この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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38.悪の魔術士育成プロジェクト

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 計画的‥人為的な、「後継者育成プロジェクト」。

「魔力のある子どもを、表の教育機関に取られる前に、取り込む。ま、冒険者の子供が対象になるから、そこら辺はちょっと事情が変わってくるな。冒険者は、自分たちで子供の能力を育成するからな。
 つまり、‥手っ取り早く魔力のある子どもを発掘‥いや拉致して調教するっていうのが正しい表現方法だな。
 親を目の前で殺して、恨みを原動力にするってのがポイントだ。
 親を殺された子供は、目の前の誘拐犯を親の敵として、只復讐する為だけに魔術を取得する。やがて、魔術が上達すれば、誘拐犯であり育ての親であるその魔術士は殺されるだろう。そうすれば、魔術士に仕事を回していた者は、その子供に今後は仕事を回すようになる。
 人を殺し‥また、黒い目的の為に魔術を取得した者が表の世界に出てくることはない。
 なし崩しに、悪い魔術師となり、同じく悪い魔術師が集まる村で、当たり前の様に‥食う為に悪い魔術師として生きる。
 ‥攻撃型魔術士は、戦士として使える期間が短い。だから、そうやって年齢の若年化を図っているってわけだ」
「自分を殺す子供を育てる計画‥そもそも、子供を拉致してくる魔術士はそんなことを承諾するのか? 」
 ザッカが眉を顰める。
 アンバーは苦笑いして
「誓約と同じ‥なんじゃないかな。そうやって、断続的に「悪い魔術師」を供給していかないと殺す‥みたいな呪い‥そういうのによって従わされてるんじゃないかなって俺は予測している。‥もしかして、催眠術の様に‥無意識かもしれないな。
 奴は‥奴らはずっと呪いをかけられ続けて生活してるってわけだ。で、その呪いをかけているのは、多分あの例の口利き屋」
 と、何でもない事の様に言った。
「呪い? 」
 シークの表情が険しくなる。
「‥多分‥そうじゃない。というか‥全然違うってことじゃなくって、‥部分的に、違うと思われる個所があるって意味で‥。 
 この前僕が言った、追跡‥追尾型と添え付けタイプの監視カメラの話覚えてますか? まさに、あれと同じです。
 対象者をずっと追尾して呪いをかけているのではないってことだ。‥それをしようと思ったら、凄く魔力がいるからね。‥そんな腕利きの魔術士は口利きやなんかしない。‥もったいないし、そもそも、そんな腕利きの魔術士は魔術士に怪しまれる。
 少なくとも自分より魔力の強い口利き屋とかから、魔術士が仕事を請け負う訳がない。
 口利き屋が何かしら意味があるのは正解だと思う。
 呪いをかけた人物っていうのが別にいて、その口利き屋に管理を委託する。呪いをかけた人物が、一人で何人もの気配に気を配るのは無理だからね。
 口利き屋自体に少々の魔力さえあれば、受け持ちの対象者を見張ること位できる‥。
 仕事を斡旋すると同時に、対象者の監視をする。これだけが、口利き屋の仕事だ。
 そして、代替わりが起これば、‥別の闇魔法に特化した魔術士が呪いを後継者に掛ける‥それも対象者に気付かれない様に‥だ」
 コリンの表情も険しい。
「‥反吐が出る程、違法のオンパレードだな」
 ザッカが心底軽蔑する‥というような冷たい顔をする。
「証拠がつかめませんからね。罪に問うことは難しいと思いますよ。口利き屋についても、口利き屋がしていることは、仕事の斡旋であって、何ら間違ったことをしているわけではない。‥仕事内容の違法性‥っていうのはありますけどね。それも、「こういう仕事を斡旋した」って記録でもない限り、表に出ることはない。
 ‥そんな記録残すわけないしね。
 監視についても、自分が担当している魔術士の健康管理をしている‥と言えばそれでおしまいだ。
 そもそも代行っていうんですけどね‥そういう‥自分が術をかけた人物を他の人物に監視させること。
 ‥代行は、術者が別にいるから、違法魔術の使用が認められた場合であっても、実際に術を使った人間が特定できない。だから、捕まえることが本当に困難なんだ
 そもそも、呪いをかけられた本人が掛けられたことに気付かない‥ってのが、この呪いの特徴ですしね‥」
 コリンが険しい顔のままで、小さく首を振った。
 ため息をついたザッカは、ふと気づいて、アンバーを見た。
「‥だけど、‥なんでアンバーはそのことに気付いたんだ? 」
 呪いをかけられた本人が気付かないのが特徴だっていうのに、だ。
 アンバーが頷く。
「何で気付いたのかわからなかったが、コリンと会話しているときに「‥もしかしてそういうことか? 」って思い当たる節があった。‥合っているかどうかは分からないけど、多分そういうことかな‥と」
