この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

文字の大きさ
上 下
140 / 310

139.変化と覚悟。

しおりを挟む
(ナナフル視点)


「ザッカ? 」
 僕は顔を上げた。
 依然顔は熱いから、絶対真っ赤なままだろう。
 でも、ザッカは僕の顔を‥多分見てない。
 見てる余裕なんかない‥って感じ。
 きゅって目を瞑って、苦しそうに‥声を絞り出すように‥言葉を続ける。
「俺は‥母さんが言ったから‥とかじゃなくて‥、ナナフルと結婚したい。‥ナナフルが好きだ。‥ナナフルと一生一緒にいたい‥! 」
 瞑った目から涙をボロボロ流しながらザッカが言う。
「‥嫌わないで‥! ナナフル、俺はナナフルに嫌われたら‥っ! 」
 俯いて、涙をボロボロボロボロ流すその姿は、まるで子供みたいだった。
 ‥なんだよ、図体だけじゃないか。やっぱり。
 大人の男になったんじゃなかったのかよ。
 って、呆れた‥と同時に‥否、それ以上にほっとした。
 ザッカが、僕の知ってるザッカだって分かって、
 ほっとした。
「馬鹿だなあ。‥僕がザッカのこと嫌いになるわけないでしょ? 僕もザッカと一緒にいたい。‥ザッカがあんまりカッコ良くなってたから‥驚いて、嫉妬してた。‥これでも、僕も男だからね。嫉妬位する。
 置いていかれた‥って悔しくもなるし、自分は‥って落ち込む。
 ‥それっ位、ザッカはカッコよくなった。
 でも、ザッカはザッカだった。
 相変わらず、ちょっと抜けてる‥ってか、カッコ悪くって‥なんかほっとした。
 なんだよ。僕なんかに嫌われたかもって泣き出すなんてさ」
 はは、って苦笑いすると、
 ザッカが勢いよく顔を僕に向けた。
 顔は真っ赤で、涙でぐちゃぐちゃだ。
 口を拗ねてるみたいにとがらせて、怒ってる‥っていうより、子供が精一杯抗議してるって感じ。
 ‥すごい迫力だな。
 まじ泣きした男‥、‥ちょっと‥怖いぞ。
「そりゃ泣くよ! なんだよ、僕なんか、って、俺の嫁さんは世界で一番カッコいいんだ! だから、俺、ナナフルに並びたいって頑張ったんだ! 鼻っからその努力無駄‥って言うなよ‥! 
 俺だって、カッコつけたかった。こんなボロボロで‥情けないのじゃなくてさ‥!
 でも駄目だ~。ナナフル前にしたら、嬉しいのと、怖いのと‥好きな気持ちが前面に出過ぎて、カッコよくなんかできない‥」
「怖い? 」
 僕は、首を傾げて、ザッカに聞き返した。
 ザッカがこくん、と頷く。
「怖い。嫌われるのが何より、怖い。‥これ以上、好きになって、歯止めが利かなくなりそうなのも怖い。‥好き過ぎて、怖い」
 な~んか、頭悪そうな言い方だなあ~。
 好き過ぎて怖いとか、
 なんだそりゃ。
 ‥でも、分かる。
 分かるよ、って言い返そうとしただけなのに、さ‥
「ぼ‥僕もおかしいんだ! お‥男だのにさ‥! ザッカのこと‥カッコイイ‥とかおもっちゃってさ! 」
 顔を真っ赤にして、一生懸命になってた。
 ‥一生懸命言葉にしようって思っちゃった。
 そしたら上手いこと言えないわ、声がひっくり返っちゃうわ‥散々なの。
 うわ~。
 ‥カッコ悪~。
 でも、さ‥。
 一生懸命には、一生懸命を返すのが男ってもんでしょう!? 
 ザッカがきょとんとした顔で僕を見てる。
 ‥見るなよ。カッコ悪いから。
 ってか、‥顔が‥顔の熱さが引かないから‥見ないでよ‥。
「ナナフル‥。俺、‥カッコいい? 俺のことカッコいいって思ってくれる? 」
 ザッカの目はまだ、涙でウルウルしてる。
 ちぇ、‥かっこいいのに可愛い‥。僕、女の子みたいじゃん。こんなゴツイ男を可愛い‥なんて思うなんてさ‥。
 母性本能‥とか、男だから無いはずだろ。
「ねえ、‥ナナフル? 」
 不安げな顔で見て来るんじゃない! 思わず‥抱きしめたくなっちゃうじゃないか!!
 僕は、なるだけ平静を装って、こくん、と頷いた。
「かっこいい。ちぇ、言わさないでよ。なんの罰ゲームさ! 」
 カッコイイよ! ほんと、悔しい程にさ!!
 ごくん、ってザッカの喉が鳴った。
「ねえ‥」
 何気ない声かけに、心臓が跳ねる。心臓が‥破裂しそうだ‥。
「触っても、‥いやじゃない? 」
「いい‥けど‥」
 そっと、
 本当にそっと
 ザッカの剣ダコだらけの硬い手が僕の頬に触れる。
 その指がゆっくりと唇に触れる。
 ‥顔が近い。
 いつの間にか、顔の距離が近い。
「‥キスしても、‥いい? 」
 そういうセリフは、この距離でいうセリフじゃない。
 ここで僕に断られたら、お前どうするつもりだ。
 こんなムード満点って感じにしといてさ、‥どうするつもりだよ。
 こんなの‥拒否権ゼロみたいなもんじゃん‥。
「いい‥けど‥」
 ザッカの両手が僕の両頬に触れる。
 まるで包み込むみたいに‥優しく優しく触れる。
 ゆっくり、ザッカの顔が近づいてきて
 そっと、唇に触れた。

「‥俺、もう、死んでもいいって思う‥」

 僕の胸に顔をうずめながらザッカが呟く。
 僕はぎこちない仕草で、ザッカの頭を軽く抱きしめた。
 ザッカのちょっと硬い髪の毛がくすぐったい。
 まるで、離さない‥って感じに、ザッカの手が僕の腰に巻き付いてくる。
 抱きしめてるんだか、抱かれてるんだか分からないな。
 そうか‥抱き合ってるっていうんだな。こういうの。
 なんて、‥変に冷静に思った。

「‥ばか、何言ってるんだよ‥僕を未亡人にする気か‥」
 小さく息をつくと、ザッカの顔を覗き込んだ。
 どんな顔してるのかな~‥
 ってちょっと、悪戯心が湧いてきた‥っていうか‥
 なんか、‥顔が見たくなったんだ。
 まだ俯いてるのかな‥って思ったら、ザッカと目が合った。
 ザッカが目だけで、ふわっと微笑む。
 ‥う、カッコイイ。
 さっきまで泣いてたくせに‥かっこいい‥。
「そっか‥そうだな、俺がナナフル残して死んじゃったら‥嫁のナナフルは未亡人だな‥。それは、ダメだな」
 真っ赤になった僕に、今度はふわっとひまわりが咲くみたいに笑った。
 ‥悔しい。
「~~っ! 」
 僕は、ザッカを抱きしめていた手をばっと音がする位、勢い良く離すと、
 驚いて目を見開いてるザッカに、

 今度は、僕から口づけた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

処理中です...