この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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179.真夜中の庭

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(コリンside)


 人は時々、
 何のためにするのかよくわからない行動をすることがある。
「神様お願いします。‥なんとかしてください! 」
 とかいう神頼み。
 何とかって何だよ。
 どうして欲しいんだよ。
 
 ‥どうしたいんだよ。

 普段、神様なんて信じてない癖に都合のいい時だけ頼って、丸投げ。
 そういうの。
 ホント、どうにかしてるよ、って思う。

 僕は、そういうタイプじゃなかった。
 だって、そんなことしても無駄じゃん‥って思う以前に、「そんなこと思った地点で負け」「自分で何をするわけでもなく‥やる前から‥心細くなってちゃ勝てないだろ? 」って思うから。
 ‥思ってたから。
 (神頼みって)ただ、こころの弱さからくる行動だって思ってたから‥。

 だけど、
 僕は今、何となく「僕の思い込みだったかな」ってちょっと反省してる。
 その人が、神様を信じてないって思うのがそもそも、僕の思い込みだ。
 ‥神様にお願いしても無駄だって思うのもまた、僕の思い込みだ。
 
 その人は苦しい時にだけ神頼みしているわけでなかったのかもしれない。
 誰かに感じの悪いことを言ってしまって反省すれば「ああ! 神よ‥僕をお許しください! 」と嘆き、何か特別嬉しいことがあれば「ああ神よ! 私に素晴らしい贈り物をありがとうございます」って感謝していたのかもしれない。
 そんなこと‥考えもしなかった。
 
 神様が、彼にとっての心の拠り所で、彼にとって、特別大切な存在だった‥とか、思いもしなかった。
 「普段神様なんて信じてない」僕「だから」‥彼が「都合がいい時だけ」神を信じてる者としか‥思えなかったんだ。

 それって、彼に失礼だったよね。


 ふと、
 今そんなことを考えた。
 さっき、ぼそりと口からこぼれた

「ねえ‥シークさん。僕は一体どうしたらいいんだろう。シークさんなら‥どうしますか? 」

 って言葉。
 言ってすぐ、自分の言葉を疑った。
 僕がそんなこと言うなんて! って思った。驚いた。
 今までずっと自分で考えて決めて来たじゃないか。散々、「神に伺いをたてる‥とか、は? 知らんがな。自分で決めろよ。甘ったれるなよ」とか「神頼みとかしてる奴って結局は自分に自信がないだけだよな」って馬鹿にしてきたじゃないか。
 
 知らないうちに、僕は随分気弱になった。
 シークさんがここに居なくてよかった。‥こんなところ見られなくてよかった。
 シークさんだけじゃない。
 誰にもこんなところ見られなくてよかった。
 見られてたら「お前も弱くなったよね。いつものビックマウスはどうしたんだよ」「いつもは偉そうなこと言ってるけど結局苦しい時には人を頼るんだね。情けないね」って言われてた。
 それか‥「何独り言言ってんだよ。もうシークさんが恋しいの? 」「頭の中ピンク色だな。こんな時なのに‥浮かれてんの? 」って呆れられてたかも? (そっちの方が恥ずかしいな! )

 ほんと、聞かれてなくてよかった!
 ほっとして‥屋敷に戻ろうとしたのに‥

「コリン? 」
 暗闇からそんな声が聞こえてきて‥
 僕は心臓が口から出るほど驚いた。
 この声は‥
 フタバちゃん!
 まさか、フタバちゃんに聞かれてたなんて! 

 なぜここにフタバちゃんが? 
 ‥ここはフタバちゃんのお義父さんの屋敷で、今は義娘のフタバちゃんの家でもある。フタバちゃんがここに居るのは当たり前だ。僕はフタバちゃんのお義父さんの御好意でここに泊めて頂いているただの客で‥ただの客がこの家の主であるフタバちゃんがこの家の庭にいることを驚くのも変な話なんだけど‥
 でも、こんな夜中に? 何故庭にいる?? しかも、一人で?? 
 って思うじゃない。

「‥フタバちゃん」
 驚き過ぎて(と、恥ずかしいのとで)声も出せず固まっていると、
「眠れませんの? 」
 心配そうな表情でフタバちゃんが聞き、さっきまで自分が掛けていたストールを僕の肩にかけてくれた。
「風邪ひきますわよ」
 って。
 軽くて細い毛糸で編まれた繊細なショール。たった一枚の薄い布地なのに、それは驚くくらい暖かかった。
「ねえ、コリン。自分一人でなんでも決めて行動しているコリンは偉いと思う。自分一人で全部やらないと気が済まない‥それは貴方の性格だと納得も‥してるつもり。
 ‥でも、ね。無理してるように見えて痛々しいし、正直頼ってくれないことが‥憎らしいとも思うのも‥ホント。
 ねえ、コリン。
 ‥時々誰かを頼りたい、誰かの言葉が聞きたいって自分のこころが思ったことを‥恥ずかしいって思わないで? 
 そんな‥自分のこころを、気弱になってるとか、甘えてる‥とか、決めつけて、反省して‥押さえつけて‥無理する。それは良くないことよ。全然、いいことじゃない。
 それ以上に‥
 成長を無理やり止めてしまおうって思わないで? 」
 フタバちゃんの瞳が僕の目を見上げて‥覗き込む。
「成長? 僕の? 」
 フタバちゃんの瞳を覗き込みながら‥僕が尋ねると、フタバちゃんが頷いた。
「人の事を考えたり、人を意識したり‥
 ‥好きになったりするのは、当たり前のことじゃないわ。特別なことなの。
 決して、自分の弱さを誰かで埋めようとしているわけでもないし、ただ快楽を求めてる‥とも違う。
 他人を信じたり、恋したり‥特別な感情を持つことはとても、勇気のいることなの。
 いい傾向に人が変わっていくことは、「弱くなる」って言わないの。成長するっていいますのよ。
 ‥分かりました? 頭でっかちの秀才君? 」
 に、っと口角をあげてイジワルっぽく言うと、ふふっと花が咲くように微笑んだ。
 暗い庭なのに、フタバちゃんの銀の髪は、月の光をおびて、まるでキラキラと自身で発光しているかのように見えた。
 
 水晶の髪と氷の瞳をしたビスクドールの様な美貌の少女‥。
 ‥まるで「雪の妖精」の様なフタバちゃん。

 きっと、皆が一目で心を奪われてしまうね。
 
 なんて、他人事のように思った。
 僕も‥なんて思わないのは、フタバちゃんが「そんな儚いだけのもの」ではないって知ってるから? それとも、他に好きな人がいるから? 
 それとも、
 かたくなに自分のこころを抑え込んで‥自分の感情にふたをして‥素直にならないから?
 素直になるのを恐れているから‥?

「コリン。愛しいも、悲しいも、苦しいも、全部成長の証しなの。成長を受け入れたら‥きっと、コリンは今よりもっと強く、優しくなれる。
 ‥もっと、幸せになれるわ。
 私はそれを願ってる。‥だって、その方が安心でしょ? 」

 遠くで聞こえるのは‥フクロウの声? 
 夜は、朝を‥まだまだその腕の中に隠している。
 暗闇の中、月明りに照らされ静かに微笑む雪の妖精フタバちゃん
 その姿は‥涙が出るほど美しくって‥、ただ優しくて‥。
 
 僕は無性に悲しくなって‥ただただ泣いた。
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