この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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99.人生は修行じゃない。

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(アンバーside)


「‥コリンの被害妄想も、動的エネルギーの弊害ってやつか‥」
 口には出さない。
 心の中で、誰に確認を取るでもなく、呟いた。

 疑心暗鬼。被害妄想‥

 コリンは、ずっと周りの目‥正確には「疑心暗鬼や被害妄想によって自分が無意識につくった」‥『幽霊』に怯えて来た。
 その根底にあるものが‥自分の魔力が暴走することに対する恐れだったってわけだ。
 自分は、危険人物だ。暴走したら誰かを‥それどころか、誰彼構わず傷つけてしまうかもしれない危険人物だ。だから、誰とも関わってはいけない。
 心の中で常にそう思っていたんだろう。
 そうやって、周りから距離を置いて自分の殻に閉じこもるコリンは‥確かに一部の‥嫉妬やなんかでコリンを快く思わない‥連中には「お高く留まった優等生」っていう風に映ったんだろう。相手にされなかった腹いせ‥可愛さ余って憎さ百倍って奴もいたかもしれない。
 だけど、勿論そんな奴らばっかりじゃない。
 特に教会という何十‥もしかしたら百人以上の様々な人間がいる場所で、コリンを嫌っている人間ばかりなわけがない。‥寧ろ、そこにいるこの国の未来を担う若き「有識者」(笑)たちが全員ボケカスって方がヤバいと思わんのかな。
 だけど、‥相手のせいにする方が‥楽だったんだろう。
 実際問題、コリンは、「まわりの人間に難癖付けて人のせいにして、周りを勝手に避けてる」って状態だったんだよね。‥厳しい言い方すると。
 だけど、流石にその事実は‥自分で認めたくなかった。
 (自演自作だって)自覚はあったから、後ろめたくって、余計に周りの人間と関らないようにしてきた。

 多少気分は悪いだろうが、必要以上に関わって暴走に巻き込まれる危険性が上がる方が、相手にとっては悪いことだ。

 ‥とでも、自分を無理矢理納得させてきたのかもしれない。

 そうやって、自分で勝手に判断して、自分で全部抱え込んできたんだろうな~って思う。

 勝手に狭量な人間って決めつけられて、きっと暴走を止められないだろう‥って無能扱いされて‥周りにしてみたら、「失礼な! 侮るな! 」って感じだっただろう。
 もっとも、コリンの胸の内を知っているような同級生はいなかったかもしれないけどね。

 なんか‥どうだろうな~って思う。

 それを「結局、現実逃避だよね」「後ろ向きだし」「無駄な時間過ごして来たね」って非難するのは、‥残酷だ。彼の人知れない苦労を蔑むなんて権利は、‥誰にもない。
 そもそも、人間は万能じゃないし、強くもない。
 強くなるにはそれなりの場数を踏んでいかなきゃいけない。ってか、それでも、強くなれたというより、ただ痛みに慣れて‥痛みに鈍感になっただけ‥って気もする。

 コリンは臆病なんだ。
 痛みを伴うであろう他人との接触に‥何より、自分が「他人に」傷つけられるのが‥怖いんだ。
 自分の(被害妄想による)悪口とは違って、人からの評価って全部本当の事みたいに聞こえるもんな。
 ‥他人もまた弱くて、結構適当で、‥結構適当にその場限りのこと言ってるって‥思わないよね。真実はそうだとしても、だ。

 俺なんか、たとえ悪口言われても、「何か言ってるよ、ったく暇だね~」位にしか思わないけどな。
 内容? 聞いてもいないよ。
 逆に聞く価値なんかある?
 俺のこと嫌いな奴になんか言われなくても、自分の悪いところは自分で気付いてるよ。
 って思うからね。

 コリンは、俺とは違う。
 コリンだけじゃない。‥誰も、俺と同じじゃない。
 自分と同じだと思ってはいけない。
 でも
 殴られたら痛いのは同じ。嫌なこと言われたら、やっぱり嫌な気持ちになるし、傷つく。それは同じ。
 
 人の気持ちがわかる。‥想像がつく。
 『扇動』を特技にする俺は、昔から人の気持ちみたいなものを「何となく感じ取れる」ところがあった。こいつはこういうやつだから、こんなこと言われたら嬉しいだろう、嫌だろう。
 人の顔色伺って、さりげなく「いい気分」にさせたり、逆に怒らせたり。

