この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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138.再会と葛藤

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(ナナフル視点)


 ザッカが王都での騎士訓練を終えてこの村に帰って来たのは、15歳の時だっただろうか? 
 あれから3年がたって、フミちゃんは一年間の住み込み花嫁修業を終え、マルクと結婚して、つい先日夫婦だけの新居に引っ越した。
 僕は?
 僕は相変わらずだ。ザッカの両親の家で、ザッカに時々手紙で近況報告をして、家の手伝いやなんかをしながら暮らしている。
 その手紙に先日「もうすぐ帰れそうです」って報告があって‥
 僕の「イオ母さんと楽しみに待っています」って返事が届いたか届かないか‥ってタイミングでザッカが帰って来た。
 手に、僕からの手紙を握りしめてたから、‥届け先不在の迷い手紙にならずに済んで良かったな‥と安心したり。
 久し振りに見たザッカは
 随分大きくなっていた。
 ‥同じ年だ。僕が、親戚のおばちゃんみたいに‥「大きくなった」っていうのはおかしいかもしれないが‥
 見た瞬間そう思ったんだから仕方が無い。
 ドアを開けた僕の目に飛び込んできたのは、ザッカの丁度肩のあたり‥。
 顔を上げると、ようやくザッカの笑顔と目が合った。
「ただいま」
 僕の知らないザッカが、僕の知ってるザッカと同じ笑顔を僕に向けた。

 
 僕は、思わずそこに縫い付けられた様に動けなかった。
 頭を殴られたような衝撃‥
 恐怖? いや、違う、そんな感情ではない。
 ばっと、顔が熱くなって‥動悸が激しくなって‥苦しくなった。

 久し振りに会ったザッカは、毎日「僕は男だ」「僕は男だ」って言い聞かせた自分の努力が‥なんか馬鹿馬鹿しくなる程、‥カッコよかった。

「‥おか‥えりなさい」
 辛うじてそれだけ言えたのが‥ホントに奇跡だって思った。
 それっ位に、衝撃を受けた。
 ‥憎らしかった。
 ザッカを見た瞬間、目の前が真っ黒になったんだ。
 憎くって‥悔しくって‥
 その汚い気持ちを知られたくなくって、俯いた。

 僕は男だ? は? 
 ‥男ってのは、こういうのを言うんだ。
 って思った。
 しなやかな筋肉。力こぶが出る逞しい腕、‥首も太くなった。服の上からでも分かる位、引き締まった体躯。きっちり刈り上げた髪、シャープな顎、意志の強さを表すような、眉と、真っ直ぐ前を見つめる輝く瞳。‥きりっとした顔つき。
 ザッカは、数年前ここでイオ母さんと見送った時より一回りも二回りも逞しく、大きくなっていた。
 ‥男らしくなっていた。
 図体だけではなく、精神的にも‥
 ザッカは大人になっていた。
 もう、そこに子供らしかった友人・ザッカ少年はいない。
 そこにいたのは、大人の男であるザッカだった。
 男らしい、大人の男。
 ‥いや、男にだって色々ある、ザッカみたいに「選ばれた男」もいれば、僕みたいに「ただ性別が男っていうだけの男」もいる。僕だって、自分が男だって言うんだったら、やっぱり男なわけで、逞しくないからといって、男であることを他の誰かに否定されるいわれはない。
 僕だって、ザッカと同様に男だ。
 ‥そんなこと言ってるんじゃない。
 そんなの、‥ただの妥協だ。そんなこと言いだしたらだ。
 ザッカはやすやすと成長して‥真の男にたどり着いた、‥僕は成長できなかった。それだけだ。
 僕は、男として、人間としてザッカに負けたんだ。
 大敗したんだ。
 

 ‥やすやすじゃないな。
 やすやすなわけがない‥。そこ(← 理想の男)に辿りつくまでザッカがどれ程努力していたのか‥。
 文通をしていた僕には分かっているはずだろ?! 

