この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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58.歪んだ優越感と、劣等感の向こう。

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「アンバーの件は僕が考えます。‥とにかく今は、アンバーは出歩かないで欲しい」
 コリンが腰に手を当てて、アンバーを真剣な眼差しで見上げると、アンバーは、もう、明らかに不承不承って顔で頷いた。
 他の三人も「そりゃそうだ」って顔で頷く。
 だけど、アンバーの気持ち‥悔しさだとか情けなさ‥も、勿論分かるから口には出さない。

 アンバーには、敵が過剰評価しているだけの力はないから、大人しくしてろ。

 コリンの(あんまりな)言い分は不本意だけど‥事実だし、‥心配している皆の気持ちも分る。
 ‥今アンバーに出来る最良のことは、コリンの言う通り「大人しくしておく」事だろう。

 ‥みすみす負け戦をするのも馬鹿らしい。
 ‥わかっちゃいるんだけど‥。だけど‥。

 アンバーの悔しさも分かる。
 でも、自分たちがアンバーに出来ることは、ない。

「‥俺たちは、魔薬の動きの方を探っていく」
 ザッカとナナフルが早速動き始めた。
 隣の部屋で素早く、今までの動きやすい服装から、地方の役人が着る様な‥小綺麗な服装に着替えた。
 別に(役人の)制服ってわけじゃない。‥地球におけるスーツみたいな感じ。「ちゃんとした服」って奴だ。
 そうしてると、ザッカさんもいつものワイルドな感じから、ちゃんと「デキる男」風に見えるから不思議だ。ナナフルさんは‥うん、いつもとそう変わらない。いつも通り、美しいって感じだ。
 ほ~。
 つい、見惚れたコリンとアンバーをちらっと一瞥しただけで、ザッカは何も言わなかった。
 ‥余裕だねえ、ってちょっと苦笑いした。(僕だったら「見ないでください、シークさんが減ります」位言っちゃいそうだ)
 シークもいつもの大剣を装備すると、
「ギルドの仲間で「耳のいい」奴に、他に立ち入り禁止になった場所の情報はないか聞いてくる」
 コリンに行き先を告げると、さっきザッカとナナフルが出て行った扉から出て行った。
 コリンは、無言で頷いた。
「僕も」
 なんて、馬鹿なことは言わない。
 ついて行っても何も出来ないことは分かっているし(寧ろ足手まといになるだろうし)さっき、アンバーの件を考えるって言ったばっかりだ。

 考えるって言ったけど、‥何も出来るわけでもないんだよな~。

 シークとザッカ達が出て行った部屋に残って、
「‥‥‥」
 悔しそうな顔で黙り込むアンバーに
「‥もどかしいのは僕も同じだ」
 コリンがへにゃっとした、‥情けない様な笑顔を向けた。
「‥来られたらやり返すのは得意だけど、僕は自分からしかけるのには向いてない。計画性とか‥そういうのには向いてないんだ」
 コリンは見掛けに寄らず脳筋だし、短気だし、「思い立ったら即行動」だし。おまけに、超がつくほど負けず嫌いだ。普段は努力家で、勉強はこつこつできるけど、いざとなったら「ついかっとなって‥」頭で考えるよりまず手が出てしまう。
 考えるって口に出すことで「何か考えなければいけないんだよな」って気付いたくらいで、‥今まで「まあ。来られたらその時は返り討ちにしてやればいいや」と位しか思っていなかった。
 ‥今初めて、ちょっと‥「それはないかな」って思ってる。 
 周りの皆は、‥少なくとも「行き当たりばったり」に行動してないわけで‥。
 ちょっと落ち込んでいたら
「‥そんな感じするな」
 素っ気ない口調でアンバーに返されたので‥更に落ち込んだ。
 ‥ちょっとは、「そんなことない」とか否定してくれたらいいのに‥。
 コリンは、苦虫を嚙み潰したような‥顔で黙り込む。

 ‥確かにそういうのは、どっちかというとアンバーの方が向いている。
 ‥アンバーは、性格悪いからそういうの向いてんだよね。

 って毒づこうと思ったけど、‥性格悪いのはお互い様だ。
 先回りしたりおびき寄せたり‥対策練ったりは苦手だけど、「仕返し」や(攻撃型)防護結界(←自動攻撃する防御壁だ)は、‥結構‥かなり、えげつない。

「‥シークさんってなんであんなに綺麗なんだろ」
 ぼそり、と呟く。
「は? 」
 アンバーが訝し気な視線をコリンに向ける。
「‥真っ当に生きてるって感じする。僕なんて、自分の身を守るだけで精一杯で、自分の身が脅かされようもんなら、‥なんでそこまでって程攻撃するし、‥全然スマートさなんてない。真っ当って感じも‥ない。
 正当防衛だけど‥でもね、シークさんならそもそもそんな事態に陥ってない。
 ‥もっと、うまく立ち回ってるだろう」
「う~ん」
 ‥否定は出来ないなあ。
 確かに、コリンは‥不器用だよな。
 さらっと流す‥とか、しない。
 自分とだって、大げんかして、
「な、身体を動かしたらすっきるするだろ!? 」
 って、‥脳筋なこと言ってた。
 シークならたしかにそんなことはしなかっただろう。
 じゃあ、どうしたか? とか想像がつくほど親しくないけど、そうはしないってことは普通に分かる。そもそも、‥コリンみたいな感じの方がおかしいわけだし。
 ザッカなら、さっさと、騎士に突き出されてたかな。
 ‥でも、ザッカは、紋無しだし、‥そこそこ出来そうな感じではあるが、俺の敵じゃない。突き出される前に、‥普通に倒してるな。
「‥アンバーのこと、僕と一緒だって思ってたけど、‥でもアンバーは僕よりずっと冷静だ」