 人の感情をコントロールできるって、大きな武器だ。

 たまに、意図してないのに怒らせたりしてる奴を見たら「バカだね~」って思う。もう、ばれっばれの「おべんちゃら」言ってる奴もそう。
 もうちょっと考えて‥相手をよく見て言葉を選べよって思う。もうちょっと「うまいこと」やれよって。
 俺は、思えば昔から「うまくこと」やれていた。

 思えば昔から、人と真剣に‥深く付き合ったことなかった。

 傷つくことを恐れてたのは、‥寧ろコリン以上なのかもしれない。

「俺もコリンも魔術は器用なのに、人間関係では不器用。
 臆病で、怖がりで‥その実、すごい寂しがり。
 俺たちって、ホント似てるよな。もう、運命って程。
 もう付き合っちゃった方がいい感じじゃない? 」

 冗談半分って口調で言ったけど、‥本気。
 もう、マジのマジの告白。

「似てるから‥傷の舐めあいしましょうってこと? ないわ~。
 一緒に乗り越えて行こう、一緒に成長していこう。
 ‥目指すところが同じカップルって僕に向いてる気がしない。直ぐに根を上げて楽な方に流れちゃいそ~。
 ‥アンバーをみてたら僕、鏡を見てるみたいな気分になるよ」
 コリンは苦笑いした。
 
 コリンだって、似てるって認めてるんじゃないか。
 根を上げて、楽な方に流される。
 その方が楽だってことも分かってるんじゃないか。


(コリンside)
「苦しい目、‥これ以上する必要ある? そこまで、‥そんなに‥苦しまなくちゃいけないもの? 人生って。
 ‥この先ずっと、苦しいって頑張らなきゃいけないの?
 苦しんだ先にある成功‥。寧ろ、苦しむことが人生。
 どっかの学者や聖人が好きそうな生き方だよね。
 ストイックに、自分に厳しく、清廉潔白、公明正大‥
 ‥常に誰かに見られている聖人や大賢者ならともかく、誰に見られてるわけでもない、きっと誰に迷惑をかけるでもない(※ 魔力の強い聖人は、あやまった力の使い方をすれば国に災いをもたらすおそれがある)俺たち如きがそんな生活を強いられる必要って‥ある? 
 そんな需要ある?
 コリンは、何を恐れてるの?
 誰の目を気にしてるの? 」

 アンバーの目は、僕だけを見ていた。
 いつもみたいに揶揄っているわけじゃない。
 責めているわけでも、抗議してるわけでも、ない。
 怒ってる、でもない。
 どちらかというと、泣きそうな顔をしている。

 俺のこと、否定しないで‥
 俺の手を‥払わないで‥

 そんな声が聞こえて来る気がする位
 ‥アンバーの目は、悲しそうで
 ‥そして、僕を求めていた。

「そんなわけじゃ‥」

 その目に真剣に答えなくてはいけない。
 でも、その目に対峙するだけの心積もりが僕にはなかった。
 僕は‥堪らなくなって、ついアンバーから目を逸らした。

 アンバーが一歩足を踏み出して、僕の前に立つ。
 コリンに向かって、小さく手を差し出す姿は、まるで王子様の様な優雅さだ。
 こんな時だっていうのに、‥ちょっと顔が熱くなる。

「人生は修行じゃない。修行の先には‥きっと、何もない。
 至高の目標とか‥必要ない。
 先なんてなくって、今があるだけ。
 理想の『先』‥じゃなくって、今を幸せに生きて、何が悪いの?
 誰に非難される? 
 ね、コリン。
 俺と一緒にいてよ。
 全部‥捨てちゃって、逃げ出して‥幸せに暮らして行こうよ

 俺は、‥他には何も出来なくても‥ちゃんとコリンだけは幸せにするよ。
 愛してる人を幸せにする。‥俺は寧ろ、それさえできればいいって思ってる」

 僕を強く請う、切迫した‥熱い声。
 泣き出しそうな程‥真剣な眼差し。
 甘い言葉‥

 人生は‥修行じゃない。
 愛してる人を幸せにする‥
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