この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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115.教会時代のコリンのことを他人から聞いたのは初めてだ。

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 それにしても‥

「ベネット様だけでなく、テイナー様も貴族でいらっしゃるんですね」
 ナナフルがロナウに対して会釈する。
「教会の学生は殆ど貴族でしたよ。‥僕みたいに平民の子供って方が少なかったです」
 ロナウが口を開く前に‥それどころか、ナナフルの言葉が終わるか終わらないか‥位、下手したらナナフルの最後の言葉に被る程早くコリンが言った。
 ロナウには話をさせはしないぞ、という‥コリンの明らかな嫌がらせだ。
 因みに、
 この国では、貴族か平民か、明確な区別がある。
 資産の多少‥では、ない。
 豪商の方が、貧乏貴族より裕福‥というのは、特に珍しいことでもない。
 だけど、身分のパワーバランスが崩れるのを避けるために、(貴族の方が偉い、という伝統を守るために)貴族と平民は違うということを双方に理解させなければいけないのだ。
 その一つは服装だ。
 布地の質ではなく、あくまでも形のことだ。
 例えば、衿や袖に刺繍を施されたフロックコートを着用してもいいのは、貴族だけだったし、金や銀、緋色、紫‥の生地を着衣に利用していいのも貴族だけだった。他にも細かい決まりがあったが、庶民には着道楽‥服装に金をかける者‥はそう多くなく、あまり気にする者はいなかった。
 庶民が普段来ているのは、貫頭衣の様な頭からかぶる服か、チュニックの様な長い上着とズボンだ。寒くなればその上に、ジャケットを着たり、ストールを巻いたりするくらいだ。
 きちんとした縫製の服を着ているのが貴族で、布を切っただけ‥のシンプルな服を着ているのが庶民って感じの認識で、まあ間違いはない。
 その他、居住地も貴族と平民とでは別になっているが、それは主に職場の都合であり、それを差別だとか区別だと思う者もいなかった。

 それ程、庶民にとって貴族は身近ではない者‥関わり合いになる必要がない者‥であった。

 生活で関わり合う必要も機会もないが、(実際に会わないで)「この人貴族だな」そう思う一番分かりやすい違いが、名前だった。
 今なんかも、ロナウもフタバも貴族の服装をしていない。お忍びだからだ。
 服装が貴族然としていなければ、上品で高貴さがあるフタバと違い、庶民っぽい顔のロナウは、一見しただけでは貴族とは分からない。
 でも、名前を聞けば、彼らが貴族だってわかる。
 普段、貴族に会う機会が殆どないナナフル達にも、だ。
 名前がファミリーネームと個人の名前以外にある‥名前が長いのは、貴族だ。
 出身や、父親もしくは母親の旧姓‥など色々な意味があるらしいが、そんなのは平民は知らない。名前が長いのは平民じゃなく貴族、‥そんな程度の認識だ。
 あとは‥歴代の王族や神々の名を、平民は付けてはならない決まりとなっていた。(だから、フルネームで名乗らないでも、そういう名前がついていれば、貴族や王族だってわかる)

 貴族と平民とはやっぱり違う。

 身分が違うし、‥考え方等も違う。
 あと、やっぱり、「不敬罪」だのいう理不尽がまかり通る。
 だから、平民は貴族と関わり合いになりたがらない。
 裕福な商人なんかは余計に‥一人の客として以上は‥親しくなりたがらない。
 メリットより、デメリットの方が多いからだ。
 (裕福な)大貴族とのコネクションを持っている‥というなら大きな商売のチャンス! と思えようが、そうでもない限り、普通に自分たち大商人の方が金を持っている。そう大きな儲けが期待できないどころか‥「貴族様から金をとるのか! 」なんて言われて借金を‥「つけ」を‥踏み倒されでもしたら‥最悪だ。
 ‥実際にそんなことするような奴はいないだろうが‥少なくとも、大商人はそういう目で「実入りの良くない」貴族を見ている。
 そして、実際にそれをしかねない。
 この国の貴族はそう「貴族の矜持」とやらを持ち合わせていない。遠い異国でいうところの「武士は食わねど高楊枝‥」的な感覚は彼らにはない。
 貴族は偉い、そしてその貴族のトップである王様はもっと偉い。
 そういった「社会のシステム」は、この国の国民にとって常識で、太陽が「東から登って西に沈む」っていうのと同じように‥疑問や反論を持たなかった。
 貴族は自分たちとは身分が違う。偉い。だけど、「人格者であるかどうか」はまた別の話。そして、人格者でない貴族と出くわす可能性はゼロではない。‥そんなとき、自分たちは泣き寝入りする他ない。
 だから、わざわざ貴族とは付き合わない。
 ‥そういう流れが庶民の中には自然にあるのだ。
 それは、魔術士に対しても言えた。
 魔術士は‥貴族以上に‥得体が知れない。

