この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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119.コリンの覚悟と誇り。

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「え? 影を集める? 」
 ‥騎士紋持ちっぽくない戦闘スタイルだな。
 こっそり首を傾げ、アンバーは思ったんだ。

 騎士紋持ち。

 つまり、ザッカと同じ職業紋持ち。
 テイナーが騎士紋持ちだってことは、鑑定で分かった。

 初めて会った人はまずは鑑定‥は、アンバーの癖みたいなもんだ。
 それで、二人が貴族だってことも、二人の大体のステータスも分かった。
 だけど、「分ってますよ」みたいなそぶりは絶対見せない。
 鑑定持ちは相手に警戒されるし、(鑑定結果を自分だけが知っているってことは)相手が嘘をつく人間かってのを判断する基準にもなる。
 結構いる。
 鑑定した名前と違う名前を「自己紹介」してくる人。
 自分の名前が嫌いだから‥って理由なこともあるし、特に重要な理由も無くて家出してる子なんか、結構偽名を語ったりする。‥違う土地で、ちょっと「違う自分」を満喫しているんだろう。
 そういうのは、全然問題ない。
 あとは‥、事件性がある感じ‥かな。逃げて来たとか、追われてる‥とか。これも‥アンバー的には問題はないんだけど‥(ちょっと気を付ける‥位かな? )
 犯罪者だから名前を偽る必要がある。
 ‥これが問題。
 そういうのがあるから、「偽名」の場合は、注意が必要なんだ。
 二人は‥問題なく本名を名乗ってきたようだ。
 まあ‥学校に通っていたような素性の知れてる子たちだからね?
 そんなに警戒することはない‥とは思うんだけど‥癖だしね。一応ね? 

 フタバ・ジェラルナン・ベネット
 ジェラルナン家の養子。ベネット家長女。三人兄妹の末っ子。
 魔力保有、魔術士紋保有
 コリンの説明によると、風と氷属性の魔術を行使する。

 ロナウ・ヴァンディール・テイナー
 テイナー家三男。
 魔力保有、騎士紋保有
 コリンの説明によると、魔力保有量は少ないが、他の属性の魔力に対して適応力が普通の人の数倍優れている‥つまり、どの属性からも魔力が吸収できる極めて闇の属性寄りの性質を持つ。
 闇の属性持ちであることは教会では隠しており、表向きの‥メインの属性は、雷。
 魔術が得意で、使用できる魔術も、雷の外、風、空間、‥闇と多い。

 属性なんかはコリンの説明を参考にした。
 フタバについては、さっき見たのも含めて「そんなもんだろうな」って納得した。でも、
 テイナーについては‥。
 あれ? 
 って思った。
 コリン(と、フタバ)は、テイナーが騎士紋持ちって知ってなくない? って‥それがすごく違和感があったから。
 だから、再鑑定‥もう少し深く鑑定してみたんだ。
 結果は、やっぱり騎士紋。
 教会卒業者が騎士紋持ち? 
 ‥生れつき騎士紋を持っていたなら、教会ではなく騎士学校に行くはずだ。だけど、彼は騎士学校ではなく教会に行った。
 それはつまり、‥テイナーの騎士紋は‥魔術士紋を進化させた‥騎士紋ってことだ。
 ‥珍しい。
 ザッカも同じ騎士紋持ちなんだけど、彼は初めから、騎士紋だった。
 テイナーが騎士紋持ちだって鑑定した時‥何となくの感覚でしかないんだけど、ザッカと何処か違うな‥って思った。
 魔術士と騎士が混じってるとかではない。医療紋みたいに紋の色が違う、とかでもない。
 騎士紋は騎士紋って鑑定しか出ないんだけど、進化の軌跡みたいなもんが再鑑定によって分かるんだ。丁度本のページをめくるみたいに、前の紋が分かる。
 コリンの誓約紋も、進化型職紋だ。
 魔術士紋 → 神官紋 → 誓約紋。
 でも、誓約紋ってこれ以外の進化のパターンはないから、鑑定するまでもない。(生まれつき誓約士っていうこともないしね)あれは、進化型というよりも、習得型職紋って言った方がいいね。
 でも、騎士紋は違う。
 生れつき騎士紋だった場合と進化させて騎士紋になった場合がある。
 ‥わざわざ進化させて‥騎士紋にした理由って何だろう。
 なんか事情があるんだろうけど‥あえて触れない様にしよう。絶対、面倒くさいことになるから‥。
 そもそも、騎士紋ってどんな紋なんだ?
 剣士紋は、分かる。純粋に剣の腕前が認められた職紋だ。
 使用する剣に決まりはない。シークみたいな大剣でも、レイピアでも問題ない。(‥暗殺者が使うナイフは違うだろうけど‥)剣に魔力を付与した魔剣を使っても問題はないが、職紋の判定基準は、あくまでも剣の腕前‥。
 だけど、騎士紋は‥どうなんだろ。騎士と剣士の違いなんて俺に分かるはずねぇわ。だけど魔術士紋が進化する‥ってことは、魔剣使い‥的な?
 帯剣してるあれ、魔剣かな? 
 魔剣とか‥興味ある。
 じーと見てたら、
 目が合った。

