この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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132.ナナフルの過去。

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(ザッカ視点)

 ‥君は、貴族の様だね。
 
 ジェラルナン子爵の言葉にザッカは苦笑いした。
 ‥笑えない。
 ナナフルの捨てた過去何てどうでもいい。だけど、事実はどうあれ、過去っていうのは変えられないし、事実も、生まれも変わらない。
 忘れる努力をすることも出来るし、未来はいくらでも変えられる。
 だけど、過去は変わらないし、親は選べない。

 八歳のナナフルは母親に連れられて村に越して来た。
 コリンたちには、「ナナフルは一人で村に来た」って言ったけど、‥八歳の子供が一人で来れるわけはない。つい‥言ってしまったんだけど、正しかった気もする。
 父親は「死んだ」ってザッカの母親・イオに言ったのは、ナナフルだった。
「父親は死んだから、これからは僕が母さんを守っていかないとね」
 って、笑って言ったんだ。
 ザッカの母親は、「健気なことを‥」って涙ぐんで
「よっしゃ! 私にまかせとき! ナナフルもミアさんも(← ナナフルの母親)これからは私らの家族や! ミアさん‥ミアはあたしの妹になりな! 年の離れた妹だけどね」
 って、
 それからは、ナナフルたちを夕食に招いたり、一緒に湯屋に行ったり‥
 ナナフルはザッカたち近所の子供たちとすぐに仲良くなって、毎日夜になるまで遊んだ。
 村は貧しくって、でも、皆協力し合って明るく楽しく暮らしていた
 ザッカたちの父親は遠くの村に働きに行っている者が多かったから、村には男は年寄りを除いていなかった。
 だから、食事は夜を除いて村の食堂で皆一緒に食べることが多かった。
 イオもその食堂で働いていたが、身体が弱く、だけど手先が器用だったミアは、自分の家でお針子仕事を請け負っていた。
 つまり、家に昼間残っているのは、子供と、在宅で仕事をしている母親だけ‥だけど、子供たちは毎日真っ黒になるまで遊んで家にはいない。防犯の面では十分とは言い難い状態だったんだけど、安全な村だから誰も不安を感じることは無かった。
 が、‥事件は突如起こった。
 いつも通り夕暮れまで遊んで‥いったんナナフルの家の前でナナフルと別れ、そのままそれぞれの家に、で、夜、何時もの様にナナフルを夕飯にさそいに来たザッカが見たものは‥
 まっくらな部屋で、血まみれになって倒れるミアの横で座り込むナナフルだった。

「あいつらが‥あいつらがきたんだ‥」
「あいつらが母さんを!! 」

 ナナフルは余りのショックで‥だろう泣き叫ぶことも出来ず、座り込んでいた。
 焦点の合わない目で血だまりの中にいるミアを見つめて‥何かを呟いていた。
 ザッカの姿に気付くと、くしゃり、と顔を歪めて‥次の瞬間泣き出した。

「俺が守るから‥! これからは、ナナフルのこと、俺が守るから‥! 」

 ザッカはナナフルを抱きしめて、一緒に泣いた。
 ナナフルは声を殺して‥、声を上げて泣いたのは‥ザッカだった。
 あの後、ザッカの泣き叫ぶ声に駆けつけたイオにナナフルは、「奴らに‥見つかってしまった‥。もうここにはいられません。皆さんにご迷惑をおかけしてすみませんでした。これ以上、ご迷惑をおかけするわけにはいきません。‥僕一人で逃げ切れるとも‥思えませんし、もう‥」って言ったんだ。
 イオは泣きながらナナフルを抱きしめ、
「ああ‥、ミアが連れていた男の子は、ミアが‥母親が殺されたショックで死んだ‥っ! ここに居るのは、私の遠縁の娘の「ナナフル」だ! ザッカの嫁にする為に連れて来たのさ! 」
 って言ったんだ。
 当時は、嫁または婿にする為に小さいうちから子供を預かることが多かった。
 子供の多い家は、子供を養うのだけで大変だったから、男しか子供のいない家は、女の子をいずれ嫁にする為に預かったり、女の子ばかりの家だったら、男手がいるから、男の子を預かったりしたもんだった。
 ザッカの家は、ザッカ一人しか子供がいなかった。そして、男だ。じゃあ、子供を預かるなら、女の子だろう。‥そういう理由だ。

 ああ、そうだ。
 女の子の名前として、ナナフル。
 昔の名前は

 フュージ・コールネンド・ネーメル

 だっけ‥? よく覚えてないな。
 とにかく名前は‥そうだ、フュージだった。
 ‥とにかく、ナナフルがザッカの家に来たのはそういう経緯があったんだ。(それまでは、隣に住んでいたからね)


(アンバー視点)
 
「しかし、ナナフルがフタバちゃんのお願いを聞いてあげるとは思わなかった。貴族としての名前を隠しているから、てっきり貴族を捨てたんだと思ってた。‥だから、貴族には関わりたくないだろう‥って思ったのに。
いや‥関わりたくないけど、それにも勝って黒幕に近づきたいってことかな‥仕事熱心なもんだ」
 今回ジェラルナン邸に同行しなかったアンバーは、事務所で悪の組織に関する自分の記憶の整理をしていた。
 同行しなかった理由は、知り合いにあう可能性がゼロではないからだ。
 貴族も苦手だしね。
 そして、貴族‥と聞いた時ナナフルの「前のページ」を一番に思い出したんだ。
 ‥ナナフルは「平気なのかな」って‥。
 ナナフルの「前のページ」については、‥実は結構前から知っていた。
 どうでも良かったし、触れることもなかったんだが、
 悪の組織に関する自分の記憶の整理をしていた際に、ふと思い出した。

 貴族としての名前‥以前のナナフルの名前は、フュージ・コールネンド・エンヴァッハ‥ナナフルの「前のページ」に書いてあった名前だ。
 ナナフルは、
 以前は貴族で、‥フュージという名前があった。
 でも、‥今はナナフル・レインだっていうなら、それで‥いい。別に俺には関係が無いし‥。
 だけど‥このエンヴァッハ‥なんか聞き覚えが‥ある。

「どこで聞いたんだったけか‥? 」
 アンバーが落ち着きなく、眉間に指を押し付ける。
 アンバーが考え込むときの癖だ。単純に何かを思いだす‥って位ではない。「どうしても思い出せないで苛立つ」時にする仕草だ。

「‥エンヴァッハ‥たしか、伯爵家の‥令嬢の苗字がこんな感じだった気が‥」
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