 ‥やすやすじゃないのは分かってるけど、努力すれば結果が得られるって分かったなら、僕だってそうしただろう。
 だって、そうだろ? 急に逞しくなったわけじゃない。日々その兆しがあったわけだろ? 日増しに、腕が太く、身体が筋肉で硬くなっていくのを実感できたんだろ? 
 ‥それは何よりの励みになっただろう。
 世の中には、やっても身体に筋肉がつかないタイプもいる‥って分からないだろう。
 僕だって、筋肉をつけようと必死になってる。
 腹筋したり、腕立てしたり‥。
 だけど、フミちゃんが僕になんて言ったと思う?!

「ナナフル。細くなったよね~。元から太ってたわけじゃないよ? そうじゃなくって、引き締まった‥って感じ。無駄な脂肪が無くって、引き締まった身体が凄いカッコイイ。
 胸は小さいけど‥そういうの関係ないって感じ。‥胸は無くても女らしって凄いよ! 羨ましい」

 女らしい?
 ‥そんなの要らないけど!? 
 しかも‥胸とか‥ある訳ないじゃん!? 小さい、じゃない、無いんだ!
 ‥そ‥そういえば、女の子のフリしてるならいる‥んだよね‥。
 詰め物とかするのか?!
 正直‥そこまでは抵抗があるな‥。
 赤くなっていた(であろう当時の)ナナフルを置き去りに、フミは興奮したような口調で続けた。
「この、ウエストのくびれ! どんな服でも着こなせる! って感じだよね。こりゃ、お洒落なエマもナナフルには叶わないって感じだよね~☆ 」
 ウエスト?
 ああ‥腰回りか。腰ってか‥腹筋。
 腹筋って、鍛えたら普通、硬くなって、6つとかに割れるんじゃないの?? 男だのに、ウエストが引き締まるとかって‥そんなことあるんだろうか‥。しかも、そんなの望んでないよ!? 
 
 ‥そういうことがあった。
 ザッカは、訓練して男らしくなり、僕は訓練(←というか、運動)したのに、女らしくなった‥。

 落ち込んでるときに、目の前にはザッカの(服の上からも分かる)腹筋。
 ‥触ってみたい‥
 ‥じゃなくって‥腹立つ。

「ナナフル? どうしたの? 」
 いつまでも僕が俯いているからだろう。心配した様なザッカの声。
「‥なんでもない。ただ‥久し振りに会って‥驚いたのと、安心したので‥胸がいっぱいになった‥ごめん」
 僕は慌てて顔を上げて、両手を振って
 誤魔化した。
 なんか、‥顔があつい‥。どうしちゃったんだ、まったく‥。
 ‥でも、さっきザッカに咄嗟に言ったこともホント。
 ホントに安心したし、驚いた。
「そっか」
 ほお、ってため息の後聞こえて来たのは、ほっとしたような声。
 ザッカの、優しい声。
 ほっとした?
 なんで?
 僕がザッカを見ると、
 ザッカは困った様な、悲しい様な‥目で僕を見つめていた。
「よかった‥ナナフルに嫌われたのかと思った‥俺なんて見たくないから‥目を逸らされたんだって思った‥」
 身体に似合わない‥弱気な声。
 ‥なんだって言うんだ。
 調子が狂う。
「‥ザッカのこと嫌いだなんて‥そんなわけないじゃないか」
 何なんだよ、その顔。
 ホント、調子が狂う。
 僕の口から出まかせ‥なんかにいちいち振り回されて‥左右されないでよ。
 嫌ってるとか、そんなわけない。
 勝手に僕がザッカに嫉妬しただけで、憧れをこじらしたようなもんであって、嫌っているとか、そんなわけがない。でも確かに、急にプイって視線を逸らされたら嫌われてるって思うよな‥。
「ごめん‥ほんと、そんなんじゃない。そうじゃないんだ‥」
 でも、目を合わせられない。
 顔が熱くって、‥なんかおかしいんだ。きっと、ザッカも‥変だって思うよ。

 そんな僕の頭の上で、ぼそっとザッカの沈んだ声。
「ナナフル‥。今回のこと‥俺‥俺一人でなんか舞い上がっちゃって‥ごめん。強くなって帰ってきたらナナフルの横に並べる‥って‥なんか俺、勝手に思って‥」
 並べる?
 僕の横に‥?
「ザッカ? 」
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