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176.板子一枚下は‥
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これは、どう転んでも、
救いも何にもない、紛れもない‥悲劇の話だ。
「‥コリン、これは、銛でクジラに立ち向かうような‥とてつもない無謀なことなんだ。
それは、分かってるな? 」
アンバーがコリンに言った。
いつもの様な‥笑いを含んだ口調でも、表情でもない。
だけど、怒っている‥ってわけでもない。
アンバーにとって怒り顔は、笑い顔と同じだから。
作った、表情。
美しく、強いアンバーが笑顔や不機嫌な顔をするだけで‥周りの空気を変えてしまう。
歓喜、恐怖。
アンバーの笑顔の為なら何でもしようって奴も、アンバーの不機嫌な顔を恐れて‥機嫌を取ろうとする奴がいるもの、何の不思議もない。
恋愛感情、崇拝心、恐怖心。‥依存心。
アンバーに取り入りたい、一緒に居たい、例え利用されてるだけって分かっていても‥笑いかけて欲しい。
‥アンバーを独り占めしたい‥。
アンバーにはそれだけ影響力と魅力があるんだ。
アンバーもそれをちゃんと自覚している。
自覚して‥きちんと管理している。
周りを巻き込むとか‥その気にさせる様な事言って本気にさせるとか‥そんな無様なことしない。
そんなことは、面倒だし、不利益でしかないからね。
本当のアンバーは‥わりと面倒くさがり屋なんだ。
周りを誑し込むような華やかな微笑も、周りを威圧する高圧的な微笑も‥必要が無きゃしない。
デフォルトの半笑い(コリン談)をしてれば、下手な争いを避けられる。‥そういう処世術。
シークの無表情は‥そうじゃない。
シークは「無表情でいよう」と思って無表情なんじゃない。
周りに誰も居なかったシークは誰かに感情を伝える必要が無かった。そして、誰にも媚びる必要も無かった。‥媚びる必要をなくすために、シークは努力して強くなった。
嬉しいも、楽しいもなかった。ただ、悔しい‥って感情だけ。
自分が不甲斐ないせいで両親を殺された。悔しい、悲しい。
そして、ひもじい。
悔しいのも悲しいのも、ひもじいのも自分が弱いせい。
両親を殺した犯人は憎い、でも、もっとも憎いのは、嘆くばかりで何も出来ない弱い自分。
シークはそれをバネに冒険者としてのランクを上げていったんだ。
自分一人の力で。
アンバーとシークは違う。
一人ぼっちのシークとは違い、アンバーの周りにはいろんな人がいた。
そして、皆アンバーを放っておいてはくれなかった。
アンバーたち「悪人養成所の子供たち」は、常に奪われて、騙されて、利用される立場だった。
その中で、(魔力が高かったために)催眠が効かなかったアンバーは(それを隠し)自我を保つために、「騙されてる振り」をして「利用されてる振り」をし続けて来た。
周りにいるのは、全員「騙さなければいけない人間」だった。
アンバーは、ずうっと仮面をかぶり続けて来たんだ。
自分の「本当の感情」なんかよくわからなくなる程、アンバーにとってはそれが日常だったんだ。
そんなアンバーの無表情。
アンバーの真剣な‥ホントの顔。
アンバーは今、初めて本気で怒っている。
思い通りにいかなくてイラついている‥とは違う。
怒っているのには違いないけど‥怒りより、恐怖が勝っている。
初めて手にした大事なものを失うのが怖く‥不安。
‥自分の身を危険に晒すよりずっと、怖かった。
閉じ込めて、そのまましまって置きたい。
逃げ出して、‥忘れてしまいたい。
愛しいって‥なんて苦しい感情なんだろう。
コリンに対する恋愛感情。ザッカやナナフルを(兄貴として? )慕う気持ち、シークに対するライバル意識、皆に対する仲間意識。
全部、今まで一度も手にしたことがないキラキラした感情だった。
「‥正直言ったら、関わってほしくなんてない」
コリンは頷いた。
まっすぐアンバーを見ながら。
「そうだね」
「分かってるとは到底思えない」
アンバーが首を振る。
「分かってるよ」
普通に考えて、銛でしかも‥たった7人でクジラに立ち向かっていったところで‥何が出来る?