 いや、寧ろ、どう「一緒」って思われてたんだ。そこら辺が聞きたい‥。

「冷静ね‥」

 まあ‥そりゃコリンと比べれば大抵の人間は‥。
 は、アンバーの心のうちだけに収めておいた。(親切心)

 人が嫌がりそうなことも、直ぐに分かって‥そういうところを責めるのに躊躇なんてない。対コリン戦の時だって、コリンの挑発に乗せられやすく、直ぐに冷静さに欠く性格はすぐに見抜いた。
 アンバーはコリンよりずっと、冷静だし、計画的だ。
 眉を寄せて自嘲気味で、‥らしくない、自信なさげな笑顔を浮かべるコリンに
「‥似てるとこは‥でもまあ、あるんじゃないか? 」
 アンバーは苦笑いを返した。

 似てるのは、同じ‥魔術師同士だからだ。

 自分の「魔力込みの力」を「自分の力」だって‥勘違いする。
 魔力に底上げされた筋力を‥自分の力だって‥勘違いする。
 程度の違いこそあれ、‥魔術士は、みんな結構そういうところがある。
 魔法っていう、‥誰にもあるわけではない特別な力をもっているから、自分が特別なものになった気になる。

 何様のつもり?

 自分にはそんな気はなくても、周りからはそう見られる(そして、実際に自分で気付いてないだけでそうなのだ)
 努力して努力して、力を手に入れた者を、どこか下に見ているようなところがある。
 実際のところは、努力をして手に入れたわけじゃない。その力に対応する筋肉が伴ってないわけだから、魔力を封じられたらアウトなんだ、‥なのに、そのことを魔術士は考えない。
 傍から見たら、滑稽な虚栄心。‥だけど、魔力がある限りは‥やはり魔術士に逆らうことなんて出来ない。
 
 思いを巡らせていると、
「‥魔術士同士だって以外にも‥。
 シークさんとは根本的に違うってところが、僕らは似てる」

 相手への攻撃に躊躇が無い。容赦がない。
 自分の敵だと認識した者に攻撃の際には、普段のコリンにはない冷静さが発揮される。‥冷淡な集中力が発揮される。

 まるで、服についた草の種を1つも残さず取りつくすぞ‥というような、集中力。
 部屋に入って来た蟻を一匹残さず捻りつぶすぞ‥っていう、使命感だけの‥感情を伴わない冷淡な集中力。

 ‥それは、アンバーにも言える。(コリン程酷くはないだろうが)
 それ以外にも、コリンとアンバーはよく似ているところがある。
 それは、「見ず知らずの誰かの為に何かをする」ということが無いことだ。
 シークにはわりとそういうところがある。(そういうところが、コリンが「僕とは違う‥好き‥」って部分だ)
 ホント、しみじみ思う。
 気付いたら、同じ言葉をまた繰り返し呟いていた。
「‥シークさんってなんであんなに綺麗なんだろ」

 アンバーは、ただ、苦笑いしただけで、何も言わなかった。
 ‥自分には、あんなデカい男を「綺麗」ってナチュラルに表現するのは憚れるけど、‥確かに、シークの心は綺麗だ。
 自分とは違う、表の人間って感じがする。
 ああ、‥コリンもさっき「真っ当に生きてるって感じがする」って言ってたな。
 
「シークさん見てたら、‥自分がどんなに思い上がって、最低な人間かって自覚させられる」

 コリンはアンバーを見て、軽く微笑み
「それが、堪らなく嬉しかったんだ‥。
 ああ、気付けて良かった‥って思った」
 ‥嬉しい?
 首を傾げたアンバーにコリンは一つ頷く。
「気付けたら、変われる」

 以前なら、綺麗なものをみて自分の醜さを再確認したら、堪らなく惨めな気持ちになって、隠れたくなっていた。
 力を得たら、綺麗なものを醜く変えたくなった。
 壊したくなった。
 綺麗なもの、‥憧れて止まない眩しいもの。
 自分には一生手に入らないもの。
 手に入らないなら‥。

「たとえ本質は変われなくたって‥僻み根性位変えられる。
 ‥ないものねだりで憎まなくても‥素直に欲しいって言えばいいんだ‥」
 そういって、コリンは穏やかに微笑んだ。
 まるで、目の前に愛しくて仕方が無いものがあるかのように、うっとりと‥。

「眩しすぎるものなんて‥要らない。目が疲れる。俺は‥」
 俺は‥

「俺は、コリンでいい。コリン位の微かな光で、俺はいい」
 限りなく、グレーなコリンに時々見え隠れする、‥綺麗なもの。
「‥微かな光なんてすぐに見失うよ」
 コリンが眉を寄せて苦笑いする。

 だから
 見失わないように、見てる。
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