 どうやら、対魔術士たちは、法律も自分たち庶民や‥貴族たちとさえ‥違うらしい。
 貴族たちの法律も魔術士たちには適用されない。
 だから、貴族たちは魔術士たちとは関わらない。
 ‥関わり合いにならない方が賢明だから。
 君子危うきに近寄らず
 ってやつだ。

 だから‥
 貴族で魔術士とか‥庶民にとっては、もう絶対近寄っちゃならない、‥超「厄介物件」ってわけだ。

 またそんな扱いを受ける‥。
 まあ慣れてるけど‥。

 そう反射的に思ったフタバとロナウは苦笑いしたが、それに気付いたコリンが首を小さく振った。

「ちょっと聞いただけだ。‥過剰反応は止めた方がいい」

 二人にぼそ、っと呟く。

「‥貴族がどうとか魔術士がどう‥とか、そういうナンセンスな考え方、ここにはない。僕の先輩や友達‥恋人を見くびらないで欲しい」

「‥悪かった」
 素直に謝ったロナウに

「あら。私はコリンに見くびられてる‥って思ってましたけど。
 コリンは私が貴方のことを、庶民だから‥って理由で嫌ってるって思ってなかったかしら? 
 少なくとも私にはそう見えていたわ。
 ‥勿論違いますわ。
 私がコリンのことを苦手なのは‥
 貴方が、やたら(男に)モテて、それと同時に異常に敵が多くて‥明らかに傍にいたら被害を被りそう‥感が凄いからですわ。
 だから関わりたくなかった‥ってだけで、嫌ってたんじゃありませんわ」
 コリンに反論するフタバは、心なし穏やかな表情をしていた。
 ‥コリンの周りの人たちのことを、自分のなかの「偏見」で決めつけて悪かったってちょっと反省したんだ。
 そしたら、自分の中のとげとげした気持ちがすっと引いた気がした。‥ちょっと、だけど。

 ‥関わりたくなかっただけで、嫌ってたんじゃない。
 本人を前にしてよく言うよな~。
 でも、嫌味を言ってる様な感じじゃない。どちらかというと‥照れ隠し‥って感じなのかな。‥彼女なりの「親しい間柄の人間だからいう軽口」って感じ‥かな?
 ‥そんなに親しかったっけ??

 コリンは苦笑した。

「‥教会で学ぶ者に貴族・平民の差はありません。教会は完全な実力主義です。その証拠に一番魔術の成績が優秀なコリンがリーダーではないですか」

 いつまでもこのまま古い考えではいけない。
 古い考えは文化や経済の進歩を妨げる。
 若者の中には、身分を隠して商人たちと交流を深める貴族も出てきている。教育現場である教会も、そういった進んだ考え方をいち早く取り入れた。
 それをコリンも分かっているはずだとフタバはコリンに言っているのだ。
 そうでしょ? と、コリンに確認を促す。

