この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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53.そしてやっと、森に入る。

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 さて、この盛大な時間のロスに終止符を打ったのは、
「暗くなる前に森に入った方がいいんじゃないか? 」
 シークだった。

 コリンの口から、(自分を好きだ好きだ言っていたのにも関わらず)実は恋愛というものが良く分かっていなかった‥白状された悲しい男、である。

(シークside)

 自分にはないものを好ましいと思う、人間の真理だ。
 ‥それは恋じゃない。
 だけど、コリンは言った。

 「この頃はそれだけじゃなくって、本当に好きになった」

 と。
 一番に「嬉しい」って思ったけど、‥ちょっと冷静になると、色んな想いがわきあがってくる。

 そのひとつは、悔しいだった。

 何が悔しいかって‥自分よりずっと年下の子供に振り回されてたってことだ。
 恋と憧れの区別もつかない子供。それは、最初に気付いていたはずじゃないか。
 だから、大人として、‥社会人の先輩として‥わかってない子供に気付かせてあげなくちゃ‥って。
 両親に会いに行ったのは、コリンを傷付けないようにコリンと話を合わせるフリをしただけ。‥コリンが自分で気付くように。

 ‥子供の「好き」って言葉を真に受けて、自分が好きになる‥とか、ないようにしようって思った。
 ‥そもそも、ならないだろう、って思ってた。
 ただ、それだけ。

 だけど、積極的で、恋愛慣れした可愛い子‥って、認めたくないけど、心のどこかで思い込んでいたんだと思う。
 揶揄われてるんだって。
 そっちが揶揄ってるんならこっちだって乗ったふりして利用してやれ‥とかそういうゲスな考えが自分にあるのかも、って考えが浮かんだ時には、落ち込んだ。

 そんなのは、悪い大人のすることだ。

「自分が悪いんだ。社会勉強させてやった」
 なんて、偉そうなことを言って、何も知らない子供を毒牙にかける‥そんなのは悪い大人と一緒だ。

 自分はそんな人間にならないって誓った‥というか、漠然と‥「自分はそうはならない」って信じていた。だのに‥。
 あの時キスしたのは、純粋なきもちじゃなくて、‥どうせコリンも自分の事揶揄ってるんだから、別にいいじゃないか。って気持ちからだっただろうか‥って悩んだ。
 でも、違う。自分はそんな器用な人間じゃないって‥。
 一瞬の気の迷い‥だったのかもしれない。いずれにせよ、あの時はそんな打算的なこと考えたわけじゃない。
 でも、そう考えた時、
 ‥そもそも、俺は一時の気の迷いでキスとかしちゃうような人間だったのか!? って考えもうかんだ。理性もセーブできない、ダメな男だったのか? 最低だな、おい。その場の感情で相手に了承を得ずに無理矢理キスするとか、大人として‥という以前に人間としてダメだろ‥。
 悩んだり、焦ったり、‥困ったり。それこそ、色々考えた。
 自分の事をこんなに考えたのは初めてだった。一時は‥本気で苦しくって、コリンから離れようって思った。
 憧れにしたって揶揄ってるにしたって俺の事を本当に好きになることはないであろう人間相手に、俺だけ悩んで苦しんで‥何の意味があるんだって思った。苦しいのは自分だけで、コリンはちっとも苦しくない。コリンを恨んでしまいそうで、そんな自分も嫌だった。

