この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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110.「相性がいい」人。

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「‥協力をお願いしてみようかなって思います」
 コリンは言った。
「無理かもしれないけど‥やってみようって思います」
 と。


 別に変わったことを言ったわけではないけど、
 コリンが言った‥ってことに違和感‥じゃないけど、「珍しいな」って感想を持った。
 だってコリンは、いつだって自分でなんとかする子だった。
 末っ子で、空気を読んでつまらないことなら、甘えて「お願い! 」って言うこと位ある。
 だけど、それだけだ。
 ‥今まで、コリンに「信用されて」お願いされた者なんて、ここ(この事務所)にはいない。
 それは、恋人である、シークも含めて、だ。
 きっと、教会でも(知らないけれど)ないだろう。
 コリンは守られることを極端に嫌がる。
 以前にアーバンが、シークのことを「コリンのナイト」と言った時に、コリンは「そんなに怒る様なこと?? 」って位、キレた。
 アンバーは、可愛い子犬だって思ってたのに、小型に肉食獣だった?? って思う位には‥焦ったようだ。
 ‥あれがアンバーにとってコリンの第一印象位だったから、アンバーは「コリンはキレやすく短気でヤバい奴」だって思ってたくらいだ。
 キレやすく短気でヤバいけど、平和主義者なところがある‥所謂少年漫画な展開が好きな‥熱血漢。
 だから、コリンがシークと二人きりの時に見せた(乙女な)顔を初めて見た時は、‥ちょっとびっくりした。「おい、熱血少年はどうした? 」って。
 同時に、胸がちりっと来た。‥嫉妬って奴だ。そういうの、別に否定したりしないんだ。だって、見苦しいし、‥時間の無駄だよね?
 嫉妬を感じたってことは、俺はこの子に好意を抱いてるんだろう‥印象は確かに「あれ」だったけど、あれだけのスペックと、あの顔だ。一目惚れしたっておかしくはない。って自分の恋心を自覚したアンバーは、さっさと行動に移すことにした。
 ライバル(シーク)を出し抜くことと、
 コリンを誘惑すること。
 百戦錬磨の自分に落とせない奴なんていない‥ってアンバーは普通に思ってたんだ。
 コリンの性格なら、得意の「サーチ」と「空気読み」スキルですぐに分かった。
 (まあ、そんなものつかわなくても、コリン程単純な人間‥分からないはずがない)
 恋愛に初心者ってことも、恋愛‥というか‥人付き合いに対して臆病になってる‥ってことも。
 焦って手に入れられる獲物じゃないな‥って思った。
 ‥でも、それはいつもの恋愛ゲームと同じで‥
 始めは、本気じゃなかったんだ。
 可愛いな~。遊びたいな~。
 って程度。
 「ツンデレ美少年」とか、‥今まで付き合ったことがない。ちょっと興味があるな~。
 って。
 だけど、距離をつめようと、(まずは)友達として付き合ってみたら、コリンは思ってたのと違った。
 まず、キレることなんてそうない。(キレやすくなんかなかったんだ! )
 単純ばっかりじゃなくって、計算深いところもある。
 照れやなくせに、あざとくって腹黒なところがあってちょっと生意気で、意地っ張り。
 熱血漢ってのは‥間違えじゃなかったかも。負けず嫌いで努力家で、その結果、やたらハイスペック。
 ‥だけど、本人は劣等感の塊で、怖がりで‥常に周りに壁を作って、自動攻撃付きの結界なんて張ってるの!
 偽善者‥とかじゃない。その反対。本人は、誰かに「いい顔」なんて見せたいって思ってないし、「強く見せたい」とか、出し抜きたい‥とか思ってない。
 だけど、‥誰かの負担になったりするのは嫌だって願望がある‥ってことだけは分かった。
 そんな彼だから‥

 ‥あれだけが地雷だったんだな、って気付いた。

 シークに守られてるって言われるのが悔しい。

 好きな人‥恋人だっていうなら、守られたい‥って思うんじゃないのかな? 少なくとも、シークだったら、コリンのこと守りたいって思ってるはずだろうし‥。
 お互いにお互いのこと好きだから、守りたい。
 ‥コリンは少し(いや、かなり)強情なんだ。

 そんなコリンが言った「協力をお願いしてみよう」
 

「協力? 誰に? その‥教会時代の友達ってこと? 」
 アンバーが、信じられないものを見る様に‥コリンを見た。
 コリンが頷く。
「友達というか‥、「相性がいい」人。相手も僕の事友達だなんて思ってない。それは確かだ」
 その言葉に、目を見開いたのは、
 シークとザッカだった。
「「友達じゃなく‥相性がいい人?? 」」

 相性‥なんのだ!?