 コリンはふう、と一つため息をつくと、
「申し訳ありません」
 と、深くお辞儀して、短く謝った。

 硬い。
 口調と表情が硬い。
 相手は同級生だっていうのに‥何て硬さだ。
 学生時代、周りは敵ばっかりって言ってたから、警戒してるのかな~。
 ここは、俺が一肌脱ぐか~って思ったんだかどうか分からないが、
「コリンは教会時代、やっぱりやたらモテたし、やたら絡まれてたの? 」
 アンバーは笑顔で、フタバに尋ねた。
 硬い雰囲気を柔らかくする為に‥だけど、アンバーの顔は‥完全に「楽しんで」るから、‥ただ、面白がってるだけかもしれない。
 一目惚れしたイケメン王子の笑顔に、ぱあっとフタバの顔が明るくなる
「ええ! ええ。アンバー様。コリンは、本当に‥酷かったですわ。
 三歩歩けば告白され(それをコリンは気付いていない)次の三歩を歩けば、足をかけられ‥(コリンはその足を踏みつけて通過)、その次の三歩で攫われかけ‥(コリンの自動攻撃により撃退)、物陰を通ったら襲われかけ‥(同じくコリンの自動攻撃で撃退)、寮で寝ていて寝込みを襲われている気配を共同体のネットワークで感じて飛んで行ったのも一回や二回ではありません。‥その度に、黒焦げや氷漬けの犯人を回収して先生や警察に届けたのは私たちですわ! 」

 ‥思ってたより、酷いな。
 顔面蒼白になるナナフルと、怒り心頭なザッカとシーク。

「流石コリンだな!! 予想以上だね! 」
 ‥アンバーだけは、相変わらず面白がってる。
 そして、
「その共同体のネットワーク‥ってなに? 」
 さっきのフタバの話の中にさらっと出て来た、聞きなれない単語を拾ってフタバに尋ねた。
 フタバがアンバーに頷く。
「私たち共同体のメンバーはお互いの危機を離れていても察知できるようになっているんです」

 ‥え、なにそれ、相手のピンチとはいえ‥行動が筒抜けって‥
 ‥プライバシーの侵害じゃない‥? ピンチの時だけだからいいのか??
 でもな~。

 ナナフルが半笑いの顔になる。
 それには気がつかなかったらしいフタバが話を続ける。
「だけど、コリンは今の今までこの通信を一方的に‥コリンからの分だけ送信だけを一方的に切っていたみたいですね。
 つまり、私たちからのSOSは受けるけど、私たちに頼ることはない‥ってことですよね。
 失礼しちゃいますわ! 
 それで、今回久し振りに通信がONになったと思ったら‥
 強制出動の依頼ですもの」

 いや~なんか、ツッコミどころ満載ですね!!

 コリンが一概に悪い‥って気もしない。
 なんか、気持ちがわかりすぎて‥。
 貴族の人って結構いつもおつきの人とかが一緒にいるから(多分)、四六時中見張られてるのって気持ちわりぃって感薄いのかな? 
 ‥慣れてるのかな?
 寧ろ、誰かが見張ってて当たり前‥安心だよね~。常に誰かに連絡取れないと不安だよね~的な感覚なのかな??

「通信が遮断できるとか初めて知ったよ。流石コリン君。僕の運命の恋人は凄いな~」
 にこ~と
 恍惚の表情を浮かべるロナウ。

 お、ロナウ君、久し振りに喋ったね。
 今までコリンの手を握ろうとしてはコリンに払われ‥るどころか殴られ、
 抱き着こうとしてはコリンに回し蹴りされてたのに‥。
 ‥自動攻撃を食らわなかったのは、殺意を出してないから‥なのかな?
 自動行動も「いつものこと」って慣れちゃって敵認識してない‥とかかな??
 
 何にせよ、メンタルが丈夫だよね。
 さっきから、コリンアプローチしかしてないし‥。
 コリンじゃないけど、‥この子苦手かも。

 ナナフルは苦笑いをロナウに向け、そんなこと考えた。
 聖母ナナフルにこんなこと思わせる奴って結構珍しい。

「ホント‥大概にしてくれ。僕にまとわりつくな。顔を見るな。運命の恋人とかキモいこと言うのヤメロ!! 」
 コリンのこの(虫を見る様な‥)表情と暴言にへこたれない‥とか、なんか‥凄い通り越して、怖いよね!!
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