この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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191.フタバは宣言する。

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(ロナウside)


 隣に立っているフタバは、さっきから俯いたきり、顔も上げない。
 時々、微かに‥ため息をついている。表情も、見えないけど‥きっと暗いだろう。
 無理もない。
 自分たちが今まで信じて来たものに裏切られたんだ。ショックなんだろう。その気持ちは僕も同じだ。
 それに、
 ‥敵の大きさが見えたって感じだ。
 今までは「まあ‥いっても、それ程大きな敵じゃないかも」‥って思い込もうとしてきたけど‥
 実際に見せられたら‥認めるしかない‥って感じなんだよな‥。
 同じ気持ちだけど、僕は男だし、騎士だ。フタバを慰めないと。(一応、仮だけど婚約者だしね)
 って思ってフタバを振り返ったら、フタバの横に立っているコリンと目があった。
 コリンは‥
 ヤレヤレ、って表情をしていた。僕と目があったことに気付くと、
「自分たちで自分たちの品位を下げてどうするんだ‥って思うよ。だけど、おかげで遠慮が無くなったって感じ。こんなクズ相手にちょっとでも怖い‥とか思った僕が情けないって感じがするよね」
 そう言って、僕に同意を求めてきた。
「ロナウもそう思うだろ? 」
 って‥口には出さなかったけど、そういう表情をしてる。
 え‥? って思ったよ。
 思わず、眉をしかめちゃった。「‥勿論、僕もそう思うよ」なんて強がりは咄嗟に出なかった。
 それどころか、
「怖くなくなったってこと? 」
 そんなこと聞いちゃった。
 コリンは、ふふ、って笑って
「うん」
 って頷いた。
 「え~? ビビってるの? だっさい~」とは言わなかった。コリンはいい奴だから‥
 ‥って程でもないな。そういうことも、言うやつだ。だけど「今」コリンは言わなかった。
 コリンも‥ちょっとは「怖くなってても仕方が無い」「そういう気持ちも分からないでもない」って思ったってことだ‥。
 ちょっと胸が痛んだ。
 
 コリンは、ふ‥と顔に力をいれて、笑顔を作り直すと
「だって、魔法なら負けない。同じジャンルなら‥全然怖くなんてない。
 今までは、魔法を武器に戦う僕 対 謎の敵
 って感じだった。
 もしかして、兵士タイプのラスボスが出て来るかも? 腕力なら‥負ける。
 剣士タイプ?
 剣も‥騎士紋持ちとか出てきたら‥歯が立たない‥。
 って感じだったけど‥、

 対魔術士タイプだったら‥例え相手が邪術師だって‥手がないわけじゃない。
 だって所詮、魔法だもん。
 呪いって言ってもね、とけない魔法はないの。
 即死させられたらどうしようもないけど‥僕くらいの魔術士だったら、そんなことは絶対にない。そしたら、手は絶対にある。
 絶対に、だ。
 死なない以外、絶対にどうにでもなる」
 って言った。
 最後の方‥対魔術師タイプだったらってあたり‥からは一言一言力を込めて‥やたらと‥「絶対に」って言葉を連呼した。
 自己暗示をかけているんだってすぐ分かった。それは、きっとフタバちゃんも同じだろう。
 フタバちゃんは顔を上げ‥眉を寄せて‥コリンを見ている。

