この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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120.見えて来たロナウの背景は→ →でも、そう影がある‥って程でもなかった。

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「‥テイナー君。君はなんで剣を持ってるの? 」

 コリンの冷たい視線がロナウを射る。
 非難するような鋭さも、返事を強要する強さも無かったが、
 ロナウが目を逸らすだけの威力はあった。
 ロナウは目を逸らし、
「非難される覚えは‥ない」
 って呟いた。
 コリンに言うわけではなく、自己弁護的に‥だ。
「‥別に僕も非難する気はないけど。‥ただ、必要ないのになぜだろうな‥って思っただけだ」
 その口調が、
 如何にも「別にお前には興味なんか欠片もない」って言っているようで‥
 さっきの視線とは違う意味で、‥刺さる。
 やめて、見捨てないで。
 今までも構ってはくれてなかったけど、せめて見捨てないでっ! 
 縋り付きたい思いを、ぐっとこらえる。
 そこは、あれ。男の矜持って奴?
 視線を逸らしたまま、
「別に、格好がいいから持ってるわけじゃない。‥この剣は、家宝だ。わがテイナー家は代々騎士の家系で、神剣に選ばれた者が後継者になるんだ。
 ‥だけど、兄弟で唯一騎士紋が出た長男にこの剣は扱えなかった。鞘から剣が抜けなかったんだ。
 そうは言っても、僕とイヴァン兄‥次男は、魔術士紋持ちだったし、騎士紋が出たのは長男だけだったから、後継者は長男だって家族はみんな思ってたんだ。誰も異論はなかった。
 表の舞台に上がることを望まない性格で数字に明るい次男は主に経営面で長男を支えるって結構幼いうちに決めて、進学も教会ではなく貴族の子息が経営学を学ぶアカデミーに進学することを希望した。
 一族の望みとしては‥長男の補佐として‥騎士紋持ちではないが長男と同じ騎士学校への進学‥だったんだけど、イヴァン兄は拒否した。騎士学校に行ってもやって行く自信も無かったし、剣どころか武器総てに興味も無かった。‥そもそも運動が苦手だったんだ」
 ロナウが「剣を持つに至った事情」とやらを話し始めた。
 コリンはとにかく聞くことにしたらしい。
 さっきと変わらない冷たい視線を、相変わらずロナウの首元に向けていた。
 ‥あれ、絶対可視化したら「じりじり‥」って表現される感じの視線。
 他のメンバーも黙ってロナウの話を聞いていたが、
「待って? 騎士紋も出てないのに騎士学校? 」
 話を中断することを詫びたうえで、ナナフルが質問した。
「進化型の騎士紋にすればいいって周りは思ったようですね」
 テイナーにとってその質問は想定内だったんだ。ナナフルに頷いてから説明すると、珍しいことですが、稀にあるんです。と、付け加える。
 ‥でた、進化型の騎士紋、‥テイナーの奴だ。
 アンバーは、突如迫った革新に「成程‥それで、テイナーは(騎士になったのか)」って納得して(← こっそり)教会で首席、次席の成績を修めた秀才・コリンとフタバは「進化型騎士紋‥話には聞いたことがあるな」って頷いた。
 だけど優秀な彼らにとっても「聞いたことはあるけど、実際にそんな人には出会ったことは無いな」って位のレアパターンだという。
 (勉強家のコリンたちでそうなんだ)アンバーを除く他のメンバーには聞き覚えすら無かったらしく、怪訝そうな顔で首を傾げている。
「騎士紋には生まれつきの騎士紋と、魔術士紋を進化させた進化型の騎士紋っていうのがあるんです。どちらも騎士紋は同じで、色など‥見た目での違いはないのですが、王邸の騎士団では、剣の腕が劣る代わりに魔術で秀でている進化型騎士紋持ちを一定数、護衛騎士として加えるのが決まりになっています」
 採用試験には、教会長の発行した「学業終了承認証」と「騎士紋進化証明書」を持参するらしい。
 と、コリンがナナフルたちに説明する。
 アンバーは、「全く同じ扱いってわけではなく、就職枠としては別のものなのか」と密かに納得したり。
「つまり、進化型の騎士紋っていうのは、魔術士紋を有する者が、騎士学校に入学してから、魔術士紋を騎士紋に進化させるってことだね。‥でも、希望したからと言っても、皆が皆出来るものでもないんじゃない? 進化させるのって難しそうだよ? 」
 質問したのは、やっぱりまたナナフルだった。
 ナナフルの疑問はいつも的確だ。
 あまりにも的外れな頓珍漢な質問をすることは無い。
 むしろ、ザッカたち魔術に詳しくない者たちに「そういえばそれ、分かんないかも」って疑問を持たせるためにしてるのか? って程、「いい質問」をする。そして、コリンもそれに正確に答える。ナナフルは、コリンが「正確に答えられる」と知っているからこそ、質問している‥って感じもする。
 ‥ナナフルさんって、ちょっと底知れない。
 フタバはこっそり思った。
「そうですね。誰でもってわけではないと思います。魔術の中でも攻撃魔法が得意‥というのは、当然なのですが、他に、強い意志と、正義感、責任感、忠誠心といった、騎士としての素質はやはり必要ですね。精神的特性に加え、身体的特性‥やっぱり運動神経は必要だと思います」
 コリンがナナフルに説明すると、ザッカたちも「そりゃそうだよね」って頷く。
 ロナウがコリンに「そうなんだ」と頷き
「だからイヴァン兄も拒否したんだ。自分には無理だって」
 そりゃ、そうだよな~。騎士だのに、剣が興味なくて才能ない‥運動神経も悪い‥とか致命的だ。
「テイナー君がじゃあ代わりに‥って話になったってこと? 」
 って聞いたのは、シークだった。
 ロナウが首を振る。
「三男なんて誰も期待してないんです。そういうもんですよ、何処でも。
 次男が優秀だったら余計にね。結局ね、神剣は扱えなくても、剣の才能があって、人望がある長男が騎士家業を継いで、実家の経営は次男が‥ってことになったんだ。
 家的にはベストではないが、仕方が無いか‥って。
 貴族といっても貧乏貴族だ。僕ら三男坊以上はそのうち家を出るってことになる。家の役に立つ‥っていうなら、それこそ豪商の一人娘の婿養子にでもなることかな。その為に普通は、それこそイヴァン兄の様にアカデミーに進学して、養子先で困らない様に経営学を勉強するべきなんだろうけど、僕はこの通り頭もそう良くない。顔もイケメンってわけでもない。条件のいい家から養子に欲しいって申し出は‥期待できない
 ‥だけど、幸い魔術の才能があったから、教会に進学させてもらえたんだ。で、‥将来は結婚しないで魔術士となって自立して家を出るつもりだった。
 ‥家の役にはたたないけど、食い扶持は減るからね‥」
 とロナウが笑う。

