この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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121.努力したわりに誰にも褒められないってことは‥往々にしてある。

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 剣を持ったら人が変わるらしいテイナー氏。
 フタバも、コリンもテイナー氏が剣を選ぶのなら、共同体から追放したいほど、らしい。

 どんなだ。
「そもそも、騎士とはなんぞや。そんな危険な(← どんなのか見たことないけど)奴が成っていいものなのだろうか? 」
 アンバーが首を傾げた。
 アンバーの頭の中では、ロナウ = 刃物ハイのヤバい人。
「騎士って、‥少なくとも王都の騎士って言ったら、貴族の子息で、礼節を重んじるお上品な人たちってイメージあるけど」
 地元の警備団と比べてお上品ってこと。ここらにいる騎士って名乗ってる奴らも、警備団とそう変わらない。
 あくまでも、王都の騎士ってこと。
 ‥勿論だけど、見たことは無い。
 よく知らないから、あくまでイメージだ。
 騎士道とかあるし‥品行方正な感じ?
 刃物ハイの奴じゃ、品位的に、ね?
 アンバーが首を傾げていると、
 コリンが
「ザッカさん、ザッカさんはいつから騎士なの? 騎士紋は生まれつき? 」
 もう一人の騎士・ザッカに尋ねた。
 ザッカは
「‥どうだろ、いつからあったんだろ。でも‥家族が何も言わなかったから、生まれた時には無かったんじゃないか? 」
 て首を捻り、
「まあ、少なくとも魔術士紋が変化したわけでは無かったな」
 と、付け加えた。アンバーは、
「あっても、赤ん坊の頃なら、紋も小さいから痣と間違えられるんじゃないか? 貴族なら、「職紋かも」って気を付けて経過観測するだろうけど、平民なら‥職紋だって思わなかったら、そのままにしそうだよな? 」
 ははと軽く笑う。
「まあそうかもな~。‥コリンはどうだった? 」
 ザッカが頷いて肯定した後、コリンに話を振る。
「僕は脇腹だから、着替えの度に母さんの目に自然に入ってて、やっぱり初めは痣だと思われてたんだけど、大きくなるにつれて、痣が模様っぽく見えてきて‥「あれ、あんたのそれただの痣じゃないかも? 」ってなって‥市長さんの所に聞きに言ったら、「それは魔術士紋ですね」って。
 市長さんは貴族なんです」
 貴族だから、職紋は勿論みたことがあるし、ましてやポピュラーな魔術士紋なら見慣れている。考えたことないけど、市長さんも何らかの職紋を持っていたかもしれない。貴族だから、そういうのは珍しくない。
 貴族だから、職紋は馴染みがある。そして、平民には馴染みが無くって、どうしていいのか分からないだろうってことも分かっている。
 進路の紹介や、教会の願書を出してくれたのは市長だった。
「成程。‥俺の場合は‥、ナナフルに言われて「そうなのか? 」って」
「ナナフルさん? 結構最近のことなんですか? 」
 コリンが首を傾げて尋ねると、ザッカが首を振って否定した。
「ナナフルと俺は幼馴染なんだ。ナナフルが八歳の時に俺の産まれた村に一人で越してきて以来な」
 ザッカがふわっと‥いつもコリンたちに向けるものとは違う‥柔らかい微笑を浮かべた。
 こういう表情は、対ナナフル限定だ。
 そういえば、ナナフルといるときだけでなく、ナナフルの話をしている時もザッカはこんな微笑を浮かべている。
 ‥ホントに好きなんだろうなあ、ってほっこりする。
「何処にあるんですか? 職紋」
 さりげなく、よくある場所を見ながらコリンが聞いた。
 職紋出現箇所ナンバーワンは、何といっても上腕だ。あと、脇腹。
 コリンはメジャーな出現場所ナンバーワン・ツーを抑えているんだ。

 そういえば、ザッカの職紋って見たことない。
 服から出てないところなのかな?