「友達って簡単に括れるものでは無い。あれは、魂のレベルで気の合う‥相性がいい‥、‥言うならばソウルメイトだ!
 ‥とか‥じゃないんだよね? 勿論‥」
 アンバーは首を傾げる。

 コリンにそんな「ソウルフルなフレンド」がいるとは思えないよね~。

 アンバー的に「友達ってわけじゃない、相性がいいだけ」の友達ってのは‥結構いる。‥俗にいう、セの付くフレンドだ。相手もアンバーのことを「友達」だとか‥まして恋人だとかは思っていないだろう。
 ただ、身体だけの関係だ。
「勿論違います。友達に種類とか僕は設けません。気が合うか、合わないかです。気が合わない人は友達ではありません」
 友達未満顔見知り以上とか‥友達じゃないって話してるんだ。
 あと、「都合がいいだけの友達」とかはいない、って話だろう。
 シンプルだね。
 だけど、納得。とザッカたちが頷く。
「そもそも、性格とか‥そいつがどんな奴かすら知りません。寧ろ、知ろうとかすら思ったことなかったです。
 気が合う‥以前に話した記憶もありません。
 もしかしたら、何か用事があって‥一言二言位話したこと位はあるのかもしれませんが、それすら覚えていません」
 ‥それ、どこが「相性がいい」んだ?
 そもそも、ホントに、なんの相性?
「‥‥」
 4人が首を傾げ‥
「そいつら? ってことは一人じゃない‥ってこと? 」
 ぽつり、とナナフルが口を開く
「何人かいるの? 」
 コリンが頷く。
「二人です。
 ああ、説明不足でした。
 魔術です、魔術の相性の話です」

 なあんだ。聞くと、‥これ以上に納得できる答えは無いな。
 性格の相性でも、ましてや身体の相性でもないなら、なんだろって思ったけど‥
 そうだな、コリンなら「魔術の相性」だろう。

「それは、‥練習なんかをしてる時に分かったりするって感じなの? じゃあ、その時にお互いに思ったんだったら「ペア組もうぜ! 」って話になったりしなかったの? 」
 ナナフルが目をしばたかせた。
「そういう奴らも‥そういって、ペアを組んだ奴らも教会でも‥確かに‥いましたね」
 コリンはそう答えたものの、(コリンはそうでは無かったからだろう)関心の薄そうな顔をしている。
 そういえば、いた気がするな~
 って感じだ。

「でも、僕はこの通り気が弱いから‥ね。そういうプライベートで級友と話す‥とかなかったですね」

 ‥違う。コリン。
 君は、‥気が弱いんじゃない。

「ふうん? 」
「その時も接点がなくて、今も‥今の今まで接点がなかった‥そんな接点が全くない子‥どうやって協力してもらえるんだ? 」
 首を傾げるナナフル。
 ナナフルの声に、眉間に皴を寄せるアンバーの言葉が被る。

「それが、魔術の相性です」
 コリンが、にっと‥薄く微笑む。

「「え? 」」

「魔術の相性は‥情にも、血の濃さにも勝ります。
 あれは‥それこそ、理から外れた結びつきです。
 懐かしい‥愛しい‥
 生れる前から求めていた‥魂の‥運命の人‥
 そんな風に勘違いする者も中にはいた程、‥あの結びつきは特別なんです」

「魔術士の‥運命の恋人って話を聞いたことがある‥」
 魔術士には、性格とかを超えた‥特別な運命的なつながりを持っている相手がいる‥って昔聞いたことがある。
 ロマンチックだな‥って思ってたのに‥、嫌実際ロマンチックだと思うのに‥
 ‥コリンにとっては‥(単なる)「魔術の相性」。
「だけど、まあ‥
 僕から言わせたら、頭お花畑の恋愛至上主義者の寝言‥って感じですかね。
 僕はそうは思わなかったです。
 ただ、運命の強制力って感じで‥正直怖かったです」
 ザッカが呟いた言葉を拾ったコリンが、ふふ、っと微笑んで、
 あっさりぶった切った。

 ‥さらに、「運命の強制力」で、「怖い」

「コリンはそう思った‥んだろうけど、相手はどう思ったんだろう‥その、‥コリンのこと」
 苦笑いして‥ザッカがコリンを見た。

 相手は、
 コリンのこと、「運命の恋人」って思ったかもしれない‥?

 そんな心配をあたり前の様にしたシークに、コリンは首を横に振って否定した。

「相手の一人には、会った瞬間‥分かったんでしょうね。思いっきり、睨まれて「貴様が‥!? ‥最悪だ‥、消えろ! 」って言われましたけど? 」

 ひでぇ‥

「‥そんな子が‥協力なんてしてくれるの? 」
 ナナフルが苦笑いで聞いた。
 もっともだ、とザッカが頷く。
 コリンはまた薄く微笑むと
「協力せざるが得ないんです。相性がいいから。それに、そういう‥決まりなんです。
 それこそ強制‥「決まり」って奴ですね。
 で、当時の僕はトラブルを呼び寄せまくってた(注 コリンが望まないのに、だ)から‥面倒事に巻き込まれるのが嫌だったんでしょうね。だから‥あの子は、「最悪だ」「寄るな」「消えろ」と
 思えば、あの子は‥
 協会の決まりも熟知してるし、将来、こういうことが起こるかもしれないっていう危機察知能力もある。‥実に優秀な子だったんですよねぇ」
 いやに、ゆっくりと、‥言葉一言一言を強調する様に、丁寧に、言った。

 コリンのその冷たく‥美しい表情に、‥ちょっと、鳥肌が立った。
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