この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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169.学生時代の思い出の森のことを‥今になって思い出した。

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 悪の組織は、職業別の人たちの好みを理解して人材を派遣している。

 そう確信したのは、貴族に魔薬を売り込む役割をしている「シアン」が実に貴族受けしそうな顔をしていたからだ。
 身なりが良くて、顔が上品。言葉遣いが美しく、仕草が優雅。
 決して出しゃばらず、だけど、媚びへつらう感じでもない‥。
「貴族が好きそうなタイプですわ~。上手いわ~」
 あと、顔が「目立たない程度に」良いのも‥上手い。
 良すぎるとダメ、目立ちすぎるから。
 貴族のお嬢様が取り合いするレベルとか‥もう、絶対ダメ。揉め事が起こるとか‥面倒でしかない。(揉め事が起きれば警察が来るでしょ? )
 それに、連中のターゲットは「ちょっとサエナイ貴族の御子息」だ。嫉妬されるとか‥以ての外だ。
 あと‥印象に残りすぎちゃうじゃない。それは良くない。
 良すぎるのもダメだけど、悪すぎるのも印象に残る。(きっと悪すぎる方が印象に残る)
 ‥そういうさじ加減も絶妙。やるな~。
 ってフタバが感心していた。

 庶民向けの売り子「パープル」は、平凡な子だった。だけど人の心を瞬時で読み取れる‥「頭のいい子」だった。
 商人向けの「マゼンタ」についてもそれは感じた。マゼンタはそれに加えて如才がない感じだった。商人は「馬鹿にされたら終わり」だからね。
 食い物にするはずが(逆に)食い物にされてたら意味がない。
 ‥こういうの(人選とか、教育とか)が全部計算尽くだっていうんだから恐ろしい。


「う~ん。
 敵は恐ろしく研究熱心な奴らだな。
 普通に商売したら絶対それで大金持ちになれるぜ? って思うけど‥ああいう非合法で単価の高いもの売らないとこれだけの社員は雇えないし、ここまでのノウハウは叩き込めないし、その研究費がそもそも捻出できない‥」
 逆に、
 あれほどの社員を雇わなければいいのに、なんでそこまで研究費掛けて社員教育を徹底させて、法律関係も抜かりなく‥悪事を働くんだろ。って思う。

 雇用対策‥
 食い扶持を仲間に作る為。とかいい話じゃないよな。
 だって、奴らは絶対に悪い奴らだ。
 労働者はアンバーみたいに攫って来た人たちだし、売ってる物も違法だし、薬の効用も非人道的だ。
 絶対労働者に給料払ってないぞ。「魔薬を現物支給してやるぜ! 」ってタイプのクズだよ、絶対。(コリン力説。勿論確証はないが‥)

「いい頭を悪いことにしか使えない‥ってホントにクズって感じするよね~」
 ぷんすか怒る(怒っても全然怖くない)コリン
「いいことに使っても儲からないからねぇ」
 って苦笑する色気過多な元悪人。
「悪の魅力‥クラクラ来ますわ~。アンバー様とだったら悪い道にそれてもイイ‥って思いますわ~」
 って身もだえるフタバに
「つまんないこと言ってるよ‥」
 呆れ顔をする(元アンバー信者で今は真実の愛・シークloveな)ロナウ。
「やっぱり、人間誠実が一番だよ! 」
 ってシークをウットリと見つめる。
「‥‥」
 苦笑する(← コリンにしか分からないレベルで)シーク
「悪が栄えたためしなしっていうからな! 
 ‥ナナフルを悲しませた奴が関係してるってだけで極悪だ。速攻滅ぼしてやる‥」
 笑顔が怖いザッカに
「世の安寧は守らないといけませんよね」
 同じく‥笑顔が怖いナナフル。
 今日もいつも通り美しい‥故に怖い。
「「‥‥‥」」
 全員青ざめて沈黙。


「ザッカさん、ナナフルさん、あの時何を調べて来たんですか? 」
 コリンが話を変える。
 ザッカが頷く
「この前言ってた「立ち入り禁止になった森」の報告が届いたって連絡があったから行って来たんだ」
 フタバが首を傾げ
「立ち入り禁止になった森? 」
 と、コリンに説明を求める。
 ザッカは、引き続き他のメンバーに報告を続け、話の邪魔にならないようにちょっと離れた場所でコリンはフタバとロナウに説明をする。

 曰く。
「悪の組織は森で魔薬の原料を栽培している。その間、森に他の人間が入らないように、「魔物が出た」や「行方不明者が出たので探索中」等という理由で立ち入り禁止にしている。そういう小細工をするために地元の騎士団を買収して森の入り口を見張らせている」
「森によっては、栽培された原料で魔薬をその場で精製している。製造場所の見張りを確保できた森なんかがそうで‥アンバーは元々そういった森の見張り役だった。見張り兼結界を張る役目っていうの? 僕たちが踏み込んで、結界を破ったから、地元の騎士団によってアンバーたちは捕まった‥んだけど、絶対地元の騎士団は奴らによって買収されてるって思った僕は、アンバーが「トカゲのしっぽ切りにあって罪を擦り付けられて殺される」って思ったんだ。‥なんか、アンバーが根っからの悪人には思えなくてさ。‥だから、助けた」
 成程~。とフタバとロナウが納得する。
「助けられてよかったよ! ‥でも、コリンその時、顔見られたりしてないの」
 ってちょっと心配そうなロナウ。
 ‥どうだっけ。覚えてないな‥
 って考え込むコリン。‥コリンってそういういい加減なところあるよね‥。
「で、‥そういえばその時、ザッカさんが「こういう場所が他にもないか調べる」って言った」
 それも忘れてた。
 なんせ、今までいろんなことがあったからな~。

