この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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91.コリンの最大の敵はコリン(自分)

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「さっき(コリンが言った)極悪非道‥血も涙もない嫌われ者の魔術士って? 」

 ナナフルが眉をひそめた。
 コリンは、その容姿からは、「きっと順風満帆な生活送ってきたんだろうなあ」っていう風に見える。

 小さくって可愛くって、誰もが守りたくなっちゃう様な容姿だ。

 初めてコリンを見た時、ナナフルはそう思った。
 だけど、コリンと親しく接していくうちに色んなことが見えて来た。
 自分の容姿を隠そうとはしないが、驚くほど関心がない‥というか、冷めている。
 それもはじめは、「可愛いと言われ慣れてるから、何とも思わないのかな? 」って思っていた。他人からの視線や好意に対してもそうだ。だけど、違った。

 ‥コリンが何気なく言ったことから「違うって分かった」。

「愛想よくしてたら、「遊んでる‥」「思わせぶりだ」って言われて、無視したら「お高くとまって」って言われる。道化のフリをするのは馬鹿馬鹿しいから無視をしてる。顔のせいで贔屓されてるっていう奴に「自分の努力不足を棚に上げて、そう思いたいなら思ってろ」って言える位‥僕は努力して来た」
 向かうところ敵なしの、ずば抜けた成績。
 能力面でのやっかみを受ける前は、容姿による僻み嫉みを受けていたんだろう。
 そこから、「顔だけ」って言われない様に、誰にも馬鹿にされない成績を上げた。
 自分の成績に慢心せず、自分の弱点を自覚し常に「弱点の克服」に努めているのは、向上心というよりも、「足元をすくわれるのが怖いから」だった。
 ナナフルとザッカ‥自分たちから見たら、ちょっと不器用ではあるが、実は人懐っこいし、頑張り屋の可愛い少年だ。
 そんな少年が、人の目に怯え、常に周りを牽制しながら生きる様な少年になった‥。周りの人間が彼をそう変えていった。
 そう思うと、コリンに対して同情と‥周りの人間に対する怒りがわいてきた。
 母親然としたナナフルには、特にそういう感情が強かった。
 だから、ナナフルがふと漏らした学生時代のコリンに対する心ない中傷に眉をひそめたのだ。

 うちのコリンを、極悪非道‥血も涙もない嫌われ者の魔術士ってだなんて、どの口が言ったんだ! (会うことは無いだろうが)もし会ったらただじゃおかないぞ! 

 ナナフルの心配そうな(コリンにはそう見えた)顔に、
「ああ。僕の別名です。僕、教会‥学生時代はいまよりもうちょっと(※ 「ちょっと」をやたら強調した)だけとんがってて、他と慣れ合う気なんて全然なくって、試合とか‥「今回だけは負けてくれ! 後がないんだ‥! 就職がかかってるんだ! 」とか同級生とか‥時には上級生に頼まれても全然手を抜いたりしなかったんです。
 だから、その人たちからは「人でなし」だとか「血が通ってない」とか言われてて‥陰口たたかれたり、ありもしない噂広められたり、嫌がらせ受けたり。
 そのせいで、他の人たちからも嫌がらせを受けるようになって。
 まあ、日頃の行いも悪いんでしょうね。
 みんな「確かにあいつは冷たいから。きっちあちこちで恨みを買ってるんだろうよ、そりゃあ仕方が無い、自業自得だ」って言われてました。で、その嫌がらせにいちいち報復してたから、‥余計に嫌われ‥ついたあだ名がそれだったんです」
 コリンは微笑んで「何でもない」って口調で言った。
 虐められてた、とか母親には‥子供はいくつになってもいいたくないんです。心配させたくないんです、
 ‥かっこ悪いってのもあるしね。
 そんなコリンの言葉に、ナナフルは怒り心頭、ザッカたち他のメンバーは苦笑いした。

 ‥聞けば聞くほど、コリンの学生時代って最悪なことしかないな。
 普通、こんなに容姿や能力に恵まれてたら、もう少し世間は優しいもんじゃないんだろうか‥。
 可愛がられてる感は‥ゼロ。
 やっかみや、敵対心ばっかりがコリンに集まってる‥。

 それにしても、コリンは強い。
 普通だったら、周りからそんな扱いを受けたら、心が折れると思うんだけど‥
 コリンは、人に対して心を開かなくなってはいるが、引き籠ったりなんてしていない。
 常に、交戦体制で挑んでいる。

「闇の属性があったからでしょうね。闇の属性持ちは、それだけで‥いるだけで周りの負の感情を集めてしまうんです。
 それが‥まあ、闇の魔術の‥原動力みたいなところはありますからね」

 ああ、これか。
 周りが自分に向ける感情の根底に「闇属性持ちの性質」があることを知っているからか。
 だから、仕方が無いって割り切っているのか。
 ‥割り切ろうとしているのか。