 珍しい光景では‥ない。寧ろ今まで見慣れた光景なんだ。

 自己暗示をかけないと‥自分に負けるかもしれないから。
 コリンは、いつも自分一人で戦ってきた。大丈夫、大丈夫‥自分なら大丈夫って自分に暗示を掛けながら‥
 ホントは強くない。‥かわいそうな人‥。
 だけど、皆コリンのその気持ちに、その弱さに‥気付かない振りしてきた。
 だって、同情されたら‥嫌じゃない? 
 って思うし、
 同情したって‥誰もコリンを助けられないから。
「じゃあ、手伝って!? 」
 って言われても‥無理だから。
 大丈夫、大丈夫。なんだかんだ言って、結局コリンなら出来る。
 コリンなら、今回も、何とかしてくれるだろうって丸投げしてきた。丸投げ‥って言うか‥放置だな。「勝手にして」って感じで。「だって、助けてって言わない方が悪いんじゃない」「俺たちは頼まれてもいないことするほどお人よしじゃない」「僕たちは知ったことないや」「どうせ、何も出来ないから」
 頼ってるんじゃなくて‥やっかんでたんだよね。
「助けて」
 って言われないことをいいことに、「言われなかったから」って言ったのも、「どうせ何も僕らにはできませんよ」って言ったのも‥全部、悔しいから。
 勿論、人によっていろんな感情を持ったって思うよ? 単に「出来る人がすりゃ、いいじゃん。できもしないことして、怪我するとか‥つまらない」っておもう「合理的な」奴もいただろうし、「何様だ? あいつ。俺はああいう、出しゃばりタイプ大嫌い」って頭っから人のこと見ない「頭の固い」奴もいただろう。
 だけど‥結果だけ見たら‥同じ。
 みんな、一人で頑張るコリンを見殺しにしたんだ。
 だけど‥コリンはそれでも‥いつも一人で、何とかしてきた。
 勿論、皆それを「凄い! 」「よくやった! 」とは思ったけど‥、そんなこと口に出したら「何様? 」「上から目線? 」って思われるよね? それに‥今まで一人で戦ってきたコリンに労りの言葉も掛けずに、手も貸さずに結果だけ褒める‥ってどう? って思われない? って考えたし‥、あと単純に「ちぇ、悔しいな」「失敗したらよかったのに」とも‥思った。

 コリンはあの時、‥どう思ってただろう。
 そんなこと‥思えば考えたことなかった。‥聞いたことなかった。勝手に「何様? 」って思われる‥って自分たちが思っただけで、コリンはそんなこと思わなかったかもしれないのに‥だけど‥言われるかもしれないよね。言われたら‥絶対耐えられないよね? 
「は? お前にそんなこと言われる筋合いねえや。友達面すんなよ」
 ってコリンに言われたら‥ショックで寝込むよね。言われたことに対するショックより、「言っちゃった自分、何様? やべえ」って感じで‥凹むよね。って考えちゃったんだよね‥。で、結局いつも何も言わなかった。
 あの時の僕はコリンの外面に惹かれて、自分と似てるかも‥って親近感持って惹かれて‥とにかく、コリンloveだったけど、‥だからこそ、そういうことでコリンに嫌われたくなかった‥って‥まあ、これもただのいいわけだね。

 思えば、お互いに‥歩み寄ったことなかった。
 今までは‥だ。これからは、違う。これから‥新たに築いていけばいい。友情って奴を‥!


「‥コリン‥。僕らもいる。一人で何でも‥なんて思わないで」
 何が出来るか‥なんてわからないし、コリンがどう思うかなんてわからないけど、ロナウはロナウなりに勇気を振り絞って、声を出した。
 目を見て‥って風には‥恥ずかしながら無理だった。急に、それは無理。ハードル高すぎる。だから、俯いて‥「聞こえてなくても‥いいか」って程度の小声になっちゃった。‥我ながらヘタレだ。
 ちらり、とコリンの表情を盗み見する(真っすぐ見るほどの勇気はさすがに無かった)
 コリンは、怒ってる? 驚いてる? 
 ‥怒る気持ちは想像がつく。
「は? お前に何が出来んの? 」
 か
「今更いう? 今まで散々丸投げしてきて? 」
 だろう。
 驚く‥ってのも想像つく。
「‥急に何? 」
 だ。
 驚くが一番「あり得る表情」かな?
 ‥って思ったのに、コリンの顔はその二つのどちらでもなかった。

「そんな風に聞こえた? ごめんね。‥今までの僕ってホント、スタンドプレータイプだったんだね。‥反省が必要だな」
 しょぼん、ってした顔。
 え? なにこの表情。
「一緒に頑張ろう! って‥言う勇気が無くてね‥。なんか‥自分に言い聞かせる様な言い方になっちゃってさ。でも、伝わるかな‥って思ったら、勿論伝わってなかったみたいで‥結局いつも一人でやる羽目になっちゃって、最初はショックだったんだけどさ、でもそのうち慣れて‥流石に皆から、「出しゃばりだよね」「何様って思われてるんだろうな~」って思われてるのが分かっちゃって‥もうそのうち‥「まあ‥一人でいいか」ってなっちゃったんだよね‥」
 
 もしかして‥
 さっきのは自己暗示じゃなくて「一緒に頑張ろうぜ! 」「大丈夫! 出来るよね!? 」って言ってたのか?!

