この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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62.冷静な状況判断プラスα コリンside

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 一目惚れって、宝物を見つけたみたいな感じだ。

 あ~。
 この人を探してた気がする。
 とか
 生きてて良かった~。
 とか?
 ‥違うな。そういうのは、‥後々の感想だ。
 一目で恋に落ちた瞬間なんてのは、案外「あれ? 」って位のものだ。
 あれ、なんか‥?
 って疑問。違和感? そういうの。
 そういうの‥僕は割と冷静に受け止めて、‥その原因を探る。だけど、その時は、「これは原因究明は必要なさそうだ。僕に害のある人じゃない」ってシークさんについて、あれこれ調査‥っていうか警戒をするのをやめた。‥そういうのは、僕にとって初めてのことだった。
 だけど、「警戒する必要はないけど」でも、「これは、無視できないぞ。無視したくないぞ」って、接点を自分のこころと、‥出来れば相手にも残したいって思った。そんな感じ。
 これは‥この人は、僕にとってきっと特別な人だ。僕はこの人の‥特別な人になりたい。
 僕にとって「何か特別な」もの‥宝物を見つけた‥ってそんな感じ。

 一重で切れ長の瞳、鼻筋の通ってスッキリした凛々しい顔つき、真一文字に結ばれた薄い唇と、太めの凛々しい眉毛。刈り上げた短い髪は、濃茶で、瞳は澄んだ極薄い青色。よく見ると、瞳孔が僅かに緑っぽい。寒色系の色だのに、その青はほんわりとあったかい。その目を囲む睫毛は、‥特に目立つ程でもない。アンバーみたいに、目に影が落ちるんじゃないかって思う程長いわけでもない。
 シークさんの顔は、ひいき目にみても美麗ってなわけではない。(カッコイイんだけどね。‥美麗じゃない)
 世間一般に男前っていうのだったら、アンバーの方がそうなんだろう。
 短く‥適当に自分で切ったって感じの髪は、硬くって、肌と同様、日に焼けて、ちょっと痛んでいる。
 綺麗好きなシークさんは、僕ら魔術士と違って、魔法で身を清潔に出来るわけではないから、水場を見つけては身体を清めている様だ。(僕が毎日クリーンの魔術を掛けても、水場を見つけたらやっぱり入っていたようだ。「風呂好き」ってやつなのかもしれない)
 森にいるとき、何となく朝早く目が覚めて、まだ薄暗い湖で水浴びをしているシークさんを見てしまったことがあった。(覗きではない、断じて誓う。ただ、起きてシークさんがいなかったから探したら、水場で身体を清めているシークさんを見つけたってだけの事だ。ラッキースケベとかじゃない)
 水も滴る逞しい身体が朝日にキラキラと輝いてそれはもう神々しくって、‥次の日から毎日こっそりのぞいてしまった。‥あんな芸術品、見ないって方がおかしい。
 気がつかれなかったのかって? そんなへまはしない。僕は気配を消すのも姿を消すのもお手の物だ。空気一つ揺らさなかったと思うよ。
 だけど‥ちょっとヤバかった。
 水をはじく若々しい肌、背中とかお腹とか、普段は服で見えない部分が(日に焼けてないから)白かったり、とか、水に濡れた髪をかきあげる仕草だとか、‥もう色気が半端なくって、正直何度か、魔術が解けかけて焦った。
 初めて「水辺のシークさん」を見た時は、その後、ドキドキしてシークさんの事真っ直ぐ見れなかった。
 ドキドキして‥っていったら、シークさんとキスした後は、シークさんの唇に自然と目がいって困った。(僕って‥むっつりなのだろうか‥)
 柔らかそうには見えない薄い唇。だけど、あの時触れた時は、‥どうだったろうか、動揺していて感触は正直覚えていないんだけど、でも、硬くは無かった。あったかくって、もっと触れてたいって思った。ファーストキスの味って皆言うけど‥そんなの絶対覚えてないだろう。ああいうのは、後からの捏造だ。「思い出の美化」ってやつだね。(冷静な状況判断プラスα)
 でも、あの時のびっくりして、でも、すっごく嬉しかった気持ち‥ってだけは、覚えてる。(ホントに、それだけしか覚えてないんだ)
 だけど‥キスの感触を覚えてないのがもったいないのと、もっと触れたいって思う気持ちと、あの唇に触れたんだな~っていう信じられない気持ちとで、気がつくと、シークさんの唇に目がいってしまっていた。(シークさんは、気がつかないフリしてくれてたけど、絶対気付いてただろう。‥逆に気がつかないわけがないって感じだったから、悪いことした)
 性欲‥もあるかもしれないけど、そういう生理的な欲求っていうより、「シークさんが」ってことが重要なんだ。誰でもいいから、じゃ絶対ない。シークさんに触れて欲しい。シークさん以外はどうでもいいって感じ。
 とにかく、あの時は、シークさんでいっぱいだった。‥いっぱいになってた。キスする前‥には無かった感情だった。
 今は、‥でも他に考えることがいっぱいあるし、流石にちょっと落ち着いたからか、そんなでもない。(今思い出したことによって、ちょっと再発(?)したけど)

