この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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81.噂と、現実。情報の見極めって大切ですね。

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「噂を立てて人を近づけない様にしている場所だけじゃなくって、実際に魔獣が出るから立ち入り禁止になっているところもあると思う。
 ‥地元の人たちや商人の話を聞いてもその見極めが出来ないのが問題ですね」
 ナナフルとシークが向き合っている書類は、さっきザッカに渡した書類と同じ情報が書かれたものだ。
 魔獣を実際に見たものがいるならば、それは「ホンモノ」なのだろう。
 だけど、
 戦う術を持たない者であったら、魔獣を見た時は‥すなわちやられる時だろう。
 万に一つ‥
 仲間がやられている間に、自分だけは命からがら‥もないだろう。
「地元の人たちが「にゃんこう」って呼んでる最下級の魔獣でさえ、丸腰じゃ(退治するのは)無理だな」
 あの森の民のように、
 予めそこに自分がいること(鈴を鳴らして)を主張して、
 接触しないようにするのがベストだ。
 もし、不意に魔獣を驚かしてしまったり、気が立っている「食事時」(空腹時)に遭遇してしまったら‥アウトだ。奴らは、普段はほぼ草食だけど、肉を食べないわけではない。(イノシシみたいな感じだな。中型は熊みたいな感じ)
「でも、C肉(魔術士や冒険者にとってあれは、食料でしかない)は、移動距離も短い。生息場所がわかっていればちょっと注意すれば済むことで、地元民だったらそれは心得ていることだ。
 今更、C肉出現位じゃ立ち入り禁止になることはない。
 だから、前回のように中型の魔獣の出現‥目撃情報も含めてだ‥位じゃないと、立ち入り禁止には出来ない」
「そんなに中型の魔獣が急に増えたりするものだろうか? 」
 架空の魔獣にしても、
 地元の人々が納得しない様だったら、
 無理矢理立ち入り禁止にすることは難しい。

「多分、「あそこで出た奴がこっちに来た‥」って感じなのかな。中型の魔獣は移動距離も長いですからね」
「なるほど‥」

 そういう「つじつま合わせ」も必要だろう。
 だって、地元の人たちにとって、森なり‥彼らが「魔薬の畑」にする場所は‥彼らの生活の‥生計を立てる唯一の場所であるから。
 薪を拾う。
 キノコを採取する。
 山菜や木の実を集める。
 獣を狩る。
 森の民は、土地がないというのもあるが‥そもそも農耕民族ではない。農耕をする習慣がない。
「森を追われた民はどうしてるんですか? 」
 シークが眉を寄せると、ナナフルがため息をつき
「村を離れる者が殆どですね。街で働いたり‥ですが、若者は転職も出来るでしょうが、年を取った者にはなかなかね‥。街の方でも雇う者もいないでしょうしね」
「‥そうですね」
 収入がない。街に働きに行っても、働き口がない。‥住むところもない。
 森に残ったら、取り敢えず住むところはある。収入も、飯を炊く薪もないが、取り敢えず雨風だけはしのげる。
 それだけ。
 最初にいったあの森の民のように「蓄えがある(キノコで儲かっていたときの蓄えだ)」者たちは珍しい。
 あの者たちはその蓄えで、農具や種を買って、農耕を始めたと聞いた。
 だけど、殆どの森の民は「その日暮らしの自給自足」だ。
 森が無ければ、一瞬で路頭に迷う。
「一刻も早く何とかしなければいけませんね」
 ‥本当に。
 いつだって、富むのは金と力を持っている者で、力の弱い者たちはただ泣かされるだけだ。


 コリン・アンバー組。
「あいつかなあ‥ここだったら」
 ローブを頭からすっぽりかぶった「魔術士スタイル」のアンバーがちらっとコリンを見る。
「ああ、あの‥人の中心にいる緑の服きた人? 確かに発言力はある感じがするね。‥でも、彼はインフルエンサーとは違うの? 」
 その横で、同じく頭からローブをすっぽりかぶった「魔術士スタイル」のコリンがアンバーを振り向く。

 会話というより、
 ちょっとした念話だ。
 二人の前に、見えない画面があって、チャットをしているような感じ。
 全身をローブで覆われた二人は結構目立つけど、魔術士には結構こういう格好してる者も多いから、「魔術士としては目立たない」って感じ。
 今の状況も、別に珍しい感じではなくって‥
 現在でいったら
 陰キャなオタク二人が、横にいるにもかかわらず、スマホで会話してるって感じ。(お互いがスマホを持っているというより、二人の前にある一つの大き目の画面に二人がそれぞれに打った文字が出てるって感じだ。

 因みに、その文字は読む必要は無い。
 頭に自然と入ってくるのだ。
 だから、「念話」なのだ。

「違うね。彼は、所謂「瓦版」だ。
 人から聞き知ったこと、噂話‥
 人が興味を持ちそうな話を集めるのが上手い奴で、集まってる者も、「こいつの言うことは信用できる。重要な情報を持っている奴」って思っている奴はそういない。
 だけど、全くの嘘を語っているわけではない。
 そんな噂がたつ位だから、何かしら真実も隠されているのだろう。
 勿論、その場の慰みに、笑って聞いている者もいるが、ある者はそれに一発逆転の勝負をかけ、ある者はその噂のでどころを探り、‥裏を取ろうとする」