「それにしても‥ザッカさんは‥どうやってそれを調べたんだ? 」
 ロナウがこそっとコリンに聞く。
 なんか‥ザッカに聞かれたら「ヤバい」気がしたんだ。(それはもはや下っ端の勘‥というか、動物的な勘。大事だよね無意識の生存欲求本能)
 コリンは首を傾げ「ザッカさんの村は‥村ぐるみで‥そういう感じ(※ やけに情報通だったり、普通に主婦の副業が暗殺者だったり‥とかする? とかいう場所ってこと)っぽい」とだけこそっとロナウに呟いた。ロナウが顔面を蒼白にして頷く。
 
 ‥それ、絶対聞かない方がいい奴。知らない方が身の安全が保障される‥なんて情報は知りたがらない方がいい。

 若干顔色が悪くなったコリンたちがザッカたちの報告会に再び合流する。
「悪の組織はそれほど広範囲で原料製造を行ってない様だ」
  印のついた地図を見せながらザッカが言った。
 この地図の印は、ザッカの村とギルト経由で知り得た「表には出ない情報」を元に昨日あれからザッカとナナフルが作成した。
 地図を覗き込みながら
「魔素線‥魔素が濃い場所が線のように連なった場所を僕がそう名付けたんですけど‥
 多くの製造場所がその魔素線上にありますね」
 コリンが呟いた。
 ザッカがコリンを見る。
「そういう地図があるのか? あるんだったら見たい」
 コリンが頷き
「ええ。このあとお持ちしますね。地図といっても僕が作成した物なんです。‥だからそう広範囲のものでは無いですよ。
 完全に僕の「メモ書き」程度のものです。
 魔素線には‥僕が学生の時色んな魔獣を「試しに」かたっぱしから倒してた時に気付いたんです。
 魔獣の特徴や討伐方法って文献を読むだけでは分からないこともありますからね。やっぱり実践あるのみ‥って実際に森に魔獣を討伐しにいっていたんです。(コッソリと)
 と言いながら‥まあ‥単純に魔術の練習台ですがね」
 そう言って照れ笑いした。

 学業の傍ら自主的に実践訓練までしていたなんて‥

 フタバとロナウも初めて聞く話だ。そして改めてコリンがどんなに努力していたのかを知った。(だのに、「顔がいいからってだけで贔屓されてる」とか言ってた奴ら、バカ!! って改めてムカついたり)

 コリンの話は続いている。
「同じ場所の魔獣を狩りつくすわけには行かないから、いろんな場所に行ってたんです。
 その時、
 この辺りの魔獣はちょっと他と違うぞ? 同じ魔獣なのに、色や性質‥何より強さや数が違う‥? って思うことが度々あったんです。この魔獣は普通は群れで生活する性質があるはずなのに、強いから固体で生活してる‥とかね。その傾向は、食物連鎖最下位の魔獣‥草食魔獣により顕著に見られた。
 どうやら、エサである植物が原因であるらしい。
 だけどその植物は「見た目には」変わらない様に見える‥。ここの固体(魔獣)が違う植物を食べているわけでもなさそうだ。
 実際にその魔獣を狩ってその場で調理し(※ 焼くだけ)食べてみると、体内に摂取される魔素の量が違うってことが分かった。僕には分析は出来ないのですが、魔素の量を鑑定するくらいなら出来ますからね。それは、魔術士なら誰でもできます。
 で、なんか面白いから他にもそんな場所がないかな~って調べたんです」
 その地図は‥つまり、コリンの魔獣討伐の軌跡ってわけだ。印が「特殊な魔獣がいた特殊な場所」ってだけで、実際にはそれ以上の森に行ったってことになる。
 研究熱心さに頭が下がる。(あと、見掛けと違って殺伐としてることにも‥改めて驚く。驚くっていうか‥ちょっと引くっていうか? )
 ザッカは苦笑いで‥キラキラした顔で話すコリンを見た。
 他の皆もそんな反応だ。
 アンバーと
 フタバを除いて。

「そういえばあの時もそんな話してたな」
 アンバーが苦いものを噛み砕いたような表情で‥呟いた。(あの森には嫌な思いでしかない。‥なんせ、もう少しで殺されかけていたし)
 フタバがアンバーを見て首を傾げる。
 コリンの学生時代を知らないはずのアンバーが「そういえばそんな話してたな」って言ったら、そりゃフタバじゃなくても「あれ? 」って思うだろう。
 コリンもそれに気付き、
「アンバーと初めて会った森のことだよ。僕がその森に調査に行った時のことをアンバーに話したから‥」
 説明すると、フタバが「そうなんですね」と納得して頷いた。
 
 ああ‥そういえばあの森は‥魔素線上の森とよく似ていた。

「魔素線上の森の事‥あの時は、すっかり忘れていた‥」
 改めて、声に出し‥悔しそうにつぶやくコリンだった。
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