 ドキドキも、期待も、願望も。
 僕がそういう感情をもつのは、シークさんだけだ。

 ただ一般的な感想としてアンバーの事カッコイイって思う‥その気持ち(感情? )には「熱」は籠っていないけど、シークさんに対する「カッコイイ」や「触れたい」って気持ちにはちゃんとした「熱」があるし、「生きている」。
 生物と一緒で、呼吸をして成長している。
 ふわふわした嬉しい気持ちや、好きだ~っていう熱っぽい気持ちだけじゃなくって、もどかしさや苦しさを感じることもある。
 まだ、恋が始まったばかりだから、僕の妄想の域を出てはいないけど、これから恋人として色んなことがあれば、もっと感じることも増えるんだろう。
 嫉妬とか、そのうち喧嘩をしたりもするのかもしれない(嫉妬は‥普通に考えられるけど、喧嘩は想像がつかないなあ)

 僕が、人並みに恋をするなんて思っても無かった。

 シークさんのことは何処もかしこも好きなんだけど、その中でも、僕が一番好きなのは、シークさんの綺麗な目だ。透き通ってて、まっすぐで、あったかい薄青い瞳。
 ‥その青色も普通の青色じゃない。良く晴れた日の‥ぬける様な空の青じゃない。サファイアみたいなキラッキラの青でもない。これは、なんて表現すればいい青なんだろう。
 そもそも、青と言うのが正しい色なんだろうか?
 緑‥黄色??
 青なんだけど、ちょっと黄色っぽい感じもするな~って、表現するのが複雑な色。
 濁ってるんじゃない。
 透明で‥そうだな、良く澄んだ湖の‥川程は流れが無いところね。池でもいいのかな? ‥湖底が微かに見える様な感じ。
 浅い湖で湖底が良く見えてる‥って感じじゃなくって、実は足なんかつかない程深いんだけど、澄んでるから湖底が見えてる‥って感じかなあ。
 見えるんじゃなくって、見えてる。って感じ。(伝わるかな)‥そういう、水の色。いや、でもこういうと「見た目より底が深いミステリアスな人」って感じに聞こえちゃうか?? そういう意味はないんだ。‥ただ、単なる透明ではなくって、透明でしかも、何となく青い‥っていうのを表現したいだけなんだ。ある程度水深が無いと、水は青っぽく見えないからね。

「何? どうした? 」
 あれこれ「表現しがたい何か」を表現しようと色々考え込んでいた僕を現実に引き戻したのは、愛しい人の声だ。帰って来たばかりらしく、まだ背中の剣もおろしていない。
 この(帯剣)シークさんもカッコイイ。
 そして、そのかっこよすぎるシークさんが剣をおろすより先に、僕を心配してくれる。

