この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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166.規則違反の常習だけど、法律違反は許さない。

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「共同体のシステム。
 リーダー。
 メンバー。
 仮の共同体のシステム。
 仮のリーダー。
 仮のメンバー。
 教会。
 魔術士協会。
 儀式」
 フタバが単語を紙に書きだす。
「それと‥闇の魔法。闇の魔法の先生。古代魔法」
 コリンが横からその紙に単語を書き加える。
「魔法使いの法律」
 二人が出し切ったから、ロナウが書き加えたのはそれだけ。

「共同体のシステムとリーダーとメンバーが同じくくり。仮の共同体のシステムについても同じ」
 フタバが三つの単語をそれぞれまるで囲みながら呟き、他の二人が頷く。アンバーとシークを見たが、質問は無い様だ。浅く頷いて先を促した。
 その時、
 あ‥とロナウが声を出す。
「‥悪の組織の親玉は、魔術士協会に入ってるってこと? そして、いずれかの共同体のリーダーだって事? じゃあ
 ‥その共同体って、リーダーが悪の組織の親玉、メンバーが悪の組織‥ってことになるんじゃない? 」
 ぱっと顔を輝かせて明るい口調で言った。「凄いこと思いついたんだけど! 僕凄くない!? 」って感じなんだろうけど、コリンは難しい顔で首を振った。
「そうとは言い切れない。
 僕同様、自分もしくは誰か知り合いが儀式を目撃して、その呪文を解明しただけかもしれない。
 知り合いが目撃もしくは‥情報を流しただけで、リーダー自身は魔術士協会に所属していないかもしれない。僕もあれを使っていた時は、魔術士協会に所属していなかった(だからバレなかった)」
「あ‥」
 ロナウが「そっか‥」って残念そうな顔をし、そのタイミングでアンバーが目を見開き、
「別に‥協会の行った儀式を解明しなくてもいいかもしれない‥協会の人間が違法に儀式を執り行えばいい。協会の関係者の中に奴らと通じている者がいる‥という可能性もある。
 もしくは、脅されてその方法を教えた‥か」
 ぞっとするような‥低い声で呟いた。
「まさか‥」
 ロナウが顔面を蒼白にする。
 協会を疑いたくない。
 だって‥それは‥一番考えたくないことだ。

 だけど、ないことではない。

「僕もそれは‥考えるべきだと思う。
 僕が闇魔法を習ったって話をしたでしょ? そして、周りの予想をはるかに上回ってあっさり闇の魔法を修得したことも。そうしなかった場合‥僕はもしかしたら、闇の魔法に染まっていたかもしれない。そして、過去には実際にそんな人もいたらしい。
 ‥つまり、あれは闇魔法への勧誘となりえた‥って話。
 その話は以前したと思う。
 ‥フタバちゃんたちはあの時いたっけ? 」
 フタバとロナウが首を振る。
「協会どころか、教会内にも奴らと通じている者はいるかもしれない‥って話か」
 シークがため息をつき、コリンが頷く。
「ここまでの話を整理しよう。
 悪の組織の親玉は、魔術士協会に所属している魔術士か否か。魔術士協会に所属しているならば、魔術士協会の名簿を調べる。魔術士協会に所属していないのであったら、どのような経緯で共同体のシステムのことを知ってのか。その可能性を考える。
 魔術士協会の儀式を行える者の内、魔薬が出回ったころ前後で何か変わった様子を見せた人物はいないか。そして、今現在その者はいるか、もしくは、その人物が目を掛けていた者は誰か‥」
 今現在思いついたのはそんな感じか。まだ見落としがあるかもしれない。
「調べるのは困難だな」
 はあ、とアンバーがため息をつき、コリンも同意して頷く。
「怪しいって思う奴を片っ端から探索かけるしかない‥かな。名前と魔術士協会に所属している魔術士か否か、ってことくらいは分かる」
 ‥いずれはその方法を取ってもらわないといけないだろうが、その前にある程度絞り込みを行わないと‥
「‥その方法は、もう少し調査が進んでから、ですね」
 ふう、とフタバがため息をつくと、
「果てしないな」
 シークも苦笑いして頷いた。