 コリンがアンバーを見て、頷いた。
「気付いたことっていうのが、アンバーの方がその呪いを行使した魔術士より、闇魔法の実力‥っていうのかな‥レベルが上だったから術が失敗したってことだとしたら、その予測で合ってるよ」
 アンバーが「じゃ、あってた」と呟いた。コリンはそれに頷くと
「他の闇魔法の呪いにかかった者にとっては、「呪いにとらわれて無意識でやらされている」「無意識で、そうするものだって思ってる」という状態なんだけど、術にかかっていないアンバーにとっては「仕事の一環としてやっている」って違いがあった。
 恐らく、今回奴らはそのことに気付いた。だから、アンバーに接触を図ったってわけだ。
 さあ‥接触して、邪魔な存在だって消す目的なのか、さらに上位の呪いをかけられる人間に呪いをかけさせるのが目的なのかは分からないけどね」
 と言葉を続けた。
 相変わらず、コリンは何の躊躇もなく恐ろしいことを言う。
 コリンの性格は、家族や幼馴染、家族として接しているザッカたちや、もっと特別な‥恋人希望としてターゲットにしているシーク以外は、基本的に凄くビジネスライクだ。
 その見かけとのギャップに、まだ慣れない。シークにとっては、自分に向けられるコリンの顔は常にキラキラなわけだし、態度についても、同様だからだ。
「酷い‥」
 ナナフルが眉をひそめた。
「寧ろ、‥かけた時に「かからなかった」って気付かないってのが信じられませんよ」
 コリンが座っているナナフルの後ろに行きその頭を後ろから抱き込み「そんな大したことのない奴らです。大丈夫ですよ」と慰めた。
 そいつは大したことが無かったかもしれない。だけど、コリンがさっき言った推測‥「さらに上位の呪いをかけられる人物」が組織にいたとしたら‥。
 恐ろしい。‥そもそも、計画的・人為的に後継者育成プログラムを実行しているっていうのが恐ろしい‥。
 自分の手で確実に孤児を作り出し、自分をいずれは殺す子供を育て、自分を恨み、ひねくれて育った子供は、なし崩しに悪い魔術士になり、いずれは自分の後継者になる‥自分を殺す子供を拉致してきて育てる。
 ‥それは、‥自分の両親を襲った魔術士もそうだったのかもしれない。
 という予想は、ナチュラルにつく。
 だから、気が付けば
「俺の場合は‥」
 と、自然に口に出していた。
 コリンが眉を顰め
「きっとシークさんも拉致される‥拉致する予定だった。だけど、シークさんは攻撃魔法を撃って来なかった。だから、「魔術の才能なし」「アサシンの才能なし」とみなされ、‥見捨てられた‥ってことかと‥」
 遠慮がちに言ったコリンの予想に、アンバーが頷いた。
「まあ、そうだろうな」
 攻撃魔法も撃って来ない様な「根性なし」には、アサシンの資格はないってこともあるかもしれない。
「な‥! 」
 シークが目を見開いた。
 根性なし‥っ!
 なんてこと言うんだこいつは‥っ! (注 コリンもそういう様な事を言ったわけだが、認めたくないから認めない)
 だけど、‥否定は出来ない。
 ‥自分には、‥あの時の自分には、アンバーの様に咄嗟にやり返そう‥っていう気持ちは‥なかった。
「シークさん‥。‥それは、別に悪いことじゃないし、‥そればっかりは、持って生まれたものだから‥。
 自分の本質っていうのは、そういうとっさの状況でしか見えないのかもしれませんよね。‥彼らは、人為的にそういう状況をつくることによって、子供の本質を見極めているんです。‥そればっかりは、自分を責めたり悔やんだりしても仕方が無いことなんです‥。
 それに、‥僕は、そんなシークさんだからこそ好きになったんです」
 コリンが真っ直ぐにシークを見る。
「シークさんは意気地なしでも、親の仇を討たない人でなしでもない。‥目の前で親を殺されるっていう悲劇を乗り越え、そんな子供がこれ以上でない様に‥って、利益にもならない仕事を率先して受けて来たんじゃないですか。‥そうでしょう? 」
 シークは何も言えなかった。
 「そうだ」って胸を張るのも違う気がする。自分はそんな大層な志を持ってきただろうか? でも、‥違うともいえない。
 自分にそんなことを言ってくれて、‥それが好きだって言ってくれる人がいる‥。
 それは信じられない奇跡の様に思える‥。
 そんな
 色んなことが胸にぶわって浮かんできて‥
 何も言えなかった。
「‥じゃあ、その親は‥殺され損じゃないか‥しかも、‥親を失って、自分で食う術もない子供はどうなる? ‥野垂れ死にするか、魔物や野生動物に食われるか‥」
 ‥きっと生きていけない。
 ザッカが眉を寄せた。
 アンバーは、当たり前の事の様に
「奴らにとっては。その、見捨てた子供が野垂れ死ぬかも‥ってこともふくめて、冒険者家族の命なんてどうでもいいんだ」
 そういっただけだった。