 そもそも、騎士紋を見たことがないから、それが興味がある。
「ここ」
 ザッカが、麻の上着の襟首をくいっと指で引き下げる。
 鎖骨のちょっと下、魔術士紋よりかなり小さく、誓約紋と同じくらいの大きさの青い紋。(‥青い紋は赤い紋より小さいのかな? )
 成程‥これが騎士紋か‥。
 同じ青の職紋だけど、誓約紋よりちょっと模様が細かい。‥気がする。
「‥成程」

 ‥というか‥。
 ごく‥
 つい、唾をのみ込んでしまう。
 ‥鎖骨、色っぽ~。
 水がたまりそうなくらいくっきりと鎖骨出てる。丸みが全くないって感じの筋肉質な身体‥。だけど、ギスギスしてる‥とか全くない。
 男の色気って感じする。
 服から出てる腕は日焼けしてるのに、胸元とか白いとか‥なんかエロイ‥。きっと、元は色白なんだなザッカさん。肌も綺麗で、乾燥とか全然してない。
 なんていうか‥ワイルドな感じなのに、肌は綺麗とかいう‥ね?
 ‥普段そんな目で見ないから‥新鮮っていうか‥
 色々‥

「‥コリン、見過ぎだ」 
 シークがぐいっと、コリンの顎を掴んで、横を向かせた。
 アンバーは苦笑いでその様子を見る。
 いつもの俺のパターンだと、「シークってば‥ヤキモチ焼いた? 」って揶揄うところだけど(シークは結構ヤキモチ焼きだからね)‥あれは‥分かる。俺もイラっと来たもん。
 ザッカに嫉妬した‥ってのも、勿論あるけど、
 それとは別にさ‥。
 ‥他の男(テイナー)の前で、コリンの別の顔‥とか見せたくない。
 コリンは、テイナーの前では、俺たちの前でする顔じゃない顔をしてて‥テイナーはその顔以外知らない。なら、わざわざ見せたくない。
 意外と弱かったり、抜けてたりする‥普通の人間。
 気がつくと、テイナーがコリンとシークの様子を、不機嫌な顔して‥睨み付けてる。

 テイナーに不機嫌になる資格とか、ない。
 全然相手にもされてないのにさ。
 ‥帰りゃいいのに。
 コリンにもフタバにも愛想つかされたんだから、‥テイナーなんてもう帰ったらいいのに。
 って、なんか‥イラっと来る。

 ザッカの職紋は、目立たないところでもないけど、服を着てたら隠れる場所だ。
 ‥なんでそんな所の職紋にナナフルが気付いたかって‥多分、‥そういうことをする関係に二人があるからだろう。
 何かエロイ‥
 ってコリンが(エロい二人を)想像して一人赤くなっていたら、
「一緒に風呂に入ってたら、「あれ、それ痣じゃないよね? 」ってナナフルが言って‥。子供の時って、子供同士一緒に銭湯に行ったりするだろ? その時も近所の幼馴染の悪ガキたちと4.5人一緒に行ってて「カッコイイな! 村長に聞きに行こうぜ! 」ってなって‥」
 ‥エロくなかった。
 ザッカの所は、村一番の知識人は村長。
 そしてきっとその村長も貴族。
「すぐ聞きに行った? 」
「流石に子供だけじゃ行けないだろ。その時は、まだこんなにはっきり模様が出てなかったから「ただの痣だろ?痣 」って訝しがる父親を説得してくれたのはナナフルだったな。「絶対に職紋‥騎士紋です! 」って」
 ん?
 まだはっきり模様がでてない状態? 何それ?
 首を傾げるコリンに構わずザッカが話を続ける。
「結局、父親の都合がついて村長の所に聞きに行ったのは、三日後だった。その時には、模様もはっきり出てて‥村長はその痣を見て、「騎士紋は騎士紋の資格を有する者が、己が忠誠を誓うと決めた理の主を決めた時に現れる。ザッカは主を決めたのですね」って言った。で、俺は「決めました。そして、その相手にも誓いました。「その誓いは生涯違えることはありません」って」
 って、当時を思い出したのか、得意そうに言った。
「素敵~! 」
 コリンがキラキラした顔でザッカを見ている。
 アンバーが、ちらっとナナフルを見ると、俯いて‥真っ赤になっていた。
 ザッカが誓ったのは、やっぱりナナフル。