「何か? ええと‥ラッセン君? 」
 ロナウがアンバーに人のいい笑みを向けた。
「アンバーでいいです。
 すみません。その剣が気になって。‥いい剣ですね」
 にこ、とアンバーが微笑む。
 ロナウは首を傾げて
「大魔術士様は剣の目利き迄出来るんですか」
 剣を鞘のままアンバーに差し出した。
「いえいえ、そんな‥大魔術士なんて‥。コリンがふざけて言ってるだけです。‥お恥ずかしい」
 アンバーがそれをちょっと芝居じみた位畏まった仕草で受け取り
 ロナウに断ってから、鞘から剣を抜く。
 ミスリルだろうか、汚れ一つない美しい刀身にアンバーの目は一瞬で釘付けになった。
「あれ? 抜けました? 」
 ロナウが目を見開いたのだが、そのことにアンバーは気がついていない様だ。
 ‥それ程、アンバーはロナウの剣から目を離せなかった。

 魔剣? そういうのは分からなかったが、ただ、美しい‥と思った。

「あれ‥この剣。魔剣ですね」
 アンバーの横からその様子を見ていたシークが、呟いた。
 誰かに話しかけている風では無かったが、口調から、それがアンバーではなくロナウに対しての呟きだということが分った。
「シーク‥」
 ぱちん、
 剣を鞘に納めながらアンバーがシークを振り向く。

 ‥何か、意識が持っていかれていた。‥ちょっと危険だな。

 それとともに、すっと力が抜けて行った気がした。
 シークの声に、我に返った。で、何かヤバい感じがして‥あわてて剣を鞘に納めた。

 剣の刀身が完全に鞘に収まると、きゅうにふわっと身体が軽くなった。‥重い荷物を肩から降ろした‥というか、今まで憑りつかれていたものから解放されたような‥そんな感じがした。

 ‥危なかった。

「魔剣って? 分かるのか? 」 
 アンバーが、視線だけでシークを振り返る。
「そりゃわかるさ」
 シークが頷く。
 剣士だから‥ってわけでもないだろうが、‥剣を毎日振って来たシークだからわかること‥って感じだろうか? 
 アンバーが首を傾げると、
「魔剣は‥やっぱり見た瞬間に違和感があるね。持ち主を選ぶというか‥、多分だけど、魔力が無い者や、属性が違う者には違和感を感じる‥とかじゃないかな? 」
 あ、
 ‥じゃあ、俺が普通に手に馴染んだのは‥
「見た感じ‥なんですけどど‥闇の魔術が付与されてる魔剣ですね? 」
 シークがロナウに尋ねると、ロナウが頷いた。
 闇の魔術が付与‥
 そういうこと‥なのかな?
 ‥俺も闇の属性持ちだから、闇の魔術が付与された魔剣に違和感を感じなかったってこと? 

 ‥それどころか、まるで自分のものか‥と思う程手に馴染んだ。
 魔剣なんて使ったことないけど、なんだか使いやすそうな気がした。
 ‥まあ、気がしたってだけだけど。
 (使いやすそう‥って言っても)今まで剣なんか持ったこともない。
 素人が剣を振り回したら、怪我するだけだろう。‥そもそも、そこまで興味はない。
 ちょっとカッコいいかな~とは思ったけど。
 まあ、それだけのことだ。
 だけど、あれはなんか使えそうな気もする‥。結構器用だし、案外使えたりするかも‥。