あんな大きなクジラにちっぽけな銛をかざしたところで、小傷一つ残せないだろう。
そもそも、それ以前に、(魚群探知機もついてないような)アナログな小舟では、クジラを見つけ出すことすら出来ないだろう。そうやってる間に食料が尽きて、体力が尽きる‥
良くて、戦いに破れて死ぬ。最悪、(戦う前に)飢えて死ぬ。
どう転んでも、deathエンドしかない。
海は怖い。
夜になったら真っ暗だし、何も見えない。
板子一枚下は地獄。
ってよくいったものだ。
板の下の地獄におびえながら真っ暗な夜をひもじさと寒さに震えながら過ごす‥
「地に足がついてるってのは、ホントに幸せだよ。
‥船酔いもないし」
コリンは、ふ、とアンバーから目をそらし‥俯きがちに‥困ったように、微笑む。
「だけどね、そんなこと言ってたら何も出来ないじゃない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。
遭難するのは怖いから山には登らない‥って人ばっかりじゃ、前人未踏の山はいつまでたっても「伝説の山」だったし、クジラもいつまでたっても「伝説の海の怪物」だった。
僕だってね。
初めから「ダメ元」で戦いを挑む気はない。
僕は‥そこら辺の「普通の人」なんかじゃない」
初めはポツリポツリ‥と独り言のように呟いていたコリンは、最後には顔を上げて、
真っすぐアンバーを見る。
「アンバーだってそうだ。
シークさんだって、ザッカさんだって、ナナフルさんだって‥
ロナウたちは‥だけどあれだ‥三人でパワーアップして‥うん、凄いパワーになる‥と思う」
「おい! 」
ロナウは怒ってコリンに食って掛かって、‥フタバは苦笑いして肩をすくめた。
力不足なのは‥認めてる。
それは‥仕方が無い。
だけど、自分は「ここに不要な人間」だとは絶対に思わない。
自分とロナウしかコリンを支えられる人間はいない。(なんていっても共同体メンバーだからね)
だから、コリンは自分たちを頼って、ここに呼んだんだ。
今まで無視してきたのに勝手すぎない? とか、巻き込まれて迷惑‥ってのは、思ってもおかしくない。だけど、私は(ロナウはどうかわからないけど)そう思わなかった。
怖い、とは正直思う。だけど、それだけ。
それ以上にワクワクして、何よりコリンに頼られたのが嬉しい‥とか、我ながら「頭おかしい」。
それっ位‥
私は、自分の日常に退屈して‥
‥自分の将来に絶望してたんだ。
救いも何にもない、紛れもない‥悲劇の話だ。
「‥コリン、これは、銛でクジラに立ち向かうような‥とてつもない無謀なことなんだ。
それは、分かってるな? 」
アンバーがコリンに言った。
いつもの様な‥笑いを含んだ口調でも、表情でもない。
だけど、怒っている‥ってわけでもない。
アンバーにとって怒り顔は、笑い顔と同じだから。
作った、表情。
美しく、強いアンバーが笑顔や不機嫌な顔をするだけで‥周りの空気を変えてしまう。
歓喜、恐怖。
アンバーの笑顔の為なら何でもしようって奴も、アンバーの不機嫌な顔を恐れて‥機嫌を取ろうとする奴がいるもの、何の不思議もない。
恋愛感情、崇拝心、恐怖心。‥依存心。
アンバーに取り入りたい、一緒に居たい、例え利用されてるだけって分かっていても‥笑いかけて欲しい。
‥アンバーを独り占めしたい‥。
アンバーにはそれだけ影響力と魅力があるんだ。
アンバーもそれをちゃんと自覚している。
自覚して‥きちんと管理している。
周りを巻き込むとか‥その気にさせる様な事言って本気にさせるとか‥そんな無様なことしない。
そんなことは、面倒だし、不利益でしかないからね。
本当のアンバーは‥わりと面倒くさがり屋なんだ。
周りを誑し込むような華やかな微笑も、周りを威圧する高圧的な微笑も‥必要が無きゃしない。
デフォルトの半笑い(コリン談)をしてれば、下手な争いを避けられる。‥そういう処世術。
シークの無表情は‥そうじゃない。
シークは「無表情でいよう」と思って無表情なんじゃない。
周りに誰も居なかったシークは誰かに感情を伝える必要が無かった。そして、誰にも媚びる必要も無かった。‥媚びる必要をなくすために、シークは努力して強くなった。
嬉しいも、楽しいもなかった。ただ、悔しい‥って感情だけ。
自分が不甲斐ないせいで両親を殺された。悔しい、悲しい。
そして、ひもじい。
悔しいのも悲しいのも、ひもじいのも自分が弱いせい。