 騎士紋に誓うとかって、気障過ぎない? 
 ベタだよ、ベタ。

 アンバーは、心の中で毒づいた。
 シークは、
「‥ってことは、テイナーも誰かに忠誠を誓ったの? 」
 誰かって‥コリン?
 シークの視線に気付いて、コリンが「勿論僕じゃない」と首を振る。
「魔術士から騎士への進化は、即ち魔術士の杖から、騎士の剣(なり、槍なり)への変化を意味する。だから、進化型の騎士が「忠誠の誓い」を立てるのは、武器‥テイナー君の場合だったら‥剣だ。
 杖を師匠‥教会だったら教会長だね‥に返還して、新たに騎士の立会いの元、剣に忠誠を誓う」
 テイナーの立会いの騎士は長男なのだろうか? (← 違いました。勿論、身内じゃダメ)
 長男としては面白くはないだろうが、これで家宝の神剣を扱える騎士が出来た。
 テイナー家は代々家宝を使いこなせる騎士が家督を継いできた。
 家宝が使えないとなれば、いくら本家の長男とは言え‥という意見も親戚から上がっていた‥とは容易に考えられる。とは言え、次男には期待できない‥。
 そこで白羽の矢が立ったのは、優秀な魔術士で、兄弟にコンプレックスを抱えているロナウだった。
 父親あたりがロナウに囁きかけたのかもしれない。「上手くやれば私は君を誇りに思うし、兄弟にも見直してもらえるかも」と。
 そして、彼は努力してロナウは魔術士紋を騎士紋に進化させた。

 だが‥今もロナウは、次期当主ではないし、それどころか、騎士でもない。

「テイナー君さあ。‥別に騎士になりたかったわけじゃないよね? 誰かを守りたいとか、国家に忠誠を誓ってるってわけでもない。
 今現在騎士として働いているわけでもない。
 家に帰って騎士の資格証の名前見てみな? お兄さんになってるかもよ? 名義貸しどころか、替え玉だな。
 年も近かったよね。確か。‥もしかして、顔も似てたりするんじゃない? 」

 ロナウが黙る。
 どうやら図星だったらしい。

「自分で考えて、自分で決めないからこうなる。
 きっとこの先、神剣を抜く必要があるときだけ駆り出される、お飾りの当主補佐にされるよ。
 王都での就職なんてもっての外。だって、進化型の騎士紋を持って神剣を扱っているのは、君の兄さんってことになってるんだから。
 兄さんは当主で、王都の騎士にはならない。
 ‥嫌な人生だよね。
 ‥自分の将来も、自分の努力も、それにより得られる賞賛も報酬も全て自分のものにならない。
 今回のことは‥もう仕方が無い。騎士紋を活用することは諦めて、魔術士紋を取り直そうよ。
 君ならきっと出来る。
 座学はそうでもないけど、実技では間違いなくトップ5に入ってる実力者だからね。
 大丈夫、職紋は二つ持てるんだ。僕も二つ持ってるよ」
 
 二つ持ってる。結構とんでもないことを軽~くいうな~。
 これ、「僕は君とは違うよ、僕の方が凄いよ」って言ってるんじゃないよな? ‥真面目な話してるんだよな。
 ロナウは苦笑いした。

「二つ持つってのは、違法じゃないのか? 」
 コリンが職紋を二つ持っているって当たり前に知ってる。
 アンバーたちにとっては、それは「今更」なんだけど、‥今更ながらそこらへんがよく分からない。
 だって、掛け持ちってことになるよね? 
 コリンは首を振る。
「単純に、二つの協会に所属しなければいけなくなって、二つの協会に協力しなければいけなくなるだけですよ」
 あと、年会費もいる。‥引退したら退職金も両方から出るけど。
 コリンが付け加えた。
 あ~職紋を使うには、年会費が掛かるんだ。職紋手当は国から出るらしいけど‥協会はその集めた年会費何に使うんだろ?
 コリンは頷くと、
「教会維持費と、退職金の積み立て、あと‥職業の斡旋と職業訓練が受けられます。教会で教わるより高等な資格訓練です」
 そのアンバーの考えを読んだかのように説明してくれた。
 コリンもフタバも払って来た。
 騎士紋を持っているけど、職業として使用していないザッカは払っていない。
 ロナウは‥
 ロナウが首を傾げる。
「あれ? 僕払ってないなそういえば。年会費。
 魔術士協会から脱退して、‥騎士協会に入って‥ないな‥そういえば。‥ってか、相手にもされなかったというか‥」
 そのまま、騎士協会に入ることもなく帰って来た(っていうか、追い返された)
「相手にされなかった? 」
 コリンが怪訝そうな顔で首を傾げる。
「奴らは、進化型騎士を騎士だと認めてないからな~、‥忠誠を誓う誰かがいるわけではない進化型の騎士は、邪道だって言って‥」
 ロナウは小さく何度も頷きながら言った。

 ‥それって。
 法の抜け道じゃない? 。
 人の法にも、魔術士の法にも縛られない‥無法地帯‥。
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