「それはそうと‥魔法使いの法律って? 刑法ではない法律って話だよね? この前コリンが言ってた‥」
 アンバーがロナウを振り向く。
 ロナウがちょっと頬を染めて‥頷く。(フタバ、ちょっとムカッとするも、今は我慢‥とスルー)
 そして、ふう、と息を整えると
「コリンはどんな話をしていましたか? 」
 とアンバーに逆に質問する。
「魔法使いは刑法では裁かれない。被害者が普通の人間なら刑法で裁かれるるが、被害者加害者共に魔法使いである場合は刑法が適応されない‥みたいな話だったと思う。あってる? 」
 アンバーが答えると、
「あってますね」
 ロナウは頷いた。
「あの時コリンは、悪の組織は刑法で裁かれない領域で犯罪を行っていてのではないか? って話をしてた」
 アンバーの言葉に、ロナウは驚いたように‥二三回瞬きをして
「コリンとは‥そんな話までしてたんですね」
 と苦笑いする。
 コリンとアンバーが頷く。
「‥そうですね。犯人‥悪の組織の親玉がもし魔法使いなら、対魔法使いに対しての犯罪は刑法では裁かれないから厄介ですね‥。
 魔法使い(悪の組織の親玉)が仲間の魔法使い(被害者であってホントは仲間でもなんでもないんだが)に魔薬を売った。その際、何かトラブルがあって殺傷沙汰が起こった。
 魔法使い同士の内輪もめだから、普通の人間の我々は関係ない。刑法は普通の人間の権利や安全安心を守るものであって、普通ではない魔法使いのことは知ったこっちゃない。
 ‥警察はそう判断して調査すらしない。魔法使い同士でなくても、「魔法使いに関わってトラブルに巻き込まれた者は、自己責任だから、我々の法律では保護できない」っていう風に成りますからね‥」
 そう言ったロナウはどこか寂しそうだった。
 寂しいとは違う。諦め? 自嘲? ‥一言では言い表せないような複雑な表情だった。
 ふ‥とため息をついたコリンもフタバもそんな顔をしていた。
「魔法使いだか全員悪いわけでは無いのに‥。こんなことする奴がいるから‥魔法使いは‥普通の人とは違う、野蛮で尊大で、凶悪な存在だって言われる。‥こういう行動が魔法使いの評判を更に下げる。
 ホントに‥憎くて仕方が無い‥っ」
 悔しくて‥
 悔しくてたまらないという様な‥呟きをもらす。