「いや、だって「僕ぐらいの魔術士なら」って言ったじゃん? 自己暗示‥自分に言い聞かせてる独り言だとおもったよ?? 今まで皆そう思って来たっておもうよ?! 」
 ばっと、勢いよく顔を上げて‥コリンをみた。
 コリンの顔は顔文字の(;´Д`)みたいな顔になってた。
 しょぼん? ‥へたん? 何とも‥表現しにくい表情。
 ‥でも可愛いけど‥。
「‥あれが、自己暗示? う~ん。「俺様だからこそできる! へぼへぼな貴様たちには出来ないだろうがな! 」って風に‥きこえちゃってた? 」
 コリン(´゚д゚`)。これは‥おろおろ‥かな? 
「‥そこまでは僕は深読みしてないけど」「でも‥人によっては‥思った人もいる‥かも? 」「‥人を頼らない人‥っていう風には‥皆思ってたと思う」
 僕の言葉に、コリンははっとした顔になった。そして‥また(´゚д゚`)へた~ん。おろおろ‥ぽか~ん?? ってよくわからない顔。
 コリンって‥こんなに表情豊かなんだ。って驚いた。
「‥今まで、好かれよう‥嫌われたくない‥って思ったことなかった。だから‥そう意識したら、言い方とか、表情とか‥気にして‥るつもりなのに‥なかなかうまく行かなくて‥。もし、不快になったら‥言って欲しい」
 困った様な顔のまま‥コリンが言った。
 
 完全無欠の天才魔術士様。氷の麗人。可愛げない奴。顔だけの嫌な奴。心を持たないビスクドール。

 今まで「そう思い込むことで」かなわぬ恋と諦めて来た馬鹿ども! コリンはこんなに可愛くって、努力家で‥人間味が溢れてるんだぞ!! 
 思い込んできたのは、
 コリンじゃなくって、周りの人間だったんだ! 
 同級生に言ってやりたい。って思った。
 コリンが「そう」なんじゃなくて、お前らが、「コリン心を開いてくれないから、仕方が無いんだ。コリン誰に対しても心を開かないんだ。別に僕にだけ冷たいわけじゃない」って思いこんで‥コリンのせいにして‥諦めて来ただけだろ!? 」って言ってやりたい!!

 つまり、これだ。
 ① コリンが自分なんて相手してくれるわけない。‥ってか、別にいいし。あんな冷たい奴、こっちから願い下げだし! 
 って「思い込み作戦」から始まって
 ② 天才様だから、何言われてもいいでよ。俺たちなんかの話、聞いてないでしょ。
 やっかみに変わっていって‥可愛さ余って憎さ百倍で‥
 ③ 見下した態度取りやがって、感じ悪ぃ!
 ‥嫌い発言に繋がり、嫌がらせが始まった
 と。

 こそこそ、ぼそぼそ‥
 僕がフタバちゃんに小声でそう仮説をつげると、フタバちゃんも「私もそう思う」「どう考えても、そうよね」って同意した。(この間コリンはずっと(;´Д`)の顔のままだった)
 フタバちゃんがばっとコリンを振り向く。コリンはびっくりした顔で、フタバちゃんを見る。
 フタバちゃんがすっと手を挙げて
「味方は多い方がいい‥」
 勿体ぶった口調で呟き、こほん、と小さく咳ばらいをする。そして、すうっと息を吸い
「名付けて! 「高嶺の花は思ってたより庶民的で、しかも寧ろ‥普通に可愛い奴だった! え、俺にもチャンスあるかも!? 」作戦を決行します! 」
 高々と、宣言した。
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