この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

文字の大きさ
上 下
105 / 310

105.そういう手だったのか!!

しおりを挟む
 アンバーとシークは暫く、コリンが走り去ったその場に立ち尽くしていた。
 ぽかーんって顔、ってのはこういう顔をいうんだろうな、ってお互いの顔をチラ見して思った。
「‥ってか、俺からしたら、シークも大概恋愛してない‥と思うぞ」
 暫くして、ようやく口を開いたアンバーがシークの方を向くでもなく、ぼそっと呟いた。
「‥今更もうどうでもいいけど、一応聞こう」
 もそもそ、と歯切れの悪い返事を返すシークも、アンバーの方を向いてはいなかった。
「普通、殴りかかってくるだろ。あの場はショックで立ち去ったとしても、俺がひとりで現れて「お前の恋人とキスしたぜ」なんていったら、キレて殴りかかってくるのがセオリーって奴だろうが」
 シークの返事なんて関係ない‥とばかりに、アンバーが言葉をかぶせて来る。
「セオリーって‥。
 でも、怒ってたし、勿論ショックだった、で、気持ちを落ち着けようと素振りして‥」
 シークの方は、アンバーの言葉が終わるのを待って、それに応える。
 アンバーも今度はシークの答えを最後まで聞いて‥
 暫く無言で‥ニ三度瞬きをしてから‥
 はじめて、ちらっとシークを見上げる。
「‥気持ちを落ち着けなくていいんじゃん? 俺にしたって、怒られて殴られた方が良かったよ。
 だから、わざとあんな口調で言ったみたいなところあるし‥」
 シークはちょっと目を見開いて
 ふう、とため息をついた。
「‥やっぱり煽ってたのか‥」
 呆れた、って顔だ。
 やっぱり煽っていた。
 でも、「宣戦布告」じゃなくって、「怒ってくれ後生だから」だったのか。
 ‥それならそうと、そういえばよかったのに。
 と思いかけて、でもそんなこと言われて、「わかった殴ろう! 」とは‥言わなかった‥だろうなあ‥。
 だから、誘いボケならぬ、誘い怒りした‥と、
 だけど結果不発で、俺は怒るどころか、冷静な感じだった‥ってこと。
 ‥まあ、な。アンバーの性格なら、本気で略奪するって決めたんだったら、ライバルにわざわざ宣戦布告‥とかめんどくさいことせずに、ぐいぐい行くわな。

 ‥そんな感じする。

 付き合いそんなに長くないから、そんなにわかんないし、そもそも友達少ないから、人の気持ちを押して図るとか、そんな器用なこと出来ない。

「シークの「心底軽蔑してます」‥って目見たらさ、これはもう二度と友達に戻れないのかな、って‥ってのは思ったな」
 アンバーは再びシークから視線を外し、そのまま俯いて、ボソリと呟く。
「友達に戻れないって‥
 去られて困る様な友達だと思ってくれるなら、ああいうことするなよ‥」
 シークは、本日何度目かともしれないため息をつく。
 ああいうこと、って‥
 つまり、「友達の恋人とキスする」ってことだ。
 アンバーは「いや、あれはさ~」と苦笑いして
「いや‥あの時は、ついっていうか‥
 ここは、しとかないと駄目でしょ‥的な感じでね。
 あるでしょ? そういう時」
 て、ちらっとアンバーを見上げる。
 同意を求められても‥
「わからな‥」「いや、あるはずだ。あれは、そういう感じのときだった」
 苦笑いするシークの言葉に被せて、アンバーが断言する。
「目の前で弱ってる獲物がいたら、取り敢えず喰っとくのが礼儀でしょう!? 」
 目が、
 怖い。
 そんな「常識」みたいに言われても!
「そんな馬鹿な!? 」
 完全にドン引きなシークにアンバーが一歩近づき
「据え膳的なあれでしょう?! 」
 強い口調で迫る。

 迫力が‥

 シークが苦笑いして一歩下がる。
「いやいやいやいや! 絶対と違うと思うぞ!? 」
 苦笑いで後ずさるシークと
 ぐいぐい前進してくるアンバー
 そんなアンバーをぐいっとシークから引き離したのは‥

「アンバー!! 君って人は、僕にあんなことしたくせに、‥実はシークさんを狙ってたんだな!? 
 だから、僕たちを別れさせようと!! 」

 コリンだった。
 ぱちくり
 アンバーとシークが目をしばたかせる。
 
 一瞬の沈黙の後、

「「コリンは、もう、黙ってて!! 」」
 二人の声が、みごとにハモった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

処理中です...