両親を殺した犯人は憎い、でも、もっとも憎いのは、嘆くばかりで何も出来ない弱い自分。
シークはそれをバネに冒険者としてのランクを上げていったんだ。
自分一人の力で。
アンバーとシークは違う。
一人ぼっちのシークとは違い、アンバーの周りにはいろんな人がいた。
そして、皆アンバーを放っておいてはくれなかった。
アンバーたち「悪人養成所の子供たち」は、常に奪われて、騙されて、利用される立場だった。
その中で、(魔力が高かったために)催眠が効かなかったアンバーは(それを隠し)自我を保つために、「騙されてる振り」をして「利用されてる振り」をし続けて来た。
周りにいるのは、全員「騙さなければいけない人間」だった。
アンバーは、ずうっと仮面をかぶり続けて来たんだ。
自分の「本当の感情」なんかよくわからなくなる程、アンバーにとってはそれが日常だったんだ。
そんなアンバーの無表情。
アンバーの真剣な‥ホントの顔。
アンバーは今、初めて本気で怒っている。
思い通りにいかなくてイラついている‥とは違う。
怒っているのには違いないけど‥怒りより、恐怖が勝っている。
初めて手にした大事なものを失うのが怖く‥不安。
‥自分の身を危険に晒すよりずっと、怖かった。
閉じ込めて、そのまましまって置きたい。
逃げ出して、‥忘れてしまいたい。
愛しいって‥なんて苦しい感情なんだろう。
コリンに対する恋愛感情。ザッカやナナフルを(兄貴として? )慕う気持ち、シークに対するライバル意識、皆に対する仲間意識。
全部、今まで一度も手にしたことがないキラキラした感情だった。
「‥正直言ったら、関わってほしくなんてない」
コリンは頷いた。
まっすぐアンバーを見ながら。
「そうだね」
「分かってるとは到底思えない」
アンバーが首を振る。
「分かってるよ」
普通に考えて、銛でしかも‥たった7人でクジラに立ち向かっていったところで‥何が出来る?
あんな大きなクジラにちっぽけな銛をかざしたところで、小傷一つ残せないだろう。
そもそも、それ以前に、(魚群探知機もついてないような)アナログな小舟では、クジラを見つけ出すことすら出来ないだろう。そうやってる間に食料が尽きて、体力が尽きる‥
良くて、戦いに破れて死ぬ。最悪、(戦う前に)飢えて死ぬ。
どう転んでも、deathエンドしかない。
海は怖い。
夜になったら真っ暗だし、何も見えない。
板子一枚下は地獄。
ってよくいったものだ。
板の下の地獄におびえながら真っ暗な夜をひもじさと寒さに震えながら過ごす‥
「地に足がついてるってのは、ホントに幸せだよ。
‥船酔いもないし」
コリンは、ふ、とアンバーから目をそらし‥俯きがちに‥困ったように、微笑む。
「だけどね、そんなこと言ってたら何も出来ないじゃない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。
遭難するのは怖いから山には登らない‥って人ばっかりじゃ、前人未踏の山はいつまでたっても「伝説の山」だったし、クジラもいつまでたっても「伝説の海の怪物」だった。
僕だってね。
初めから「ダメ元」で戦いを挑む気はない。
僕は‥そこら辺の「普通の人」なんかじゃない」
初めはポツリポツリ‥と独り言のように呟いていたコリンは、最後には顔を上げて、
真っすぐアンバーを見る。
「アンバーだってそうだ。
シークさんだって、ザッカさんだって、ナナフルさんだって‥
ロナウたちは‥だけどあれだ‥三人でパワーアップして‥うん、凄いパワーになる‥と思う」
「おい! 」
ロナウは怒ってコリンに食って掛かって、‥フタバは苦笑いして肩をすくめた。
力不足なのは‥認めてる。
それは‥仕方が無い。
だけど、自分は「ここに不要な人間」だとは絶対に思わない。
自分とロナウしかコリンを支えられる人間はいない。(なんていっても共同体メンバーだからね)
だから、コリンは自分たちを頼って、ここに呼んだんだ。
今まで無視してきたのに勝手すぎない? とか、巻き込まれて迷惑‥ってのは、思ってもおかしくない。だけど、私は(ロナウはどうかわからないけど)そう思わなかった。
怖い、とは正直思う。だけど、それだけ。
それ以上にワクワクして、何よりコリンに頼られたのが嬉しい‥とか、我ながら「頭おかしい」。
それっ位‥
私は、自分の日常に退屈して‥
‥自分の将来に絶望してたんだ。
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