「そんな話、昨日言ってたね、そして裏が取れたら、ただの噂が真実になって、調べた者にとって価値のある情報に変わるって。
‥ただの噂を真実に変えた者が『協力者』になるんじゃないの? 」

「裏を取って、その情報が重要なものだって認識したら、そいつはその情報をそれ以上拡散しない。だって、人に知られたら情報の価値が下がるからね。
 だから、あの‥無責任に‥情報を流しているだけの者が、『協力者』だ」

「あいつは、‥情報を流した者の顔を覚えているかな」

「それは、ちょっとあいつを観察してみないと何とも言えないな。あいつが、どういうタイプの人間かによって、情報の与え方も変わってくるから」

 例えば、「この頃若い娘が攫われている事件があるらしい」という噂を流したいとき、
 対象者が、ただの単純な『噂好きタイプ』なら、
「なあなあ、こんな噂聞いたことあるか? 」
 って、そいつが聞いていそうな場所で、仲間同士で「こそこそ」話せばそれでいい。
 そいつは
「‥良いこときいちゃったよ‥」
 って、その噂に飛びつく。(これが、タイプAだ)
 でも、もうちょっと賢い奴ならそんな「ただの噂」に飛びつかない。そんな、見たこともない奴らの話なんかに飛びつかない。
 じゃあ、知り合いになればいい。
 例えば、逃げているところを匿った深層の令嬢が涙ながらに語った話‥。同情も相まってグッと真実味も帯びてくる。実際の被害者(それがたとえ役者だとしてもだ)がいるんだから、それは噂ではなく真実だろう。
 だけどここで、「警察に匿ってもらおう」なんて変な正義感を持たれても困る。だからそこは「攫われかけたと知られたらお嫁に行けなくなる」とかなんとか誤魔化す必要がある。「私の事は誰も言わないで‥」と。
 その結果、この話は「若い娘がかどわかされるという事件がこの辺りで頻発しているらしい。これは出所はいえないけれど、かなり確かな話だ」って話になる。
 だけど、ここで変な正義感を出して
「事件の真相を探ってみせるぜ‥」
 ってなる奴は、協力者にならない。
 好奇心や、人並みの倫理観はあるが、自分の力を過信しないし、そう人の為に尽力しないタイプ。(これがタイプB)

 長い説明を聞き終えて、コリンが小さく頷く。

 理解した、

 の意思表示だ。

「タイプBタイプが持ってくる情報の方が信憑性があるね? 聞いてる人たちもそこら辺は考慮して聞いてるのかな? 」

「それは無いだろ? 聞いてる者たちにとっては、噂はあくまでも噂だ。噂を多く持ってくる人間の人間性‥性格について考える者はそうはいないと思うぞ」

「成程ねえ‥」
「‥AタイプよりBタイプの方が性格が慎重って感じなのかな? 更に慎重なCタイプはいるのかな? 」

「更に慎重なタイプは冒険者をしないと思うぞ、噂話を聞くのが好きで、情報を伝えたい。しかも、その話の真相‥裏を取らない事には気に入らないって、‥それこそ新聞屋じゃないか? 単なる情報通の冒険者の域を超えてるよ」

「成程そうか」

「もしいて、そしてそいつの情報が周りから「貴重な情報源」だと認識されているとしたら‥
‥そいつは一種の「インフルエンサー」だ」

 つまり、今回の協力者のタイプではない。
 絶対噂の発生源の顔もしっかり覚えてるだろうしね。
 「ケビン」(コリンが命名した、『協力者』の仮名)は、ただの情報の拡散源‥。こんな噂が流れているって知られることだけが重要‥。「そういえば、それケビンから聞いたことあるな」って頭に残る位の重要度‥

 コリンは自らの頭の中で整理して、納得した。

「Aタイプが協力者として一番ベストだってこと? 」

「‥俺はそう思う。Bを信じさせるには、ちょっと手間がかかるからね」

 だけど、両方に共通するのは
 噂話を仕入れるのが上手くって、だけどそれは人を誹謗中傷するタイプの噂じゃない。人気があって、何となく人が集まってくるタイプってこと。
 誹謗中傷ばかり集める奴の周りに人は集まらないからね。

「‥彼は、そう思慮深いタイプにも思えないから、‥噂を「聞かされた」相手の顔見てない確率の方が高い気がするね」

 アンバーが肩をすくめると、コリンが苦笑いする

「ま、ちょっと彼らのお話を聞いてみましょうか‥」


 今回聞いた噂は、
 ‥まあ、噂って言っても、冒険者が欲しい情報だ。普通のゴシップとは違う。
 誰誰がパーティーに不満があって、別のパートナーを探している‥とか、
 何処の武器屋にどんな武器がある‥とか、
 そういえば、あの武器屋の看板娘が結婚した‥とか。(ここで、何人かの冒険者が「え~!! あの子俺狙ってたのに」って悲痛な叫び声をあげ、「お前らなんか無理無理」って仲間に笑われていた)
 その中に、あった
「森が立ち入り禁止になったから、地元の奴らがあの薬草が手に入らなくなったっていうんで、この頃あの薬草の採取依頼がギルドに入るようになった」「ああ。あの森はあの薬草の群生地だったからな」「それこそ、地元の奴らが森に入れば採取できてたようなものだな。‥この頃依頼が入ってると思ったら、そういうことだったのか」
 って、情報。
 聞きたかった、立ち入り禁止になった森の情報。

 でも

 ‥なんで、急にこの話になったんだっけ?
 誰かが、この話を振った気がする‥?
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