 ‥現在は、だけど魔術士になっていない。

 アンバーは心の中で首を傾げた。あくまでも、心の中で、だ。
 皆は、ロナウが騎士紋持ちだってことを知らないから‥。

 魔術士なるつもりではいたけど、なってない。
 気持ちの変化があったってことだろう。
 闇属性の魔術を学んで‥魔剣が抜けたことで、騎士になって今まで相手にもされなかった兄弟に一矢報いれるかもしれない‥って欲望が沸いたってことか? 

 (騎士紋持ちだけど、(職業的に)騎士になってるわけではなさそうだ。さっきの話だと、長男の補佐で、職業的な「騎士」ではない‥ってことかな? )

「では、‥今テイナー様は? 」
 というナナフルの言葉に被せる様に、コリンが口を開いた。
「‥その、神剣‥っていうか、魔剣をテイナー君が今持っている理由は? それ、長男が持つべき家宝なんだろ? (闇属性の魔力を持っていないらしい)長男には抜けない代物だとしても、だ。
 テイナー君が魔術士になってるんだったら、その剣は要らないはずだよな? ‥僕は言っただろう? 君は魔術士になるべきだって。学生時代に再三言って来たつもりだ。
 家業を手伝いたいって気持ちは分かる。だけど、君はその剣を持つべきではないって‥さっき、アンバーに言った話を君にもしただろう?! 」
 コリンの目は、ロナウを更に厳しく射抜いた。
「その剣を持っているってことは‥君は、進化型の騎士紋持ちになったのか? 」

 あ、コリンは分かってたのか?
 ‥分かっていたというより、剣を見て分かった‥ってことか。
 さっき教会時代の話をしてたから‥長男、次男との確執の話はその頃からしていたのかもしれない。

「長男の補佐になるために、わざわざ騎士紋持ちになったのか!? 」
 依然厳しい口調のコリンに、テイナーが首を振る。
「僕は‥さっきコリン君が言っただろ? 王都の騎士団に「進化型騎士紋持ち」枠で入りたかった。‥今は兄のスペアでしかないけど、機会をみて‥この剣を持って、いずれは王都の騎士団の採用試験を受けようと思ってる。
 そしたら、誓約士のコリン君にも並べるね! 」
 って最後の言葉をそりゃあもう嬉しそうな顔で言ったんだ。

 ‥結論、そこに持ってきちゃうんだ。

 兄弟の確執云々は関係ない‥ってこと?
 コリンに並びたいから‥だから、魔術士紋を騎士紋に進化させた??
 ただの魔術士じゃ、誓約士になったコリンに相手にされない。‥だから?
 