 ザッカとナナフルが心を痛めながら聞いているその同じ話を、

 ‥それは、なんかわかる気もする。

 アンバーは自分の事と照らし合わせて聞いた。

 ‥別に何もしてなくても、嫌われる。

 昔から、育ったあの村以外の人間は俺のことを嫌っていた。若い女はそうでもなかったけど、それも俺をそういう目で‥性的対象として‥見てたような女だけだ。
 子供は俺を見て泣いたし、年よりは「縁起が悪い」て顔で見て来た。
 ‥理由も分からなく悪意を向けられ続けたら、そりゃ‥人間嫌いにもなる。
 あの、「訳も分からない悪意」が、闇の属性があった所以っていうのなら‥なんか納得って感じも‥
 納得して大きく頷こうとしたアンバーを
「あ、でもアンバーの場合は、闇の属性持ちだから、っていうより、あの恰好してたから‥って方が大きいと思うよ。あれ、みるからに禍々しいから」
 コリンがばっさりと切る。
「そんなに印象悪いかなあ‥」
 アンバーが首を傾げる。
 あの恰好‥とは、アンバーが以前着ていた、真っ黒で長い「如何にも悪い魔法使い」って感じの、ローブだ。
 黒は闇に紛れやすいし、血も目立ちにくい。
 何より、わざわざ「見るから怪しい奴」に関わろうって相手はそういない。
 黒だから、結構誰にも似合う‥っていうので、アンバー自身は結構気に入っていた。
 勿論、彼自身はあのローブに何の不満もなかった。
 フード付きローブで、普通は、フードをかぶっておくものなんだが、自分の顔に自信があり、暗殺者として洗脳されていなかったアンバーは、フードをかぶることが少なかった。
 アンバーにしてみれば「昼間でもフードをかぶって顔を隠してるならともかく、フードをかぶってないのに、怖がるとか、変なの。俺の顔ってそんなに怖くないよね? 」って感覚だったようだ。
 それを言うと、
 コリンは小さく顔を振って
「この前も言ったように‥アンバーの場合は、アンバーの印象が悪いっていうより‥あの服装の印象が特に悪いんだってば。闇の属性持ちが嫌悪感を抱かれやすいっていっても、元から嫌われてなかったらそう悪い様にはならない。
 あれは、所詮「キライ」って感情を増幅させるものだからね。
 アンバーの事知らなくても、街の人は、アンバーの恰好が嫌い。
 アンバーが悪いことしなくても、あの服を着た奴が、過去に悪事を働いていただろうから‥あの恰好をしている奴は、「そいつらの仲間」だって街の人は思う。‥そういうことだったんだって思うよ。
 少なくともお年寄りはそういうのをずっと見たり聞いてきたりしたんじゃないかな? 。あと、‥力が弱いからそういう・・略取や殺害の対象になることも多かったのかも‥。
 子供は‥きっと、普通に黒ずくめだから怖かったんだろうね。
 だけど、若い女の人やなんかはお年寄りほど「そういう偏見」が無かった‥。寧ろ、アンバーの容姿やなんかに好意的な感情を持った(‥不本意だが、アンバーは顔はいいしな)‥んだろう。
 ‥闇の属性持ちが嫌われるっていって、せいぜい「何かコイツちょっと好きになれない」って程度だよ。‥普通の‥魔力が無い人にとってはね。
 僕が特別嫌われてたのは、同級生みんな魔力持ちだったからだろうね~」

 普通の人には、不快感をもつ程度。
 だけど、魔力持ち‥同じ魔術士だったら、それが普通の人以上に気に障る。魔力の存在に敏感な魔術士だから当然なんだろう。

「闇の属性は、結構相性が合わない属性があるしね。光の属性持ちとの相性は最悪だし、水とかも良くない。土ともそんなに良くないし‥この二つって、けっこう属性持ちが多いんだ」
 一緒に学んでいた同級生で、多い属性ランキング一・二位が、水属性と土属性だった。次いで、火と風だ。
 因みに、水とは愛想が悪い闇属性だが、氷との相性は寧ろいい。温度が下がりやすいからとかかな? 闇って、底冷えしてる‥って感じするよね。
「火は? アンバーって火の属性も持ってるよね」
 火と闇の相性はどうなの?
 ナナフルが首を傾げる。
 普通の‥魔力を持っていない人にとって、魔術は未知の学問だ。知的好奇心が旺盛なナナフルが気にならないわけがない。
 コリンが頷いて説明を始める。
「火は、両方とも相性がいいんです。
面白いことに、闇属性持ちの火と、光属性持ちの火は、まったく違うものができます。‥イメージ通りだと思いますよ。闇属性持ちの火は、禍々しい地獄の火って感じで、光属性持ちの火は、禍々しいものを焼き払う‥ってイメージですかね。
 闇属性持ちで火属性持ちは結構いますけど、光属性持ちで火属性持ちはあまりいなくて、貴重です。見た目も派手だし、神々しい‥っていって教会で重宝されるから、神官として働くことが多いですね」
「禍々しくて悪かったな~。じゃあ、闇属性持ちで雷属性もそうなるよな~。コリンってば、ブーメラン~」
 アンバーが言葉尻を捕らえて‥にやにやとした顔で茶々を入れて来る。
「コリン‥顔顔。‥またアンバーのペースに乗せられてるぞ」
 あからさまにイラっとした顔になるコリンをシークが軽く窘めると、
「あ‥すみません、シークさん。‥お恥ずかしい。ホントにアンバーって、構ってちゃんの子供ですよね‥」
 ちらっと視線をアンバーによこし、コリンが「やれやれ」という表情をすると、
「おい」
 それに対して、アンバーがツッコミを入れる。
 完全に、漫才である。