 
 誰も何も発することもなかった。
 ナナフルが立ち上がり、お茶の替えを持って彼らの前に置いた。
 さっきの紅茶‥シークが淹れた、香りがいいとか‥そういった意味では、繊細でも何でもない普通に濃さはいいってだけの紅茶‥とは違う。
 香りのいいハーブティーだ。
 ナナフルが生のミントの葉で丁寧に淹れたものだ。
 各々、無意識にカップに手を伸ばし、その香りにはっとなった。
 まるで、今目覚めた‥かの様な感覚に陥って、顔を上げる。
 顔を上げ、立ったままのナナフルを見上げたザッカに、ナナフルがさっきの茶封筒を手渡す。
「少し付け加えました」
 みんなが、まるでフリーズしたみたいに固まっている間、ナナフルはさっきまでの話をデータに書き加えていたのだ。
 決して、ナナフルが冷たいわけじゃない。
 ナナフルは、人一倍優しく、そして人一倍正義感と責任感が強かった。
 他人であれ、身内であれ
 ‥誰かが泣いている状況をこれ以上見過ごしておくことが、ナナフルには出来なかった。
 ‥自分に出来ることをしなければ‥自分に出来ることは‥ペンをとることだ。
 情報を集めて、告発することだ。現実に起きている犯罪を露見させて、悪者を法で裁かせることだ。
 って責任感だけで、ナナフルはペンを走らせていたのだ。
「ナナフル‥そうだな。ここで、‥立ち止まっている時間はないな‥」
 立ち上がって、ザッカはナナフルを抱きしめた。


 一ページ目は、アンバーのプロフィールだった。
 机を囲み、アンバーも含めたメンバーはそれを覗き込む。
 性格欄は、コリンたちも協力して書き加えた。
 アンバーはすこし‥(いや、かなり)居心地悪そうな顔をしていた。


 アンバー・ラッセン(今年 20歳) 男
 出身地: 北のラナギル地帯
 家族:  両親とも冒険者として働いていた魔術士。兄弟・姉妹なし。
 アンバーの生い立ち:両親を攻撃型の魔術士に殺され、攻撃型の魔術士に暗殺者として育てられる。
       仕事の斡旋をしたのは、攻撃型の魔術士(アンバーの親の仇)に仕事を斡旋して来た「口利き屋」。
 性格、能力: (これは、ナナフル達の分析)頭脳的。人の事を煽るのが上手い。(←コリン)
        対人スキルがあり、人心掌握術に長けている。性格の分析が速くまた、対応も速い。非常に優秀。
        単純なところがあり、人を直ぐに懐に入れてしまうのは、少々危ういか。
        度胸もあるし、カリスマ性もあるのは長所。(←シーク、ザッカ)
(今回の黒幕に)雇われるメリット: 特になし。
 目をつけられた経緯:       悪の魔術士育成プロジェクトの一環
 黒幕との関係:          特になし。


「すご~い! アンバーのプロフィールが出来た~! ‥全然興味はないけど。‥寧ろシークさんの事知りたいなあ」
 にこにこと他意なく、‥寧ろ無自覚に失礼なことを言うコリンに、
「‥寧ろ、結婚したいって言って知らない方がおかしいけどな」
 嫌味たっぷりに、アンバーが返す。
「‥ですよね‥」
 も~! っていつも通り切れるかと思ったら、しょんぼりするコリンにアンバーは拍子抜けする。

「‥僕、シークさんの事知りたいし、‥随分分かって来たって思ってたけど、‥全然わかってない‥」
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