この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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51.それで充分です。

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(シーク) 

「コリ‥」
 伸ばそうとした手は、でも、コリンに触れることはなかった。
 ‥俺は今何を言おうした? 
 シークは、目を見開いて、伸ばした指を、ぐっと握った。
 爪が指に刺さって血が出る程、強く握る。

 『大丈夫だ、俺がついてる』

 俺が言いそうになった言葉。
 何が大丈夫だ。俺が付いてる? 俺はついてたらコリンは不安にならないとでも思うのか? 
 
 コリンが俺に微かに微笑んで、背を向ける。
 小さな、細い背中。
 『見かけによらず』逞しくって、ハイスペックで、努力家で‥。
 そう思われるために、コリンはずっと‥人よりもずっと努力して来た。
 見掛け通り、可愛いだけ‥って言われるのが嫌だったから。
 だけど、‥ホントはこんなに小さくてホントに華奢で‥細い。
 助けてあげたい‥、抱きしめて守ってあげたい。
 抱きしめたら、つぶれちゃいそうなほど、華奢で頼りない、コリン。
 今抱き締めたら、‥コリンの今までの努力も、才能も全部閉じ込めて、抱きつぶしてしまいそうな気がする。
 自分の狭量さや、傲慢さに嫌気がさす。
 でも、‥何も出来ないのに‥
 俺は、コリンを失いたくない。
 まだ‥始まってもいない。
 俺のことを好きだって言ってくれた君に、自分の気持ちを伝えらえてすらいない。
 無責任に支える‥なんて言っちゃいけないし、言えないけど、‥何も言わなかったら、コリンは振り向いてくれないんだろう。
 ずっと‥ずっと一人で頑張って、耐えていたんだ。
 俺みたいに、身長もない。逞しい腕もない。戦闘センスがないって自分でも言ってたけど、‥魔法抜きでって考えたら、ないっていうのは‥否定できない。咄嗟の判断や、センスだけは、訓練で何とか出来る者でもない。
 コリンは弱いし、魔法以外、自分を守れるものが何もない。
 不安もあっただろう。
 いつか魔法が使えなくなったら‥、魔法使いだったら胸の奥のどこかで、常に不安に思っていること‥らしい。
 でも、彼は誰かに頼ることをしらない。頼れないって思ってる。
 あんないい家族に囲まれるのに、コリンはずっと、自分に劣等感を抱いて生きてきた。
 劣等感を抱いているけれど、何とかしたい‥って頑張って来た。

 恋は‥怖い。
 ふわ~ってなったら、自分が自分じゃ無くなるみたいで、不安。
 
「コリン」
 声を掛けて抱きしめようとしたその背中を、先に抱きしめたのは、ナナフルだった。
 シークの腕がまた宙を掴んだ。
「コリン。ごめんね。コリン。辛かったね。分かってあげられなくて‥今までごめんね‥」
 ナナフルは泣いていた。
 コリンの辛さを分かってあげられなくてごめんねって‥。


 ‥俺は‥
 ‥コリンの辛さは、分かって来たつもりだ。ナナフルさんよりずっと‥。
 コリンの辛さも、弱さも、受け止めてていくつもりだ。
 今は、俺にそんな資格も、強さもない。
 覚悟もない。‥否、今までは無かった。
 だけど‥
 資格がないも、覚悟も‥全部、自分が勝手にないって決めつけて来たことだ。‥逃げて来ただけのことだ。
 俺は‥!


「コリン! 」

「シークさん‥? 」

「俺は‥コリンを一生守ることなんて出来ないかもしれない。だけど、一緒にいる。‥一緒にいたい。一番近くにいたいんだ! 誰にも、コリンを奪われたくないんだ!

 俺は、コリンが好きなんだ! 

 ふわ~ってなったら、俺が支える。コリンにドキドキして、俺もふわ~ってなるかもしれない。その時はいっしょに抱きしめあったらいい。一人でなんか立たなくたっていい。
 ‥だから‥一緒にいて欲しい!! 」
 気が付いたら、柄にもなく、叫んでいた。
 コリンがナナフルさんの腕から抜け出すと、俺を見た。
 驚いて‥目に涙を浮かべて、俺を見つめている。
 腕を恐る恐る開くと、コリンが駆け寄ってきて、胸に抱き着いて来てくれた。
 ‥そっと大事に閉じ込めるみたいに‥腕にコリンを抱きしめる。

「シークさん‥! 」
 胸に、直接コリンの声が響くようだった。

「シークさん! シークさん! 
 充分です! 一緒に居てくれるだけで、それで充分なんです。
 僕と一緒にいて下さい!! 」

「コリン‥」

「それで、‥一緒に居てくれるだけで充分なんです‥! 」
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