 それって、ただ見栄だけじゃないか!?
 
 コリンもそう思ったんだろう、一瞬唖然とした顔をした後、俯いてきゅっと唇を結ぶ。
「そんなこと僕が喜ぶとでも思ったのか‥! バカな‥。
‥そんな、そんな‥理由で‥! 」
 顔を上げ、ロナウを真っ直ぐ見つめ、苦しそうな口調で言った。
 コリンの表情は暗い。

 コリンのそんな顔が見たかったわけではない。
 コリンに、軽蔑されるのだけは嫌だった。
 だのに‥
 ‥だけど!
「君は‥
 君は分からない! 兄弟の中で、誰にも認められない‥誰にも期待されないことがどんなに虚しいか! 」

 何かが自分の中でプツリと切れた。

 無意識のうちに、叫んでいた。
 酷く‥八つ当たりみたいに。
 
 そして、はっとした。
 何やってるんだ‥! って、我に返った。
「は?! 」
 コリンの顔は‥
 もう、悲しそうじゃない。さっきまでは、呆れながらも、僕の事を心配しているって表情だったのに‥
 今では、
 心底呆れてます‥って顔。

「君だって、兄たちに対してコンプレックス抱えてたじゃないか。だから、早く一人前になりたいって‥」
 もう、破れかぶれ。
 自分でも何言ってるか分からない。
「一人前になりたいって思うのは、当たり前じゃないか。認められたいのも当たり前だ。
 認められるために、自分で真剣に考えるべきだろ?! 僕の為‥とか‥関係ないだろ!?
 自分の人生じゃないか‥! 」

「‥なんでコリンはテイナー君が剣を持つのに反対なの? テイナー君が家族を見返したいってだけで自分の将来を決めたから? テイナー君が、騎士になりたいから成ったって感じじゃなくって、不純な理由で騎士になったから? 魔術士になるために一緒に学んできたのに、テイナー君に魔術士としての誇りが備わってないって感じだから? 」
 たしか、コリンが俺に言ったのはこんな感じだったよね?
 アンバーが首を傾げる。
 再三言って来たのに、そのことを理解してくれないから怒ってるの? ‥だとしたら、コリンってちょっと我が儘‥。自分の言うことなんでも聞く信者が言うこときかないとかないわ~! ってことでしょ?
「は!? そんなもんはどうでもいい! テイナー君は‥! 」
 コリンがアンバーを睨む。
 ‥わあ、怒りの矛先がこっちに‥
 アンバーはちょっと焦った。
「テイナー君は? ‥なに? 」
 睨またことにちょっと怯んだアンバーが、おど‥ってした感じで聞き返す。

「‥剣を持つと性格が変わるんだ。‥もう、そりゃあ、酷い感じに! 」
 コリンが、強い口調で断言した。
 もうそりゃあ酷い感じに‥?
 多分、気が大きくなって、暴言がでるとか、性格が悪くなる‥ってところだろう。
 それも、あれほどコリンが断言する位‥。横では同級生のフタバが同意して、小さく何度も頷いている。
 ‥ああ、いるよねそういう人。酒飲んだら普段大人しいのに、気が大きくなる‥とかね。あれと一緒だよね。ハイになるって奴なんだよね。
 ‥迷惑だよね。
 アンバーは生ぬるい苦笑いを浮かべて、ロナウを見た。
 こいつがね~。なんか想像できないな~。‥きっと、気が強くなるっていっても、ガチギレしたナナフルさんには敵うまい‥とも、思ったり。

「僕はあの状態のテイナー君を共同体のメンバーとして認めたくないっ! 」
 コリンがき、っとロナウを睨んだ。

 成程。納得。テイナー君の為に‥とかじゃなくて、そういう意味でね。

「‥私も同感ね。ロナウ。共同体から追放します」
 ふう、とフタバもため息をついてコリンに同調する。

「えええ!? コリン君! フタバちゃんまで! そんなあ! 」
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