この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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156.何よりも大事

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「ホントにいいのか? 」

 アンバーを除くメンバーの提案にアンバーは困った様な顔をした。

 アンバーを除くメンバーの提案は‥
「商品(魔薬)は手に入れない」
 ってことだ。
 アンバーが「手に入れることは出来るけど‥」
 って言っても‥
「持ってるだけで違法なもんなんか持ちたくない」
 って首を横に振った。
 (それはホントなんだけど)それよりも
「アンバーが危ない目に合うかもしれなだろ。‥表には出て来るな」
 っていうのが一番の理由かな。
 
 だって、もう奴らと関わらせたくない。

 アンバーの事信用している。もう奴らの仲間じゃないって信じてる(アンバーは信じてないって思ってるかもしれないけど、‥ここの奴らは、呆れるほど単純な奴らだから‥もう普通にアンバーの事信じてる)
 アンバーは頭もいいし、奴らより魔法の腕も勝っている。普通に考えて、捕まって酷い目に合わされるわけがない。‥だけど、数で来られたら負けるかもしれないじゃない。
 たまたま油断するかもしれないし、敵の「破れかぶれまぐれパンチ」が決まるかもしれない。‥そしたら、アンバーだって負けるかもしれない。「もしかしたら」でも、アンバーが危ない目に合うのは‥皆嫌なんだ。
 ‥アンバーには言わないけどね。(でも、きっと伝わってるだろうって思ってる)

「こうして騒いでたら、あっちから嗅ぎつけて出て来る。僕たちはそれを待ってればいいんだよ」
 ふふってコリンが笑った。
 だって、自分が売った覚えもない魔薬を持ってる奴がいる‥「じゃあ誰が売った? 」「一体奴は何を知ってる? 」「奴は誰だ? 」って思うのは当たり前だ。そしたら、調べに来るだろう。
 そんなの、作戦って言うほどのものでもない。
 勿論、調べに来られたって足はつかないように細心の注意を払っているから、周りから「この計画」がバレる恐れはない。(調べたところで、さっきの同級生たちから「こっちが意図した情報」をつかまされるだけだろう)「詮索」防御の魔法は掛けられるけど、そんな上級魔法、掛けた方が寧ろ怪しまれる。
 こういうのは、アナログな方がいいんだ。
 
 ‥アンバーもコリンも、周りを信用してこなかった過去から、そういう裏工作は慣れている。
 コリンやアンバーも過去は「詮索防御」の魔法を普通にかけてた。そうすることによって「お前が調べようとしてる人間はお前より魔法の能力が勝っている」って相手に分からせるためだった。‥今回とは、状況が違う。

「そうそう」
 フタバがコリンに同調して、悪い笑顔で頷く。
 因みに、この作戦を考えたのもフタバだった。フタバは‥(あんな顔して)結構腹黒い。
 ロナウは苦笑いだ。(仮とは言えこんな腹黒いのの婚約者になっちゃったよ‥)
 そんなロナウの腰をパンと叩いて、(肩を叩きたかったのだが、身長の問題で無理だった)
「さあさ、『坊ちゃま』お仕事ですよ? 」
 ってパンツスーツ姿のコリンが伊達眼鏡をくいっと上げて、ロナウを見上げた。
 いつもは手を加えずそのままにしているボブの髪を、今日は「仕事が出来る人」っぽく一つに束ねている。
 目立つ明るい金茶の髪は、魔法ではなく毛染めで平凡な茶色に染めた。ホントは髪が痛みそうで嫌だったけど、やっぱり魔法を使えば分かる人には分かるから。トパーズの宝石みたいな大きな瞳は‥だけど、そう珍しい色でもないからそのままだ。眼鏡を掛ければだいぶ地味な感じになる。
 現在コリンは、ロナウの秘書さんに扮している。
 
 地味なロナウと、色味は地味だが整った顔した秘書‥なんか変な組み合わせだ‥。
 秘書って言うか‥
 ロナウは貴族だから侍従的なポジション‥かな? 後継者としての修行の為にコリンの義父につけられてますよ、って設定なんだ。
 因みにロナウの設定は、「ボディガード的な護衛兼‥ってのはいらない、自分の腕に自信がある! って感じの世間知らずの新米騎士」。
 その為に「見るからにか弱い侍従つけてるよ」をアピールしたいからコリンに決まった。コリンは背も小さく、身体も細い見るからに「坊ちゃま頼りにしてます~」って感じの弱弱しい‥頭脳系の若者。だけど、旦那様(コリンの義父)に「厳しく見張るように」言いつかってるからロナウには強気って設定。

 まあ‥コリンは一見したらそんな感じだしね。
 色も白いし、身体つきも華奢。背も小さいし、顔も童顔。目つきが悪いわけでもない。見た目は小動物系で、いかにも人畜無害って感じ。
 だけど実際は‥

 ‥人は見掛けで判断してはいけない。

 誓約士って絶対にバレない様に、ボタンがついてきっちりと体に沿った服を着ている。平民の服はペラペラだから、ひだの隙間から見えることもあるし腕とかまくった位で肌が結構見えちゃうんだ。普通だったら職紋持ちは職紋を隠すことはないから、「見えたって別に‥」なんだけど、コリンの職紋は「バレない方がいい」類のものだから。
 もっとも、コリンがローブを着始めたのは、見た目で判断され「顔だけのお飾り」扱いされるのが耐えられなかったからだけど。
「この服、結構窮屈だな‥」
 コリンはきっちりとボタンの留められた襟元を窮屈そうにひっぱりながら、つい呟いた。
 フタバがふふっと微笑み、コリンの襟元を正す。
「変じゃない? 」
 コリンが首を傾げて聞くのに
「似合ってるわよ。普通に見える」
 まるで弟に話しかけるみたいに優しい表情で答える。
 フタバちゃんはあの時先生が言ったように(あの時はそう見えるように演技してただけだけど)実際にも、ちょっと(ほんのちょっとだけど)表情が優しくなった。
 そんな二人の様子をほほえましいって顔でナナフルが見ている。皆のお父さんザッカは、‥相変わらずそんなナナフルを優しく見つめている。
 アンバーはちょっと心配そうに、シークはもっと心配そうに二人を見ている。シークは無表情なんだけど、‥皆にはこの頃彼が何を考えているか、何故かわかるようになってきたんだ。
 皆にそんなに見られてるっていうのに、当の二人は呑気なものだ。
「なんだそりゃ」
「いつもは精霊みたいに人間感ないんだもの」
「‥褒められてる気はしない‥」
 なんて、何でもないような会話を交わしている。

 まるで緊張感なんてない。

「緊張なんてしないよ。皆が居るし、なんだかんだ言って、僕らは一人として自分に自信がない人間なんていない」

 支えてくれる仲間がいるし、仲間のことを信用している。
 そして、仲間のことを守りたいって思ってる。
 だけど、
 「もしもの時」があったって、自分の事を犠牲にしようなんて思わない。
 それは、誰も望んでないことだから。

 自分も相手も全員大事。
 だから、誰も傷つけない。傷つけさせない。

 何よりも‥皆が大事なんだ。
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