 ‥使ってみたい‥って思った。

 ふう、
 コリンがため息をついて、アンバーから剣を取り上げる。
 ひょい、っと。木の棒を持ち上げる程軽々と‥だ。
 そしてアンバーを椅子から立たせると
「持ってみて? 」
 ぐい、っと剣を押し付けた。
 アンバーが剣を両手で受け取ったのを確認して、
 コリンが剣から手を離す。
「え!? 重い‥! 」
 アンバーが意外そうな顔をして、剣を受け取った両手に力を入れる。
 コリンがそれをまたひょいっと受け取る。
「剣は見た目以上に重いんだ。これを振り上げて、止める‥それだけでも大変なことだよ? うっかり手を滑らせたら勢い余って自分の足を切ってしまうかもしれない。
 敵を一発で仕留められる腕が無かったら、これを振り回して、敵を一発で仕留められる人間よりずっと素早くずっと沢山動かないといけない。
 逃げ回るんじゃなくて、攻撃の機会をうかがいながら‥無駄なく動く。敵の攻撃を除けながら‥だ。
 斬る回数が増えたらそれだけ刀身に血糊が付くし、刃もこぼれる‥。
 刀で人を斬れば、リアルに人の肌を‥骨を斬る感覚も伝わってくる。 
 剣を使うっていうのは、ただ武器との相性がいい‥ってだけではない。
 剣を使う為の技術だとか、体力がいる。
 それは、普段から鍛えているから、体力に自信があるから大丈夫、出来る‥ってことではない。
 剣を使う為の訓練をどれ程詰むかってことだ。どれ程、実戦を詰むかってことだ
 ‥どれ程精神的に強いか、剣を使う覚悟があるか‥ってことだ」
 剣を見つめながら、アンバーに言い聞かせる。
「才能なんてもんでも、‥生まれ持ったもんでもないし、剣に選ばれる‥なんてことは絶対ない。
 寧ろ、剣に呪われることはあるかもしれないな。
 剣に魅入られて‥戦いに駆り立てられる‥そういうことはあるかもしれないな
 ‥いずれにせよだ。余程の必要性と、覚悟がない限り、剣を持とうなんて考えない方がいい。
 剣を持っていれば、剣に操られることもあるし、無用な戦いを挑まれることもあるからな」
 いつもより真剣な眼差しをアンバーに向ける。

 ごくり、
 アンバーがコリンの迫力に驚いてか‥恐れてか、唾をのむ。
 コリンはアンバーを睨んでいるわけでも、すごんでいるわけでもない。
 ただ静かに話しているだけだ。
 だが、その声は低く、怖い程真剣だった。

「コリンは剣が嫌いなのか? 」
 コリンがそれを首を振って否定する。
「いいや。
 ‥片手間でやるもんじゃないと思うだけ。
 僕も剣は‥前に言ったかもしれないけど‥人並み以上に訓練して来た。
 ‥だけど、僕が剣を使う時は、本当に最終的なことだ。
 出来れば使いたくない‥って思う。
 ‥ただ自分が動けるだけの体力を残して‥魔力を使い果たして‥でも、周りには敵がまだいる‥そんな時は、剣で戦う。僕は剣を持っていないから、‥周りの死体から拝借することになるね。
 自分のものではない、借り物の剣で、自分が斬られたとしても、相手を全員殺すまで倒れない呪いを自分にかけて‥ただ、相手を倒すためだけに剣を振る。
 自分が傷つかない様に気をつける‥とか、仲間を守る‥とかは無理だ。‥わざわざ斬ることは絶対に無いけど、敵がその仲間を盾にしたとしたら‥迷わず仲間ごと斬る。
 ただ、敵を総て倒して、‥自分の躯を自分で処分するまで足と手を止めない。
 僕が誓約士だからだ。
 誓約士にとって、そういう死に方をすべきだからだ。
 魔術で、そこにいる全員を皆殺しにして自分も死ぬことも‥出来るだろう。
 だけど、僕は絶対に、魔術を‥そんな風に、人をただ殺すためだけに使うことはない。‥そうしたくない。
 ‥僕は、魔術士で、魔術士であることに誇りを持っているからだ。
 きっと、剣士や騎士にとっての剣も‥そうだろうって思う。
 剣は彼らにとっては一番だけど、僕にとっては、手段でしかない‥。
 人を殺す為の手段だ。
 だから、魔術士である僕は、剣を持つべきではない。
 ‥僕は、アンバーの魔術の腕を羨ましいって思ってる。自由な発想やら、それこそ、羨ましいほどの才能‥君は、誇りある魔術士に成れると思う。‥成って欲しいって思う
 現状、魔術がアンバーにとって欲望をただ満たすだけの手段や、人を殺す手段でしかないなら、それは悲しいって思う‥」

 アンバーは、胸が締め付けられる思いがした。
 コリンにとって「剣を使う時」や覚悟‥
 そして、魔術に対する誇り‥
 そして、剣士や騎士に対する気遣い。

 さっきまでの自分の興味本位な姿勢を恥ずかしい‥って思った。
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