この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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100.みんなの幸せ。‥なんて、崇高で‥尊大な目標だ

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(コリンside)


「コリンは、自分に厳しすぎる。
 自分の欠点を知って、それを克服するために努力する。‥それは偉いと思う。
  でも、コリンは自分を叱ってばっかりいるじゃないか。
 コリンが自分を褒めてあげない‥あげられないなら、誰がコリンを褒めるの? コリンにできないなら‥その役目をするのは、コリンのこと大好きでコリンのこと理解してる人間しかないじゃない? 」
 アンバーはまっすぐ僕を見ている。
 視線が、僕に突き刺さっているような気がして‥居心地が悪い。
 頭一個分弱だけ頭上に‥そんな視線を感じて、僕は未だアンバーと視線を合わせられないでいる。
 僕は息を飲んで
「‥自分を褒めるって‥。自分を甘やかしてどうするんだ。そんな必要はない。
 気を抜いてたら出し抜かれるし、
 なにより、誰の為にもならない。
 ‥そんなの、現実逃避で無駄なことでしかない」
 精一杯、強がりを口にした。
 気を抜いたら、流されそうだ。
 僕のことを、手放しで愛してくれる‥あの強い目に。
 ‥しっかりしろ、流されるな‥
 アンバーのため息が頭の上で聞こえた。
「確かに、コリンのこと、貶めようと‥嫉妬したりして、意地悪しようって思ったやつもいるかもしれない。だけど、コリンだってホントは気付いてたんだろ? コリンのこと助けようとしてくれた人もいたって。
 ‥でも、気付かない振りした。
 関わらないようにした。
 その人の一部は、そんなコリンの態度に怒ったかもしれないし、傷ついた人もいただろう。
 でも
 ‥コリンは巻き込みたくなかったんだよね? その人たちのこと‥」
 違う
 そう言おうと思ったのに‥
 それは、声にならなかった。
 溢れ出た涙で
 声にならなかった。
 あふれた涙は、地面に落ちないで‥地面に落ちる前に、
 アンバーの服に染み込んで
 僕のむせび泣く声は、
 しがみついたアンバーの胸に吸い込まれていった。
 僕は、もう‥馬鹿みたいに
 考えることも、自分の足で立つことも忘れて‥止めて
 アンバーにしがみついて泣いていた。
「コリンはもう十分苦しんだし、十分頑張ったよ。
 ‥コリンの性格上、自分のこと褒めろなんていっても無駄だろうから、‥せめて、誰かに褒められたら、認める。‥それ位はして?
 コリンは可愛いから、口説こうと、口から出まかせで色々言ってくる奴もいるだろう。
 だけど、俺は違う。
 コリンのこと可愛いって思うのは同じだけど‥それだけじゃなくって、コリンのこと分かってる。
 だから、俺の言うことは信じても大丈夫だよ」
 泣きながら、笑った。
 なにそれ、他者と比較して「俺は大丈夫」って、何のセールストーク?
「だから、俺の手を取って? 
 俺と一緒に幸せになろう? 
 これ以上、自分を苦しめないって誓って? 」
 
 『幸せ』
 それは、アンバーにとって憧れて止まないもの。
 そして、皆の人生にとって、
 最終目的であるはずのもの。

 ささやかな幸せ。
 自分の‥そして、自分の愛する人たちの幸せを願い、慎ましやかに穏やかに‥
 ぶっ飛んだ性格をしてない限り、個人が幸せを求める行為で、人様に迷惑をかけるってことは無い。
 不幸にすることはない。
 モテモテの大スターを射止めて、全世界の女性を敵に回す‥ってことはあるかもしれないが、それだって、別に世界中の女性を不幸にしたわけではない。世界中の女性にしたって、全員が全員「自分がその大スターと結婚するんだ」って願望を持ってるわけでもない。
 多分、愛する人の幸せを願って、祝福する。そこに「あの人なら納得~まかせられるわ。‥まかせてもいいわ」とか、「なによ、私の方が美人じゃない」とかいう感情が加わるぐらい。可愛いもんだ。‥それっ位、いいじゃないか。
 憧れと、愛は違う。
 人の幸せを妬むってことはあるよ?
 だけど、それは全部その人や妬まれた相手の不幸せには直結しない。

 人はいつも清廉潔白ではないし、少なくとも、心の中まではそれを求められることはない。
 (立場のある人なら、行動に制限くらいはあるだろうが)

 誰の目を気にしてる?

 確かに。
 僕は今まで一体誰の目を気にしてたんだろう。

 まるで、
 『僕なんか』が、
 幸せになっちゃいけない様な気になっていた。
 
 『前に
 もっと前に‥絶えず努力をしよう。
 自分の幸せなんて求めずに、‥自分のいっときの幸せなんか‥そんなくだらないものなんかに「現を抜かさずに」「流されずに」「逃げずに」
 皆が幸せになれる社会になる様に‥
 自分の全力をかけて、努力して前に進まないと』

 自分の為じゃなくって、
 皆の為に‥
 皆の幸せの為に。

 なんて崇高な目標

 ‥なんて‥尊大な目標‥

「何様のつもりだ? 僕‥。皆の幸せ?
そんなの‥僕如きに何が出来ると? 」

 口に出すと
 するりと、
 今までの肩の張りが落ちていった気がした。

 寧ろ、僕如きに何が出来ると思ったんだろうか?
 何様だ、僕。
 神にでもなったつもりか? 

 『皆の幸』せなんて、そんな耳障りがいいだけの
 尊大で‥上から目線で
 具体性の欠片も無い、
 世迷い事‥
 なんで僕は今まで、信じて疑わなかったんだろうか‥。
 まるで脅迫されているかのように‥それに逆らえなかったんだろうか‥。
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