
 僕らはシャルルに自分の意見を押し付けて、「きっとそうだろう」って勝手に思い込んで、決めつけて、‥一度もシャルルと話し合ったり、シャルルの意見を聞いたり‥向き合ってこなかった。
 ホントのシャルルの気持ちを考えたことすらなかった。
 シャルルが家族に対して、不信感や不満を持っても‥仕方が無い。
 その結果、シャルルは誰にも相談できず‥犯人のいうことを‥信じてしまったんだろう‥。
 (それどころか、犯人がシャルルの不満に気付いて、そこをついてきたかもしれないしね。初対面のコリンたちにも‥何か分かったんだ。姑息な犯人がシャルルの不満に気付くのなんて‥容易いことだっただろう)

 他人がすぐわかることすら分からないとか‥それって‥兄としてどうなんだ‥。

 今回のことは‥憎くて‥悔しいことだけど‥僕ら家族は、このことをきっかけに変わらなければいけない‥って思う。
「ごめんな‥」
 カールは未だ目を覚まさない妹にそっと呟くのだった。
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