88 / 310
88.狙った(?)狙われた(?)獲物は大きいって話。
しおりを挟む「あれ、涼子はもう帰ったの?」
「橅木! 今さっき帰っちゃったよ」
同期の橅木圭佑。
常にニコニコしていて取引先の相手に気に入られやすい。
見た目も暗いブラウンの短髪に切長の奥二重で見るからに体育会系と思える風貌だ。身長も高く手足も長くてスタイルはモデル並み。その見た目のおかげなのか(失礼か……)体育会系のノリのおかげなのか彼にとって営業も行うマーケティング部は天職なんじゃないかと入社当初から思っている。
チームは別なので今は仕事中に濃い絡みはないが涼香と橅木だけが同期なので昔はよく三人で仕事終わりに飲みに行ったりしていた。
今は涼子も家庭があるし、ここ数年行っていないが。
「んじゃ、真紀の隣に座るかな~」
「どうぞ」
さっきまで涼子が座っていた席に橅木が座り久しぶりお互いのグラスをカチンと合わせ小さく乾杯をした。
「真紀とこうやって飲むの久しぶりだよな」
「だね、もう歓迎会とか送迎会とかないと飲む機会ないもんね~」
「涼子も子供がいて大変だしな、俺と真紀だけ独り身じゃん」
「それはもう言わない方がいい……考えてはいけない」
はははと笑い合う。
橅木とは気を遣わずに話せるので楽で良い。
他の部署の女の人からも「爽やかイケメン~」とか言われモテているのに彼女がいないのが謎だ。
お互い飲んできたビールが空になった。
そろそろセーブしないと酔いそうなので白ワインをジンジャエールで割ったオペレーターを注文し、橅木はレモンサワーを頼んだ。
「どうよ、新人教育は大変か?」
「それが全く手が掛からなくてすぐに仕事覚えてくれるからかなりの即戦力になってくれてる」
「チャラそうに見えるけどそれがギャップなのか……こりゃ先が楽しみだな」
「そのうち橅木も抜かされちゃうかもよ」
「そんな事あり得ないですよ」
聞き覚えのある声が橅木とは反対の方から聞こえる。
いつの間にか隣に松田が座っていた。
ずっと松田は木島部長の隣にいると思っていたので、不意を突かれすぎて驚きと動揺を隠せなかった。
「お~松田! 一緒に飲もうぜ!」
「是非、今日は本当にありがとうございます」
近くにいる人達でもう一度乾杯をした。
カチャンとガラスの当たる音が鳴り響く。
「さっき真紀と話してたんだけど、松田仕事覚えるの早いらしいじゃん」
「いや、そんな事ないですよ、水野さんの教え方が上手なだけです」
……なんて猫被りな話し方をするんだろう。
世渡り上手とはこの事だ。
私を挟んで松田と橅木が話すものだからなんとも言えない両脇からの圧迫感に必死で耐えた。
少しでも姿勢を崩したら松田に肩がくっつきそうだ。
橅木は元からスキンシップが多い為肩を叩かれようが、腰を叩かれようが、なんなら頭を撫でられた事も何回もある。
しかしそれは年の離れた妹がいるらしくつい癖でやってしまうと昔本人が言っていた。
なので私も全く気にしなくなった。
今も私の肩に手をかけ松田に話しかけている。
けど良い加減重くなってきたのでそろそろ退かして欲しい。
「橅木、そろそろ肩が重いんだけど」
「あ、悪い悪い、つい真紀の肩の高さが丁度いいもんだから」
「肘置きにするな!」
「そんなに水野さんの肩がちょうど良いなら俺も乗せさせてもらおうかな」
冗談なのか本気なのか分からない表情で松田が言うものだから少しドキッとしてしまった。
橅木にはないこの緊張感はきっとキスされて、意識してしまっているからに違いない。
伸ばしてきた松田の手をビシッと手で払い「有料です」と言い放った。
周りにはこのやり取りがコントのようで面白かったらしく周りからドワっと笑いが起こった。
皆んなお酒がかなり進み酔っている人もチラホラ出てきていて、更に歓迎会は盛り上がりを見せた。
「水野さん、橅木さんかなり酔ってませんか?」
「ん? あー橅木はいつもあんな感じだから大丈夫よ」
「そうなんですね……」