「魔法使いは普通の人間とは違う。人間と獣は違う‥と同じくらい違う。
 優秀なんじゃなくて、そもそも能力自体が違うんだ。
 魔法って‥
 ホントに特殊なものです。
 普通じゃない‥特別なものです
 特別な道具が無くても、優れた身体能力が無くても、魔法使いだっていうだけで、普通の人間には出来ないこと‥魔法‥が使える」
 ポツリポツリとコリンが呟く。
「勿論、魔法使いだって普通の人間から生まれた普通の人間です。それは変わりません。不老不死なわけでもないし、食物を摂取しなければ餓えて死ぬし、眠らなくてもいいわけでもない。それは変わりません。
 だけど、魔法使いは魔法が使えるから‥普通の人間とは全く違う者として扱われます。
 愛犬を愛する人が、自分の犬のことを自分では家族と呼んでいようとも、周りの人から見ればそれは‥犬です。周りの人には犬にしか見えません。だって犬だから。
 ‥それと同じです。
 どんなに自分の安全性を主張しても、魔法使いをよく知る人間が「この人は善良なただの国民です」って証言しようとも‥魔法使いは魔法使いで、普通の人間ではないのです」
 アンバーもシークも黙ってコリンの話を聞いていた。
 胸が‥
 きゅっと痛くなる気がした。
「魔法って、魔法使いってね。
 ‥魔法の使い方を知らなければ、魔法使いの素質のある者だって‥魔力を持っただけの「普通の人間」のままなんです。魔法の使い方を覚えて初めて、魔法使いは「魔法を使える特別な人間‥魔法使い」になるんです」
 口の端をちょっと上げて、笑っているような表情のコリンの綺麗な目はアンバーとシークを見ているけれども、その瞳には二人の姿は映っていない。
 自嘲しているような‥諦めているような‥そんな虚ろな視線を二人に向けたまま話を続ける。
「魔法を覚えた時、魔法使いの素質を持つ者は皆‥胸のつかえがとれるような感覚を覚えます。
 今まで自分の胸につかえていた‥答えなんか絶対分からない『謎』の答えを目の前に提示されたような‥そんなスッキリした感覚を覚え‥その感覚はやがて、それを知り得たことによる満足感に変わり‥自信に変わります。
 私はこの真実についにたどり着いたんだ‥っていう優越感からきた‥自信です。
 魔法使いは皆、自信家だし、尊大なんです。
 「普通の人」と自分は違うって‥思ってる。そうじゃないと、魔法なんて使えない。
 ‥それこそ息をするほど簡単に人の命を奪える‥。そんな「危険なもの」を『普通なら』平気で使えない」
 ふ、とフタバが苦笑いを浮かべる。ロナウを見れば、彼も同じ様な表情を浮かべていた。
「魔法使いになる者には‥それだけの覚悟がいる。そして、「自らを驕ってはいけない」という戒めも。
 ‥道徳観念ですね。教会では魔法の授業よりも道徳教育の時間が多く取られていた。だけど、僕を害しようとする人間がいなくなることは無かった。‥つまり、そういうことです。
 道徳教育の授業で教えるのは、魔法使いの驕りや「内に秘めた凶暴性」を抑えることではない。
 「普通の人間は魔法使いより弱いんだからいたわってあげないといけない」‥弱者を労わる気持ちを教えるんだ。それを聞いた魔法使いは「じゃあ、同じ魔法使いで自分より強い者なら攻撃してもいいんだな」って思う。「弱者を守る為に自分はもっと強くならなければいけない。だから、強い者は胸を貸すべきではないか? 」ってなる‥らしい。‥何度かそんなことを言われた。
 信じられませんよね? 脳筋ですよね。
 でも、そんななんです。
 魔法使いにしか、魔法使いは止められないし、魔法使いにしか、魔法使いのことは分からない。
 魔法使いの法律は、魔法使いの為だけの法律なんです。
 その法律は、魔法使いにとって「どうしても破ってはいけない戒律」なんです。その法律に魂を‥魔力を縛られているから、魔法使いは道を踏み外さずに済んでいるのです。
 魔法使いの法律は‥ただの「魔法使いにとって都合のいい法律」ではない。‥魔法使いが人間である為の大事な法律なんです」
 ポタリ‥と涙がコリンの頬を伝う。
「魔法使いは自分たちが人間であるために、涙を流し、仲間の魔法使いを「自らの手で葬る」これが、魔法使い同士の殺害が殺人にならない本来の理由です。
 僕たちは‥この法律を‥勝手な解釈で悪用する‥僕たち魔法使いの尊厳を傷つける者たちが我慢できない‥っ」

 コリンは無茶苦茶だ。
 脳筋だし、短気だし、わりと自分勝手だし、我が儘なところもある。
 平気で規則は破るし、魔法だって結構使い放題だ。
 だけど、コリンは魔法が大好きだし、大事だし、
 自分が魔法使いであることを誇りに思っている。

 今回のことで、そのことを改めて思い知らされた。
 許しちゃ置けない。

 コリンは涙を自分でグイッとぬぐい、キッと虚空を睨んだのだった。
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