 ‥幸せ過ぎる。

 思わず顔がにやついてしまった。
「へへ。シークさんおかえりなさい! 僕ね、シークさんの目、綺麗だから大好き! 」
 シークさんに抱き着く。
 恋人だもん、これっ位はいいよね?
 ‥シークさんの腕の中安心する~。暖かい~。硬い~。アンバーがキラキラ光る綺麗で硬い結晶の柱だったら、シークさんは大きな樹みたい。安定してて、あったかくって、癒される。
「??? 」
 シークさんは戸惑いながらも、そんな僕を受け止めてくれた。
 僕が結構勢いよくシークさんの胸に飛び込んで行ったから、自然とシークさんの手が僕の背中に回された形になったんだけど‥遠慮がちに僕の背中に手を添えたシークさんの大きな手の平も暖かい。
 あ~カッコイイ!! 好き!! 
 ついつい、胸にすりすりしてしまったけど、恋人だからこれっ位はいいよね? ‥いいよね!? 大丈夫だよね、‥引かれてないよね??
「‥? コリンはどうしたんだ? 」
 肩越しにアンバーに聞くシークさん。
 アンバーは首を傾げ、相変わらずニヤニヤしたような表情で(背中越しで表情は見えてないんだけど、アンバーの口調からしてきっとそうだろう)
「さっきからおかしいんだ。なんかよからぬことでも考えてるんじゃない? さっき、俺は「宝石の様な目だね」って口説かれたぞ」
「口説いてないわ! 」
 驚いた僕は、がばっとシークさんの腕から身体を起こし、間髪入れずアンバーにツッコミを入れてしまった。
 口説く!? 僕がアンバーを!? 冗談でも言わないでくれ!!
 ぎ、っと顔を上げてアンバーを睨んだ。
「くど‥」
 ほら~! シークさんがびっくりしてるじゃないか!! 
 まったく、アンバーはろくでもないことしかしないね!!
 僕が怒ったのが面白いんだろう。性格が悪いアンバーは更にニヤニヤして
「穴が開くかと思う程見つめられたし」
 言葉を続けた。
「う‥」
 ‥まあ、確かにそれは‥した。
 だって観察だもん。
 僕が口ごもると、嬉々としたアンバーは
「見惚れてたんでしょ? 」
 にやり、と意地悪そうな‥例のやたらアンバーに似合う、「色っぽい表情」をした。
 うん、文句なしにカッコイイ。普通の人ならここで、ぽ~ってなるかもね。でも、僕は違う。
 前も言ったけど、不健全な色気に中てられるほど僕は初心じゃないの。色気たっぷりもイケメン顔も、兄ちゃんたちと母ちゃんで、それこそ食中りするほど慣れてるの。
 人は見かけじゃない。大事なのは、言ってることとか態度‥それ以上にハートでしょう! 第一印象やら先入観ってのは、それらを見極めるのを妨げる原因にもなりかねないからね!!
 ‥ってこれか、僕が人の顔を見なくなった理由は。
 まあ‥これだけじゃないんだろうけど、これも一因なんだろうな‥。
 僕は、は~とついため息をつくと、改めて
「それは、違う」
 はっきりと否定した。

 観察だからしみじみ見ただけで、見つめたわけじゃないの。

「そういえば僕は、人の顔をあんまり見ないな‥って思って。それはダメだな、と。で、ちょうど近くにいたアンバーを観察してみようって思ったんだ。不躾に凝視して悪かった」
 キチン、と腰を折って謝る。
 アンバーが、一瞬きょとんとした顔をして、首を傾げる。
「観察して何か分かった? 俺のが男前だな~、シークより俺の方がいいかな~って? 」
「それは全然ない」
 顔を上げる。
 きっと、僕のアンバーを見る視線は、冷え冷えとしているだろう。
「ないんだ」
 ほら、このアンバーの苦笑い。
 からかいがいが無い、って思ったんだろう。
「うん。ない。全然。だけど分かったことはあった。アンバーはやっぱり根っからの攻撃型魔術士だから働き者の手じゃないな~。シークさんとは違うな~ってのが分かった。あと、アンバーが言ってた‥」
「俺が言ってた? 」
「魔力をつかったら目の色が変わるって‥やつ。初めて知った。教会では教わらなかった。アンバーの目の色も光の加減だと思ってた‥というより、そもそも、普段から全然見てないから、そうだったっけ、こんな色だったっけって今の今まで思ってた」
「ああ‥」
「あとシークさんの事」
「俺のこと? 」
 今度はシークさんが首を傾げた。

「シークさんは知ってた? シークさんに魔力があることと‥魔力を使ったら目の色が変わる事と‥そもそも、魔力を使ってることを‥」
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