本当に橅木が酔ったところを今まで見た事がない。いつも周りに気を使ってくれている。
橅木よりも自分の方が怪しい。少し寒気がしてきていた。
お酒を飲むと暑くなるどころかどんどん寒くなるタイプなので手足が冷えてくる。
手を温めようと自分の太腿の間に手を挟んで温めているとスルッと自分の太腿の間の手をすっぽり包んでしまう程の大きい手が私の冷たい指に絡んできた。
驚いて隣を見ると松田はなにもしていません、と平然な顔をしながら私の指に自分の指を絡めてくる。
周りに人がいる為やめて! とは声に出して言いづらい。
どうかバレませんように……
そう祈るだけで私は松田の指を拒否しなかった。
暖かくて触れているだけなのになぜか気持ちが良かった。
「真紀、顔が赤いけど珍しく酔ってる?」
「え? そう? いつもと変わらないと思うけど……」
「ふーん、じゃあ気のせいか、真紀の酔ったところって一回も見た事ないんだよなぁ」
私は人前で酔うのが苦手だ。
なんとなく自分の酔ってる姿を見られるのも恥ずかしいし、どうも昔からクラス会の幹事を任されたり、会社の飲み会の幹事もするので、酔った人を介抱する事が多い。
けどそれは外で気を張っているだけで、家に帰って気が抜ければ一瞬で酔いが回り一人で酔っ払いそのまま寝てしまう事も多々ある。
自分を人に曝け出すのが苦手だ。
特に弱い部分を見せるなんてもっての外。
なので私は外では酔ったところを人に見せない。
「……松田君、そろそろ部長の所に戻った方がいいんじゃない?」
早く戻ってこの手を離して欲しい。
もし誰かが見たりしたら大騒ぎになるだろう。
二人の体温が重なり合い手と手の間が少し汗ばんできた。
「まずいですかね~じゃあ戻ります、失礼しました」
「お~松田また飲もうなー!」
「はい」
やっと松田が席を立ち木島部長の元へ戻る。
離された手は少し汗ばんでいたせいかスースーする。
とにかくバレなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした。
「橅木! 今さっき帰っちゃったよ」
同期の橅木圭佑。
常にニコニコしていて取引先の相手に気に入られやすい。
見た目も暗いブラウンの短髪に切長の奥二重で見るからに体育会系と思える風貌だ。身長も高く手足も長くてスタイルはモデル並み。その見た目のおかげなのか(失礼か……)体育会系のノリのおかげなのか彼にとって営業も行うマーケティング部は天職なんじゃないかと入社当初から思っている。
チームは別なので今は仕事中に濃い絡みはないが涼香と橅木だけが同期なので昔はよく三人で仕事終わりに飲みに行ったりしていた。
今は涼子も家庭があるし、ここ数年行っていないが。
「んじゃ、真紀の隣に座るかな~」
「どうぞ」
さっきまで涼子が座っていた席に橅木が座り久しぶりお互いのグラスをカチンと合わせ小さく乾杯をした。
「真紀とこうやって飲むの久しぶりだよな」
「だね、もう歓迎会とか送迎会とかないと飲む機会ないもんね~」
「涼子も子供がいて大変だしな、俺と真紀だけ独り身じゃん」
「それはもう言わない方がいい……考えてはいけない」
はははと笑い合う。
橅木とは気を遣わずに話せるので楽で良い。
他の部署の女の人からも「爽やかイケメン~」とか言われモテているのに彼女がいないのが謎だ。
お互い飲んできたビールが空になった。
そろそろセーブしないと酔いそうなので白ワインをジンジャエールで割ったオペレーターを注文し、橅木はレモンサワーを頼んだ。
「どうよ、新人教育は大変か?」
「それが全く手が掛からなくてすぐに仕事覚えてくれるからかなりの即戦力になってくれてる」
「チャラそうに見えるけどそれがギャップなのか……こりゃ先が楽しみだな」
「そのうち橅木も抜かされちゃうかもよ」
「そんな事あり得ないですよ」
聞き覚えのある声が橅木とは反対の方から聞こえる。
いつの間にか隣に松田が座っていた。