 自分はコリンを気がつかないうちに好きになっていたんだ‥

 ‥そんなことを、コリンを嫌いになりたくないって思った時に気付いたりして‥もっと落ち込んだ。

 だけど、コリンも悩んでいた。
 ‥俺だけじゃなかった。

 ほっとした。ずっと乗って来た重い石をどけてもらったような‥、ずっとがんじがらめだった縄を切ってもらえたような‥そんなふわ、っと楽になる感覚だった。

 そんな経験は、初めてだった。
 戸惑ってるし、でも、それ以上に嬉しい。‥愛しい。

 ‥でもそういうのって、‥こんなところで皆とわいわいがやがやと話すことじゃない。

 ‥少なくとも俺的には。

 同じ想いだって分かったからって、急に何かが変わるわけじゃないけどね。
 そう、‥驚くほど変わらないんだ。

 初めて告白された時は驚いた。それこそ、‥本気だなんて思わなかった。何の罠だって思ったよ。でも、その気持ちは分かってもらえると思う。
 嬉しい‥ってのは、なかったな。
 びっくりした、の一択。

 揶揄いご遠慮します。煩わしい。今まで一人で生きて来たんだ、今更恋とかない。

 でも、今はコリンの言葉をすんなり受け入れられている。‥相変わらず、天にも昇る気持ち‥とかもないし、やったーカワイイ恋人出来た! って感激もない。そうだな、一番の感想は、「良かった、コリンの事嫌いにならずに済んだ」って安心感だったね。
 今すぐキスしたい‥とか、そういう情熱的な感じとも、違う。
 穏やかで満ち足りた気持ちって‥こういうのかもしれない。

 
 だから、驚くほど冷静になれた。
「ここでうだうだしてても仕方ないんじゃないか? 森に入るなら、暗くならないうちに‥だと思うけど」
 って今やるべきことも分かる。
 出直す‥とか、時間の無駄だし、その間にも、敵が証拠隠滅をはかっているかもしれない。

「そうだね」
 コリンが、はっと気付いたような顔を一瞬して、次の瞬間真っ赤になって
「‥浮かれたりして、こんな時に僕って奴は‥」
 と呟いた。
 ‥いや、そうなんだけど、それは間違いないんだけど‥俺的には、良かった。

 気持ちがすっきりして、かえって仕事がはかどる気がする。

 コリンの呟きは‥聞こえなかった振りしたけど、なんかほっこりした。顔に出てなかったらいいんだけどね(注 ちっとも出ていません)

 でも、仕事となると、相変わらずコリンは「でたらめ」だった。
 気配遮断の、透明化の移動とかって‥。
 魔法の事は正直よく分からないけど、凄いんだろうってのは分かる。(隣でアンバーが呆れた顔してる。それほど、「でたらめ」なんだろう)

「三人が精々かな」
 と呟いているのは、同時に掛けられる人間の数だろう。
「三人って」
 アンバーのその呆れ顔。
 二枚目が台無しだ。


 で、
 誰が行くかって話。
「僕は行く。調べたいことあるから」
 まあ、コリンが術を掛けるんだしね。
 それを聞いて、ザッカがにやりと笑う。
「俺も行く。コリンだけじゃ何を調べたらいいか分からないだろ。‥調べたいことって、コリン、いっちょまえなこと言うじゃないか」
 成長したらしい後輩社員に先輩として嬉しいって顔。
 で、キラキラの笑顔を向けられたコリン
「(ごめん、調べたいことって‥個人的なこと(※ アンバーの魔法が、「再生」か、「成長促進」か。「摸倣」って可能性も消し難い‥っていうことを、現場で確認すること)です。‥とはいえない)‥いやだな、揶揄わないでくださいよ、ザッカさん」
 ‥ちょっとギクッとした顔をして、慌ててザッカに笑い返す。

「‥さっきの間なんだ? 」

 ザッカの顔が、白けてる‥っていうか、呆れてるっていうか‥とにかく、怖い。
 スルドイデスネ。ザッカさん。

「あとは、用心棒だな。コリンは術に今まで以上に集中しなきゃならないからな。誰かがついてる、って思ったら気持ちも楽だろ。俺かシークだけど、‥俺だと魔力が多い分消すのが大変だろうから、シークが行った方がいい」

 ってアンバーが言って‥

 探索チームは
 ザッカ、シーク、コリン
 待機チームは
 アンバー、ナナフル

 ってことになった。
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