この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

文字の大きさ
上 下
56 / 310

56.いちゃついてるわけでも、襲っているわけでもない。

しおりを挟む
「悪の組織はそういうことも分かってたってわけか」
 ふむ、とザッカが唸る。
「僕一人が、ちょっと調べただけでわかったようなことは、勿論分かってたでしょうね」
 なんせ、人数もいるし、準備期間が長い。例え、個人の能力差があっても、人数と時間がそれを埋めてくれるだろう。それに‥「明確な目的」がある。相手の目的も分からず調べているコリンたちとは違う。
「あと、ここで調べておけることはある? 」
 シークの問いかけに、コリンは首を傾げて暫く考える素振りをし、間もなくして首を振る。
「無いと思います。少なくとも、今は思いつきません。ここにいても仕方が無いから、一度帰った方がいいかと」
 シークとザッカが頷く。

「よう、お帰‥」
 ニコニコと機嫌のいい顔で三人を迎えたアンバーに
 コリンが抱き着く。
「‥?! コリン? 」
 さっき上げた腕をおろすことさえ忘れて、アンバーが動揺した声を出す。
 コリンは抱き着いたまま、更に自分の頬をアンバーの胸に埋め‥すり‥と頬ずりする。
 ‥と思ったら、
「熱っつ! 」
 アンバーが両腕でばりっとコリンを自分の胸から剥がした。
「至近距離で雷魔法打つとは‥お前、俺を殺そうとしてるのか‥、抱き着いてからの至近距離での攻撃とか‥凄まじいハニートラップ(←? )だな‥っ‥」
 攻撃を受けた部分なのだろう、ちょっと焦げた鎖骨辺りをさすりながらアンバーがコリンを睨む。
「イヤなに‥驚かしただけだ。‥でも、そうか‥」
 アンバーの怒りをさらっと流したコリンが、ぶつぶつ言いながらアンバーから離れる。
 と、
「ちょ‥な‥!? 」
 コリンからアンバーに向かって真っすぐ線を引くように地面が盛り上がる。
 と、その場所が太陽光を跳ね返してきらきらと見える。
 ‥霜柱?!
 その先にいるアンバーは足を地面に縫い付けられ‥
 次の瞬間、憤怒の形相でその氷を解かす。
「何のつもりだ‥」
 低い、低い声。
「‥吸わないの? 」
 対するコリンの声も低い。
「は? 」
 予想外の‥全く意味の分からないコリンの言葉に、アンバーは眉をしかめて、コリンを睨む。
「魔素、吸わないの? 」
 コリンが、アンバーの瞳を見上げる。
「魔素? 」
 アンバーが息をのむ。
「‥僕を攻撃するために、周りの魔素を吸って魔力に替えて攻撃する方が効率的だと思うけど。‥現にアンバーの魔力はさっきの「魔力遮断」と「ファイアーブレス」で半分以下に減っている」
 アンバーの瞳を睨むように見つめたままコリンが言葉を続ける。
「‥何を言って‥」
 アンバーがもう一度息をのむ、が、視線が外せない。‥高等魔法の「行動制御」だ。
 コリンは、アンバーを試している。
 嘘を言わないか、目を見て判断しようとしている。
 目を見つめられても、嘘が言える人間ではないと、コリンはアンバーを「信じてい」いる。

 ふ、と身体から力が抜ける。
 身体が一気に軽くなったアンバーは、その場に膝から崩れ落ちる。
 そのアンバーの腕をコリンが‥相変わらずの力でぐいっと引っ張り上げ、とん、と自分の胸の真ん中あたりに固定する。
「こ‥コリン!? 」
 いや、コリンは男だ、男だからこういうことは‥気持ち悪いとかいう類の行為なはずなんだけど‥ドキドキする。もう、赤面して‥顔から火が出そうってこういうのだろうって感じだ。
 コリンは、平坦な‥だけどちょっと艶のある声で
「アンバー、僕に触れて。‥目を瞑って、僕に触れた手に意識を集中させて‥」
 言って、自分も目を閉じた。
 ええ!?
「‥言う通りに」
 コリンのイラついた様な低い声に、ひっと思わず声を上げそうになる。
「手に集中‥!? ええと‥目を瞑って‥だっけ?? 」

 ふわ、っと‥
 アンバーとコリンの周りが温かくなる。
 シークには多少魔力がある。だから、二人の間で魔力が移動したのが分かった。
 ああ、これ魔力譲渡だ。ヒールみたいに魔力で傷を治すんじゃなくて、まっさらな「魔力」を他の魔術士に譲るやつだ。
 ヒールは、「光魔法」っていう「色」がついてて、それは目的の為にしか使われない。だけど、魔力譲渡は、まっさらで「色」がついてない魔力だから、例えばそれをアンバーの火魔法にも闇魔法にも使える。

「アンバー悪かった。ちょっと試したかったんだ。‥黙って試したりして‥悪かった。後で説明するから、とにかく魔力を回復させて‥」
 コリンの静かな声。

「きれい‥」
 魔力がないナナフルには、魔力の移動は見えなかった。
 ただ、周りがキラキラ輝いて見えた。
 コリンの金茶の髪がそのキラキラに照らされて、金の糸の様に見える。
 神々しい‥。
 美形二人が佇むそれは‥一枚の宗教画の様にも、見えた。

「綺麗だけど‥」

 ‥ドキドキする。
 心臓に、悪い‥。

「なんか、コリンがアンバーを誘惑してるみたいに見える‥」
「それな‥」
 若干赤面したザッカとナナフルがコリンたちから目をそらす。他人の濡れ場を覗いてちゃった気分に‥ちょっと似てる‥。
  気まずい‥。

 俺は‥
 シークはぐっと拳を握りしめて、コリンたちを睨んだ。

 目をそらしたりなんかしてやらないぞ!! ガン見してやる!!


 ‥後で、ちょっと拗ねてるシークに気付いたコリンが盛大に慌てて、言い訳を言い続けながら宥めたのはいうまでもない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

処理中です...