「‥漫才はもういいから‥。で? 闇属性持ちが不快感を感じさせるってことは分かったけど‥、それは何に対しての不快感なんだろう。嫌いなものを見た時に感じる不快感‥所謂生理的嫌悪感だけなんだろうか? それとも、‥強い者に対峙した時に感じる生命の危機的なもの‥とかなにか意味がある不快感なんだろうか? 」

「「! 」」

 嫌悪感の種類‥
 考えたことが無かった。

 ただ、嫌だから‥って単純に思っていた。
 でも、そうだな。
 嫌いには種類がある。
 怖いからキライ。憎いからキライ。
 嫌いになるには‥理由がある。

「ザッカ。さっき、コリンが言ってたじゃない。相性があるって。相性が悪いから嫌悪感を感じるんでしょ? 」
 ナナフルが首を傾げる。
 ザッカは、コリンの言ったことを聞いていなかったんだろうか? って思う。
 というか、‥コリンをこれ以上傷つけないで欲しい。それは、ザッカだって同じ気持ちだと思うのに、何でわざわざそんな話をするのだろうか。ナナフルには、それが分からなく、また、苛立った。
 思わずちょっとザッカを睨みつけたナナフルに、ザッカは眉を寄せる
 ザッカにとって、ナナフルに嫌われるのは、何よりも辛い。
 でも、そうじゃない。
 自分は、コリンを傷付けようとしてるわけではない。

 ‥というか‥ナナフルに嫌われるようなことを言っているわけではない。

「‥いや、そうだったら、相性が悪くない属性持ちは嫌悪感を抱かないってことになる。だけど、そういう感じでもなかった‥」

 皆から、
 まんべんなく。

 ナナフルはザッカの言葉に「確かに‥」と呟く。
 ザッカは頷いて言葉を続ける。

「属性による相性は確かにあるだろうけど‥それだけじゃない‥
そもそも、本当に、皆がみんなコリンに嫌悪感を感じてたんだろうか? 例えば‥闇の属性が他人の感情やら魔力を全部‥悪意に変換してたんじゃないだろうか‥?
 単純に憧れをもってコリンを見た者もいただろう。
 例えば、下級生にしてみたらコリンは学年首位の秀才‥憧れの上級生だ。‥下級生だから、コリンの性格や評判までは知らないかもしれない.
 単純に才色兼備な先輩だ。
 だから、純粋に憧れの目でコリンを見るだろう。
 だけど、コリンはそれを「睨まれている」っていう風にとらえる‥否、とらえさせられる。何に、か? 勿論、闇の属性によって、だ」

 あ、俺。そういうのなんていうのか知ってる。
 ‥偶然だね、僕もだ。
 アンバーとコリンが互いに無言で顔を見合わせ、頷き合う。

 そういうの、‥被害妄想っていうんだよね。

 つまり、
 闇の属性の動力源の「負の感情」って被害妄想によって自分で作り出したものが大部分だったってこと‥?
 ‥たしかに、正解は誰も分からないから(←闇の属性について研究する研究家が少なくて、未だ解明されていない)、それが正解か‥ってのは、わかんないんだけど‥

 ‥なんかあってる気がする。

「どう考えても、皆が皆コリンの事嫌いって‥考えられないんだよな。だって。コリンの事心配してくれる先輩とかもいたって以前コリンから聞いてたから‥。そういう‥負の感情に変換されなかった(コリンが自分の意志でしなかった)感情ってのもあるってことだよな? 
 ‥コリンが闇の魔術に才能があったのは、‥もともとコリンに被害妄想傾向があったから‥とか‥ってことじゃないか?
 で、光の属性は‥反対に「お花畑脳」傾向の人間の方が才能がある傾向にある‥とかだったら面白いな」

 お花畑脳‥
 ‥そうかも。
 そうかも‥そうかも!!

 あいつもあいつも、そんな感じだった気がする!
 いい奴らだったけど、誰もかれも「性善説」信じてそうなおめでたい奴らだった気がする。「生まれながらの悪人なんていないよね~」って奴らだった気がする。

 幽霊の正体見たり枯れ尾花‥。

 もしやの‥
 自分の最大の敵の正体が
 自分(の被害妄想)。
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