ずっと松田は木島部長の隣にいると思っていたので、不意を突かれすぎて驚きと動揺を隠せなかった。
「お~松田! 一緒に飲もうぜ!」
「是非、今日は本当にありがとうございます」
近くにいる人達でもう一度乾杯をした。
カチャンとガラスの当たる音が鳴り響く。
「さっき真紀と話してたんだけど、松田仕事覚えるの早いらしいじゃん」
「いや、そんな事ないですよ、水野さんの教え方が上手なだけです」
……なんて猫被りな話し方をするんだろう。
世渡り上手とはこの事だ。
私を挟んで松田と橅木が話すものだからなんとも言えない両脇からの圧迫感に必死で耐えた。
少しでも姿勢を崩したら松田に肩がくっつきそうだ。
橅木は元からスキンシップが多い為肩を叩かれようが、腰を叩かれようが、なんなら頭を撫でられた事も何回もある。
しかしそれは年の離れた妹がいるらしくつい癖でやってしまうと昔本人が言っていた。
なので私も全く気にしなくなった。
今も私の肩に手をかけ松田に話しかけている。
けど良い加減重くなってきたのでそろそろ退かして欲しい。
「橅木、そろそろ肩が重いんだけど」
「あ、悪い悪い、つい真紀の肩の高さが丁度いいもんだから」
「肘置きにするな!」
「そんなに水野さんの肩がちょうど良いなら俺も乗せさせてもらおうかな」
冗談なのか本気なのか分からない表情で松田が言うものだから少しドキッとしてしまった。
橅木にはないこの緊張感はきっとキスされて、意識してしまっているからに違いない。
伸ばしてきた松田の手をビシッと手で払い「有料です」と言い放った。
周りにはこのやり取りがコントのようで面白かったらしく周りからドワっと笑いが起こった。
皆んなお酒がかなり進み酔っている人もチラホラ出てきていて、更に歓迎会は盛り上がりを見せた。
「水野さん、橅木さんかなり酔ってませんか?」
「ん? あー橅木はいつもあんな感じだから大丈夫よ」
「そうなんですね……」
本当に橅木が酔ったところを今まで見た事がない。いつも周りに気を使ってくれている。
橅木よりも自分の方が怪しい。少し寒気がしてきていた。
お酒を飲むと暑くなるどころかどんどん寒くなるタイプなので手足が冷えてくる。
手を温めようと自分の太腿の間に手を挟んで温めているとスルッと自分の太腿の間の手をすっぽり包んでしまう程の大きい手が私の冷たい指に絡んできた。
驚いて隣を見ると松田はなにもしていません、と平然な顔をしながら私の指に自分の指を絡めてくる。
周りに人がいる為やめて! とは声に出して言いづらい。
どうかバレませんように……
そう祈るだけで私は松田の指を拒否しなかった。
暖かくて触れているだけなのになぜか気持ちが良かった。
「真紀、顔が赤いけど珍しく酔ってる?」
「え? そう? いつもと変わらないと思うけど……」
「ふーん、じゃあ気のせいか、真紀の酔ったところって一回も見た事ないんだよなぁ」
私は人前で酔うのが苦手だ。
なんとなく自分の酔ってる姿を見られるのも恥ずかしいし、どうも昔からクラス会の幹事を任されたり、会社の飲み会の幹事もするので、酔った人を介抱する事が多い。
けどそれは外で気を張っているだけで、家に帰って気が抜ければ一瞬で酔いが回り一人で酔っ払いそのまま寝てしまう事も多々ある。
自分を人に曝け出すのが苦手だ。
特に弱い部分を見せるなんてもっての外。
なので私は外では酔ったところを人に見せない。
「……松田君、そろそろ部長の所に戻った方がいいんじゃない?」
早く戻ってこの手を離して欲しい。
もし誰かが見たりしたら大騒ぎになるだろう。
二人の体温が重なり合い手と手の間が少し汗ばんできた。
「まずいですかね~じゃあ戻ります、失礼しました」
「お~松田また飲もうなー!」
「はい」
やっと松田が席を立ち木島部長の元へ戻る。
離された手は少し汗ばんでいたせいかスースーする。
とにかくバレなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる